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Karl Hyde

INTERVIEW

Karl Hyde

  • Text & Interview : Yoshiharu Kobayashi

  • 2013.4.26

  • 9/10
  • 2/1 追加
  • 9/10
  • 2/1 追加

『SonarSound Tokyo 2013』の開催目前に、日本初披露となるソロライヴや、30年以上のキャリアで初のソロアルバム 『Edgeland』 の概要をHigherFrequencyに語ってくれたKarl Hyde。その記事でも予告していた通り、来日時に対面で行ったインタヴュー第2弾を今回はお届けしよう。今回の対話は、アルバムの具体的なインスピレーションや、Underworldの活動との意識の違い、そしてUnderworldに対する彼の想いが一層明確に伝わってくるものになっているはずだ。このテキストを読んで、壮大なダンストラックで大会場を揺るがすUnderworldとはまた違う、『Edgeland』の繊細で美しい世界観の理解を更に深めてもらえればと思う。

 

Karl Hyde

 

ーー『SonarSound Tokyo』でのライヴを観ましたが、何よりステージ上のあなた達がとても楽しそうでしたね。

 

Karl Hyde:僕はこのバンドと一緒にやるのが大好きなんだ。なにしろ、メンバーはみんな本当に良い人達だからね。よくみんな笑うし、雰囲気も凄く良い。もちろんミュージシャンとしても素晴らしいから、演奏を楽しんでいるよ。

 

 

ーーあなたがバンドでやること自体、かなり久しぶりですよね?

 

Karl Hyde:うん。Brian EnoのPure Sceniusっていうプロジェクトでたくさんの人と一緒に演奏するっていうことはしたんだけど、ちゃんとしたバンドとして活動するのは『Dubnobasswithmyheadman』以来だからね。

 

 

ーーPure Sceniusでの経験は、ソロ作品をバンドでオーガニックなサウンドにするというアイデアのヒントになったのですか?

 

Karl Hyde:そうだね、直接的に影響しているよ。Enoは、僕にもっと歌うように、もっと言葉を使って表現するようにって背中を押してくれたし、とにかくシンガーとして前に出ろって言ってくれたんだ。彼とはずっと音楽を制作していて、何時間にも渡るような音源が存在しているんだけど、そういう風に共作するっていう経験も今回のアルバムには影響しているね。

 

 

 

ーーこれまでのUnderworldの作品を振り返っても、ここまであなたのヴォーカルを中心に据え、前面に押し出したものは無かったと思うのですが、そういった意味でも今回のアルバムはチャレンジだったと感じますか?

 

Karl Hyde:それなりにメロディを書くことには自信を持っているから、歌うことに関しては問題じゃなかったんだ。(同じくPure Sceniusに参加していて、今回のアルバムで共作しているギタリストの)Leo Abrahamsが出した音に対して、その場で即興のメロディを歌うっていうのは、それほど難しくなかった。それよりも、むしろ歌詞のほうが苦労したね。言葉で何を伝えたいかっていうことがなかなか見えてこなかったからね。

 

 

ーー自分が歌詞を通して伝えたいことを発見できたきっかけはあったのですか?

 

Karl Hyde:このアルバムのエグゼグティヴ・プロデューサーでもあるSteven Hallと、こういうことを歌っていこうっていう話をしていたんだ。そこで僕らが言っていたのは、Underworldの時と大きくアプローチを変える必要はないっていうこと。けれども、聴いた人が言葉の世界観をより理解しやすいようにしようとは考えた。それに、歌詞の中に自分を置くっていうこともね。Underworldの時は、言葉の断片の後ろに自分が隠れていた。でも、今回は歌詞の世界の真ん中に自分を置いて、こういうことを感じてる、こういうことを考えている、っていうことをしっかり表現しようと決めたんだ。でも、その作業はなかなか大変だったね。

 

 

ーー歌詞を書く上で具体的にインスピレーションになったものはあったんですか?

 

Karl Hyde:これまでと同じなんだけど、旅をしている中で見たものだね。電車の中で、飛行機の中で、あるいはカフェに座っていて見たもの、誰かの会話から耳に入ってきたもの。そういったところからヒントを得るんだけど、今回は都会の中で見たものや聞いたものは取り上げたくなくて、むしろ題材として取り上げたのは都会の外れ、端の方に存在するものなんだ。そういった場所の方が陰鬱だったり、尖がっていたり、ちょっと怖かったりするよね。そういった亜流の世界に身を置い て、ドキドキするような刺激を題材にしたかったんだ。

 

 

ーー今話したもらったことは、都会と田舎の中間を意味するという『Edgeland』というタイトルについての話でもありますよね。僕が興味深いと思ったのは、Underworldの前作『Barking』も、ロンドン郊外の都会と田舎の中間に位置する地名をタイトルにしていたことです。そういった意味で、あなたはいつもそういった場所にインスパイアされてきたとも言えますか?

