XTAL
Text, Interview & Photo : Hiromi Matsubara
2016.2.17
結晶は新たな景色を映し出す
2015年12月31日。Gonnoのプレイで年を越すために代官山Uniceのフロアに詰めかけた僕を含む大勢の人々が、2016年を迎えて一番に耳にした曲は“Red To Violet”だった。トラックがスタートしたのは2016年1月1日の0時を迎えて数分が経ってから。まさに陽が昇る瞬間のような、新しい何かが始まる興奮を煽るイントロがじわじわと聴こえ始め、トラックが始まって2分が経つ頃には、さっきまで散り散りになっていた私的な間柄での謹賀新年の喜びがフロアの上で一体となって揺れていた。“Red To Violet”のキーポイントである、キーボードの音を小刻みにループさせているブレークから再び一気にビートが戻る瞬間には、至るところで歓声が上がった。 そんな最高の2016年の幕開けからちょうど1か月。読み方「クリスタル」はそのままに、名前の表記を改めた「XTAL」のデビューアルバム『Skygazer』がついにリリースされた。本作は、XTALにとってのホームレーベルである〈Crue-L〉から12インチで発表されていた“Heavenly Overtone”や“Vanish Into Light”や、世界的視野でオルタナティヴなハウス/ディスコを推進しているNYの〈Beats In Space〉が流通を手掛けた“Red To Violet”と“Break The Dawn”などの、珠玉のフロアトラックたちを含んでいる輝かしい外見でありながら、目に映るか定かでないその核に至る密度まで、 ... READ MOREBattles
Text & Interview : Aoi KuriharaPhoto : TEPPEI
2016.2.2
Battlesはアートミュージックバンド
4年ぶりのBattlesの新作『La Di Da Di』のアートワークを見てびっくり。いつも朝食で出てくるような食べ物が並んでいる。その色彩はとてもカラフルなのに、なんでこんなにセクシャルな印象なんだ!? そして中身を聴いてまた驚いた。アートワークのポップさからは想像もつかないほど硬派でゴリゴリのハードなインストゥルメンタル・サウンドになっている。3人編成となってからのBattelesが生み出した「音楽とは?」に対する答えが、この『La Di Da Di』なのかもしれない。言葉ではなく、五感をもって人々の想像力を刺激する……この作品はまさにアートだ。 2015年11月25日に行われた、六本木EX THEATERでのライヴはソールドアウト。新作と旧作からの楽曲を織り交ぜたパフォーマンスに、4年越しに待っていたオーディエンスはおおいに湧いた。目映い閃光のようなスポットライトがほとばしる中、激しく暴力的な重低音が連発した演奏は、観る者の五感に強烈な刺激を与えていた。 さて、波紋を呼んだアートワークを手掛けた張本人であるDave Konopkaに、東京公演の前日、インタヴューを行った。アートをこよなく愛する彼は、アートやフィルムの話をし始めると止まらなくなり、しまいには「僕が話すのを止めてよ!」と言言い出す始末。本インタヴューでのDave Konopkaは、ライヴでアグレッシブな演奏をしていた彼の印象とは違うはず。彼のアートへの思いや考え方を知れば、Battlesが生 ... READ MORESwindle
Text & Interview : Hiromi MatsubaraSpecial thanks : Fumie Kamba (DBS)
2016.1.8
世界を駆け巡る愛と平和と音楽の使者
愛、平和、そして音楽。ジャズへの敬愛をグライム側から示した前作『Long Live The Jazz』が導いた世界旅行を経て、その軌跡をひとつの作品として仕上げた末に生まれたある結論。音楽に嘘をついたら懲らしめられる……と自身の信念について述べるほどに音楽とひたすら真摯に向き合っているSwindleがそう表現するのであれば、世界中どこのフロアの上でも人々を繋ぎ止めているのは、本当に『Peace, Love & Music』(=平和、愛、そして音楽)なのだろう。僕は彼の真っ直ぐな哲学と強烈なグルーヴに全身全霊で乗りたいと思う。 『Peace, Love & Music』はただの音楽紀行ではない。欧米〜アフリカ〜アジアに渡るまでの各国の伝統音楽文化だけではなく、空港からパーティー、あるいはスタジオへ、それもストリートから山奥に至るまで、様々な国/都市の空気感も見事に音楽的要素へと変換させている。そしてそれらの要素は、グライムとジャズとファンクを基本とするSwindleならではの稀有なゾーンにひしめき合う。にも関わらず、その全ての要素は同じベクトルへと向かっている。その確固たる志向は、グライムとジャズとファンクのグルーヴのさらなる向こう側へと抜け、「おのずと身体が動き出してしまう」という音楽が元来持っている不思議な力をくっきりと浮き彫りにしている。これはフロアで体感したらもっと凄まじそうな予感がする。 Swindleはいかなる閃きと思考によって、決し ... READ MOREPorter Robinson
Questions : Hide NakamuraInterviewed : Ai KanedaPhoto : Hiromi Matsubara
