SEKITOVA and Friends talk about “Our Party”
Text & Interview : Kenjiro HiraiEdit : Hiromi Matsubara
2017.8.4
若者たちが考えるパーティー進化論
今回、SEKITOVAが自身の地元である大阪はアメリカ村(通称:アメ村)のクラブ、Jouleにて主催するパーティー『TESLA』についての話を訊いた。『TESLA』は2016年9月に初開催され、これまでに石野卓球、Shinichi Osawa、DJ EMMAらを招いて回を重ねてきた。8月5日(土)に開催される第4回は、SEKITOVAと同世代であり、近い舞台で相まみえてきたLicaxxxを迎えた二人会となる。
SEKITOVAは現在22歳。若手のDJではあるが、彼はキャリアの初期から『Big Beach Festival’13』や、2014年までageHaにて100回開催された『CLASH』のメインステージなど数々のビッグパーティーに出演し、活躍を続けてきた。2012年にデビューアルバム『premature moon and the shooting star』を自主レーベルからリリースした直後から、凄まじい速度感でスターダムを上がってきた2017年現在、『TESLA』は彼が現時点までのキャリアの中で経験してきた数々を総括し、アウトプットする側面を持っている。このアウトプットについてSEKITOVAは「自分がもらったものをシーンや街に還元したい」と語り、大阪、引いては日本、さらには世界のシーンを俯瞰した上で『TESLA』をどのように機能させるのか、ということについて思考を巡らせている。大阪で育ち、今も大阪で暮らすSEKITOVAは、何を思いパーティーを始めたのだろうか。
取材にあたって、前回開催された『TESLA』でメインステージに抜擢された、こちらも20代前半で大阪を拠点にする若手DJにAshikagaにも同席をしてもらい、大阪のローカルシーンから話を展開した。『RACK』というデイパーティーを主催するAshikagaはまさしく、Sekitovaが言うところの「還元したいシーンの一員」だ。
また、この取材に(本来は)聞き手として同席した『HigherFrequency』編集長のHiromi Matsbara(松原裕海)も、23歳ながら代官山Saloonにてパーティー『解体新書』を主催し、最近では同パーティーはDJ NOBUが主催する『GONG』においてもセカンドフロアのオーガナイズを行った注目の若手。そして執筆と司会進行を担当したKenjiro Hiraiも、地元の関西で暮らしながら東京拠点の若手パーティークルー『CYK』のメンバーとして活動し、『TESLA』開催の前日8月4日(金)には『CYK』の4回目の開催を控えている。
奇しくも若手DJ/オーガナイザーの4人が揃った取材は、『TESLA』の話題に留まらず、シーンに向けられた問題意識や若手ならではのリアルを共有する場となった。
本記事は若いエネルギーをそのままに、約2時間に及んだ座談を文章に詰め込んでいる。現代の若者ならではの心意気を、若い読者にはどうか何かのモチベーションにしていただき、人生の諸先輩方には生意気な後輩たちを叱咤したり激励したりしながら、読み進めていただきたいと思う。
――ではまずSEKITOVAくんに。大阪で『TESLA』っていうパーティーをはじめた理由を教えてください。
SEKITOVA:東京でDJをすること自体は沢山あったんだけど、オーガナイザーからブッキングを与えられて、終わったらギャラをもらって、っていうだけの繰り返しに違和感が出てきて。東京っていう街が培ってきたものを消費するだけというか、人のリソースに乗っかってるだけなんじゃないかって気持ちがあってさ。与える側、還元する側に回らないとっていう気持ちがずっとあったから、じゃあまずは自分の街からかなと。全国的に呼んでもらえるようになったからこそ、逆に大阪でそれができると思って。
――東京と大阪では、SEKITOVAの立ち位置ってやっぱり違うのかな?
