Battles
Text & Interview : Aoi KuriharaPhoto : TEPPEI
2016.2.2
Battlesはアートミュージックバンド
4年ぶりのBattlesの新作『La Di Da Di』のアートワークを見てびっくり。いつも朝食で出てくるような食べ物が並んでいる。その色彩はとてもカラフルなのに、なんでこんなにセクシャルな印象なんだ!?
そして中身を聴いてまた驚いた。アートワークのポップさからは想像もつかないほど硬派でゴリゴリのハードなインストゥルメンタル・サウンドになっている。3人編成となってからのBattelesが生み出した「音楽とは?」に対する答えが、この『La Di Da Di』なのかもしれない。言葉ではなく、五感をもって人々の想像力を刺激する……この作品はまさにアートだ。
2015年11月25日に行われた、六本木EX THEATERでのライヴはソールドアウト。新作と旧作からの楽曲を織り交ぜたパフォーマンスに、4年越しに待っていたオーディエンスはおおいに湧いた。目映い閃光のようなスポットライトがほとばしる中、激しく暴力的な重低音が連発した演奏は、観る者の五感に強烈な刺激を与えていた。
さて、波紋を呼んだアートワークを手掛けた張本人であるDave Konopkaに、東京公演の前日、インタヴューを行った。アートをこよなく愛する彼は、アートやフィルムの話をし始めると止まらなくなり、しまいには「僕が話すのを止めてよ!」と言言い出す始末。本インタヴューでのDave Konopkaは、ライヴでアグレッシブな演奏をしていた彼の印象とは違うはず。彼のアートへの思いや考え方を知れば、Battlesが生み出しているあらゆる表現への理解が深まるだろう。
ーー実に4年ぶりの来日ですが、久しぶりの東京はどうですか。
Dave Konopka:昨日、日本に着いたばかりなんだけど、夜は友人とBeat Cafe(※渋谷・道玄坂にある海外アーティスト御用達のカフェバー)に行ってきたよ! 時差ボケもないし楽しんでいるよ。
ーー今はニューヨークに住んでいるんですよね? 私はちょうど2ヶ月前にニューヨークに行ったんですよ。
Dave Konopka:そうなんだね。僕は今はブルックリンに住んでいるんだ。
ーーなるほど。NYでお気に入りのギャラリーはありますか?
Dave Konopka:最近ホイットニー美術館に行ったばかりだよ。今年の5月に新しいビルができて、オープンしたばかりでクールなんだ。前にアッパーイーストサイド地区にあったのが移転したんんだよ。そこでFrank Stella(フランク・ステラ)の展示会があってさ、君、Frank Stellaは知ってる? 彼の作品はすごく奇麗なんで大好きなんだ(と言ってDaveは自分の携帯の中にあるFrank Stellaの作品を見せてくれる)。これは67年ぐらいの作品だね。
ーーとてもポップでカラフルな作品ですね。
Dave Konopka:クールだよね!
ーーあなたはアート・スクールで勉強してたんですよね。
Dave Konopka:専攻はグラフィック・デザインなんだ。プリント・スタジオとフォトグラフィー・スタジオで多くの時間を過ごしたよ。コンピュータを使ってデザインしたり、暗室で現像したりしていたんだ。だから僕はコンピューターでアートを制作することに恐れはないんだよね。グラフィック・デザインは、全ての基礎や構成を理解するために、僕にとって重要なものなんだ。学校で学んだグラフィック・デザインの経験は本当に価値があるものだと思うよ。一応、グラフィック・デザイナーの仕事を少しだけやってたんだよね。ちょっと! 君が話を止めてくれないとずっと話続けちゃうよ(笑)!
ーー(笑)。アートの仕事もしてたんですか?
