Cover of the Month: Umfang
Text & Interview : Arisa ShirotaSpecial thanks : Shimpei Kaiho (WWW)
2018.11.16
テクノ・フェミニズム
1960年代から数十年間、NYは文化的全盛期と言われていた。1970年代にNYに集まっていた移民たちが、ブレイクビーツを編集して作った音楽を自分たちのパーティーでプレイし、そこに乗せた言詞がラップとなり、ヒップホップが生まれたのである。新しい潮流が次々と生み出されるNYは世界的に見ても特別な場所だった。しかし今では、年々ジェントリフィケーションが進み、LAやカナダやヨーロッパの諸都市へと、刺激を求める若者が流出している。それもそのはず。2010年から2018年の間にNYCの家賃は30%も上昇し、健康保険もあってないようなものだし、アメリカの雇用率は概ね低下の一途を辿る。
しかし、そんなNYに住むことを敢えて選ぶ若者たちがいる。そして彼らは、かつてNYを特別な場所にした若者たちと同じように、そこにしかない、何か新しいものが生まれそうな熱量を追い求めている。インターネットの出現、進化し続けるテクノロジー、収集のつかなくなっている政治状況などを踏まえて環境を考えたとき、現在のアンダーグランドは、過去にあったそれではなく、全く新しい時代を迎えているのかもしれない。UmfangことEmma Burgess-Olsonもまだ見ぬ刺激を追い求め、2010年にカンザスシティからNYへと引っ越した若者のひとりである。
NYでDiscwomanが結成されたのは2014年。Frankie Decaiza Hutchinson、Emma Burgess-Olson(Umfang)、Christine McCharen-Tranの3人によって始まった。2014年と言えば、Emma Watsonが国際連合でフェミニズムについてのスピーチ『#HeforShe』を披露した年であり、フェミニストで人権活動家のMalala Yousafzai(マララ・ユスフザイ)がノーベル平和賞を受賞した年でもある。このような、社会的な活動を続ける人たちが、やっとスタートラインに立った時、ブルックリンのヴェニューBossa Nova Civic Clubを基地に、リベラルな若者たちも動き出していた。彼らが後の2017年に、1926年に施行から91年もの間、NYCの“ダンスを取り締まっていた法律”=「NYキャバレー法」を廃止/改正させるきっかけになったのだ。
さて、あなたはもうUmfangとVolvoxによる『Dekmental Festival 2017』でのB2Bセットはチェックしただろうか。テクノの雰囲気をまとったエレクトロとアシッドサウンドを軸にした、エネルギッシュでエイリアンなプレイは、誰しもの鼓動を高めて、感情を突き動かすだけの力感に溢れている。いまNYから世界を席巻しているひとつのムーヴメントの代表として、それでいて軽やかに私たちのハートを鷲掴みにする。そして遂に、東京でも度々その名を耳にした、Discwomanが日本へとやってくる。
2018年11月24日(土)にWWW Xで開催されるパーティー、11月22日の日中に開催される原宿・DOMICILE TOKYOでのポップアップ、11月22日の夜に生放送されるDommuneでのトーク&DJプログラムの3本で構成されるDiscwomanのショーケースを目前に控えるUmfang、Emma Burgess-Olsonに話を訊いた。
ーーあなたはカンザスシティで生まれ育って、その後NYに生活の拠点を移したようですが、あなたが移り住む以前、当時のカンザスシティのパーティーシーンはどうでしたか?
Umfang:カンザスシティには廃墟になったビルがたくさんあったんですが、初めて行ったウェアハウスパーティー(Warehous Party)には感動しました。以前に工場として使われていた大きな廃ビルでのパーティーで、大きなサウンドシステムから音楽が流れていて、見たこともないぐらい大勢の人たちがいて、レイヴファッション/アイテムを身につけた若者たちがいて。それまで目にしたことが無かったことばかりで、衝撃を受けましたね。私が初めてDJをしたのは2009年で、それも私の友達が開催したカンザスシティでのウェアハウスパーティーでした。
ーーカンザスシティで経験したパーティーからはどのような影響を受けましたか?
Umfang:ひとつの街の若者たちを夢中にさせる空間が、たった数人の手によって創り出すことができるということと、取り締まられて閉鎖されることを避け続けるためだけにも、どれほど色々な工夫をしているのかを見て知りました。自分の力や感覚を解き放って、開放的な場所で気持ち良く踊るのとは対照的に、警察による暴力まがいの酷い取り締まりも目の当たりにしましたからね。
ーーあなたは90年代のテクノがお好きなようですが、テクノを聴いている時の感覚や、その魅力を教えてください。
Umfang:90年代前半は、テクノが本当に広く世界に知られるようになった時で、その頃は、皆がまだテクノが意味するものを革新している途中で、それぞれが新しいことを試行していたと思うんですね。現在のように皆がPCで制作をする以前は、まだとてもシンプルに作られていて、アナログ機材を介して圧縮されていて。でもそうやって作られた90年代のテクノには、私がどれだけ感じても足りない程の激しい初期衝動的なエネルギーがあるんです。90年代のテクノのスピードや、使われている音の多様さには心を掴まれますし、私をやる気にさせてくれるんですよ。
ーーあなたのDJプレイを聴いていると、所々で予想だにしていなかった展開があって驚くことがあるんですが、DJをする時に意識していることはありますか?
