San Proper
Text & Interview : Kohei
2011.1.31
ラフでドープなテクスチャーを伴ったそのトラック群の数々がたちまちにZipやRicardo VillalobosといったDJたちのハートを捉えたアムステルダム・シーンの異端児、San Proper。2月初旬、田中フミヤのレギュラーパーティー『CHAOS』で初来日を果たす直前の彼にその独自の音楽的ルーツ、アムステルダムという街とシーン、ディスコやファンクからの影響などを中心に話を聞いた。
ーーSan、調子はどう?
San Proper:凄く良い感じだよ! 今はいくつかの新しいリリースやライブへ向けた準備をしているところだよ。もちろん東京と大阪でライブするのも待ちきれないよ!
ーーもともとはファンクバンドのギタリストとして活動しキャリア的にもかなり成功していたそうだけど、ダンスミュージックに転向したきっかけは何だったの?
San Proper:子供の頃から俺の身の回りには常に音楽があって、Sam CookeやOtis Reddingといった偉大なソウルマンたちをはじめ、Professor Longhair、Howlin’ Wolf、The Specials、Peter Tosh、The Stranglers、Les Rita Mitsouko、そしてThe Meters、Funkadelic、Parliamentといったファンクまでいろんな音楽にハマってた。ギターを手にしたのは10歳のときで、それからいろんなバンドでプレイするようになって13歳のときには兄貴が持ってたAtariのコンピューターを使ってドラムパートを作り、TEACの4トラックMTRで多重録音するようになったんだ。いま思えば、この頃からすでに電子楽器には慣れ親しんでいたね。とりわけ、ギターみたいな生楽器のサウンドとエレクトロニックなグルーヴをどう調和させるか、ってことについては当時から凄く興味を持ってたんだ。その後、AKAIのサンプラーS20を手に入れて、TEACやTASCAMなんかのカセットMTRを駆使してレコーディングするのにさらに熱中してね。Marinoっていう俺の友人が初期ヴァージョンのCubaseを教えてくれた頃にはバンドからエレクトロニックミュージックへ興味の対象がすっかり移っていたな。で、サンプラーをE-MUのものにグレードアップしたりしてトラックメイクを続けてたんだけど、5年前にAardvarckが改造したAKAI MPC2000XLを譲ってくれた時はこれぞ理想のマシンだと思ったね。俺が〈Rush Hour〉からリリースした初期作品のほとんどのパートはこのMPCで作られているよ。いわゆるクリーンなサウンドではなく、むしろ荒れたサウンドが特徴なんだけど、そこが凄く気に入っているんだ。
ーー昔からアムステルダムのダンスミュージック・シーンは他のヨーロッパの都市に比べてある種独特なカラーを保ちつつ、非常に豊かな多様性があるよね。San自身の視点から見て、アムステルダムのダンスミュージック・シーンが独自性を保ち続けている理由は何だと思う?
San Proper:知っての通り、アムステルダムは中近代から現在にいたるまで港町として機能してきたからね。膨大な物資が出入りするのと同様に、情報や文化も各方面からいろんなものが流入し続けてきたんだと思う。俺個人の意見としては、そうした港町らしいムードがアムステルダムのサウンドや俺自身が作る音楽にも間違いなく大きく影響していると思う。ジャズ、ディスコ、ヒップホップ、テクノが密接に繋がり合いながらゆるく混ざって行く感じはすごくアムスらしいよね。
ーーSan Properのトラックはテクノやハウスを軸にしながらもダーティなオールド・ディスコの要素、そしておびただしい量のファンクが注ぎ込まれているところがすごく特徴的だと思うんだけど、やっぱりファンクやディスコは大きな影響になっていると思う?
San Proper:もちろん。いろんな音楽が世界中にあふれているけど、結局はひとつの大きなファミリーのようにそれそれが密接に繋がり合ってると思うんだ。たとえば、Larry LevanやRon Hardyといった偉大なDJたちが旧来のディスコのダビーな部分を抽出して、それをミニマルに引き延ばすことでダンスフロアーのクラウドを一種の催眠状態にさせたようにね。彼らが成し遂げた、こうした発明がハウスミュージックの誕生に大きく寄与していることは間違いないよね。
ーーアムステルダムの地元トラックメイカー、Don MelonやTom Tragoといった人たちとよくコラボレートしているけど、彼らとの関係はどんな感じなの?
San Proper:MelonやTomは俺にとっての親友と言ってもいいね。同時に、お互い刺激し合う関係といってもいいかな。俺が新しいトラックを仕上げると、まず彼らに聴かせてフィードバックを探るんだ。同様に、俺も彼らの新しいトラックをいつも聴いてるしね。MelonやTomに加えて、Steven de Pevenも含めた3人はみんな俺の親友だし、1番好きなDJでありアーティスト達だよ。それぞれ異なるバックグラウンドを持っているんだけど、だからこそ活発にコラボしてるんじゃないかな。〈Rush Hour〉からリリースされているTomとAwanto 3というアーティストのコラボ・プロジェクトのAlfabetも凄く良かった。Tomはもうすぐ新しいアルバムもリリースするしね。確か2月にはリリースされるはず。Melonは〈Ratio?Music〉っていうレーベルをやってて、春にはそこから俺自身の新作12インチもリリースされると思う。これには“Shook”や“Buckle Up & Ride”といったトラックが収録される予定だよ。
ーーアムステルダムでやってるSanのパーティ、『The Black Disco Bust』について聞かせてもらえるかな? もともとどういった経緯でパーティがスタートしたの?
