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Organik Festival 2019

Report

Organik Festival 2019

  • 2019.04.26 (Fri) - 29 (Mon) @ Huting, Hualian, Taiwan
  • Text : Yutaro YamamuroPhoto : KAZ KIMISHITA

  • 2019.5.29

  • 9/10
  • 2/1 追加
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  • 2/1 追加

東アジアを牽引する“Magical”なフェスティバル

台湾に拠点を置くコレクティヴ〈Smoke Machine〉は、国内はもちろん、今や世界的な注目を集める集団であることは間違いない。そして毎年、台湾・花連県で開催され、今年で8回目を迎えた『Organik Festival』(以下、Organik)は、〈Smoke Machine〉の貫いてきた精神を具現化する大きなイベントでもある。いまや世界中で大小問わず様々なフェスティバルが開催されている中で、『Organik』はある種の完全体に近い形で存在している。多くの人が”Magical”と形容するこの神秘的なフェスティバルは、見渡す限りの大自然に囲まれ、スピーカーと最低限のデコレーション、そしてネームヴァリューを問わず実力で選ばれたDJのラインナップが用意されたシンプルなものである。そして、このフェスティバルを特別にするのは、やはり『Organik』に集まる1000人程度の素晴らしいオーディエンスとのインタラクションが完璧に作用しているという事であろう。視野を完全に埋め尽くしてしまうほど目の前に広がる大きな山、完全な地平線を望める太平洋、パームツリーの歯が広がる砂浜に設置されたメインステージ、バンガローの中にある滑らかな木の床があるセカンドステージ。明るい時間はこの自然の中で南国を満喫し、夜になると誰もが内に秘める原始的な感覚を呼び覚まし、まるで太古から続く儀式のように踊る。最寄りの花蓮駅からさらに車で50分程度かかるアクセスの悪さという障害でさえも、聖域を囲う大きな壁のような役割を果たして、この3日間の出来事を特別な別世界での経験に置き換えてくれる。

さらに、『Organik』の目指すフェスティバルの世界観は、アートワークやリストバンド、そして見やすいとは言い難いタイムテーブルやエリアマップといった一連のデザインからも感じ取ることができる。そこには徹底したミニマリズムがあり、テクノの持つ神秘的な側面を極限まで引き出すという試みのようにも思える。私は去年に続き2回目の参加であるが、そのフェスティバルの精神とこの完璧なロケーションに胸を打たれ、また再び体験できることを一年間心待ちにしていた。

 

前日にフェスティバルの開催される台湾・花蓮県の天気予報を調べた時、4日間に渡る雷雨の予報を見て、一抹の興奮を覚えた。去年のような晴天ながらも過酷な暑さだった3日間も良いが、雨がもたらす妖気で人々がその混沌に呑み込まれていくというのも、このフェスティバルには相応しいと思ったからだ。にも関わらず、初日の日暮れに到着した時には、まだ雨は降っておらず、手っ取り早くテントを組み立てることができた。メインステージに行くと既に多くの人で賑わっていて、長い移動があったにも関わらず、久しぶりの再会に祝杯を挙げたり、待ち侘びていたかのように踊る人々で埋め尽くされていた。また、今年からはこの日の為に中国からレンタルしたという、美しい見た目を持つサウンドシステム”Funktion-One”がDJブースの横で大きな存在感を放っていた。この開けたビーチの特性もあり、響き渡る低音と繊細な高音は全て海へ抜け、どこにいても音が均一に届くようなセッティングになっていた。

 

