Dornik
Text, Interview & Photo : Hiromi MatsubaraLive Photo : Kazumichi Kokei
2015.12.2
サウスロンドンから現れたR&Bの新たな道標
インタヴューの前日、日本でも人気のあるアクトのDaughterとChristoher Owensに加え、トリにはThe Melvinsが控えていた『Hostess Club Weekender』にてトップバッターとして日本初舞台を踏んだDornikは、持ち時間45分あったところをわずか30分で終えた。会場に張り詰めた静寂を滑らかに撫でるようなヴォーカルと、80’sのポップR&Bを踏襲した思わず身体が反応してしまうグルーヴを作ったサポートバンドの演奏が、まだ始まったばかりのフロアの空気を一瞬にして変えたのは明白だった。しかし、オーディエンスがグルーヴに合わせて踊り始めるというよりは、新人とは思えぬクオリティの高いパフォーマンスにたっぷり浸るというような、終始動きの少ないフロアが続いていたのもまた事実だった。
「あれは決してお客さんに不満で去ったわけではないよ。今回は早めに終わらせて、焦らして、“また戻って来てね”って思ってもらうための秘策だったんだ(笑)」と、Dornik Leighは笑顔で言う。印象が悪かったかな……と彼が早々に袖にはけた直後から勝手に募っていた僕の心配は余計なお世話だったようだ。そして、サウスロンドン出身の彼は「僕の地元のオーディエンスはすぐに飽きて喋り始めるからさ、しっかり聴き入ってくれていたのはよくわかったし、嬉しかったよ。日本が大好きになったから、僕としては早くまた戻ってきたいよ!」と付け加える。その親しみやすく柔らかな印象は瞬時に彼のヴォーカルの魅力とリンクした。
Dornikのデビューのきっかけを作ったJessie Wareも、彼のデモを聴いた際にその歌声に最も惚れ込んだという。長らくドラマーとしてのキャリアを歩んでいた彼は、もともとはサポートドラマーとしてJessie Wareのバックバンドに参加していたが、シンガーとしての才能を見出されてからは、Jessie WareがSamphaとの名デュエットソング“Valentine”をライヴで披露する際のSamphaの代役として彼を起用しているほどだ。Dornikの歌声は、ゴスペルライクなソウルミュージックのような印象のSamphaよりは、グローバルにトップチャートを席巻するUSのメインストリームR&B、古くはMichael JacksonやPrinceから近年ではFrank OceanやMiguelのように、繊細な高音を甘く色っぽく適確な重量で聴かせてくれる。そしてそんなヴォーカルが、もろなファンク・チューンまたはシンセ・ファンクのトラックと絡みまくっているデビューアルバム『Dornik』は、まるでタイトルが示しているかのようにDornikの存在を本物のシンガーへと導いている。果たしてDornikはどこまで行くのかな。とりあえずは彼の現在地に耳と視線を傾けてみよう。
ーーいまのサポートバンドはどのような繋がりのメンバーなんですか?
Dornik:ギターとドラマーは僕の長年の友達で、ベースは前からサポートしてくれている人が今回都合がつかなくなってしまったから、Jodyっていう素晴らしいベースプレイヤーが代わりに来てくれたんだ。基本的には、僕がドラマーとして活動していた時にセッションを通して知り合った仲間たちがサポートバンドをしてくれているんだ。
ーー昨日の黒いタンクトップの衣装はD’Angeloみたいでしたよ。彼の音楽はもちろんだと思いますが、彼のファッションやスタイルからも影響を受けているんですか?
Dornik:ははは(笑)。僕はD’Angeloの大ファンだからね、あれはオマージュだよ(笑)。彼に限らず受けてきた影響は少しづつ出てきてしまうと思うんだよね。でも最終的には僕のオリジナルスタイルを確立したいと思ってるよ。
ーーD’Angeloもそうですが、あなたはMichael JacksonやPrinceといった80s、90sをよくルーツやフェイバリットとして挙げていますよね。でも彼らがヒットソングを連発していた頃は、あなたはまだ生まれていない、もしくは生まれたばかりだと思うのですが、どうやって彼らの音楽にたどり着いたんですか?
Dornik:両親の影響だよ。10代の学生の頃はそういう古い音楽を聴いてるのはあまりクールだと思われていなかったから、こっそり聴いてたんだよね。でも本当に好きなのはやっぱり80’sや90’sの音楽なんだ。僕はそういう音楽を親に聴かされて育ったからさ。
ーーあなたが80’s、90’sのR&Bやソウルミュージックに惹かれていた、クールだと感じていたポイントはどこですか?