SEKITOVA:うん、人生としても音楽的に育った場って意味でも、大阪は地元だと思うからさ。2012年にアルバム『premature moon and the shooting star』を出してから、いきなり『CLASH』に出たり『BIG BEACH』に出たりして、多くの人は僕に叩き上げのイメージはないだろうけど……。実際、東京のビッグクラブに出るのは相当な飛び級だったけど、地道な時間が無かった訳ではなくて。学校の飯代を抜いて、そのお金で帰りにレコ屋に寄って100円のエサ箱を漁って、「それ試聴できないやつです」って怒られたりしながら、そのまま本町に昔あったNuoohってところまで自転車をかっ飛ばして朝まで延々とDJしたり。そういう、ゼロから地元にもらってきたもの、支えられてきたものがあるから、地元に還元したい。体感とまではいかないけど、大阪の状況が苦しくなっていった様子も見てたしね。小箱だけじゃなくて、閉店してしまったOnziemeとかGRAND Cafeとか、Jouleもリニューアルで1回リセットされて。数の減ってしまったテクノとハウスのパーティーを、あえてJouleっていうアメ村で一番大きなクラブでやる意味って大きいと思う。大阪も東京も含め、自分がまだキャリアが無い時から使ってもらえてたのは、ありがたいことに、自分のこれからのキャリアや可能性に懸けてくれていた部分があったんだと思うから、それに対して自覚的になって実践したいね。
Hiromi Matsbara:若いからっていう理由で面白がられることって多々あるし、その先陣切ってたのって明らかにSEKITOVAだしね。同学年の人がageHaとか大箱でDJしてるのを知った時は衝撃的だったよ。でもSEKITOVAと同じラインで後続となる若手がほとんどいなかったってのも含めて、より責任感は感じてるだろうね。
SEKITOVA:東京に話を移すと、繰り返しになっちゃうけど東京のローカルで頑張ってる人たちが築いてきた土壌を、大阪からきて美味しいとこだけを掠め取ってるんじゃないかって……。それに対して責任を取りたいんだよね。これから出てくる若い人たちに、自分のターンよりも良い状況で迎え入れてあげたい。還元していく立ち位置に進みたい。もちろん、大阪にも良い小箱がいっぱいあって、その土壌を使わせてもらってるんだけど、今の自分の立場と、今の自分にしかできないことを考えると、Jouleでこれをやるってことになったんだよね。
――2016年っていうタイミングだったのはどうして?
SEKITOVA:頭の中にはずっとあったんだよね。実践には移せてなかったんだけど。それで、1回目は卓球さんがゲストだったんだけど、元々オーガナイズまでするつもりはなかったんだよ。卓球さんから「最近大阪でやらなくなったけど、またJouleでやれたら良いな」みたいな話を、会うたびに聞いていたから「僕Jouleと繋ぎますよ」って言って、それを進めるうちにね。でも、良い機会だし、自分がオーガナイズに立とうと思って。
――実際に続けてみて、僕はこないだDJ EMMAさんとOkadadaさんの日を見に行ったけど凄く盛り上がってたね。相対的に見れば、東京よりも若いお客さんがいる印象もあったし。
SEKITOVA:お客さんが増えてきたってのもあるし、自分がブッキングされるだけではパーティーに来ない人も、主催することで来てくれたりするようになったし、それを続けることで定着してきたと思う。ありがたいことに。回数重ねることの意味がわかってきたし、地元でパーティーやることの意味をやりながら感じてる。
――実際に遊びに来てくれる人がいるのはありがたいよね。東京も大阪も、若い人が必ずしもクラブで遊ぶかって言うと、今はそうでもない時代だからね。どうしたってクラブミュージックはコミュニティがベースの、横の繋がりが重要な音楽だと思うから、だからこそ得たものを還元する場所としての地元っていうのは納得できる話で。
Hiromi Matsbara:例えば、観光客にも東京で「フレッシュでナイスなパーティーがあるんだな」と思ってもらえるのと同じぐらい「大阪に行けばSEKITOVAの『TESLA』があるじゃん」って言ってもらえるようになれば最高だよね。外人だけじゃなく、日本人にも。
