HigherFrequency Office Chart – Best of 2018、そして年末の編集後記
2018.12.31
HigherFrequencyで「年間ベスト」というものをやらなくなって久しいですが、年末になると必ずと言って良いほど、クラブのバーカウンター周りでは、“ベストアルバムは〜”、“ベストレーベルは〜”、“あのメディアのベストは〜”というのが酒の肴になり、その度に個人的に色々と思い返しては、結局のところ“やっぱりHigherFrequencyも何かしら示した方が良いのかな”ということに行き着いておりました。“年間ベストやらないの?”と聞かれたこともありました。この4年、HigherFrequencyの中身は僕ひとりで動かしていたので、“HigherFrequencyのベスト”が“Hiromi Matsubaraのベスト”に直結してしまうのもどうかと迷い続けていました。
幾らかまた値段が上がったように感じるヴァイナルも、一時期のブームに比べると定着の傾向にあるように見え、その一方で新譜はまずストリーミングで聴くのもある種のスタンダードスタイルになっていたり、音楽を聴くための媒体も多様化が進んできました。その中で、データになって漂うことを避けるアーティストや作品も在れば、フィジカルを持たずに飄々と時代の荒波をすり抜ける作品やアーティストも在り、詰まるところ、人がどの作品を気に入って聴いているのかは、“普段何で音楽を聴いているのか”というところにも依るように感じています。それが故に、大多数が音楽的な歴史を塗り替えたと感じるような作品も数年前よりかは分散 ── 良く言えば、様々なリスナーが“これが好き”や“これが良かった”と胸を張って不特定多数に向けて勧めることが、そんな多様化した時代の象徴にもなり、かつてのどこかの媒体のように声高に作品を評価することも数年前よりは意味を持たなくなったと思っています。だからこそ余計に、Boomkatの年末のチャート、特にアーティスト/DJやレーベルオーナー編が自由奔放かつ正直でユニークに見えるのかもしれません。
これは毎年のことですが、年間を通して、振り返って数を数えたくない程の量のアルバム(LP)、EPもしくはシングル(12インチ)を聴いています。しかしHigherFrequencyでは作品をレヴューすることはしていません。だからこそ年末にだけ肩肘張ったランキングにしてしまうのではなく、「これオフィスでよく聴いていたな」や「これDJでよくプレイしたな」など、この1年の記憶に留まっている楽曲を厳選してSpotifyプレイリストという、ライトかつアクセスのし易い形にまとめてみることにしました。取り立てて言えば、ブリストル拠点のBatuによるレーベル〈Timedance〉からのコンピレーション『Patina Echoes』と、同レーベルの主要アーティストであるBruceが〈Hessle Audio〉からリリースしたアルバム『Sonder Somatic』は、テクノの体感速度や時間感覚をBPMではなくベースミュージックのエコー的な余白でもって更新した作品だと思っています。そして独特のミニマリズム。2019年にも引き続いていきそうです。