Dornik:彼らのミュージシャンシップだね。僕は楽器をやって育ったから、彼らのミュージシャンとしての力量という点に注目していたよ。あと僕の父は、一緒に音楽を聴いてるといつも「ここでこういう風にパーカッションが鳴ってるだろ」とか「ここでこういうドラムが……」って僕に教えてくれたんだ。子供の頃はうるさくて仕方がなくて、「好き勝手に聴かせてくれよ」って思ってたんだけど、いま考えると、ああやって教えてくれたから細かいところまで気を使って音楽を聴くことができるようになったんだと思うよ。
ーーお父さんからの教えは、聴く時だけでなく、あなた自身が音楽を作る時にも参考になるんじゃないですか?
Dornik:まさしくその通りだよ。プロデューサーはみんなそうだと思うんだけど、ベースラインからコード進行から、細かいところを全て聴き分けることができるのはもちろん、そういった細かい部分をまとめていく作業もできる耳になったからね。父親がうるさく言ってくれたことに本当に感謝してるんだ(笑)。
ーー音楽好きなお父さんに育てられたということは、楽器を始めるのはいたって自然なことだったんですか?
Dornik:うん、自然なことだったよ。年上のいとこがミュージシャンでドラムやベースをプレイしてたし、父はピアノを弾いたり、クワイアの中で歌ったりしてた中で育ったからね。実際に楽器を始めるまでの色々なことをしていた期間が長かったんだ。
ーーこのソロプロジェクトではトラックメイクとシンガーをやっている一方で、あなたはJessie Wareのバックバンドに参加したりとドラマーとしてのキャリアもありますよね。一番最初に始めたのは何だったんですか?
Dornik:ドラムが一番最初だよ。
ーー当時ドラムを選んだのはどうしてですか?
Dornik:子供の頃からヒューマンビートボックスをやったり、周りのものを叩いて歩いてたりしたからさ。ここに母親がいたら僕がいかにうるさかったか喋ってくれるだろうね(笑)。さっき言った年上のいとこがいたから余計に励みになってドラムにのめり込んでいったんだと思う。初めてドラムキットを手に入れたのは11歳の時だったよ。
ーードラムプレイをする上で影響を受けたドラマーはいますか?
Dornik:まずは、いとこだね。Nathan Allen、Questlove、Dave Weckl、Vinnie Colaiuta、Steve Gadd、Chris Dave……こうやって名前挙げながら一日中話せるよ(笑)。でもやっぱりVinnie Colaiuta、Questlove、Steve Gadd、この3人かな。素晴らしいドラマーは世界中にたくさんいるよ。
ーーいま挙げてくださったドラマーでも、先ほど話題にしたルーツの音楽でもそうですが、あなたはサウスロンドン出身なのにUSの音楽からたくさん影響を受けているんですね。UKの音楽やアーティストからの影響はいかがですか? サウスロンドンの音楽カルチャーとはどのように関わってきたんですか?
Dornik:サウスロンドンはグライムとかダブステップとかベースミュージックが盛んだからもちろん聴いてたよ。あれはロンドンがベースの音楽だからね。あとはレゲエもたくさん聴いてたよ。ロンドンにはレゲエのアーティストがいっぱい来るからさ。Mad Professorのレーベル〈ARIWA〉のスタジオが僕の地元のクロイドンにあるし、Smiley Cultureはサウスロンドンの出身だし、だからレゲエのカルチャーは身近にあったよ。でもやっぱりサウスロンドンだから、グライムとダブステップをよく聴いてたね。
ーーちなみに、グライムのMCやダブステップ・プロデューサーになろうとは思わなかったんですか?
Dornik:グライムは凄い好きだよ。だからアルバム『Dornik』に入ってる“Second Thoughts”はグライムっぽさを意識してたんだ。コード進行とかも違うし、グライムはアグレッシヴで、よりハードにビートを叩くけど、グライムのフローを意識して作ったのは確かだよ。僕が13歳から15歳ぐらいの時がグライムがロンドンでピークに盛り上がっていた時で、当時は影響されてビートを作ったりしていたけど、さっきも話したみたいな育ちもあってソウルミュージックも同時に好きだったから、グライム一辺倒にはならなかったね。
ーーメディアなどがあなたの音楽の比較対象として挙げているアーティストにも、Frank OceanやThe Weeknd、MiguelといったUSのR&Bシンガーたちが多いです。でもこれはある意味、UKに現れたUSシーンとのリンクをよりリアルに感じさせる唯一の存在、としての大きな期待の表れでもあると思うのですが、あなた自身は彼らとの比較をどのように思いますか?
