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Albino Sound & sauce81 talk about TORAIZ SP-16

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Albino Sound & sauce81 talk about TORAIZ SP-16

  • Red Bull Studios Tokyo
  • Interview, Text & Photo : Hiromi Matsubara

  • 2017.3.10

  • 9/10
  • 2/1 追加
  • 9/10
  • 2/1 追加

TORAIZ SP-16はいかなるタイプとジャンルのプロデューサーにも開かれている

2016年4月、Pioneer DJが新たに電子楽器ブランド「TORAIZ」を立ち上げると共に、その第1弾モデルとしてスタンドアローン型サンプラー「TORAIZ SP-16」を発表したことをHigherFrequencyでニュースとして取り上げた際に、SNSを通じて寄せられたり垣間見えたりしたリアクションは驚きと期待に溢れていた。中でもTORAIZ SP-16の魅力を説明する上で欠かせない、「素早く直感的な音楽制作」や「快適なワークフロー」、「⼀台で多彩な⾳楽表現を行うことが可能」といったキーワードが、音楽制作に興味のある初心者から多くの関心を集めており、ずばりこのことが今回の特集を企画する発端となった。(ちなみにHigherFrequencyでは、2016年12月開催の『TOKYO DANCE MUSIC EVENT』にて行われたTORAIZ SP-16のワークショップレポートも掲載している)
 
改めて、まずここで触れておきたいのはTORAIZ SP-16の間口の広さと奥深さだ。綺麗に配色がなされ感度も良く点灯/点滅する各16個のパフォーマンスパッドとステップシーケンサーは、高い互換性で鳴っている音とリズムを一目で分かり易く伝え、始めからどちらの操作にも不慣れであっても演奏を続ける上での直感を刺激してくれる。また、例えば元々パッド操作の方に慣れている人でも、シーケンサーがパッドにシンクロして同色で点灯していることで効率良くシーケンサー特有の機能へと操作を移すことができる。一方でシーケンサーに慣れている人であれば、ディスプレイと対応しているパッドで色別に音を視認しながらレイヤーを重ねてトラックを作っていくことができる。要するに、TORAIZ SP-16はいかなるタイプとジャンルのユーザーにも開かれているということだ。Albino Soundのように実験音楽を上音に漂わせたベースミュージックとテクノのハイブリッドを構築することもできれば、sauce81のようにメロウなヒップホップからファンキーなハウスへとドラマティックに展開するパフォーマンスもできる。例えそれがEDMやトラップでも、グライムでも、ジュークだったとしても、TORAIZ SP-16は豊富な内蔵サンプルパックから応えてくれる。
そして、そのTORAIZ SP-16が基本とする直感的な演奏をさらに深めるのが、Dave Smith Prophet-6にも搭載されているアナログフィルター回路をベースにTORAIZ SP-16のために最適化されたアナログフィルターと、指でシンプルに、かつ少ない階層量でエフェクトやパラメーター、サンプルなどを詳細に設定することができる7インチの大型タッチディスプレイだ。 この辺りの細かな機能や使い方についてはAlbino Soundとsauce81が徹底的に解説しているので以下のインタヴューを読み進めていただくとして、その理解をより深めるためにまずは両者のパフォーマンス動画を是非ご覧いただきたい。
 
そしてパフォーマンス動画とインタヴューの収録は、2008年のRed Bull Music Academy Barcelona卒業生のsauce81にとっても、2014年にRed Bull Music Academy Tokyo卒業生のAlbino Soundにとっても縁のあるRed Bull Studios Tokyoのご協力のもと行われた。
 
 

 ーーではまず、お二人ともパフォーマンス動画でどういう操作をしていたのか解説をお願いします。

 

Albino Sound:僕は、まずパッドとノイズをウワモノとして鳴らして、低音を切った状態でスタートして。Dave Smith Instrumentsのアナログフィルターなので、最初はわざとキツめにローパスとハイパスをかけていて、そこから徐々に両方を開いていって、開き切ったところでディレイをかけてあるスネアとキックを手で打ち込んでロールさせていきました。普段ライヴをする時も、まずはローパスとハイパスを閉じておいて、開いていきながら音量感を上げていくっていう展開を作ることが多いですね。ベースは2種類用意していて、成分的には、サブのキックをメインのキックの裏に入れて、さらにベースラインを加えることでUKガラージっぽいノリの跳ね感を出していますね。それから、ウワモノで鳴っているノイズのハイハットみたいな音にLFO機能を効かせていって、そのタイミングではTempestからハイハットとかシンバルとかを加えました。その後にディレイで全体の音を飛ばして展開を作って、パターンの切り替えをします。切り替えるとパターン2ではパッドにタムが入ってくるので、そこにまた最初のハイハットを戻す形で入れていきました。このパターンには別でフィルターで音を絞っているパッドを仕込んでいて、そのカットオフを開いていくとまた別のウワモノが入っていくので、そこでもうひとつ展開を作って盛り上げつつ、ベースとかを切っていって。その後にスネアにディレイをかけて音を飛ばしながら終える、という感じですね。

