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INTERVIEW

Daniel Avery

  • Text & Interview : Hiromi Matsubara

  • 2018.4.20

  • 9/10
  • 2/1 追加
  • 9/10
  • 2/1 追加

安静から覚醒への流れ、その狭間

DJスケジュールに「All Night Long」という言葉が驚くほど並んでいるのは、Daniel Averyが唯一だろう。2日連続もあれば、3日間の滞在で2回のスケジュールもあって、とにかくそのペースが驚異的なわけだが、衝撃の余韻を通り越しかけている次の瞬間にはもう、性格に合っているんだろうな、という心底の感心と言うべきか無性に温かな気持ちになる。勿論、これほどにオファーが殺到する状況にまで自身を磨き上げたDaniel Averyの誠実さに対してもだ。しかし今やロングセットが彼にとっていかにフラットな行いであるかを、シンプルかつ丁寧に説明してくれたというのが、これからの対話である。

 

DJに関する話題でも、最新アルバム『Song for Alpha』に関する話題でも、彼が口にする言葉は大して変わらない。それは双方を構成するものが今となって彼の中で共通しているからである。最終的には、自己の世界への没入によって分割した愛情が音楽によって纏め、相乗効果を起こし、瞑想状態を遥かに上回る没入の快感へと導くこと。そのためには「エナジー(Energy)」と「フロウ(Flow)」を崩さないことが重要であること。彼が説明に用いる「テクノ(Techno)」と「アンビエント(Ambient)」は、時折、其のジャンル(様式)を言い表しているというよりも、ダンスフロアにおける「ヒプノティック(Hypnotic)」を認識するための共通要素として、より概念的な用いられ方をしているように聞こえる。インタヴュー中、彼がアンビエント・トラックを「Breath(呼吸)」と表現したように、彼のロングセットやプロデュースは、もっと感覚(肌感覚)的で、人間的な生活や心理現象にも結びついているように感じられた。Aphex Twinが切り刻んで魅せた音楽が身体に潜在する覚醒反応と共鳴する現象のように。『Song for Alpha』は、安静時の快感より先にある隙間の無い陶酔感のため。それは真夜中のフロアでも、路上でも、ベッドルームでも起こり得ること。其のための作品である。

 

インタヴューが行われたのは2017年11月22日。『Resident Advisor』のパーティーでCourtesyとのB2Bを披露した、その数時間前。結果的には、思慮が過ぎて探り合った時間を経ての、お互いに昂まった瞬間がずば抜けてエクレクティックだった。細分化と再評価の入り混じる2010年代のエレクトロニックミュージックの大路をDJとして突き進んでいる当事者がふたり。その場で逸早く判断し続けて、即ち直感が冴えた時のチャレンジングなミックスが最高に決まっていた、ふたりとも。ということで、まずはB2Bの話題からです、どうぞ。

 

 

 

 

ーー以前、Roman Flügelとの対話の中で、Danielさんが「最高のBack to Backとは、お互いの情報を共有して、それぞれのソロセットでは生み出せない新しいものを作り出す時(こと)」とお話ししていましたが、その点でこれまでにBack to Backを行なった相手で最も面白かったDJは誰ですか?

 

Daniel Avery:Back to Backの魅力というのは、一緒にプレイする相手によってそれぞれ完全に違う何かが生まれることにあると僕は思っているんだ。だから、いつ誰とやってもいつも新しい感覚を得るし、必ず“同じ”ということは無くて、正直、誰がベストっていうのも無いかな。相手がAndrew Weatherallでも、Erol Alkanでも、Roman Flügelでも、僕にとってはいつもベスト。ロンドンでDJ NOBUとプレイした時も最高だったね。Back to Backをしている時は、いつも早く次の判断をしなければいけないから集中力も必要で、疲れるんだけど、僕にとってはそれがエキサイティングなことでもあるよ。

 

 

ーー今夜Back to Backをする相手であるCourtesyの印象はいかがですか?

 

Daniel Avery:彼女がどういうプレイをするのかは何度か見たことがあるんだけど、とても新しい感じがあって、ジャンルの隙間を素早く移っていきながら、いつも思い切ったことをするなと思う。とても好きなDJのひとりだよ。

 

 

 

 

ーーではBack to Backに臨む際には、あなた自身はどのぐらいの準備を心掛けているんですか?

