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Darkstar

INTERVIEW

Darkstar

  • Text & Interview : Hiromi Matsubara

  • 2015.9.30

  • 9/10
  • 2/1 追加
  • 9/10
  • 2/1 追加

現実への絶望からやってくる希望の声と言葉と音

いまも世界中で若者たちが自分の問題と向き合って闘っている。日本でも、イギリスでも。厳密には問題はそれぞれ違うけど、結局のところ状況はほぼ同じだ。いま現在21歳の僕の実感を込めて言えば、若者にはただでさえ問題が多い。自分の生活を、将来を、お金を、友人を、恋人を、作らなければ、保たなければ、漠然と何とかしなければと、気にかけなければいけない。忙しく一喜一憂を繰り返す。それなのにいまはさらに問題が増えて、より社会的な問題に、より政治的な問題に、いくつも上の世代の人と向き合わなければいけない状況になっていっている。もとから相互作用し合っていたから何となく向き合わなきゃと思っていたけど注視していなかった、社会的/政治的な問題が、バランスを崩して個人的な問題に大きく入り込んできているから。そしてそれによって現実が悲惨になって、将来も悲惨になりかねないからだ。それでも、日本の若者たちの先の方で問題と闘い続けているSEALDsは、「“諦めることを諦める”って超重要。絶望なんてくだらねえなって笑い飛ばす」と「絶望する必要ない」と言っている(いずれもWeb版『ele-king』でのインタヴューより)。わかる。問題に絶望しても立ち上がれるし、向き合ってるし、闘えるし、若者はとりあえず生きなきゃいけないし。

 

今回のDarkstarのニューアルバム『Foam Island』のリリースに際したインタヴューを始めるにあたって少し触れておかなければいけないのは、イギリスの労働者階級と労働党と2015年イギリス総選挙のことだ。イギリスにて保守党と二大政党を成している労働党は、居住地域と生活環境、職業、訛りなどで区別されるイギリスの階級社会において下層にあたる労働者階級(低所得者や若年者層)が支持をしている政党で、工業地帯と農村地帯がメインの産業であり、Darkstarの2人の出身地のウェスト・ヨークシャー州があるイギリス北部地域のヨークシャーは労働党が強い。2015年イギリス総選挙において労働党は、EU離脱の賛否を問う国民投票の実施を公約に掲げていた保守党に対して、EUからの離脱をすれば国内産業/事業への投資が減り、EUへの輸出が大きく影響しているイギリスの経済も下がってくと指摘していた。しかし5月の投票で総選挙は結果的に保守党の大勝に終わり、国民投票に向けて今後ますますEU離脱賛成論が過熱すると見られている。一方の労働者階級の人々、特に若者たちは、社会投資が鈍ることによって各々が未来に向って前に進んでいくチャンスをますます失いかねない状況に直面するかもしれない。Darkstarの2人はこの状況に怒りと危機感を感じているという。(2015年イギリス総選挙の詳しいことは、ブレイディみかこ氏の連載『アナキズム・イン・ザ・UK』(こちらもWeb版『ele-king』での連載)の今年アップされた記事を読んでいただけたらと思う

 

再びJames YoungとAiden Whalleyの2人組になったDarkstarの3作目となるアルバム『Foam Island』は、2015年のイギリス総選挙が終末へと向かう最中に、2人の出身地であるウェスト・ヨークシャー州のハダースフィールドで、悲惨な現実と、個人的かつ社会的な問題と闘っている地元の若者たちと対話を重ねていく内にコンセプトとサウンドが生まれていったという作品だ。アルバムのラストを飾る、テープを巻き戻しているような奇妙なトラックに不穏な浮遊感を与える“Days Burn Blue”の歌詞は、総選挙の開票が行われると同時に書かれたそうで、まさに2015年のイギリスを、自らとハダースフィールドの若者たちの切実な言葉を通じてセンシティヴに映し出している。しかし、アルバム全体はロウビットな電子音から滑らかなストリングスまで豊富な音色と、ダンスミュージック的なズシリ感のあるビートによって構成された比較的ポジティヴなサウンドとなっており、社会と政治への絶望と幻滅に反して抱いている若者たちの希望を漂わせている。そうだよ、やっぱりとりあえずは生きなきゃいけない。そうした別方向へと向かう2つのベクトルを結ぶのは、今作で初めて披露されるAiden Whalleyの輪郭のハッキリとした柔らかなヴォーカルだ。そして、いまのDarkstarを訊ねたこのインタヴューにはJames Youngが少しドライに答えてくれた。

