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BACARDÍ “Over The Border” 2018

Report

BACARDÍ “Over The Border” 2018

  • 2018.11.05 @ Shibuya Stream Hall
  • Text : Arisa ShirotaPhoto : Masanori Naruse, Gaku Maeda

  • 2018.11.22

  • 10/13 追加
  • 3/30 追加

境界線を超えた熱気の共有

2017年のローンチパーティーを経て、今年で2回目の開催となる『BACARDI “Over The Border”』。「Over The Border=既存の概念を超えた」をコンセプトに、自身のホームグラウンドのみならず、音楽とアートの分野において越境して自身の表現に挑戦し続けている国内外のアーティストたちが、2018年の秋オープンしたばかりの700人規模のイベントスペース「渋谷ストリームホール」に集結した。

 

近年ではKanye WestやEminem、50 Cent、Eazy-E、さらにはThe Weekndの歌詞にもその固有名詞が登場する、カリブ諸国から発祥した世界最大のラム酒ブランド〈BACARDI〉。気分を揚々とさせる、パーティーの雰囲気を盛り上げるお酒でもあり、一世紀以上に渡って世界中の様々な場面で楽しまれてきた。そもそもラム酒は、航海士や海軍の宴会には欠かせなかったサトウキビが原料の蒸留酒であり、飲んだ人々が“ランバリオン(Rumbullion=興奮、大騒ぎ)”したことがその言葉の語源になったとも言われている(諸説あり)。

今回のイベントのお供に私がいただいたのは、BACARDI COCONUTS MOJITO。ベースになっているココナッツジュースと実によく合い、口の中に広がる独特の甘くてスパイシーな香りは、これから待ち受けるその夜へのモチベーションを高めてくれた。

3つのフロアから構成された今回のイベント。イギリスを拠点に活動するコラージュアーティストでテキスタイルデザイナーのJoe Cruz、渋谷PARCOの工事仮囲いに展示されている『AKIRA』のアートウォールも手がけるコラージュアーティストのKOSUKE KAWAMURAや、廃材と自然から採取した素材を使いスクラップアートを作り出すR領域などのアート作品が展示されている、エントランスを入ってすぐのラウンジフロアでは、DJ SARASA、YOSA & TAAR、Lil MOFOのDJプレイが会場の雰囲気を盛り上げていた。

そして、グラフィックアーティストのYOSHIROTTENが所属するクリエイティヴチームのYARによる、何台ものブラウン管テレビを使ったイメージの展示や、映像作家/グラフィックデザイナー/VJと多方面で活躍するNaohiro Yakoによる東京を鮮やかに写した写真をお酒と共に楽しめるバーフロアと、メインフロア以外にもコンテンツ満載。数々の独創的なアート作品を一晩でこんなに楽しめるのはありがたいことだが、むしろ私はメインフロアへの期待が募ってしまい、ついつい早足に移動してしまった。

メインフロアのトップバッターは、2011年から日進月歩するLAのビートシーンにおける立役者と言っても過言ではない、名門レーベル/コレクティヴ〈Soulection〉に所属するYukibeb。クルーで唯一、東京をベースに活動するDJ/セレクターである。骨太なベースと、セクシーなメロウなビートを軸にした彼女の選曲からは、所々遊びの要素を入れつつも地に足の着いた余裕を感じられ、安心感のある心地良い空間を演出していた。

 

Yukibebに続くのは、DJ KOCO a.k.a. ShimokitaとJun Inoueによる60分。ハードディガーであり、常に更新を続けるDJ KOCO a.k.a. Shimokitaがプレイするファンクやレゲエに乗せて、Jun Inoueがリアルタイムでドローイングのアートピースを生み出していく特別なパフォーマンスとなった。グラフィティやヒップホップの要素と、日本特有の精神性をバックボーンとするJun Inoueは、アブストラクトな「書」でもって、音が空間にもたらす一瞬を平面に表現。音楽に合わせて踊りながら紡ぎ出されるフィジカルなタッチには、予測不能な生命力が宿っているように感じられた。DJ KOCO a.k.a. Shimokitaソウルフルでありながら重圧感のあり過ぎないグルーヴを維持し続けていた中盤、Anderson .Paakの“Come Down”がプレイされた時には「良いねー!」と言う歓声が、フロアに集うオーディエンスのどこかから聞こえてきた。私も思わず「良いよね」と、心の中でその声に返事をしてしまったほどに、気分はグルーヴに乗せられていた。