SEKITOVA:それで言うと、クラブ・コミュニティより、もっと大きなところも目指したいなと思う。「クラブの」じゃなくて、「街の」コミュニティにしたい。Jouleっていう場所の特性も踏まえて、トリップアドバイザー(TripAdvisor)を観た外国人観光客が来るとか、いわゆるクラバー以外の大阪の人も聞いたことある、行ったことある、っていうさ。Ashikagaくんの『RACK』はデイタイムのパーティーだし、その側面はより強いよね。
Ashikaga:日中に動いてる人の方が割合は多いですもんね。当たり前ですけど。ただナイトクラブでこういう音楽やってるんですよ、っていうのは「普通の人」にも知って欲しいし……、入り口になれば良いという想いでデイパーティーをやっています。やる音楽についても「デイでこれやるのか」っていう深夜っぽいディープなことはやっていきたいというイメージでやってますね。今は小箱で実験してる、っていう感じです。コケても傷が浅くすむように(笑)。
SEKITOVA:でも、失敗できる状況って大事だと思うよ、世の中的にも。今って一度ミスったら死ぬまで叩かれんのかっていう世の中だしさ……。そういうのが当たり前になるとチャレンジ自体が無くなってしまうから、新しいものが生まれない世の中になってしまう気がする。Jouleは簡単に失敗していいって言える規模感ではないけど、だからこそ挑戦して結果を出すっていうことは考えたい。人前に出る人間として、そんな在り方も掲げたいし。
――Ashikagaくんは前回の『TESLA』でSEKITOVAの前にDJしてたよね。『TESLA』に自分以外のレジデントは入れないの?
SEKITOVA:シーンを合流する場所にしたいと思っているから、今の所は予定してない。大阪のローカルの人たちで、小箱でパーティーやってる人だったり、別のタイミングでJouleでやってる人であったり、それぞれのコミュニティを持ってる人たちがいて、それらの集合場所になれば良いと思って。
――ラウンジの出演者も含めて、色んな界隈が混ざったパーティーにしたいと。
SEKITOVA:全体で見てその時のコンセプトに一番合う人を呼び続けたいし、ゲストに対する前座って関係にはしたくなくて。で、『TESLA』は大阪の合流地点としてやってきたいけど、それってAshikagaくんみたいなローカル、小箱でがっちりやってる人がいないとそもそも成り立たないから、そういう人たちをJouleみたいな場所でも紹介したくて。それで前回はAshikagaくんを呼んだ。
――Ashikagaくんは大阪でどういうこと考えて『RACK』をやってるの?
Ashikaga:『RACK』は「音で旅をしよう」ってコンセプトでやってます。クラブって一晩で移り変わりがたくさんあるじゃないですか。音もやし、色んな人に会えて、予測できないこともたくさんあって、旅行みたいだなって思うことがよくあって。それを自分たちのパーティーで再現したいなと思ってやってます。だから僕らはあえてメンバーを固定して、回ごとに設けたテーマをDJで表現してもらうっていう感じすね。がっつり世界観を表現してほしい。その上で、やっぱりお客さんと作る場がパーティーだと思うから、予測できないこともたくさん起こるだろうし。それが入り混じって、パーティーをひとつの作品みたいにしたいと思ってやってます。まぁ、色んなパーティーがあれば良いと思うんです。自分たちとはちょっと違うものを否定するつもりはないですけど。ただDJが客寄せとして使われる様子を見ると悲しいなとは思うことがあって。自分DJを始めてそんなに経ってるわけではないですけど、「こうあるべきだ」って思考を色んなところで押し付けられて、「何十人集めるべきだ」って、駒のように扱われる、みたいなことに対して「それで良いのか」って気持ちはあります。だって本来DJって物凄く文化度の高い芸術的な行為じゃないですか。1回そこをちゃんと考えたくて、今『RACK』やってるって感じですね。
SEKITOVA:昼間にやってても、それって本来のパーティーのセオリーでもあるよね。今、世の中って凄くハイライト気質なものになってると思ってて。Instagram(以下、インスタ)みたいなSNSにアップされるほんの数十秒を見て、全体像と捉えてしまう人もいるし、自分もつい、そう判断してしまう時がある。でもインスタのストーリーにアップされる10秒間には、そこに至った流れが確実に存在するし、その後もパーティーは続いていくのであって、それも含めて面白いって考えだから。同じように、東京っていう情報が一極集中する街があるけど、その他の46道府県のシーンって確実に存在してるでしょ。大概は上京して大きなステージ目指すかもしれないけど、そこに至るまでの人生、そこを目指さない人の人生もあるんだから。今は誰かが決めたハイライト以外の時間っていうのがどんどん排他されている気がしてるけど、皆が注目してるSNSの数十秒間以外の8時間や140字では表現されない無限の世界を面白いと思ってDJしてるから。同じように、東京以外のローカルの人たちの面白さを、前座みたいな形ではなく、ひとりひとりにスポットライトを当てたい。