Toraiz-SP-16

ーー細かな変化は多いように聴こえたんですが、使っているパターンは2つだったんですね。

 

Albino Sound:スタイル的に僕はテクノなので、あまり音数も多く足したり変えたりしないですし、基本的にひとつのループの中である程度の展開を組んでいくことを考えているので、パターンもシンプルに2つにしました。

 ーーsauce81さんはパターンで展開を切り替えてましたね。

 

sauce81:僕はパターンは全部で9つ使っていて、パッドでビートを打ち込んだのは最初の部分だけですね。最初はヒップホップっぽいビートで始まるんですけど、徐々に裏打ちのオープンハイハットが入ってきて遅めの4つ打ちに変わっていって、短時間でBPM120までテンポを上げて行きながらいろいろ展開を作りました。それぞれのパターンには、違うドラムパターンとかベースライン、ウワモノを仕込んでいて、展開を繋ぐ為のパターンも用意してあります。アレンジメントを組んでいないので、BPMやパターンの切り替えもリアルタイムで操作してます。アレンジメント機能を使って展開を組んでおいた場合、次のパターンに移行するアレンジであらかじめBPMを設定しておけば自動で切り替わるんですけどね。でも基本的にこのアレンジメントはトラックメイクをした時にパターンを繋げて曲として仕上げる時に有効な機能だと思うので今回は使ってません。あと僕は、最初のビートを打ち込んだ後に重ねたウワモノをピッチベンドで音程を下げていくのにタッチストリップ(演奏時にパラメーターを変化させることのできる本体左側のスクロールパッド)を使いました。

 

 

ーーお二人とも使っていた音はTORAIZ SP-16に内蔵されていたサンプル音源ですか?

 

Albino Sound:TORAIZ SP-16の方から鳴らしていた音はほとんど内蔵の音源を使って組んでいて、キックとスネアは内蔵のTR-909のサンプルをベースにしています。内蔵の音源にエフェクトをかけて変調とかをさせるだけでもまた新たなテイストの音を作ることができるので、もともとの内蔵音源も含めて音の幅の豊富さは魅力的に感じましたね。ちなみに僕はドラムンベースのパッド系の音色がお気に入りです。

 

 

sauce81:僕は生っぽいドラムの音は自分で作り込んだものを入れたんですけど、TR-909とかTR-808っぽい音色は全て内蔵の音源を使っています。今回は使ってないですけど、DMXとかTR-707とかヴィンテージのドラムマシンのサンプルが入ってるのは良いですね。

あと、途中で入ってくる「I just wanna feel alright」というヴォイスサンプルは、動画の1分過ぎ辺りで流れてるトラックを組んでいくのに併せて、このトラックを聴きながら自分で歌ったのをiPhoneのヴォイスメモで録ったのを後からサンプリングしたものですね。ヴォイスサンプルにはフィルターをかけて、タイムストレッチはマスターテンポに設定してます。特にマスターテンポはCDJと同じ様にテンポを変えてもちゃんと音程を維持して付いてきてくれるので便利な機能ですね。1~2分辺りではこのヴォイスサンプルを丸々歌ったのを使ってるんですけど、そこより前の部分ではスライスモードでパッドに4分割されたもの(I just / wanna / feel / alright)を叩き直して、前半のコードやキーに合うようにそれぞれのピッチを変えて使っています。

Albino Sound & sauce81 talk about TORAIZ SP-16

 ーーステップモジュレーション機能ですね(シーケンサーを長押しすることでステップ単位で割り当てられた音のパラメーターを変えることができる機能)。

 

sauce81:そうですね。これはリアルタイムではなく、事前に仕込みの段階でピッチを変えたり、ステップモジュレーション機能でハーフステップが有効になるように作っておきました。細かい補正もできるので、例えば歌とかを録った時にピッチがずれてるのをちょっと直すようなことも出来たりします。あと後半では、1~2分辺りで流れてるトラックそのものにフィルターをかけた状態でトラックとして、内部で書き出したものをネタとして使っていて。リサンプルっていう機能なんですけど、パッドとかシーケンサーで構築したトラックを1つの音源サンプルとしてパッドに割り当てるんです。それで、またそのサンプルをスライスモードで、パッドで打っていました。Albino Soundがキックを打ってたみたいに、その場でステップシーケンサーで打ち込んでじわじわとリズムパターンを変えていくこともできると思いますし、僕の場合は短い時間の中で曲調が結構変わるような内容を用意したので、そうするとリアルタイムで全部打ち込みながらやっていくのには限界があるので、パターンを仕込んでおいてミュートしておいたフレーズを解除しながら展開を作っていきました。だから、TORAIZ SP-16はどっちのタイプのパフォーマンスにも対応できるってことですね。