スクリーンにはいつの間にかトライバルでサイケデリックな映像が映し出されていた。メインフロアの3番手は、ウガンダの首都カンパラで、レコーディングスタジオとレーベル、そして年一度のフェスティバルを行うコレクティヴ〈Nyege Nyege〉のコアメンバーのひとりとして今回初来日を果たしたKampireだ。彼女の、トライバルビートで魅せるフェスティバル感のあるプレイスタイルは、映像とも相性はぴったり。長めのベースで安定感を保持させながら、身体が素直に反応する中域の音で踊らせて、時折入るファンキーな声ネタでサプライズを仕込んでいくのが実に上手い。現在、東アフリカで巻き起こっているエレクトロニックミュージック・ブームの中心的を担っている〈Nyege Nyege〉の勢力を存分に感じているうちに、 私もいつの間にかステージ前まで来てしまった人たちの1人になっていた。そのパーカッシヴなグルーヴ感に誰もが体を揺らしていた。

そして、いよいよLittle Simzの登場。圧巻の一言だった。彼女の小さい身体で、これほどのエネルギーを会場全体に放出するのが可能なのだろうかと感激させられていた。彼女の徹底的にドープな発声、その時に作り出されたフローに身を委ねながらも、ブレない態度を持ったラップからは、格別な高揚感と、インスピレーションを貰えた。彼女のライヴを見て、“明日への活力が生まれた”と言ってしまうと少々大袈裟な表現かもしれないが、晴れやかな気持ちになるほどエネルギッシュで刺激的だった。その瞬間を共有している全ての人と、多くのオーディエンスひとりずつと差し向かって対話をするかのように、全身全霊で対峙していた彼女だからこそ成せた技であろう。2017年にUKの『MOBO Awards (Music of Black Origin Awards)』にて最優秀ヒップホップ・アクトと最優秀女性アクトの2部門にノミネートされ、Gorillaz、Anderson .Paak、Lauryn Hillなどのツアーに参加している彼女は、すでに名実共に抜群の新世代ヒップホップ・アイコンだ。パワフルになる覚悟を決めて、ステージ中を飛び回りながら、ひたすら彼女の持つ全てのエネルギーをぶつけてくる彼女。“この瞬間をもっと全力で生きろ”と言われているような気分だった。最後に彼女が放った「Thank you for so much love tonight(たくさんの愛をありがとう)」の言葉を、そのまま彼女に返したくなった。

音楽が流れている場所には、音楽を鳴らす側と、音楽を受け取る側のエネルギーの純粋な交換がある。DJプレイも、ヒップホップのライヴも、結局は、自分たちが同じ時間を共有していることの確認であり、その賞賛なのではないだろうか。インスタレーションアートだってそうだ。自分がいて、他人がいて、初めてそれがそこでしか生まれなかったアートとして価値を持つのだろう。既存の自分や他人という枠組みの概念を超え、自分や、さっきまで他人であった人までも、無意識だったとしても、その時間を共に賞賛した存在同士としてお互いの記憶の中に埋め込まれる。インタラクティヴなアートは、そんな自分と他人という境界線さえも機弱にしてしまう力を持っているのかもしれない。

自分と他人(今回のイベントの場合は他の観客やアーティスト)という境界線を乗り越え、同じ対象に純粋に向かって同じ熱気を共有できた時、他人との関係性さえもアップデートされるような、そんな魔法を見せてもらった気がする。それぞれのバックグランドを持つ人たちと音楽やアートを共有できる瞬間を、また〈BACARDI〉と共に軽やかに祝福できる日を楽しみにしている。

Pioneer DJ

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