『RACK』の模様
――なるほど。それで言うと、Matsubaraもそういうことを考えてパーティーやってるんじゃないの? こないだDJ NOBUさんが主催してる『GONG』の時もSaloonフロアのオーガナイズを主催パーティー『解体新書』で担当していたけど。
Hiromi Matsbara:実際、東京って国内外から色んなものが集まってくるじゃないですか。クラブに関して言えば、外タレが毎週末のように来てプレイしてるし、地方から上京してくるDJもいるし。そんな状況を、東京の人は皆当たり前だと思ってる気がするし、それを続けることに集中してるがために少し凝り固まっちゃってて、本来東京のシーンがどうあるべきか考えることからは離れちゃってる。遊びに行く側も、「このパーティーは何を考えてやってるんだろう」ってことすらも考えてない、みたいな。僕は大きな場所でやってるパーティーも好きだし、同じように小箱でパーティーやってる人たちにも面白さがあると思ってて大好きだし。だから、凝り固まっちゃってるところと、新しい試みをやってるところ、二層三層にも分かれた東京のシーンを混ぜたりすることってできないかなって思ってるんです。今、外タレ抜きには東京のシーンって語れなくなっちゃってるから、そこも程よく取り入れつつね。「その組み合わせ今までなかったけどアリじゃん!」っていうブッキングがしたい。あるアーティストが軸にいて、その人を中心にして想定される文脈や関係性を考えながら許容範囲を特定して、その許容範囲を超えるギリギリにいる両端は絶対にブッキングしたいなと思ってる。
――最近の『解体新書』は、〈ESP Institute〉からアルバムをリリースしたBartellowをミュンヘンから招いて、Shhhhhさん、Aquarium a.k.a 外神田deepspaceさん、Ultrafog+Raftoのライヴセットっていうラインナップだったよね。音楽的にBartellowとUltrafog+Raftがこの日の両端かな。全く同じ界隈からブッキングしてないし全然違う音楽が集まってるんだけど、文脈の繋がりを感じるから、パーティー全体で面白いグルーヴになってたよ。
Hiromi Matsbara:許容範囲を超えたらパーティーが何にフォーカスしてるのかが伝わらなくなっちゃうから気をつけてる。自分でも今まで「あのDJ、あのライヴめっちゃ良かった」って言ったことはたくさんあるかもしれないけど、「ナイスパーティー!」って思ったこと、あんまりないかもしれないなって思って。今は基本的にメディアに従事してて、出演アーティスト単位でパフォーマンスを見ていく側面ももちろんあってさ。「あるパーティーの中の60分」じゃなくて、「あのアーティストの60分」みたいに、見方を固定しちゃってたのかなって。本来は一晩の流れの素晴らしさを追及したり、堪能できるのが1番なんだよね。
SEKITOVA:「良いDJだった」って言ってもらえるのはもちろん嬉しいんだけど、1番は「今日は良い日だった」って思って帰ってもらえることだもんね。俺たちにとっては音楽がど真ん中で大前提だけど、多くに人にとってはそうじゃないからね。人生には色々あるし、パーティーはその一場面でしかない。
Hiromi Matsbara:なんか、灯台下暗しだと思った。当たり前のことなのに、自分でパーティーやるまでここまでハッキリとは気付かなかったんだよ。そういう会話もしたことなかったことを思うと、もしかしたら東京はこの環境や状況が当たり前過ぎて、それに気付いてない人が多いのかもしれないなとか思ったりね。実際「そんなことわかってんだよ!……でもやってないな」みたいな人いる気がする。わかってないわけないんだから。
SEKITOVA:ハイライトに傾きすぎてしまうと、わかった風にはなれるけど、本当の意味では誰もわからないよ。だから、一晩のうねりを感じて欲しいかな。そして、クラブの中の出来事をそれぞれの人の1日の中の出来事として捉えて欲しい。
Hiromi Matsbara:『CYK』はどうなの?