 

Daniel Avery:僕は自分にできることだけを準備しているよ。他の人と準備することは全く無いね。僕が思うに、自分自身が準備できている方がプレイ中に瞬間的な興奮へと突き動かすと思うし、その方が自分の能力をしっかりと発揮できると思うんだ。誰かとのBack to Back自体に準備をするよりも、変化する状況に対して色々なことができるように自分を準備をしておく必要があると思うね。

 

 

ーーDJにおける綿密な準備やある程度のプランニングをすることと、現場で直感を鋭く働かせていくことは、要素として決して相反するものではありませんが、Back to Backやオールナイトロングセットを頻繁に行なっているあなたの場合はどちらにより重きを置いていますか?

 

Daniel Avery:確かに相反するものではないし、どちらの要素も重要だね。僕はどちらにも等しく重きを置いているかな。付け加えるなら、新しいトラックを探して見つけることも重要だし、僕の好きな作業だよ。

 

 

ーー確かに、あなたはいつも様々なジャンルの新しいトラックをプレイしていて、その幅広さはあなたの大きな特徴だと思うんですが、ジャンルをクロスオーヴァーさせていくと雰囲気を保ち続けるのが難しいと思います。技術的にも精神的にも心掛けていることがあったら教えてください。

 

Daniel Avery:簡単なことではないけど、とても重要なことだと思うよ。異なるジャンルのトラックであっても、全てのトラックをリンクさせていくことは可能だと思うし、やたらに線引きをすることは何の意味をなさないと僕自身は思うようにしてる。精神的な部分が強いね。

 

 

ーー改めて、Roman Flügelとの対話の中で、あなたは最高のBack to Backのことを「自然に物事が起きて、音楽が引き継いでいく、スタジオでの作業のようなもの」と表現していましたが、『Song for Alpha』に関してはB2Bからのフィードバックが反映されている部分はありますか?

 

Daniel Avery:少しだけね。どちらかと言えば、ここ数年やってるオールナイトロングセットのDJの方が影響としては大きいよ。最近は6~7時間、長い時は10時間プレイすることもあるし、Back to Backも大体が6~7時間ぐらいのセットだね。ロングセットでは、ずっとBPMの速いテクノをやるわけにはいかないから、最初はアンビエントかドローンからスタートして、一晩をゆっくりと動いていくようにコントロールしながら、色んなエナジーだったり違うフィーリングを加えて拡張させていくことを心掛けていて。ハイになっている瞬間もあれば、深く潜っているような瞬間もあって、全体を通してまるで催眠にかかってるみたいな雰囲気を作っていくロングセットが、『Song for Alpha』の流れにも反映されていると思うよ。とは言え、ロングセットをやる時に関してもいつもシチュエーションが違って、フロアのオーディエンスや空間の雰囲気次第によって変えていかなきゃいけないし、フロアのエナジーとトラックのエナジーの両方を完全に一致させるためにアンビエントを3時間プレイすることもある。そうすると、目を瞑ってフロアに横になってる人とかが見えたりしてね。時々、速いテクノを求めるオーディエンスが集まる時があるんだけど、そういう時はアンビエントから徐々にテクノに向かっていくように構築していったりもするし、常に異なるフロアを判断していかないといけないんだ。

 

 

 

 

ーー例えばロングセットにおいて、“フロアの雰囲気に多少アップダウンがあっても、DJを通して描きたかったストーリーがオーディエンスに伝わった実感できること”と、“フロアからの要求があなたのイメージとは多少ズレてしまっていてもフロアが長時間埋まり続けていること”だったら、あなたにとってはどちらの方が理想的ですか?

 

Daniel Avery:うーん……面白いね。良い質問だ(笑)。僕の理想は、“オーディエンスがそのDJのためにクラブに来ること”かな。早い時間から来てくれて、ずっとフロアにいてくれて、フィーリングをシェアし続けて、DJの描くストーリーとフロアが一体になることが理想的だと思う。僕からしてみれば、みんなからのリスペクトも、僕のロングセットに期待をして時間をかけて聴いてくれることも、本当に夢のように嬉しいことだよ。

 

 

ーーロングセットに臨むための準備はどのぐらいの時間をかけて、どのように行なっているんですか?