 

 

ーーいま動画の解説をしていただいただけでもTORAIZ SP-16の内蔵サンプルや搭載機能が豊富なことは明らかで、ライヴをするにしても制作をするにしても初心者でも使い易いのかなと思うんですけど、お二人のように別の機材と組み合わせたり、使い分けたりする場合ではどうですか?

 

sauce81:まず大きい液晶画面があるのはわかりやすくて便利ですよね。小さい液晶のMPCを初めて使った時は凄く苦労したし。あとは、さっきAlbino Soundが言ってたようにTORAIZ SP-16の豊富な内蔵音源に内蔵のエフェクトをかけるだけでもいろんな音作りができますし、スケールモードでパッドに音階が出るのでメロディーを弾くのも簡単です。最新のファームウェアのアップデートで「セットスケール」っていう機能が追加されて、通常だと半音ずつに音階が並ぶのを、例えばペンタトニックスケールみたいな不協和音にならないような音階の組み合わせをパッドにセットすることができるので、初心者でキーとかスケールとかよくわからなかったり鍵盤が弾けなくても簡単に違和感無くメロディーが作れると思います。

 

Albino Sound:TORAIZ SP-16の内臓音源と自分が後からUSBで移した音源とを組み合わせた時にも、元々のコードが違うサンプル同士をズレなく合わせていきたい時には簡単に作業ができて便利な機能ですよね。Tempestと組み合わせた場合もキーとスケールさえ合わせれば連動して演奏できますし。

 

sauce81:例えばベースラインを弾いて、そこに合うキーでメロディーを弾いて作る作業は、スケールとかキーとか楽典的なことをある程度理解していないと上手くできないこともあると思うので、それを設定すれば全部自動で合わせてくれるのは便利ですね。

 ーー今回のパフォーマンスで使っていても、使っていなくても、「これ良いな」と思った機能は何でしたか?

 

Albino Sound:僕は、ファームウェアのヴァージョン1.20から新たに入った、LFO機能が結構面白くて使ってますね。例えば、サンプルのピッチとかループしたところのスタート部分に効かせて、そこでモジュレーションを組めるようになっているんですよ。ディスティネーションで各エフェクトのソースを選べるんですけど、それで色々試してみたらフィルターにかけると効果が面白いことがわかって。ディレイにかけて奥行き感とずれ感を出したりとか、LFO機能をかけることでただのノイズでもシンセっぽい音色に変えられるので、途中で展開を作るためによく使ってます。イントロのウワモノに元からLFO機能をかけておいて揺れ感を演出することもできますし、使い方を工夫すればリズムっぽくもできたり、ランダムなシンセのシーケンスにもできたりしますよね、きっと。

あとは最新ヴァージョン(ver.1.30)から、エフェクトに「ダッカー(DUCKER)」が付いたのが良いですね。ベースに効かせるとサイドチェインみたいな効果があるので、例えばキックのアタックをエンベロープで削っておいてダッカーをかけると、最初のアタック感を遅らせられて被らないようにできるようにもできるんですよ。だから現代的な作曲方法ですよね。サイドチェインってどこでも使う技術だし、それと同等のこともできるし。

 

sauce81:はい、質問。それは何かが発音するたびに効くように設定出来るんですか?

 

Albino Sound:そうですね。ソースを選べるので、どこに対してダッキングするのかも選べるから、パッドに割り当てることもできるし、トラックに割り当てることもできるんですよ。なので、これはより制作過程において使える機能ですよね。

 

sauce81:僕はさっきステップモジュレーション機能でピッチを変えたっていう話をしたんですけど、同じ機能で、タイミングも後から細かく微妙に変えることができるんですよ。パッドで打ち込んだらそもそもピッタリは合わないんですけど、打ち込んだ時のずれを後から補正することもできるし、逆にステップ入力したのをスネアの音だけ微妙に遅らせたり早めたりしたいなと思ったらトラック毎でも単音でも細かく調整することもできるし。僕はDAWだとこういう作業をよくやってるんですけど、16ステップだとそれに縛られがちなところを、こうやって後からシーケンス内でずらすことができるのは意外とこれまで無かった機能だと思いますね。あとは2小節目の4拍目のスネアだけリヴァーブの量を多めにかけたり、ステップ毎にエフェクトやアンプエンベロープ、ピッチ等のパラメータをいじったりもできるのも特徴ですね。