――Nachtbrakerっていう、当時は〈Dirt Crew〉とか〈Heist〉っていうアムステルダムのビートダウン・ハウス・レーベルからリリースをしてて、今は〈Quartet Series〉っていうセルフレーベルをやってるプロデューサー/DJがいるんだけど、元々は彼の来日だけが先に決まってる状態があって、今年の『rural』にもDJで出てたNariが彼を迎えたパーティーをオーガナイズするために、僕を含め音楽的に近い4人の20代前半のDJを集めたっていうのが最初だった。だから、それ以降も、広義の90sみたいなTHE・ハウスではないハウス、が4人の共通項かな。範囲はめっちゃ広いしうまく言葉にできないけど、皆で共通してる趣味嗜好とかはあるよ。
SEKITOVA:まだ一度も『CYK』には行けてないんだけど、フライヤーからも統一感は出てるよね。
――フライヤーもメンバーの1人が毎回作ってるんだけど、フライヤーも含めてパーティーの要素だから自分たちでコントロールしたいし、「『CYK』だな」って思ってもらえるようにはしたい。『CYK』のメンバーはみんな好きなものが多いから音楽的にはあちこち行っちゃってるけど、音楽的な一貫性というよりは、仲の良い連中でやってるわけだから、ヴィジュアルも含めた全体の雰囲気について、皆で納得できてるっていうのが重要。「『CYK』ってああいうヤツらだよね」って認知もらえる空気感があれば良いし。その空気感の中で遊びたいっていうのは、パーティーに行く理由として十分だと思うんだよね。『CYK』も「若いやつらでやらなきゃ」ってよく皆で話すんだけど、やっぱり皆これまで遊んだり、DJしてきたりしてて、パーティーに対して「何か変だな」とか「つまらないな」とか、色んな問題意識があるんだなと思う。そこは大阪も東京も、そんなに変わらない。
SEKITOVA:方法論としては人それぞれだと思うけど、そうだよね。若いオーガナイザーも含めて、そういう気持ちが今、表現として表層化してきてるよね。僕が名前を出すのはおこがましいけど、例えば、DJ NOBUさんが主催してる『GONG』もそうだと思うし。今まさにそういうパーティーや表現が出てきていて、これからどっちの分岐点に進むか、ってところなんだと思う。で、ここまで話してきたような公私どちらの事柄も、ネガティヴなものとして捉えるんじゃなくて、「次に進もうぜ!」っていうポジティヴな方向に、俺たちで持ってかないといけないよね。
Ashikaga:自分は、音楽にイノヴェーションってそこまで必要かなって思ったりもしてて。「このパーティ/クラブは何百年も先も残っててほしい」ってこと考えたときに、例えばですけど、比叡山延暦寺っていう1000年以上残ってるお寺があるじゃないですか。あれって、そのお寺にまつわる物凄い革新的な出来事があったから残ってるんじゃなくて、周りの人たちが大切にしてきたからこそ残ってるものだと思うんですよ。音楽の話に戻しても、まずは音楽を大切にできることっていうのが一番大事なんじゃないかと思います。
SEKITOVA:その気持ちを維持していくために、新しいことが必要なときもあるよね。お寺もできた当初はモダンなものだったかもしれないし。この音楽を大事にしたい残したいっていう気持ちを維持するために、アップデートを続けることは方法のひとつとして大事だと思うよ。
Hiromi Matsbara:そのイノヴェーションは、目新しいことだけを指してるわけじゃないのかもしれないね。古き良きものを誇ることや残していくことも、前進に結び付くと思う。例えば、さっきの延暦寺をテクノで置き換えるとしたらベルリンのBerghainとかもそういう流れの中にあると思うんだよね。日本にはないけど、クラブとして文化遺産になったっていうのは、そういう側面だと思うし。伝統を重んじるイノヴェーションを重ねてきたんだろうね。