2015.12.7
A World of Fantasy Which Reality and Nostalgia creates Inside of Porter Robinson
ーー We know one of your favorite Japanese words is "Otsukare-sama" and we really want to say "Otsukare-sama" for your great performances both at SONICMANIA and LIQUIDROOM. What is your general impression about those gigs? Porter Robinson : The Japanese audience was better than I expected, and I have a positive impression of how my Japanese fans are like. The reputation of Japanese concert was that the audience is very cooperative and generally receptive of any kind of instructions. They cheer at the right timing and love to participate by doing crowd motions. I want to embrace that aspect. The crowd was just unbelievable ... READ MOREDornik
Text, Interview & Photo : Hiromi MatsubaraLive Photo : Kazumichi Kokei
2015.12.2
サウスロンドンから現れたR&Bの新たな道標
インタヴューの前日、日本でも人気のあるアクトのDaughterとChristoher Owensに加え、トリにはThe Melvinsが控えていた『Hostess Club Weekender』にてトップバッターとして日本初舞台を踏んだDornikは、持ち時間45分あったところをわずか30分で終えた。会場に張り詰めた静寂を滑らかに撫でるようなヴォーカルと、80’sのポップR&Bを踏襲した思わず身体が反応してしまうグルーヴを作ったサポートバンドの演奏が、まだ始まったばかりのフロアの空気を一瞬にして変えたのは明白だった。しかし、オーディエンスがグルーヴに合わせて踊り始めるというよりは、新人とは思えぬクオリティの高いパフォーマンスにたっぷり浸るというような、終始動きの少ないフロアが続いていたのもまた事実だった。 「あれは決してお客さんに不満で去ったわけではないよ。今回は早めに終わらせて、焦らして、“また戻って来てね”って思ってもらうための秘策だったんだ(笑)」と、Dornik Leighは笑顔で言う。印象が悪かったかな……と彼が早々に袖にはけた直後から勝手に募っていた僕の心配は余計なお世話だったようだ。そして、サウスロンドン出身の彼は「僕の地元のオーディエンスはすぐに飽きて喋り始めるからさ、しっかり聴き入ってくれていたのはよくわかったし、嬉しかったよ。日本が大好きになったから、僕としては早くまた戻ってきたいよ!」と付け加える。その親しみやすく柔らかな印象は瞬時に彼のヴ ... READ MOREPorter Robinson
Questions : Hide NakamuraInterviewed : Ai KanedaText & Photo : Hiromi Matsubara
2015.11.24
リアリティとノスタルジーが織り成すファンタジーの世界
EメールやLINE、TwitterやFacebook、アプリで簡単に起動できるオンラインゲーム、あるWebサイトなどのことが常に頭の中にあって、スマートフォンやタブレットPCが手放せないのが当たり前になっている状況を、例えば朝の人の多い電車の中でふと俯瞰して目撃した時に、僕はインターネットが完全に現実の世界の延長として存在していることを切に感じる。現実の世界の個人に大きく作用しているインターネットを、単に仮想の世界と言うことはもう到底できない。実際に、ネット上での発言が現実の問題へと繋がることもあれば、顔が見えなくても友達ぐらいの信頼を感じ得ることができ、海外で起こっていることも時間差なくある程度の追体験をすることもできる。しかし、果たしてどれだけの人が、特にどれだけの若い世代が、そういった高速で拡張していく世界に対して意識的に向き合っているのだろうか。 現在23歳のプロデューサー、Porter Robinsonは、現実世界の延長である仮想の世界、インターネットを通じて得た経験に自身が大きく影響されているということに自覚的でいる。彼の音楽を聴き、彼がディレクションしているMVを見れば、私たち日本人はそれにすぐに気付くことができるかもしれない。架空のストーリーとして展開されるというアルバム『Worlds』の12曲はどれも、“Flicker”のMVで表現されているように、世界各国をツアーしながら彼が目にした景色や体感してきたことにリンクする、彼がこれまでにインターネット上で ... READ MOREDusty Kid