 

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ーー最新作『Foam Island』は、主にDarkstarの2人とプロデューサーのLexxxで作ったそうですが、2人でセッションをはじめた時からゲストヴォーカルはあまり多く招かずにアルバム作ろうとこだわっていたのですか? 最近はよくGwilym Goldと共作をしている様だったのでヴォーカルパートはGwilymが務めるのかと思っていました。

 

James Young:そうだね、1年前に2人になった時からそういう構想はしていたかな。でも別にこだわってたわけじゃなくて、単純にAidenのヴォーカルが素晴らしいと思ったから必要ないかなと思っただけなんだ。Gwilymとは最後の1曲で一緒にやってるよ。

 

 

ーー前作『News From Nowhere』のインタヴューで、旧メンバーでヴォーカルを務めていたJames Butteryは「僕にとって歌うことは「演じる」ことと同じなんだ」と語っていました。あなたはAiden Whalleyのヴォーカルにはどういう印象を持っていますか?

 

James Young:今回はAidenが初めて歌ったんだけど、僕は彼が初めて歌ったにしてはかなり良いと思ったよ。声も良いし、僕は彼のヴォーカルで今回はとても満足しているんだ。これも2人になったからこその自然な流れだったけど、そのお陰でAidenの素晴らしい声に気づけたのは本当に良かったと思ってるよ。

 

 

ーー4月にはZombyとの共作トラックやWild BeastsのHayden Thorpをヴォーカルにフィーチャーしたトラックを収録したミックステープ『Kirkless Arcadia』をリリースされていました。あの一連の作品と『Foam Island』との関係性を教えてください。『Foam Island』の制作をスタートさせる前にレコーディングしたのですか? また、Paul McCartneyの“Temporary Secretary”をカバーしたのはどうしてですか?

 

James Young:うん、そうだね。なんていうか、アルバムのプレレコーディング的な感じで作ったんだ。『Foam Island』の方向性とかを感じ取るために作ってみたという感じかな。いわばXX Versionみたいな感じだね。Paul McCartneyの“Temporary Secretary”は単純に昔から好きだったんだ。カバー出来て嬉しいよ。

 

 

 

 

ーーDarkstarは、ダブステップやグライム、また〈Warp〉の先人たちのサウンドから影響を受けたような鋭いエレクトリックサウンドの感覚を持ちながらも、前作『News From Nowhere』以降は、先ほど名前を挙げたPaul McCartneyや、John Lennon、Syd Barrettといったロックシンガーたちが過去に体現してきたポップソングのスタイルに臨んでいるように思います。そして、『Foam Island』はプロセスが見事に実を結んだ作品であるように思いました。ご自身の実感はいかがでしょうか?

 

James Young:うん、自分たちでも変わったのは実感しているよ。別にポップソングのスタイルに変わっていったとは思ってないけど、周りの環境の変化とか、色々なことから単純に自然の流れでスタイルが変わったいったって感じかな。方向性的には前よりもドライでヘヴィーに変わったと思うよ。

 

 

ーー所々でヴォーカルに様々なエフェクトをかけて、より際立たせたり、トラックと融合させるようなプロダクションは、以前より洗練されていて非常に興味深かったです。このプロダクションは、ひたすらにセッションを重ねて、作業を重ねた賜物でしょうか? それとも誰かのプロダクションやアドバイスを参考にしましたか?

