Pioneer DJ TORAIZ SP-16 Workshop in TDME’16
- 2016.12.01(THU) @ Red Bull Studios Tokyo
Text : Toshinao RuikePhoto : Masato_Yokoyama
2016.12.29
直感的に「音楽制作」ができる本格的なスタンドアローン・サンプラー
ダンスミュージックの現在を考えるTokyo Dance Music Event、その記念すべき第一回にPioneer DJによるスタンドアローン型サンプラー
「TORAIZ SP-16 (以下、SP-16)」のワークショップが行われた。今回はそのワークショップの様子をレポートしたい。
Pioneer DJと言えば、DJ用ミキサーやCDJといった機器で有名だ。これまで常に意識されていたのは、”楽器”として使える機器であるということ。
今秋発売されたTORAIZ SP-16はPioneer DJの音楽制作にフォーカスした機器として初めてになるが、これまでと同様楽器として直観的に扱えるように開発された。
試作の段階では、現役の音楽プロデューサー/DJ/ライブパフォーマー達に試奏を依頼。彼らからのフィードバックを得ながら開発されている。
この日は司会進行に開発者の服部章氏、今回の開発過程にも関わったミュージシャンのsauce81とYAMATOの3名によるデモンストレーションとレクチャーが行われた。会場はRed Bull Studio Tokyo、Red Bull関連イベント以外でもアーティストのトークイベントやワークショップのために昨今よく使われている場所だ。
まずはsauce81が登場、SP-16単体でのデモを行った。演奏性の高いスタンドアローンのサンプラーとしてSP-16を用い、サンプルのセットをパッドに割り当てシーケンスを組み、事前に作りこまれたプロジェクトを使ってパフォーマンスが行われた。
ビートを打ち込む際、ただの機械的なリズムを刻むのではなく、OFFSET機能を使って16ステップ入力からずれた位置に音がなるようにシーケンスが設定されている。ステップ単位で意図的に少しずらすことでリズムに特徴を持たせることが可能だ。
リズムパートをループさせ、音のレイヤーの重なりが曲らしさを段々と醸し出し、時折ミュート機能で音を抜き差しする。SP-16一台でライヴ用機材としても十二分にパフォーマンスが行えると言えるだろう。
続くYAMATOはSP-16をCDJ3台とミキサーを連携させ、パフォーマンスを行った。バトルDJとしても入賞経験のあるYAMATOはターンテーブルを行き来しながら、SP-16を使ったルーティンを披露してくれた。
最新のファームウェアではPRO DJ LINK対応のPioneer DJ製品とSP-16との拍単位・小節単位での同期演奏がBEAT SYNC機能によって可能となり、上の動画のようにMasterに設定したDJプレーヤーのビートに他の機器も自動的に追随していく。またもちろんMIDI端子も搭載しており、DJシステムとMIDI機器をSYNCするHUBとしての役割も担うことができる。複数の機器を行き来してライブ・パフォーマンスを行う際、同期機能が安定していることは重要だ。
この日のデモンストレーションのために準備した素早いルーティンで観客を魅了していたYAMATO。楽器としてターンテーブルを使うターンテーブリストのセットアップにも組み込める製品となっている。
Pioneer DJには既にDJ機器メーカーとしての蓄積があるが、SP-16は音楽制作機器としては初めてのラインナップとなる。開発者の服部氏によると、ダンスミュージックにフォーカスした音楽制作機器が既に様々なメーカーから発売されていたため、企画の際にはどういった商品を開発するべきか多くの方向性が考えられたという。最終的には直観的な音楽制作が行えるようなスタンドアローン型のサンプラーに狙いを絞り、SP-16の開発へと行き着いた。過去のノウハウを活かし、一番こだわりを持って設計されたのはパッド・シーケンサー・タッチディスプレイの組み合わせによるユーザー・インターフェースのレイアウトだと言う。またProphet-5など数々の名機と呼ばれるシンセサイザーの開発やMIDIの策定に関わった偉大なエンジニアDave Smith氏に協力を仰ぎ、Dave Smith Instruments社と協業する形で同社の特徴的なProphet-6のフィルターをSP-16に搭載した。新製品というと今まで見たことのないような新しい操作方法やコンセプトを期待してしまうが、これまでを振り返り、過去から優れた製品の機能を引き継いで、より良いサンプラーとして生まれた、そこにSP-16の価値があると言っていいだろう。Pioneer DJが世に出したサンプラーとしてはこれが第一弾。TORAIZシリーズとして、今後SP-16に続くどんな製品が出るのだろうか。
発売以来、既に世界中で多くのユーザーがSP-16を様々なパフォーマンスに用いている。ここでいくつかの動画を紹介しよう。
ロシアのアーティストKrazyRafことRafael SalimovによるSP-16を2枚使いしたパフォーマンス。高速フィンガードラムとかなりクレイジーな展開で、この動画を見ながらウォッカを飲んで暴れたくなるかもしれない。パッド機能とリズム同期によるスムーズな曲出しの様子がわかる。
こちらは少し落ち着き、ベッドルームでリラックスしてパフォーマンスを行っている動画。開封して初めて作ったというハウス風のデモ。
James Zabielaによるデモンストレーション。タッチストリップを使ってスクラッチのような音を出して楽しんでいる。終盤、PCデスクの前で盛り上がり過ぎてコーヒーをノートPCにぶちまけそうになってしまっている。飲み物を置きながらプレイする時は、ぶつかったりしないように、十分なスペースを確保してください。
今回のTokyo Dance Music Eventには音楽に携わる様々なプロフェッショナル達が集まっていたが、単に音楽制作のノウハウやツールが紹介されていただけでなく、開発者やミュージシャン、サウンド・エンジニア、マネージメントのスタッフ、プロモーターがワークショップの前後にコミュニケーションを行うことができる場にもなっていた。今回は第1回だが、TDMEが今後クリエイティブな交流の場になっていくことも大いに期待したい。日本のダンスミュージックシーンの発展を祈りつつ、今年最後のレポート記事を締めたい。皆さま、よいお年を。2017年もよろしくお願いします。