SEKITOVA:中身を入れ替えたりすることだけがイノヴェーションだけじゃないからね。もちろん何も新しいことをせずに続いていくのもちょっと違う気がするし、細々としたアップデートとか、頭を使った工夫の積み重ねこそが歴史になる。だからこそ、イノベーションを繰り返すことが目的になると本末転倒で、根底に流れる精神性が重要だから、そういう意味ではAshikagaくんの言う通りだと思う。
Hiromi Matsbara:一番悲しいのは、クラブとかパーティーが終わった時に、その中にいた人が精根尽き果てちゃうことだよね。それで現場からいなくなっちゃうのは本当に悲しいから。終わるのは仕方が無いのかもしれないけど、どこかで別の場所で続けるっていう残り方が理想だよね。割とクラブ自体がそうやって今まで残ってきたわけで、店名は違うけど中で動かしている人は同じという在り方でさ。イズムを継承して新しくなっていくっていうイメージ。
SEKITOVA:モノ自体よりも、そのモノに関わるエネルギーが大事ってことだよね? そのエネルギーが伝承されれば良いと思うし、イズムが残ってこそ「残る」ってことだと思うし。
――そういう意味では、『TESLA』には『CLASH』を主催されてた荒木さんを始め、各所のクラブの方々からSEKITOVAが影響受けてきた色んなイズムが流れてるんじゃないの?
SEKITOVA:もちろん。僕は環境にバックアップされてつくられてきた部分が凄く大きいから。例えば『CLASH』の主催者の荒木さんは特にそうだね。俺が最初にアルバムを出して、その時から目をかけてくれていた〈Unknown Season〉の堀野さん(Yoshi Horino)に誘われてDOMMUNEに出た時に、荒木さんがDOMMUNEを観てくれていて、それで『CLASH』に誘ってくれたのね。
――そういう始まりだったんだ。
SEKITOVA:それで、僕が初めてパーティーをオーガナイズしたのが2014年の東京・渋谷のModuleで、Licaxxxとか瀧見憲司さんにも出てもらったパーティーなんだけど、その時パーティオーガナイズについて荒木さんに凄く相談したのね。でも、結局そのパーティーは自分の迷いがそのまま出ちゃうような煮え切らない形で終わっちゃって、長い間落ち込んじゃって。そしたら、荒木さんに呼び出されて、10年もageHaで『CLASH』をやり続けてきた意味とか、100回目で終わらせようと思ってることとかを話してくださって、それで「お前は最近パフォーマンスが落ちてる、そんなんじゃダメだよ」って言われて。それでまた「ダメだなー」って思う時期が続いたんだけど、その数か月後に荒木さんからきたメールに「お前『CLASH』のファイナル、メインフロアだから」って書いてあって。凄くありがたかった。ちゃんと見てくれててたんだって、そこで初めて気付いた。agehaで100回続いてきた1番すごいテクノパーティーのラストにメインフロアでやらせてもらえるって、プレイした90分以上の意味があったと思う。もちろん、それだけじゃなく俺は荒木さん以外にも、大小問わずたくさんのクラブの人たちからサポートをもらってきて。小箱の人たちにもたくさん良くしてもらってきた。だから、それを引き継いでいかなきゃいけないと思うんだよね。
Ashikaga:僕にとっては、それが『TESLA』なんですよ。僕ずっと大阪で活動してるんですけど、あるイベントで自分がDJしてたらSEKITOVAくんが踊ってくれていて、しかもDJ終わったら話しかけてくれて。僕その時期、人を呼べるDJというか、そういう側面でDJ呼ばれることが多かったんです。でもSEKITOVAくんに話しかけてもらえて、初めてちゃんと自分を見てもらえたって感動して。ありがたいなって思いましたよ。それで前回の『TESLA』にも呼んでもらえたから、前の『TESLA』凄く楽しかったです。