 

Albino Sound:ステップモジュレーション機能だと、僕は4つ目と14つ目のステップにリトリガーを使ってますね。1度打ち込んだシーケンスに対して後からピッチやタイミングを変えられるので、音色によってはリズムでメロディーラインを作ることもできて、楽曲に変化を与えられるんですよ。

 

sauce81:タムで言うと、例えばピッチが違うのが3つ欲しかったら、昔ながらのサンプラーだと3つのパッドに並べなきゃいけなかったりすると思うんですけど、TORAIZ SP-16だったら打ち込んでからピッチを変えることもできるし、スケールモードで簡単に音階も付けてパッドで叩けるし、タッチストリップでピッチベンドして入力できたり、1つのパッドだけでアプローチできる方法がいっぱいあるし、パッドの節約にもなりますね。

 

Albino Sound:リズムにもウワモノにも、各セクションに対して色々な音作りとか遊びとかができるので、慣れて使いこなせるようになったらほとんどTORAIZ SP-16で完結しますよね。内蔵サンプルも豊富だし、ジャンル分けも分かり易くされているので、どんなジャンルのトラックでも作れますし。あとはDAWで編集さえできれば。

 

sauce81:2人の動画を見ていただければ操作方法が違うのが分かると思いますし、人によってやり易い方法を選択していける柔軟性があると思いますよ。

 

Albino Sound:ジュークを作りたい人にも良いと思うんですよね。パッドでビートのネタだけ打ち込んでロールさせて、16拍子にすればベースは作れるし、操作のライヴ的な見栄えも良いと思いますよ。曲もサクッと切って次にいくことが多いから、パターンの切り替えで展開もしていき易いだろうし。

 

Albino Sound & sauce81 talk about TORAIZ SP-16

 ーーお二人とも実際にライヴでTORAIZ SP-16を使う場合はどういうセットアップにしているんですか?

 

sauce81:僕はN’gaho Ta’quiaっていう別名義でライヴする時の機材を元々使ってたMPCからTORAIZ SP-16に変えたんですけど、TORAIZ SP-16をマスターにルーパーを同期させて、シンセやマイクを繋いで歌や演奏をループして重ねてパフォーマンスしています。最近はミュージシャンと一緒にやっていて、基本のドラムのビートは事前に仕込んでおいたり、その場で打ち込んだりしています。あと、曲ごとにエフェクトをかけながら展開させたり、テンポを変えながら曲を繋げたりしてるんで、操作は動画でやってるのに近い感じです。N’gaho Ta’quiaで使うにしても、今後Sauce81で使っていくとしても、マスターテンポ機能があるので汎用性は高いですね。

 

Albino Sound:僕の場合は、Tempestに足りない部分をTORAIZ SP-16で作って補っていくっていう発想になっていますね。元々、先にTempestを使っていたこともあって慣れている分だけ自然とTempestの方の比重が多くなってるんですけど。でも、TORAIZ SP-16の要素が多くなったら、また音が変わっていきそうだなと思います。あとは確かにクラブでテクノっぽいセットをやる時にTORAIZ SP-16をマスターテンポにすれば、他の機材とずれなく上げていくことができるし、PCとTempestだけだとTempestがずれまくってて大変だったので、TORAIZ SP-16があれば軸にできて便利です。これから使う人はTORAIZ SP-16をマスター機材にして、他のを足していくのが良いと思います。

 

 

ーーTORAIZ SP-16はアップデートもありますしね。

 

sauce81:そうですね。それも楽しみですよね。PCのソフトウェアだとOSをアップデートしたら使えなくなったりとか、他のことを気にしなきゃいけないですけど、基本的にはハードウェアなので安定感があって、シンプルなので煩わしさが無いのも良いです。

 

 

ーーTORAIZ SP-16に続いて、もうモノフォニック・アナログ・シンセサイザーのTORAIZ AS-1が発表されていて、TORAIZブランドはこれらも拡大していくと思うんですが、お二人がTORAIZに期待したいことは何ですか?

 

sauce81:DJ機器メーカーだったPioneer DJが制作向けに機材を作るということで、これからも制作の現場がライヴの現場へと直結する機材がもっとできたら良いと思いますね。僕は現場に持ち運び易い鍵盤付きのポリフォニック・アナログ・シンセサイザーが欲しいです。

 

Albino Sound:僕はTORAIZ AS-1が非常に楽しみです。あとはちょっとしたサイズでチェインができてシーケンスが組めて、操作ができる機材があればなと思います。

 

 

 

End of interview

Pioneer DJ

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