Umfang:プレイする時の状況と、多少は私がその時にどういう状態かによりますね。私は何か特定のテーマを定めて探しがちなんです。もしくは、気に入ってしばらく聴いてしまうような特定のレーベルやアーティストを見つけ出すことから、私のDJプレイリストができていきます。最近だと、DJ NOBUのセット、90年代の〈Blueprint〉、そしてMax Duleyにかなりインスパイアされました。基本的に私は、自分の聴いたことのないような異質なサウンドや、ずっと興奮していられるようなサウンドに触発されます。本当に面白いDJというのは、そういった様々な音楽や経験から得たインスピレーションを繋ぎ合わせて、遊び心を持って新しい何かを示すことができると思うんです。トランスの形式のように終始一貫したビートが続くスタイルの良さも分かりますが、個人的には、様々な音楽をセットの中に組み込んで、面白い方法でモードを切り替えていくことができるDJを聴くのが好きです。私たち(Discwoman)は、ジャンルを分類しないこととルールを破ることが好きなんですよ。
ーー確かに、ヨーロッパにおける一定のフローが長く続くセットが好まれている状況と比べて、あなたやVolvoxのように近年NYから登場したテクノDJたちはユニークな音で意外性のある展開を作っていく、よりプレイフルな要素を含んでいる印象があります。あなたの意識や好みともリンクしますね。NYの人々がそのようなスタイルのプレイを好む背景には、何か哲学やメンタリティーはあるのでしょうか?
Umfang:NYの人たちはよりプレイに夢中になるために強烈な刺激をたくさん求める傾向にあります。NYにおける人々の多様性と様々な経験ができることは、誰もがNYの魅力であると思っています。なので、例えば、私自身の知識と体験の多くが、NYやニュージャージーからの安いヒップホップのレコードや、あまり有名ではない見過ごされてきたハウスのレコードで培われているように、NYにいる多くの人にとって、多様なスタイルを好むのは自然なことだと思うんです。ヒップホップの曲に使われている風変わりな音などは、面白いものが多くて、一度それを知ったらDJスタイルの全てが拡がり始めると思いますよ。
ーーNYに拠点を移してからは、2012年にBossa Nova Civic Clubでパーティのオーガナイズを始めたんですよね。2012年頃と言えば、NYのロングアイランド発のレーベル〈L.I.E.S.〉が、世界的に注目を集め始めた時期でもあります。その頃のNYのシーンはどのようなものでしたか?
Umfang:〈L.I.E.S.〉は間違いなくNYのシーンの一部でしたね。それまでは目立って盛り上がっているシーンはありませんでしたが、大勢のニューヨーカーたちがどんな音楽を制作していたのかをハッキリと示すプラットフォームが在ることはとても重要でしたし、誰もが〈L.I.E.S.〉を待ち望んでいました。そして、数人のNYのアーティストたちが世界的に活躍するようになった時期には、アンダーグランドシーンではブルックリンのブッシュウィック(Bushwick)で開かれていた違法パーティーに人が集っていて。そこで形成されたコミュニティーでは皆がシンセサイザーやレコードなどについて熱心に会話を交わしていて、実に機能的でしたね。そして、Bossa Nova Civic Clubは私にとってハブのように感じていた場所で、この合法クラブを拠点にして本当に色んなことが起きました。当時は気軽に足を運べるテクノのバーがBossa Nova Civic Club以外に無かったんです。
ーー現在のNYのシーンは、以前と比べてどう変わりましたか?
Umfang:いま私がとても感銘を受けているのは、やっとNYの中で様々なシーンが交差できていると感じることです。例えば、クィアパーティーがテクノDJをブッキングしたり、それまで別のシーンでプレイしていた黒人のDJたちが自分たちでテクノシーンを取り戻したり、テクノのクラブがアンダーグラウンドDJたちをブッキングしていたり。実に多くの教育が行われてきていて、皆はいま、私たちの活動を通じて歴史がどのように変化してきてるのかを話し合えることにワクワクしています。
ーー最近のNYでは、移民をサポートするためのアンダーグラウンドパーティーが開かれているようですが、NYでそのようなパーティーが発生している背景には何があるのですか?