Text & Interview : HigherFrequency
2015.10.30
ようこそ、美しく奇妙なサルディーニャへ
Dusty Kidのニューアルバム『Not So Green Fields』は、“The Wedding”(=サルディーニャの結婚式)というトラックから始まる。歓声と楽器にまみれた島文化的な独特のお祭り騒ぎによって創られる幸せなムードが、サンプリングからでもひしひしと伝わってくる。演奏されているのは地元の楽器なのだろうか。サルディーニャだからロケーションもきっと良いのだろうな。だんだんと景色が見えてきそうだ。もし、旅で訪れた見知らぬ島に着いた初日に地元の結婚式に出くわして参加することになったら、その後の旅はガイドブックに載っているようなベーシックな観光地よりも、より島の風土や民俗にフォーカスしながら巡る、少し特殊でディープな旅になっていくかもしれない。 そういった明確に「旅」と感じられるアルバムのストーリー構成、また視覚的な部分や想像力に訴えかける卓越したトラックメイクのセンスは、Dusty Kidがダンスミュージックという領域の中で、時折ポップミュージック的なメロディーとソングライティングにアプローチしてきたことによる賜物だと思える。ストリングスや管楽器、民族楽器のハーモニーの下からは、4/4ビートよりも先に地中海に浮かぶサルディーニャの暖かな気候と太陽の下の陽気なローカルの景色の方が浮かび上がってくるのだ。特に“Innu”や“Doa”のようなトラックは、それがテクノであるかハウスであるかのような無駄なことを考える意識を遠のかせ、サルディーニャの空気感がダンスミュージックと融け ... READ MOREDarkstar
Text & Interview : Hiromi Matsubara
2015.9.30
現実への絶望からやってくる希望の声と言葉と音
いまも世界中で若者たちが自分の問題と向き合って闘っている。日本でも、イギリスでも。厳密には問題はそれぞれ違うけど、結局のところ状況はほぼ同じだ。いま現在21歳の僕の実感を込めて言えば、若者にはただでさえ問題が多い。自分の生活を、将来を、お金を、友人を、恋人を、作らなければ、保たなければ、漠然と何とかしなければと、気にかけなければいけない。忙しく一喜一憂を繰り返す。それなのにいまはさらに問題が増えて、より社会的な問題に、より政治的な問題に、いくつも上の世代の人と向き合わなければいけない状況になっていっている。もとから相互作用し合っていたから何となく向き合わなきゃと思っていたけど注視していなかった、社会的/政治的な問題が、バランスを崩して個人的な問題に大きく入り込んできているから。そしてそれによって現実が悲惨になって、将来も悲惨になりかねないからだ。それでも、日本の若者たちの先の方で問題と闘い続けているSEALDsは、「“諦めることを諦める”って超重要。絶望なんてくだらねえなって笑い飛ばす」と「絶望する必要ない」と言っている(いずれもWeb版『ele-king』でのインタヴューより)。わかる。問題に絶望しても立ち上がれるし、向き合ってるし、闘えるし、若者はとりあえず生きなきゃいけないし。 今回のDarkstarのニューアルバム『Foam Island』のリリースに際したインタヴューを始めるにあたって少し触れておかなければいけないのは、イギリスの労働者階級と労働党と2015年イギリス総 ... READ MOREDaniel Avery
Text & Interview : Hiromi Matsubara
2015.9.28
君をどこかへ連れていく音楽
Daniel Averyがついに初来日を果たす。当時まだデビューしたばかりにも関わらず、彼の本国イギリスを始めとする海外のダンスミュージックシーンはもちろん、ここ日本の早耳ダンスミュージック・ファンの話題をも一気にさらったミックスCD『Fabriclive 66』から彼を知っている人にとっては実に3年越しであり、ダンスミュージック・ファンのみならず、Primal Scream、The Horrers、Django Djangoといったロックバンドのリミキサーに抜擢されていたことで何となく名前は聞いていたインディーロック・ファンにまで、さらに広く名を知らしめることとなった1stアルバム『Drone Logic』から彼を知った人にとっては2年越しの念願がついに叶うのだ。 Daniel Averyのトラックは、限りないトリップを、まだ知らないどこかへ飛ぶことをどこまでも誘ってくる。その要因は、ソリッドなテクノとアシッドなハウスの間で揺らめく美麗なエレクトロニカ……と曖昧に表現するしかない、ある特定のカテゴリーには属さない彼の音楽性にある。不特定多数のカテゴリーたちのありとあらゆる狭間にある、まだ彼しか知らない(彼も知らないかもしれない……)どこかからやってくる音楽が、聴く者の感覚を無条件に引きつけているのだ。彼のトラックを聴いていると、ポスト・パンクやクラウト・ロックをアシッド・ハウスやテクノとシーン共々結びつけたAndrew Weatherallや、Daniel Averyの作品をリ ... READ MOREMax Essa
Text, Interview & Photo : Hiromi Matsubara
2015.8.31