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RAINBOW DISCO CLUB 2017

Report

Rainbow Disco Club 2017

  • 2017.05.03(Wed) - 05(Fri ) @ Higashi izu Cross Country Course
  • Text : Kenjiro HiraiPhoto : Jiroken, Ken Kawamura, Masanori Naruse

  • 2018.4.19

  • 9/10
  • 2/1 追加
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快晴のパーティーに生まれた多彩なハイライト

『Rainbow Disco Club』(以下、『RDC』)は伊豆に会場を移して2017年で3回目の開催。多くのリピーターを掴み、GWの野外パーティーとしてシーンに定着し始めた。僕は『RDC』のことを説明する時に、「フェスティバル」ではなく、「パーティー」と呼びたくなる。この僕のこだわりのようなものは、『RDC』がクラブカルチャーの延長線上にあるものだから生まれるのだと思う。世界中からブッキングされた特一級のDJ/ライヴアクトのラインナップは、日本においてはなかなか観れるものではない面子ではあるが、必ずしも、音楽のショーに有りがちな「アーティストのためにオーディエンスが付いて来る」という図式だけではない、クラブカルチャーの中にあるコミュニティという横の繋がりを、人々の在り方から感じることができる。どこを向いてどこで踊っていても良いし、喋っていても飲んでいても、もちろんその他のエトセトラだって楽しい。例え、無自覚であっても自分で選択したことを楽しむ環境は、まさにクラブにおけるパーティーと同様のスタイルだ。そして与えられたものだけを楽しむのではない成熟したお客さんの在り方も、パーティーの雰囲気を育む大事な要素。この良い循環の一部になりたいと毎年思っているのは僕だけではないだろうが、今年は新たに、歳下の友人を一人、『RDC』という大きな輪の中に入れてみることにした。


 

RAINBOW DISCO CLUB STAGE : DAY 01

 HESSLE AUDIO (BEN UFO / PANGAEA / PEARSON SOUND) / DJ DUSTIN From GIEGLING / KIKIORIX / SISI

 


その友人が伊豆稲取に到着したのは、緑を照らす陽の光が徐々に和らぎ、Sisiによって穏やかにスタートしたパーティーがKikiorixのプレイでグルーヴを帯び始めるころだった。彼は若干21歳、音楽にもファッションにもご執心な遊び盛り。〈C.E〉のTシャツからもそのこだわりが滲むが、いわゆる野外パーティーは初体験というのも頷ける軽装で、節約のため普通列車に乗ってやってきた。都内から伊豆の踊子号で1本、普通列車でも2~3回の乗り換えで来られるアクセスの良さとは言え、シティーボーイとっては十分な長距離旅行、移動だけでずいぶん疲れた様子だった。

 

彼とはこの1年間で毎週末のようにどこかのヴェニューで会い、音楽と文化の趣味やくだらない時間を共有した。年明けあたりから他の友人たちとも「一緒に行けたらいいね」と話していたが、ラインナップにPalms Traxが追加されたことで、僕は彼を強く誘ったのだった。彼はPalms Traxと彼が初期に所属していたレーベル〈Lobster Termin〉の大ファンで、昨年末の来日時にはブースに噛り付き、明け方には一緒に写真を撮ってもらっていたほどだ。

一緒にパーティーを楽しむなら、それくらい音楽に対して天真爛漫なヤツが良いし、『RDC』には豊潤な音楽も、気の置けない友人たちと共有するのにピッタリな緩い時間もある。僕はクラブカルチャー全体を楽しみ共感する若い彼に、『RDC』のことを知ってもらいたいと思ったのだ。

 

最初こそ移動疲れで半ばふて腐れていた彼だが、音に人にロケーション、環境の全てによって高純度に熟成されたパーティーが、初『RDC』の若人の心を掴むのに時間は掛からなかった。徐々に表情もほぐれ出し、他の友人たちも交えて、この日ばかりは地下の暗がりではなく陽の下で乾杯。「〈Hessle Audio〉クルーはここに来る前にOndasで買い物していたらしいよ」や、「今かかってた曲、Powderの新しいEPだよね」なんて、いつも通り音楽の話をしたり、今年から新たに導入されたD&B社のサウンドシステムによって高解像度な音像で再現されるDJ Dustinの職人仕事を浴びに行ったりもした。

気が付けば、Palms Traxが始まる時間。メインステージは、Ben UFO、Pearson Sound、Pangaeaの3人からなる〈Hessle Audio〉クルーによる最初のピークを迎え、フロアがスモークに覆われだしていたが、彼はどうしてもPalms Traxが最初から観たいらしく、名残惜しそうにRBMAステージへと向かっていった。

その後も〈Hessle Audio〉クルーは、これぞ、発展を極めた2000代中期以降から現在までのUKレイヴ史を反芻するかのごとくバックトゥバックを展開。完全に陽の落ちたフロアを地を這うレーザーが彩り、視覚からも脳をジャックされ、五感を通してレイヴというものを叩き込まれているかのような状況に到達。ばっちりグライムのトラックまで飛び出した。それも単なる飛び道具ではなく、彼らが身を置き育ってきたカルチャーの文脈からの選曲だと思うと、ガッツポーズさえしたくなる。

そんな折に、例の友人から届いたメッセージによると(踊っている時ぐらいスマホを触らなきゃいいのに、と思ったが)、どうやらPalms Traxはアフロ・ディスコを連発しているらしい。Palms Traxの若手ながらもオールドスクールな選曲は僕にとっても大好物、休憩がてらフロアを離れ、足早にRBMAステージに向かうことにした。