 

Karl Hyde:確かにバーキングも『Edgeland』の一部であることは間違いない。だけど、あのアルバムの場合は、その場所がアルバム全体の大事なコンセプトになっているというよりも、バーキング特有の風変わりさっていうか、その場所が象徴している雰囲気が大事だったんだ。あとは、英語の表現の「Barking mad」、つまり「狂っている」っていう意味合いだとか、実際に自分が住んでいる場所を指していることだとか、「Barking」=「吠える」ということで “Born Slippy” にも通じるところもあって。そういった言葉の面白さからタイトルに選んだわけで、あの土地から直接凄いインスピレーションを受けたというのとは、ちょっと違うんだ。やっぱりUnderworldは、路地とかから聴こえてくるサウンド、リズム、騒音といった都会の躍動感に刺激を受けて歌詞を書いていたんだよ。郊外に行ってしまうと静か過ぎた。しかも、そこで僕がノートとペンを持ってメモを取っていたら、物凄い目立つだろ(笑)。逆に、都会だと大勢の人が行き来しているから、自分の存在を消すこ とができる。でも、今回は敢えて郊外に行って、そこで肌で感じてみようと思ったんだ。このアルバムには映像も収録されているんだけど、そこではバーキングにも実際行ったんだよ。結構怖いところでね(笑)。普段だったら行かないようなところなんだけど、実際に行ったら素敵な人達との出会いもあって、僕もこれまで知らなかった一面に触れられたし、伝えるべき面白い物語がいっぱいあったと感じたよ。

 

 

ーー『Edgeland』は陰鬱で怖い場所だということですが、僕が歌詞というよりはアルバム全体から感じ取ったのは、切なくロマンティックなムードであり、ささやかな前向きさでした。そのように捉えられることは意外ですか?

 

Karl Hyde:いいや、君の言うとおりだと思うよ。確かに怖いと言われている場所なんだけど、僕にはそこの美しさが見えるんだ。詩的な光景や情感で溢れていると思うし。 例えば、ビニール袋が電線に引っかかってはためいていたりとか、ペットボトルが川に流れついていたりとか、ショッピングカートが置きっぱなしになってい たりとか、片方しかないブーツがその辺りに捨ててあったりとか……僕はそういったものがとても詩的で美しい情景だと感じるんだよ。それって僕が絵を描く時の感覚に通じるものがあるし、錆びついた金属とかを見ても、そこに躍動感や生命力を感じて僕は描いているんだ。

 

 

 

ーーUnderworldとは意識的に違うことをやってみたと。では、こういった捉え方はどうでしょう。Underworldの前作『Barking』は様々なプロデューサーとのコラボ作 で、意識的に外部の血を入れようとしていました。そして、今回のソロではUnderworldとは距離を取った表現をしようとしている。つまり、ここ最近の活動は、Underworldを今後も良い形で続けていくために、いろいろな試みをしているということではないかと。

 

Karl Hyde:全くその通りだよ。なにしろ、Rick Smithとは34年も一緒にやってきているわけだからね。つまりは、自分がUnderworldという牢獄に繋がれていると感じて、「もうこんなものはやってられない!」と言って辞めるか、あるいはちゃんとリフレッシュして、UnderworldやRickのせいで自分のやりたいことができないと思い込まないようにするか、どちらかなんだよ。もちろん、僕はRickやUnderworldのせいになんかしたくない。そのためには、他のこともやるのが重要だと強く感じている。僕はRickに対しても、自分以外のシンガーと音楽を作るべきだと言い続けているしね。でも、やっぱり僕も彼に気を使ってしまって、他のことをやりたいという気持ちがあっても踏み出せないでいたんだ。そんな時に、Enoから一緒に音楽を作ろうと声を掛けられたんだよね。彼は僕が小さい頃からの憧れだから、そんな人からの誘いを断れるわけない。これを断ってしまったら、それこそ、「Rick、お前のせいで僕がやりたいことができなかったじゃないか!」と恨んでいたかもしれない。実際、他の人と仕事をすれば、そこで学んだことをまたUnderworldに持ち込むことができるっていう風に僕は信じている。やっぱり2人だけでやり続けていたら、世界観がどんどん縮小していくばかりだと思うしね。

 

 

ーー現時点までのソロ活動で、もうUnderworldに持ち帰れそうなものは何か見つかりましたか?

 

Karl Hyde:たくさんあるよ。僕としては、Underworldには2つの側面があると思っているんだ。ひとつは、アリーナを埋め尽くすようなビッグなダンスアクト。そしてもうひとつは、みんなが椅子に座っているような劇場で、今回の『Edgeland』に近いような音楽を親密さを大事にしながらプレイするアーティスト。実際、これまでの Underworldのアルバムにも、ダンストラックの間に『Edgeland』みたいな曲は存在していたし、『Dubnobasswithmyheadman』にもそういった曲はあったと思う。だから、そういった面もライヴで追及しながら、ダンスアクトとしても活動する。そういったこともできるんだっていう手応えを今 回のソロ活動で感じているね。

 

 

End of interview

 

 

 

 

Release information

 

karl hyde edgeland

Karl Hyde

『Edgeland』

Release Date : 2013/4/10 (Wed)

Label : Beat Records

Cat No.: BRC-336X(デラックス盤)、BRC-366(通常盤)

Price : ¥2800(デラックス盤)、¥2200(通常盤)

 

Tracklist

1. The Night Slips us Smiling Underneath it’s Dress

2. Your Perfume Was The Best Thing

3. Angel Café

4. Cut Clouds

5. The Boy with the Jigsaw Puzzle Fingers

6. Slummin’ It For The Weekend

7. Shoulda Been A Painter

8. Shadow Boy

9. Sleepless

10. Cascading Light *Japan only Bonus Track

11. Out of Darkness *Japan only Bonus Track

 

[デラックス盤のみ追加収録]

12. Dancing on the Graves of Le Corbusier’s Dreams (Bonus Track)

13. Final Ray of the Sun (Bonus Track)

14. Slummin’ It For The Weekend (Bonus Version Mixed by Brian Eno)

15. Cut Clouds (Figures remix) (Bonus Track)

 

+デラックス盤のみDVD付き

DVD: 約50分の映像作品 (日本語字幕付)

 

More info: http://www.beatink.com/Labels/Underworld/Karl-Hyde/BRC-366/

Pioneer DJ

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