San Proper:『The Black Disco Bust』を始めたのは1999年で、当時アムスでは全く知られていなかったアンダーグラウンドなディスコを中心にプレイしてた。単純に俺自身もそういう音楽で踊りたいっていう欲求があったしね。『The Black Disco Bust』でプレイされるようなアンダーグラウンドでオルタナティヴなディスコをアムスに定着させたいって思ってたし、レギュラーでやり続けることでその目的はある程度果たされたんじゃないかな。今は、かつてのようにレギュラーで開催することは止めたんだ。もし今『The Black Disco Bust』をやるんだったら、レギュラーではなく1個のスペシャルなパーティとして、目一杯力を入れたかたちでやりたい。今は自分自身の制作やコラボ、ライブなんかでスケジュールが詰まってて、なかなか時間がとれないところが悩みどころだけどね。それでも同じアムスでのパーティ、『Disco3000』でのレジデントDJは今も続けているよ。
ーー『CHAOS』のフライヤーにはあなたと4匹の猫が一緒に移った写真が使われてたけど、4匹ともあなたが飼ってる猫なの?
San Proper:あの写真はAnne Claire de Breijという写真家に撮ってもらったもので、彼女はオランダでも気鋭の写真家として活動してる。俺の友人でもあるんだ。プロフィール用の写真を撮影してもらう一連の作業の中で、俺が飼ってる4匹の猫を取り入れた写真を撮ってみようというアイデアを彼女が思い付いてさ。仕上がりは見ての通り、良い写真だろ? この4匹の猫は俺が行くところにはどこへでもついてくるんだ。精神的な意味でもね。他人から見れば俺が猫たちを飼ってると思うんだろうけど、実際には猫たちが俺を飼ってるようなもんだよ。間違いなく俺の友達であり家族と言ってもいいね。去年の暮れにDekmantelからリリースした俺のEPには“Pet=Master”っていうタイトルのトラックを入れてるくらいだよ。
ーーあなたのYouTubeチャンネルにはいくつか興味深いクリップがアップされてるけど、これについても聞かせてもらえる? とりわけ“Fan”というクリップは面白い仕上がりだよね。
San Proper:“Fan”のクリップに関して言えば、あれはLilyという映像作家の友人による作品なんだ。彼女の作品に俺が出演して、音楽も提供したってわけ。〈NuEarthKitchen〉っていうレーベルのJon Mcmillionというアーティストの“Saw You Looking/UGotThatLook”ってトラックを俺がリミックスしたものがあるんだけど、このトラックが彼女が作る映像に合ってるんじゃないかなと思って、それを使ってもらったんだ。
ーー今回の『CHAOS』での出演のために初めて日本に行くわけだけど、どんなパフォーマンスになる?
San Proper:完全なSan Properスタイルだね! 新しいトラックやリリースされていないトラックも沢山やるつもりだけど、全体としては俺自身のハウス解釈によるSan Properソウル・ショウだね。ハードウェアもきっちりセットアップして、マイクも用意するつもり。密度の高いフロアーで、ハウスミュージックの霊魂と共にダンスする……って感じかな。まあ、とにかく期待しておいてよ!
ーー今後のリリース予定は?
San Proper:まず直近なところから言うと、〈Perlon〉からの新しいEP 『Cat called Mice』が控えてる。あと〈Ratio? Music〉から『Shook』というEP、〈Studio Soulrock〉から『Groundfloor』というEPもそれぞれリリース予定。今年後半には〈Dekmantel〉や〈Rush Hour〉からもいくつかリリースがあるはずだよ。Tom Tragoと新しいコラボプロジェクトも立ち上げることになっていて、これはThe Dirt Machineという名義でリリースされるはず。これは今までのTomや俺のプロダクションとはひと味違うものになるはずだよ。
ーーじゃあ最後に、日本のファンへメッセージを。
San Proper :イエー。日本での初ライブ、めちゃめちゃ光栄なことだと思ってるし、願わくば多くの人たちに俺のショウを聴いてもらいたいね。
Keep It Raw but Buckle Up & Ride The Strip to the Sexdrive Rhythm of Love, Baby, Love with the Lost Track of Time, that Conquer End Naw House with a Black Burger and a Kinksize Shuffle on the side. TwifTwaf! It Ate My Quarter, Shook. Is this Magnificent Speech Funk, or what? (訳注:彼のリリースしたトラックタイトルを羅列してメッセージ風の文章に見立てたもの)
End of the interview