Umfang:いまアメリカでは、政府が移民をターゲットにした様々な劣悪なことが行われているんですね。抗議パーティーを行なったり、コンピレーションを制作するのは、政府がサポートしようとしない人たちを助けるための寄付を募って、意識を高めるための大切な手段なんです。テクノはある種、特別な政治的文化を持った音楽で、私たちはそのことを理解して、その意識を継続していく責任があると思っています。助けられる時には他人を助けて、カウンターカルチャーの本質を守っていく意識は常に持っています。
ーー現在あなたがオーガナイズしている『TechnoFeminism』というパーティについて教えてください。テクノにフェミニズムの概念を合わせる必要性はいつ頃から感じていたのですか?
Umfang:パーティーを初めた頃は、フェミニズムについて意識的に考えて行動をしていた訳ではなくて。ただ、アーティストとして刺激を与えてくれる女性をブッキングするのが良いと思っていただけだったんです。というのも、私の周りのDJやパーティーのオーガナイザーは大半が男性だったから、女性のアーティストをブッキングするということに、ただただワクワクしていたんですよ。音楽制作やDJのことを女性たちと話せること自体が、特別なことのように感じていたんです。だから以前は、外に向けて政治的なことを話すのも苦手で、積極的に発言するのではなくて、女性アーティストをブッキングすることで自分の考えをそれとなく示すだけに留めておきたいと思っていました。でもDiscwomanを始めてから、パーティーの名前を『Technofeminism』にして、その言葉のコンセプトについてしっかりと発言するようにし始めて。いまでは、自分たちの行動が昨今の変化にどのような影響をもたらしたか、積極的に話していく必要性を感じています。
ーーではDiscwomanを結成した経緯について聞かせてください。あなたと一緒にDiscwomanを設立した、Frankie Decaiza HutchinsonとChristine McCharen-Tranとはどのようにして出会ったんですか?
Umfang:Frankieと私はBossa Nova Civic ClubでレギュラーDJをしていたんですよ。ダンスミュージックや政治の話で盛り上がって、すぐに仲良くなりました。ChristineはFrankieの友達で、2人は何度か一緒にイベントをしていたんです。Christineはイベントプロダクションやブランディングに長けていて。Discwomanを始めたのは、そういった自分たちのシーンにいる女性たちにスポットライトを当てて、その才能を称えて、より活躍しやすい環境を作りたかったからなんです。
ーーDiscwomanではブッキングエージェンシーやパーティーオーガナイズ、DJレッスンなど、本当に多角的で柔軟な活動をされていますが、Discwomanというプラットフォームの在り方についてはどのように考えているんですか?
Umfang:Discwomanは、自分たち自身のニーズと所属アーティストのニーズ、そして私たちがいる経済環境によって変わっていっています。まず私たちは、Discwomanに所属しているアーティストたちが成長して、世界のシーンの中で自分たちの音楽を表現することの後押しをしています。そして、それが認められている状況にDiscwoman自体も影響されるんです。パーティーを行うことに関しては、私たちが疲れてしまっているので、以前と比べるとそこまで沢山やっているわけではないですね。でも私がNYにいる時は、DJレッスンを通して音楽の興味や自分の経験を共有するのが好きなので、友人にレコードでのミックスを教えたり、自分の機材を提供したりしています。私たちは常に、何か新しいチャンスがないかや、Discwomanをどういう方向に進めていきたいか、ということを話し合っていますね。
ーーDiscewomanのホームページに掲載されているコレクティヴの紹介文が以前から少しずつ変更されていると思うのですが、結成時から現在にかけて、Discwomanの活動のヴィジョンは変わっていっているということでしょうか?
Umfang:当初は、Discwomanの活動が世界的に競争力のあるエージエンジーやビジネスになることは誰も予測してはいませんでした。今では、私たちがリリースするミックスシリーズでさえ、世界中の人たちがチェックしてくれていて、驚いている部分もあるんです。自分たちの信じることを続けることで、新しい環境やチャンスが開かれるということを身をもって学べるのは素晴らしいことですよ。そして、世界規模のプラットフォームになったからこそ、Discwomanをできるだけ包括的なものにしたいと思ったので、紹介文も私たちが表現しているアイデンティティをより広く解釈できる言葉にしました。
ーー現在のDiscwomanが掲げているヴィジョンはどのようなものなのですか?
Umfang:メンバー個人としての活動が出来るだけ持続するように取り組んでいます。過密なスケジュールをこなしながら成長を続けていくことや、海外を行き来する生活の中での精神面のケアや、所属アーティストをより効率良くサポートしていくためにどうしたら私たちのメソッドを合理的にできるかなどですね。あとは、変化する環境の中で新しいアシスタントやエージェントからサポートを受けてながら、コレクティヴとしてどう成長していけるかなどは常に考えていることです。
ーーDiscwomanに所属しているアーティストたちは、プレイする音楽にしても、それぞれ異なる確固たるスタイルを持っていますよね。でもだからこそ、メンバーがステートメントやメンタリティーへの共感によって、より深く繋がっているのだろうと私は考えているのですが、あなた自身はコレクティヴやコミュニティーを築くのに大切なものは何だと思いますか?