SEKITOVA:楽しかったね、あれは。
Ashikaga:そういう気持ちが大阪にもどんどん広がれば良いと思います。僕の後輩でも、「『TESLA』出たいです!」っていうてる子めっちゃいますもん。
――憧れの場所でできるのってめっちゃ嬉しいよね。僕もこの間、DJのashyl cahierさんに『LSI Dream』っていうパーティーに誘ってもらって、Contactのラウンジに出させてもらったの。僕はクラブで遊び始めたのがその前身的なクラブの代官山Airだったから、直系のContactでやらせてもらえたのが、凄く嬉しくて。だから、僕たち世代は今もまだ何かをもらう機会が凄く多いから、それをちゃんと残していきたいね。
SEKITOVA:今の若い人っていうか、まぁ僕のことを言うと、一度怒られたら全否定された様に捉えがちなんだけど(笑)。なんやかんやで怒ってくれる人って絶対必要だよね。それも含めて継承したいな、こういうのをイズムっていうんだろうね。
Hiromi Matsbara:SEKITOVAくんは明確にバトン渡されてるわけだしね。
SEKITOVA:だから最初の話に戻るけど、何かを還元するとなるとキャリアが始まる前、それこそ小学生の頃から支えてもらって育ってきた場所から始めていきたいんだよね。大阪が盛り上がれば、自分のキャリアを育ててもらった東京とも刺激し合えるかもしれないし。東京だけじゃなくて、全国にパーティーがあるほうが面白いじゃん。その上でそれぞれの町に特色が出るのかもしれないしさ。
――東京対地方、東京対大阪っていう構図自体、本来無いものなんだよね。東京もめっちゃでかいローカルだし。どっちにも空港あるし(笑)。
SEKITOVA:そうそう。
Ashikaga:ずっと大阪にいて、パーティーのあり方に関して東京を意識したことはほとんど無いですね。比較の話ではないんですけど、大阪には自分の頭で考えてパーティーやってる人たくさんいますし、オリジナリティもあるし。そこだけでちゃんと面白いから、特別、東京を意識することは無いです。でも東京も素晴らしいシーンがあるので遊びに行ったときはとても楽しませてもらってますし、いつかDJもできたら良いなと思っています(笑)。
ーー最早アーティスト/DJとしての評価を得るのに、東京に住むのは別にマストな条件ではないですよね。最近は日本人のアーティスト/DJでも、東京に住んでないけど海外ツアーしたり、海外のレーベルからリリースをしたるするDJとか、たくさんいるし。東京も含めて、都市の土着のシーンで培ってきたものさえあれば面白くなれるんだよね。
SEKITOVA:とは言え、そうやって出てくる人って、大阪に関して言えば、どうしたって個人の外交力に依存してしまうから。それを街やシーンとしてフックアップできたり、出てきやすい環境が欲しいかな。東京は、少なくとも他の街に比べてそれがあるよ。
Hiromi Matsbara:インターネットの時代だからこそ地方にも居られるというか、そういうところから世界規模の何かを揺るがしちゃう面白さもあるじゃん。SNSのメッセージ1本でリリースが決まっちゃうし、そういうことはこれからもどんどん増えるでしょ。
SEKITOVA:インターネットが単なるカオスじゃなくなってきてるからね。誰かのファクターとか、タグを基に整理して情報に触れるようになってきてる。だから、現状アーティストと直接繋がることはできるわけだから、その一歩手前のアプローチする段階、例えば、ルーマニアン・ミニマルが凄く流行ったみたいに、大阪っていうタグがもっと機能するようにしたいんだよね。「Osaka」で検索すれば、面白いDJやアーティストがいっぱい出てくる、みたいなさ。実際、大阪にはもうすでに実力がある人がいっぱいいるんだよ。自然と検索欄に「Osaka」っていれるような状況にしたいね。