Dornik:それぞれみんな僕のリスペクトしている人たちだし、同じ文脈として語ってもらえるのは僕としては光栄だし、褒め言葉として受け取るよ。異論も全くない。でも、独自のサウンドやスタイルを作ろうという気持ちも僕自身の中にちゃんとあるんだ。R&Bやソウルの文脈や、同じムーヴメントとして語られている人たちは、Frank Oceanも、Miguelも、みんながそれぞれの自分の道を行こうとしていると思う。そういうアーティストたちがそれなりに多くいる状況は、僕は緊張感があって良いと思うよ。
ーー『Dornik』には、グラミーのベストR&BソングにノミネートしたプロデューサーのAndrew “Pop” Wanselと、Ronald “Flippa” Colsonが参加していますが、2人と仕事をすることになった経緯を教えてください。
(Andrew “Pop” WanselとRonald “Flippa” Colsonの2人は共にRihanna、Miguel、Nicki Minaj、Chris Brownといった錚々たる面々のアルバム/トラック・プロデュースを手掛けてきたほか、Pop WanselはAlicia KeysやAriana Grandeも手がけている。)
Dornik:所属レーベルの〈PMR〉からの提案だったんだよ。「フィラデルフィアに飛んでPop Wanselと一緒に曲を書いてみないか」って勧められたんだ。前から彼の大ファンだったから喜んで行ってたよ。Flippa Colsonとは実は会ってなくて、Popとフィラデルフィアでセッションしている時に「こういうトラックがあるんだけどどう?」って渡されたトラックがFlippaので、渡された後に僕が一度ロンドンにトラックを持ち帰って、Laura Dockrill(Jessie Wareの作品に参加しているサウスロンドン出身のソングライター)と一緒に書き上げて、そこにまたFlippaが絡んで、っていう流れで“Drive”が仕上がったんだ。
ーー彼らとの作業を通して学んだことは多かったですか?
Dornik:もちろん。もう毎日が勉強だよ。一緒に作業をしたPopはもちろんだし、Flippaとはネットでは会話をしてね。2人が参加してくれた“Drive”の制作の現場には実は僕は立ち会ってないんだけど、出来上がってきたあの結果を聴いただけでもかなり勉強になったよ。そもそも僕は1人で曲を作って活動してきたから、誰かと一緒にやり取りをして、誰かのエネルギーを感じながら作業をすることの楽しさを感じていたし、もう全てが勉強だったね。
ーー『Dornik』はラヴソングが多い印象を受けたのですが、リリック・ライティングの面ではどういうことを意識したんですか?
Dornik:やっぱりみんなが共感できる内容だからラヴソングを書くんだろうね。多くのアーティストもそうだと思うよ。でも僕の1stアルバムに関して言うと、どれもいまよりさらに若い頃に書いた昔の曲ばかりで、当時はあまり言うべきこともなかったんだよね。自分の経験だけでは足りないから、想像で書いてみたり、他の人の経験を踏まえて書いてみたりしたのが1stアルバムなんだ。でもそれから自分が見てきたものや経験、言いたいことも増えてきたから、2ndアルバムは歌詞の内容が変わるんじゃないかな。
ーーお気に入りのラヴソングはありますか? 例えば、恋人に愛している気持ちを伝える時に真っ先に思いつくラヴソングは何ですか?
Dornik:えーーー……、Michael Jacksonの“Baby Be Mine”と、The Jacksonsの“Lovely One”、Princeの“I Wanna Be Your Lover”、Stingの“Seven Days”……って感じかな。いっぱいあるね(笑)。あ、あとSealの“Kiss From A Rose”も。……Stevie Wonderも良いラヴソングいっぱい作ってるよね。
ーー経験やそこから生まれる意見や、実力のあるプロデューサーたちとの作業、またあなたが自身のスタイルを「エレクトロニックソウル」と表現していることなどから、今後あなたはオリジナル・スタイルが形成していくと思うのですが、まずはどういうポイントにフォーカスしたいですか?
Dornik:次のアルバムはもっと「ライヴ」に立ち返った作品にしたいね。いまのエレクトロな部分も残ると思うんだけど、もっと生楽器を使いたいんだよね。うまく両方のいいとこ取りをできればより良いかな。
ーーますますD’Angeloのような生々しい方向になっていくかもしれませんね(笑)。
Dornik:やってみないとわからないね(笑)。制作をしているその時点での自分が作品に出ると思うよ。
ーーそれが1番ナチュラルで、ベストですね。
Dornik:本当そうなんだよね。自分で自分を観察するような曲作りができたらベストだと思うよ。無理するんじゃなくてね。
End of Interview
リリース情報
Dornik
『Dornik』
Release date: 2015/10/23
Label: PMR/Hostess
Cat.: HSU19158
Price: ¥2,268(tax in)
Tracklist:
1. STRONG
2. BLUSH
3. STAND IN YOUR LINE
4. SHADOW
5. SECOND THOUGHTS
6. MOUNTAIN
7. CHAINSMOKE
8. SOMETHING ABOUT YOU
9. DRIVE
10. ON MY MIND
11. REBOUND (JAPAN BONUS TRACKS)
12. DRIVE (BADBADNOTGOOD REMIX) (JAPAN BONUS TRACKS)
13. STAND IN YOUR LINE (JUNGLE’S EDIT) (JAPAN BONUS TRACKS)
14. DRIVE (KITO REMIX) (JAPAN BONUS TRACKS)