 

初日は正午、2日目以降は午前中には音が鳴り始めるメインステージと違い、隣接する体育館内に設営されるRBMAステージは夕方からオープンする。アクトの被りが少なくなるような配慮だとは思うが、どうしてもメインステージに比べ人の集まりが緩やかだ。僕が到着したタイミングでもまだまだフロアには余裕があり、Palms Traxも華やかなトラックを選びつつも、出方を伺っている、といった印象だった。

 

僕が友人を探し始めると、案の定、彼は既に最前で激しく踊っていた。Palms Traxへの思い入れも含めて、もうこの時点で彼の中における『RDC』のハイライトは決定していたのかもしれない。あまりに純で情熱的な照準の向け方を想像すると思わず笑ってしまったが、その直後からPalms Traxは、ゆっくりと燃え上がるような選曲で僕も含めたクラウドを確実にロックし始めていった。徐々に増える人の数に比例してボルテージを上げていく彼のお手本のようなプレイは、──『Dekmantel 2016』でもこれ以上ないくらい素敵な瞬間を生んだトラック、Montego Bayの“Everything”のイントロによって、── RBMAステージにこの日一番の歓声をもたらした。誰かと言葉を交わしたわけでもなく、それでも確実に、フロア全体がときめきを共有できた瞬間だった。僕はあの光景と、そして涙と笑みで揉みくちゃな顔になりながらも拳を握りしめていた友人の姿を今でも鮮明に思い出すことができる。

その後のGerd Jansonも流石、キャリア相応のニューディスコなプレイを披露し、Palms Traxによってぶち上げられた高度を維持して安定飛行させるかのごとく、初日から多くのお客さんをフロアに引き留め続けていた。

 

そんな初日の大円団を目の当たりにした後、例の友人は一気に疲れがきた様子だった。それでも、眠たげな眼を擦りながら、キャンプサイトに乱立するテントの間を縫って自分たちの拠点に戻る間、Palms Traxも含めた今日のアクトについての話がなかなか止まらず、心の充足と体の疲れが反比例している様子を見て、「彼に来てもらってよかった」と心から思えた。昨年のことを学習しない薄着の自分には5月の山の夜冷えは相当堪えたし、朝も早くていい加減疲れてしまっていたけれど、2日目以降も生まれるであろうハイライトの妄想話は尽きることなく、『RDC』初日の夜は更けていったのだった。

 

結局、3日間通しての彼のハイライトは、やはりPalms Traxだったようだが、UKベースとテクノの結び付きが生んだ音楽を面白がり続けている弊媒体の編集長はやはり〈Hessle Audio〉クルーのプレイに感涙、諸手を挙げて大絶賛していたし、個人的には、砂埃と直射日光の中で獰猛にディスコやレアグルーヴをスピンし続けたFloating Pointsがあまりにも強烈だった。個々人でそれぞれのハイライトがあることは当たり前で、それは誰かにとってはFatima Yamahaの“What’s A Girl To Do”の名フレーズが小雨の中で鳴り出した瞬間かもしれないし、DJ NobuとFred Pのバックトゥバックや、Soichi Terada×Kuniyuki×Sauce81のライヴセッションなど、『RDC』だからこそ実現できたエクスクルーシヴなアクトなのかもしれない。もちろん、期待通りに僕たちをハッピーに迎え入れてくれたRUSH HOUR ALLSTARSとSadar Baharを半年の間楽しみにしていた人にとって、3日目は忘れられない一日になっただろう。

 

別に特段理由が無くてもクラブには行ってもいいものだし、パーティーはある種、誰かと会って話すコミュニケーションの形であったりもする。しかしそこには稀に、人生において忘れることのできない瞬間が音楽によってもたらされたりする。僕も今年の『RDC』では、たくさん踊って、たくさんの人と話すことができたし、一人の友人に、かけがえのない体験がもたらされた瞬間も目の当たりにした。これ以上に幸せなことが僕には思いつかないから、来年もきっと僕らは『RDC』に帰ってくるのだと思う。「また来年も」、という気持ちが心に根付いた時点で『RDC』はお客さんの一部となり、お客さんもまた『RDC』というパーティーの一部となる。この素敵な関係の中で、『RDC』はシーンを彩る年に一度のパーティーとして育っていっている。きっと来年以降も『RDC』は多くの人に愛され続けていくのだろうと、僕は帰りの車で友人たちの寝顔を眺めながら思ったのだった。


 

RAINBOW DISCO CLUB STAGE : DAY 02

DJ NOBU B2B FRED P / SOICHI TERADA × KUNIYUKI × SAUCE81 / FLOATING POINTS / FATIMA YAMAHA / KENJI TAKIMI / KAORU INOUE

 



 

RAINBOW DISCO CLUB STAGE : DAY 03

SADAR BAHAR / RUSH HOUR ALLSTARS (ANTAL / HUNEE / SAN PROPER)

 



 

RED BULL MUSIC ACADEMY FESTIVAL STAGE : DAY01 – DAY 02

GERD JANSON / PALMS TRAX / SKEME RICHARDS B2B DJ NORI / KEITA SANO / AKIKO KIYAMA / 77 KARAT GOLD × KASHIF / SAPPHIRE SLOWS / WONK / MISO

 


Pioneer DJ

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