――関西に戻ってからあんまり経ってないけど、大阪には若い人もたくさんいるんだなって思ったよ。こないだの『TESLA』も盛り上がってたし。じゃあ最後に、こういうことを考えて『TESLA』をやってるSEKITOVAから、今回のゲストがLicaxxxになった理由を教えてください。
SEKITOVA:今日は構造の話ばっかりしちゃって申し訳ないんだけど、元はといえばLicaxxxのDJが好きなんだよね。あんまり自分のDJではかけないけど、実はめっちゃ好きな曲とかをかなりドロップしてくれるし。最近は筋の通ったDJをすることが多いけど、めちゃくちゃに散らかしたDJをする時も素晴らしいんだ。彼女はGilles Petersonに影響を受けたらしいけど、それが彼女らしくアップデートされてると思う。リストだけ見れば素っ頓狂な選曲だけど、DJのこだわりがみんなに必然性として受け入れられるような音楽が好きで。僕も慣習やマナーの外側に行きたい時には恐れずそっちへ行けるDJを心掛けてる。中々難しいけどね。そういう2人の哲学が絡み合って、フロアとも共有出来れば、もの凄く面白い一夜になるんじゃないかな。その好奇心が一番の理由だね。それで、また構造の話に戻っちゃうんだけど、パーティとしては例えば、単純にブッキングされて俺とLicaxxxがいるっていうのは、別に目新しくもないと思うんだよね。エネルギーも必然性も、これまで呼んできたベテランのトップランカーと比べてネームヴァリューも無い。で、そう判断されるような状況の次に進みたいなと思って。その為には僕らも自分から一歩前に出なきゃいけないからさ。あと、例えば、クオリティとかテクニックが半端じゃないのに若いからとか、実績の無いおじさんだからとか、フェスに出てない、SNSをやってないって、色んな理由で注目されてない人っているじゃん。だから、アクセスポイントをもっと作りたい。いきなりそういう人をブッキングすることはできないけど、段階を踏んでいくことはできる。パーティーにファンがついてくれたら、挑戦もできるから。これまでゲストに卓球さん、Shinichi Osawaさん、DJ EMMAさんと3回やって、パーティーについてくるお客さんがいてくれることがわかったから、一度パーティーの地力を見てみるために、周囲の予想を遥かに裏切るラインナップで、しかも同世代の2人でやりたかったんだ。俺たち2人でフロアを埋めれたら、それは面白いことだと思うし、チャレンジしがいがある。これが成功したら、次以降はもっと挑戦できるじゃん。僕とAshikagaくんのツーマンもいずれできるかもしれないし。つまり、今日のインタヴューで話したいくつかのことをパーティーとして今一番提示できるのが、現時点ではLicaxxxとのツーマンなのかなって。Licaxxxも今メディアでの活動が凄いけど、その裏側でDJとして着々と積み上げてるクオリティがあって、大阪にそのクオリティを紹介したいって気持ちもあるしね。大阪から始まって、今までいろんなところからもらった影響とか繋がりとか、その集大成ともいえるパーティーにしたいなと思っています。
End of interview
Event Info
TESLA
Date: 2017/08/5 (Sat)
Venue: Club Joule
Open/Start: 23:00
Door: ¥2,000
Line up:
SEKITOVA
Licaxxx
Mika (VJ)
TOKKUN (Photo)
More Info: Club Joule