すっかり疲れを忘れてしまった私も、久しい友人との再会を楽しんで、台北で唯一存在していたアンダーグラウンドクラブ 「Korner(※〈Smoke Machine〉が毎週末パーティを開いていたクラブで、現在は提携を解消している)」での沢山の思い出話に花を咲かせていた。台湾のアンダーグラウンドシーンは東京に比べると小規模ではあるが、その性質は大きく異なる。先ず性的マイノリティの存在感がとても強い事は、誰もが感じる事であろう。クラブに行けば、それぞれが好きな格好で身を包み、己の性を謳歌している。誰もが自由に交流して、ジェンダーで差別をする事を最もタブーとしている。もちろん〈Smoke Machine〉はその流れを牽引する存在であり、11月にはLGBTQに特化したフェスティバル『Spectrum Formosus』も主催している。そういったシーンを象徴するように、先日5月17日には同性婚に関する法案が可決され、台湾はアジアで初の同性婚が認められた国となった。

 

そして次に、台湾のシーンからはDIY精神を多分に感じられると言うこともあるだろう。毎月様々なコンセプトのパーティーが開かれて、多くのローカルアーティストが招集されており、横の繋がりがとても強く、様々な人種と社会的立場の人が交差して想像もつかないような化学反応が起きる事もある。いま台湾はかつてのアンダーグラウンドが登場したのと同じ方法で、大きなエナジーを携えて人種を超えた影響力を持とうとしているのだ。

 

日付が変わる前、イタリアンデュオのCrossing Avenueがスローながらもまとわりつくような色気のあるライヴを始めた時、各所に設置されたスモークマシーンから溢れ出る煙と共に、まだ温もりを感じる地面に冷たい風が吹き込んで辺りを冷やし、私は今年もまたこの世界に帰ってきた事を再確認した。そこからA.Brehmがまるで周囲の自然から音が出ているかのように環境と一体化したテクノセットをプレイし、次第に多くの人がダンスフロアで揺れ始めて、夜は更けていった。気付くと朝の3時を回り、そこからAgonisが唸るような怒涛のライヴを披露して、大きな盛り上がりを見せたが、この日は準備運動と言わんばかりの余裕も多くの人に見られ、2日目からに期待を寄せつつ早めにテントへ戻ることにした。

 

雨がテントを打ち付ける音で2日目は始まった。外に出るのを躊躇っていたら、すぐに弱まったが、その後も1時間ごとに雨が降ったり止んだりするような奇妙な天気であった。それ故かステージに行ってみるとレインコートを着る事なく踊っている人が多く、とても過ごしやすい気温だったので、昼過ぎにしてフロアは既に多くの人で賑わっていた。丁度〈Smoke Machine〉のレジデントであるDiskonnectedが昼過ぎのまだ明るい時間を担当し、普段のようなクラブサウンドで真価を発揮するものではなく、よりオーガニックなサウンドを基調としたテクノで場を温めていた。

 

メインステージから歩いて程ない場所にはバーが設置された木造の小屋があり、その中が“Blue Star Stage”と呼ばれるセカンドステージになっている。こちらは100人程度で満員になるような小さなフロアで、昼にはアンビエントやドローンミュージックの流れる暑さから逃れるチルステージとして利用され、夜には熱気の篭るよりハードなステージの役割を担っていた。この日の夜も、台湾で有数の実力を持つDJのAndy Chiuが、繊細ながらもハードなテクノを披露して、無我夢中で激しく踊りたい人々を魅了していた。

 

2日目の夕方から朝にかけてのメインステージのタイムテーブルには個性的なアーティストが名を連ね、彼らの先導する長い旅路に誰もが期待を寄せ、事実、朝までダンスフロアの人数が減る事は無かった。その日、最初の盛り上がりを見せたのはやはり、常に想像を超えるセットを披露する事で知られるBen UFOがブースに立った時で、まるでその演出を担っているかのように再び雨が降り始めた。そして勿論、彼はそれに応えるようにフロアに特別なグルーブ感を生み出し、クラウドは恵みの雨に感謝するように我を忘れて踊り、ボリウッドの映画音楽であるUdit Narayanの”Saat Samundar Paar”がプレイされた時には、フロアのレベルは1つ上がり、完全な一体感に包まれた。