Umfang:活動の仕方は個人によってそれぞれですよね。でも一緒に活動していくには、お互いを根本からよく理解する努力をしていかなければいけないと思っています。私たちは、それぞれの活動における倫理観や正当性への献身、お互いのことを全力で助け合い尊重していく謙虚さを大切にしています。同じ価値観を共有できる人たちと活動できることは、孤独感をあまり感じずに、自分の活動にも肯定的になれますからね。自分の考えに同調してくれる人がいることで、その考えがより影響力のあるステイトメントになるんです。でも、とても親密に仕事をしていると、時には大人になって考えなければいけないこともあります。少しキツい仕事でも最後まで責任を持ってやり遂げられる人たちと一緒に活動したいと思っています。
ーー日本では、軽率な考えや認識から、女性DJが“女性である”というだけの理由でファッションブランドのパーティーにブッキングされることがあります。“女性”や“LGBTQ”というコンセプト自体が消費の対象になっている気がするんです。どうしたら、そういった人たちがアーティストとしてリスペクトを得られると思いますか?
Umfang:この件に関しては、細かく区別をしなければいけないですし、ケースバイケースですね。私たちはお互いの状況に配慮するように務めていて、何かを発信する時に使っている言語が敬虔であるか、活動内容が文化的に価値あるものであるかなど、常に気にかけています。もしメンバーがLGBTQ以外の文化を持った媒体と初めてプロジェクトを進める時などは、特に気を使っています。大企業がレインボーフラッグを掲げているのを見て良い気持ちはしませんが、LGBTQの存在をリアルとしてフェアに認識し、尊重しようとしてくれている姿勢は良いことだと思っています。プライドウィークが終わってから、レインボーフラッグを掲げていた大企業がLGBTQの従業員たちの状況を向上させるために何をしてくれるのかは気になるところですね。
ーーNYでは、クラブを取り締まっていた「キャバレー法」が2017年に廃止/改正されましたよね。一方、日本では最近いくつかのヴェニューが警察によって取り締まられました。キャバレー法が改正されるきっかけになった『Let NYC dance』の活動について教えてください。
Umfang:FankieとBossa Noca Civic ClubのオーナーでるJohnが先陣を切って、『Let NYC dance』の活動を通じて、法律を改正するのに大きく貢献してくれました。レイシズムの思想を含んだとても時代遅れな法律を覆すための、慎重でじっくりと進めたキャンペーンでした。『Let NYC dance』の活動と成果は、NYのような大都市での小規模な活動でも、政治的な変化を起こせるということを証明した素晴らしいものです。たったひとつの法律改正で、クラブへの罰金は大幅に減り、新しい場所をオープンするための障害も無くなって、さらに新しい音楽や人との繋がりが生まれることは喜ぶべきことですよね。
ーー最後に、あなたにとって“レイヴ”とは何か教えてください。
Umfang:レイヴは、何もかも忘れてダンスに没頭できる経験ですね。少しの間、自分自身を普段の思考や生活から解き放つのがポイントで、自分以外の人たちによる安心感の中で、何かを自分自身で経験することだと思います。
End of Interview
WHEREABOUT feat. Discwoman Showcase
w/ Umfang, mobilegirl, DJ Haram
Date: 2018/11/24 (sat)
Venue: WWW X
Open/Start: 23:30
ADV: ¥2300
Door: ¥3000
U23: ¥2000
Early Bird: ¥1800 @RA ※limited 1 week (11/1まで)
Line up:
Umfang
mobilegirl
DJ Haram
DSKE (MOTORPOOL)
MAYURASHKA
More info: WWW X
https://www-shibuya.jp/schedule/009658.php
Discwoman Pop Up Store & Panel Session in Tokyo
Date: 2018/11/22 (Thu)
[ Discwoman Pop Up Store ]
Open-End: 16:00 – 20:00
Place: DOMICILE Harajuku
Umfang (Discwoman / NYC) & Frankie Decaiza Hutchinson (Discwoman / NYC)
[with DJ]
Arisa Shirota
Saskiatokyo
KOTSU (CYK)
Romy Mats (解体新書)
[ Discwoman – Amplify Each Other – ]
21:00 – at DOMMUNE Ebisu
DJ & Panel Session:
Umfang (Discwoman / NYC)
Frankie Decaiza Hutchinson (Discwoman / NYC)
Sapphire Slows
YonYon
Arisa Shirota
Hibiki Mizuno