 

James Young:セッションを重ねるというより、僕たちは常に「バランス」を意識して作業しているんだよね。だから常にベストなバランスを模索しているとは思うよ。今回はLexxxのお陰で色々なことに挑戦出来たね。機材のことや方向性とか色々な部分でアドバイスしてくれたりして、そのおかげでヴォーカルエフェクトをかけた後は、よりヘヴィーにそしてメタリックな感じの音になったと思うんだ。Lexxxは色々なアーティストをプロデュースしたりしているんだけど、彼が手がけてるWild Beastsなんかも同じレコーディングスタジオのビル内で作業していたよ。

 

 

ーー“Go Natural”、“Foam Island”、“Tillys Theme”でのストリングスなど生楽器の音を使っている部分もあれば、“Pin Secure”、“Stoke The Fire”の途中などではよりビープな電子音が使われている部分もあって、『Foam Island』は音数が豊富な作品だと思いました。アルバム全体的に音の幅を広げたことに関しては狙いがあったのでしょうか? 音を足す作業と音を削ぐ作業は、どちらを多く行いましたか?

 

James Young:さっきも話したように、僕たちにとっては「バランス」が1番大事であって、聴いた時に全体の音の間隔がちょうど良いと感じるのがベストだと思っているんだ。制作の過程で必要であれば色々な音を入れてみるし、必要ないと思えば削いでいくっていうだけの話だよ。だから、どっちが多いかっていうのは特に無くて、ただバランスが取れているポジションを模索するって感じかな。聴いた時に1番心地いいポジションを模索するっていうさ。

 

 

 

 

ーー『Foam Island』の各所で使用されているウェスト・ヨークシャーの若者たちのインタヴューやアナウンサーの声は、ストーリーテリング的な役割をメインに果たしていると思うのですが、随所でトラックと混ぜるためにエフェクトをかけています。声のサンプリングは、楽器の音と同様の1つの音のエレメントとして扱っているのですか?

 

James Young:そうだね、基本的に声だとしても他の楽器同様1つの音として考えていつも作業しているよ。

 

 

ーー『Foam Island』のコンセプトは、Darkstarの2人が、地元でもあるウェスト・ヨークシャーを訪れた際に地域の社会情勢の変化していることに気付いたことが起点となって生まれているそうですが、具体的には地域のどういうことが変化していたのでしょうか?

 

James Young:とにかく色んなことが変化していて、これっていうのは特に挙げられないんだけど……、とにかくいま僕たちより若い世代が考えていること、思っていることをもっと世間に伝えていかないといけないと思ったんだよね。社会情勢についてもそうだけど、もっとパーソナルなことや家族のこと、若い人たちの視点っていうのをもっと伝えていくことが重要だと感じたんだ。

 

 

ーーウェスト・ヨークシャーのティーンや20代前半の若者たちと対話をするドキュメントプロジェクトは、どのような方法で、どのような過程で行われたのですか? 彼らと向き合うことに対して、2人を駆り立てたものは何でしたか?

 

James Young:とにかく若い人と話す機会を得ようと、どんどん積極的に話す機会を設けて色々話を聞いていったんだけど、驚くことや、ハッとさせられる話が本当に多かったよ。彼らと一緒に過ごしたことは誇りに思えるし、いまは彼らとは友達なんだ。

 

 

ーートラックタイトルにも引用されている‘It’s a different kind of struggle’というフレーズは、『Foam Island』のテーマ/コンセプトをストレートに表現しているひとつの重要な部分だと思います。アルバム制作中のターニングポイントになったのは、“A Different Kind of Struggle”の終盤に使用されている一連のフレーズ(※)なのでしょうか?  (※ ‘I think that’s where the young people are having a problem, in that there doesn’t seem to be anybody current that’s able to understand the issues that we have at the moment. It’s a different kind of struggle now.’)

 

James Young:これはシャンタルという女の子のことで、彼女は家出をしてホームレスになりそうだったんだけど、彼女の心には深い悲しみがあって。でも彼女はとても賢くて聡明な女性なんだ。僕たちは彼女と5分くらい話すことが出来たんだけど、普通の皆の悩みとはまたちょっと違う悩みを持っていて、そこに苦しんでいた。なんていうか……彼女の中でしかわからないとても個人的な問題なんだけど、誰しもあり得ることというかさ……わかる?