Dave Konopka:Battlesを始める前、いや、ちょうど始めた頃かな、アートディレクターとしての仕事もしていて。しばらくはバンドと両立して続けてたんだ。フルタイムの仕事ではなかったんだけどね。
ーーあなたがBattlesのアートワークを手掛けているのは知っていましたが、それ以外の作品は何かありますか? ネットで探してみたんですが、見つからなかったんですよね。
Dave Konopka:そうだね、作品はたくさん作っているんだけど、インターネットで公開は特にしてないよ。Instagramとか狭い範囲でしかリリースしてないんだ。ツアーが終わって家に帰るとアート作品を作るんだ。作品を作ることで気分が良くなるんだよね。僕にとっては、アートと音楽のバランスを取ることでどちらも上手くいくんだ。
ーーあなたが手掛けた『La Di Da Di』のジャケットを、レコードショップで他の作品と一緒に並んでいる中で見かけた時はちょっと衝撃でした。目玉焼きと果物とホットケーキ、という朝食のセットが並び方でこんなに卑猥な印象になるとは思わなかったので。この作品はどういった経緯で思いついたのでしょうか。
Dave Konopka:これは、実はセクシャルな要素を狙っていたわけではなくて、ただユーモア的にアプローチしたかったんだ。Battlesのオーディエンスって、なぜか男の人が多いんだよ、特にアメリカではね。だから彼らへのアプローチとして人間性を表現したかったんだ。これは本当にジョークなんだ。直接的にはセックスを想像させるようなつもりではなかったけれど、結果的にはセクシャルな作品になったよね。でもそういった性的な欲望にせよ、食欲にせよ、そういった欲望って人間らしくあると思うんだ。“FF Bada”のジャケットもイタリアン・フードを使っていて。チキンとサンドイッチとピザが連なっている。この組み合わせは僕にとって最強なんだ。食欲をそそる、という意味で力強いイメージだね。
(画像左から順に、『La Di Da Di』、『FF Bada』、『The Yabba』のアートワーク)
ーーどこかで、ピザは性的なメタファーとしてアート作品に使われる、と聞いたことがあるのですが、特にそういった意味を込めているというわけではないんですね。
Dave Konopka:そうなの?! 知らなかったよ! 僕はそういう意図があったわけではなくて、本当にこの組み合わせが気に入ってて使っただけなんだ。メロンにバナナが刺さっているアートワークも確かに性的なイメージを連想させられるかもしれないけれど、それが正解ではなくて、アートって見る人によって見方が変わるのが面白いし、僕の作品もレコードを手に取る人が色々と連想できれば良いと思うんだ。
ーー前作『Gloss Drop』も何かがが溶けているようなイメージで、そのアルバムのリードシングルが“Ice Cream”だったので、「アイスクリームが溶けている」というイメージでした。あなたの中で食べ物と音楽には関連性があるんですか?
Dave Konopka:いや、あれはアイスクリームじゃなくて、すごい有毒な液体みたいなものなんだ。でも実際、このアルバムのアートワークもそうだし、アイスクリームやガムとか食べ物と関係のある音楽を作ってたのは事実だね。ただ、関連性があるというより、僕にとって、食べ物を使って表現するということは安全なことなんだ。食べ物による作品は匂いや味も想像させることができるから、他の抽象的な作品よりも、より人の想像力を掻き立てると思うんだよね。今作では朝食シリーズを作ったけど、朝食って人にとって大切なものであり、身近なものなんだけど、こういう風にアートとして表現することで違う意味を持たせられるというのが面白いんだ。僕に取って食べ物は重要なものだね。
ーーでは、あなたにとって音楽とアートの関係性はなんでしょう?
Dave Konopka:音楽とアートは、僕にとってとても重要で密着したものでもあり、両極端な存在でもある。音楽はBattlesというバンドで2人のメンバーと一緒に作っていくけれど、アートは自分1人で何から何まで決めて作ることができるんだ。そして音楽は言語的でだけど、アートは非言語的であり、視覚的な表現であるという違いもある。だから僕にとって音楽はもっとカオスでコントロールが難しいものなんだ。この両方をやることで、自分の中ではバランスを保っているよ。でもこの関係性を語るのはとても難しいね(笑)。
ーーでもBattlesの音楽性は、特に、今作はインストで歌詞がないので言葉で表現するというより、音で表現するという意味では、アートに近いものがあるように思うのですが……。
Dave Konopka:そうだね。僕にとってBattlesの音楽って原始的に思うんだよね。みんなが個々に持ってきたアイディアやサウンドを集めて、作っていく。そこに意味や意義があるというわけではなく、ただサウンドのアイディアを集めて作っていて、結果的に何かを表しているものになったりしている。君の意見に賛成で、Battlesは「アートミュージック・バンド」と言うのが近いかもしれないね。
ーー“The Yabba”のMVはRoger Guàrdiaが手掛けたそうですが、回っているボールや人、道路を突き進むような映像に次々と切り替わり、夢を見ているような不思議な気分になります。このMVのコンセプトを教えてください。
Dave Konopka:実際のところ、フィルム制作のプロダクションに任せちゃったから、僕らがコンセプトを特に提示したわけではないんだ。RogerはCANADAというプロダクションの所属で、CANADAが制作するMVがお気に入りだね。“Ice Cream”もCANADAで制作されたんだ。“The Yabba”は君の言ったように、ボールが回ったり、道路を回るような映像で、「回る」を連想する映像に切り替わるのは、物語性があるビデオではないけれど視覚的に面白い作品だね。“Ice Cream”も同じように、最初のシーンでアイスクリームが出てきて、その後アイスのコーンを連想させる三角形の物が次々と出てくるんだ。例えばビキニとかね。本当は物語性のある、ラヴストーリーみたいなビデオも好きなんだけど、視覚的にアプローチするビデオが大好きなんだ。
ーーお気に入りの映画監督やMVの監督はいますか?