続くValentino Moraはディープなミニマルテクノを披露して、より内省的な方向へ舵を取り、フロアの興奮をキープしていった。そして、5年前の『Organik』で初めて顔を合わせたVrilとVoiskiの結成したライヴユニット、Vrilskiは感情を揺さぶるように刻々と変化するコズミックなセットを披露した。既に不朽の名曲となりつつあるVosikiの”Megatrance 2″はフロアを完全にロックして、ボルテージの上がり続けるクラウドに対し、徐々にBPMも上がっていった。

 

そして2日目のクロージングを務めたMama Snakeは、多くの人の掛け声によって迎えられた。現行テクノシーンで異彩を放つ彼女の、一世代前のトランスミュージックとハードでマッシヴなテクノを組み合わせるスタイルが、このフェスティバルとどのような化学反応を起こすか注目の的になっていたのだ。そして、それはThe Doorsの”The End”をリミックスした楽曲でJim Morrisonの声が会場に響き渡った事や、90年代後期にリリースされ未だ色褪せる事のないOliveの”You Are Not Alone”が投下された事によって、このフェスティバルの新しい側面を引き出す事を成功させてみせた。全ての人がノスタルジーに浸る時間帯を作り上げ、彼女がいかにして世界的な評価を得ているのか人々の脳裏に強烈に焼き付けて証明した。BPMが130を超えた状態で陽の光が見え、トランシーサウンドによってフロアは完全燃焼を遂げた。昨日とは一転、快晴の空に朝日が昇り、続いたChris SSGのBig Room Ambientセットにとっては最高のセッティングで、それぞれが夢のような一夜についての感想を言い合い、思いを馳せていた。私も大きな満足感を得て、一夜の疲れを癒すべく贅沢なBGMと共に眠りについた。

 

3日目の昼、今度はサウナのような湿度と暑さで目が覚めると、砂浜は既に裸足では歩く事ができない程の熱さになっていた。メインステージでは、ベトナムのクラブ「The Observatory 」のレジデントであるHibiya Line がトロピカルなテクノを披露していて、南国のスローな時間が流れていた。

 

この日も雨が降ったり止んだりの天気であった為に多少の煩わしさがあり、夜で音が止まる事もあって既に帰途についた人々も多く、前日よりも人が少なくなった印象があるが、夕方からは私も愛して止まない〈Giegling〉ファミリーのMap.acheが、時にクラシックのように美しく、感情を揺さぶるようなテクノをプレイすると、それに続いたスウェーデンからの気鋭Dorisburgがヒプノティックな3時間半のセットで再びフロアのボルテージを最大限にまで押し上げた。そして、魔法のようなこのフェスティバルの締めくくりには、デンマーク出身でレーベル〈Delaphine〉を主宰するS.A.M.が6時間に及ぶクロージングセットを務めた上げた。終始明るい雰囲気を保ったこのミニマルハウスのロングセットは熱帯地域の暑くも涼しくもある夜に最適な音楽で、後半は常に歓声が鳴り止む事はなかった。最後にはアンコールとしてDiskonecctedとのB2Bがあり、2人の才能溢れる息を合わせたプレイによりフロアには感動がもたらされて、多くの人にまた『Organik』の魔法が心に刻まれた。

 

『Organik』は、既に全てのジャンルを把握するのが困難な程に細分化されたエレクトロミュージック・シーンを、東アジアの視点から独自の解釈で統合をする事に挑戦し、毎年そのセレクトで興奮と驚きを届けてくれる。今年もまたテクノミュージックの大きな可能性を感じさせる3日間で、そこにいた全ての人の人生をインスパイアするような異世界を作り出す事に成功していた。重い荷物を担いで台北までの帰路についた時、不思議と疲れや喪失感を感じずに幸福感で溢れていた。前回から今回までの一年間で様々な経験を積めたように、次回までの一年の間にどれだけ成長できているのか、そういった事を考えながら、来年の開催に思いを馳せて鉄道に揺られていた。

 

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