 

 

ーーというのは、そのフレーズの中の‘Struggle’は、私たち日本人を始め世界中の若者が共通認識できる問題だと思うということですか?

 

James Young:いや、僕はそこまでは思わないんだ。誰しも悩みとか問題は多かれ少なかれあるだろうけど、その問題は皆それぞれ違うと思うしね。同じ‘Struggle’でも本当に恐ろしい問題に直面している人もいれば、個人的な問題だけの人もいるし、問題の度合いは人それぞれだし、共通認識とまでは行かない気がするね。

 

 

ーー『Foam Island』で作品のテーマとしてピックアップしている物事以外に、現代の社会の中で危機感を感じるような現象、あるいは状況の変化などはありますか?

 

James Young:いっぱいあるよ。イギリスで言えば、政府の方針によって貧困の差が大きく開き始めてて、それに対して僕は危機感を感じているよ。

 

 

ーーDarkstarの2人はイギリス人なので、『Foam Island』でテーマとなっている国内情勢や社会状況に直面している「当事者」ですが、アーティストとしてアルバムを作り上げて、ワールドワイドに作品をリリースすることによって、「媒介者(Mediator)」としての中立な立場も持ち合わせることになると思います。作品を作る際に重要視しているのは、どちらの立場でいることでしょうか?

 

James Young:うーーん、僕たちはミュージシャンであって、やっぱり1番は中立であることだと思っているんだよね。良い悪いをジャッジしたりしない、客観的な視点というかさ。アルバムの中には、僕自身は特にそうは思わない趣旨の内容もあったりするけど、それは客観的な視点として盛り込まざる得ないんだ。そういう客観的な視点を持ち続けることも制作過程においてとても重要だと思うよ。

 

 

ーー社会情勢や政治情勢に対するメッセージを音楽と混ぜ合わせることに難しさは感じましたか?工夫したポイントがあったら教えてください。

 

James Young:うん、とても難しいことだよね。でもポイントなんてわからないよ。ただとても気を付けなければならないよね。

 

 

ーー今年のイギリス総選挙(United Kingdom general election of 2015)の際に声を上げていたミュージシャンはあまりいなかったという話を伺いました。Darkstarの2人は『Foam Island』の制作を終えた現在、アーティストやミュージシャンは多少なりとも自身の表現に社会的/政治的メッセージを込めるべきだと思いますか?

 

James Young:それは個人の自由じゃない? 別に込めても込めなくてもそれは表現の自由だからどういうことをしたいかそれぞれによるし、それぞれの考えですればいことだと思うよ。

 

 

End of interview

 

 

リリース情報

 

 

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DARKSTAR

『Foam Island』
Release date: 2015/9/30 (Wed) ON SALE
Label: WARP RECORDINGS / BEAT RECORDS
Cat.: BRC-483
Price: ¥2,000(+tax)
国内盤特典: ボーナストラック追加収録

 

Tracklist:
1. Basic Things
2. Inherent in the Fibre
3. Stoke The Fire
4. Cuts
5. Go Natural
6. A Different Kind Of Struggle
7. Pin Secure
8. Through the Motions
9. Tilly’s Theme
10. Foam Island
11. Javan’s Call
12. Days Burn Blue
13. Space *Bonus Track for Japan

 

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来日公演情報

 

Darkstar Japan Show 2015
Date: 2015/10/11 (Sun)
Venue: WWW渋谷
Open/Start: 24:00~
※20歳未満の方の入場不可。年齢確認のため、顔写真付きの公的身分証明書をご持参ください。
※追加に出演者に関しては随時発表予定。

 

Ticket: 前売¥4,000(スタンディング・税込・1 ドリンク別) 
9月19日(土)10:00~ 下記にて一般発売開始!
e プラス(プレ:9/15 10:00~9/16 23:59)、ぴあ(P:276-370)、ローソン(L:75750)、岩盤、iFLYER 

 

協力:BEATINK www.beatink.com
総合問合せ:SMASH 03-3444-6751 
http://smash-jpn.com
http://smash-mobile.com

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