Dave Konopka:MVの監督だと、さっき言ったようにCANADAが素晴らしいね。ちなみに映画監督なら、Spike Jonzeが好きだね! 彼の作品大好き!
そういやジョーンズと言えば、“Dot Net”のMVは、僕のアートスクール時代の友人であるBen Jonesが制作してくれたんだ。テクノロジーの世界を表現したものでね、Eric Wareheimが出演しているんだよ。
ーー今作には、“FF Bada”(BadaはモバイルOSの一種)、“Dot Net”、“Dot Com”とか、現代のテクノロジーを象徴するようなタイトルの曲が収録されていてユニークです。これらには何か意味が込められているのでしょうか?
Dave Konopka:え、「Bada」ってそういう意味だったの?! 全然知らなかったよ。アフリカのランナーの名前なんだけど、音的に良いと思っただけなんだ(笑)。多分、彼は亡くなっているはず。
(※おそらく2000年シドニーオリンピックで400メートル走の金メダリストに輝いたナイジェリア出身のランナー、Sunday Badaのこと。2011年12月に他界している)
“Dot Net”と“Dot Com”に関しては、“Dot Net”のMVがまさに表現しているように、現代はコンピューターが不可欠な存在で、コンピューター・ワールドになっていることを表したかったんだ。“Dot Net”と“Dot Com”は近い意味で関係性もあるから、同じコンセプトの2曲に似た名前を付けることで関連付けさせたかったんだ。まあ、あまりタイトルには意味無いんだけどね。
ーーでは“The Yabba”というタイトルは、どういった意味でしょうか?
Dave Konopka:これは、タイトルは忘れたんだけど、オーストラリアを舞台にした70年代ぐらいの映画を観てて、その映画に出てくる街の名前が「Yabba」だったんだ。
(※おそらく1971年公開の映画『Wake In Fright(邦題:荒野の千鳥足)』に登場する炭鉱町 Bundanyabbaの通称のこと。『荒野の千鳥足』は、日本では、「世界のどす黒い危険な闇映画」として紹介されている)
ーー日本語のスラングで「cool」を意味する「ヤバい」だと思ってました(笑)。
Dave Konopka:本当に? 知らなかった! 使ってみるね。オッケー、ヤバイ(笑)。
(※実際に、2015年11月25日のEX THEATERでのライヴで「ヤバイ」と使ってくれました)
ーー別のインタヴューで、「2007年に『Mirrored』をリリースした後から今作の『La Di Da Di』をリリースするまでの間にEDMが台頭してきたけれど、EDMのアーティストと僕らは同じプールにいるようだ」と発言されている記事を読みました。ある意味Battlesも「Electronic Dance Music」ではあると思いますが、EDMについて具体的にどう思いますか?
Dave Konopka:オーディエンスにとっては聴き易いんだろうけど、僕にとってはバカらしいサウンドに思うね。彼らはEDMを聴くことでドラッグで引き起こすようなフラッシュバックをしていると思う。そういや、『Flashback』ていう90年代の映画があったよね。Jimi Hendrixの曲がサウンドトラックのやつ。話は戻って、2000年代に入ってから、テクノロジーの進化によってロックバンドがそういったエレクトロサウンドを取り入れるようになったこと自体は素晴らしいと思うけれど、EDMは馬鹿げていると思っているよ。
ーーでは最後に、あなたの2015年のベストアルバムを教えてください。
Dave Konopka:2015年? うーん……。
ーー(笑)。2015年のリリース作品じゃなくても最近のベストで良いですよ。
Dave Konopka:2015年は特にないね(苦笑)。あえて言うならTodd Terjeのアルバムを聴いていたよ。