 

Daniel Avery:とても長い時間をかけて準備してるよ。意義ある夜にすることを考えて、エキサイティングなプレイをするためのトラックを見つけなきゃいけないしね。DJは、毎日起こる何かしらと同時進行で準備をしていくと思うんだ。自分の髪を見たり、道中で耳にした音楽だったり、旅をしながら見た景色とか誰かのDJとかにも影響されるし、世界中のどこでもレコードショップに行けばいつも必ず何かを発見するしね。僕にとっては日常が重要で、毎日何か起こることから受けた影響を積み重ねていくことが重要なんだ。

 

 

ーーロングセットに臨む時の必需品とかルーティーンはありますか? 例えば、水をたくさん飲むとか。

 

Daniel Avery:1人でロングセットの時は水をたくさん飲むし、あと必要なのはエナジー補給のバナナかな(笑)。もうひとつ確実なのは、オーディエンスはかなりエナジーになると言うか、いつも僕を助けてくれるよ。僕にとっての最高の夜は、フロアのオーディエンス、ブースのDJ、それぞれの立場が関係無くなるぐらいに空間が一体となった時なんだ。それを感じると、どこまでも続けられそうな気持ちになるね。

 

 

ーー頻繁にロングセットを行うようになってから、見習ったり影響を受けたDJはいますか?

 

Daniel Avery:特定の人はいないけど、強いて言うならAndrew WeatherallとErol Alkanかな。2人ともいつも違うことをやってくれるからね。あと僕はDJ NOBUみたいな、“どんなトラックをかけていても、何故かいつもその人がプレイしていることがわかる”みたいなスタイルのDJも好きだよ。

 

 

ーーちなみに、実際のところの、あなた自身が思うベストなプレイ時間は何時間ですか?

 

Daniel Avery:そうだな~、でも毎週10時間やるのは無理だな(笑)。でも、クラブのオープンからクローズまではプレイしたいと思ってる。と言うのは、誰もいないフロアに向けて最初のレコードをかけてから、次第にお客さんが入ってきて、最終的には最高潮にまで持っていくことが僕のベストだと思うから。例えそれに何時間かかってもね。だから時間じゃないね(笑)。

 

 

 

 

ーーでは『Song for Alpha』のことも詳しく訊かせてください。ここ最近は限定プレスのリリースのみだったので、レーベルからのリリースは3~4年ぶりになるわけですが、前のアルバムから期間が空いたのは、やはりDJのスケジュールが忙しかったからですか?

 

Daniel Avery:いくつか理由はあるんだけど、DJとしてのスケジュールはそのうちのひとつだね。色んなところをツアーしてプレイしたし、これまで以上に本当に忙しかったよ。もうひとつの理由としては、ずっと制作し続けてはいたし、トラックもたくさん作ったんだけど、アルバムにすることに関してピンとくる感覚がしばらく全く無なかったんだ。でも1年前ぐらいに、ふとトラックたちに繋がりを感じて全てをまとめられそうな気がして、それから作業をしていったら一気にまとまって、『Song for Alpha』になったんだ。

 

 

ーー『Song for Alpha』は、以前よりもよりダークで、どこかインナーな雰囲気を感じたのですが、実際にあなた自身もそういう傾向にあったんですか?

 

Daniel Avery:確かにダークでインナーだね。それは間違いない。僕もパーソナルな作品になったと思ってるよ。急ぐことなく時間をかけて自分の世界を作っていって、さらにその自分よりも遥かに大きなもの中に迷い込むように作業を進めていったから、それがダークさに繋がっているんじゃないかと思うよ。

 

 

ーーダンスミュージックのプロデューサーには、長いキャリアでシングルやEPを多く作っていてもアルバムをリリースしていない人が数多くいますが、その中でもあなたはアルバムとしてまとめて完成させることに時間を費やしたわけですが、アルバムという形式へのこだわりや、あなたのそのスタイルにはどういう意図があるのでしょうか?

 

Daniel Avery:“アルバム”は僕にとって間違いなく重要だね。若い時から“アルバム”を通じて新しい音楽を発見してきたし、それは今も変わらない。僕の場合、アルバムにするとしたらテクノ以外の作品にしたいと思っていたんだ。厳密に言うと、テクノはアルバムを構成するパーツの一部で、アンビエントとかスローなエレクトロニカとか、もっと他の色々な要素を入れて、トラック同士が作用し合うような密度の高いひとつの作品にしたいとずっと考えていたんだ。それこそ、全体を通してまるでロングセットのようにね。僕は個人的にシングルを聴いているだけでは満足できないと思っている人だから、“アルバム”を作ることを続けないといけないなと思っているよ。

 

 

ーー確かに、アンビエント・テイストのトラックがそこまで長くないのがまるでロングセットのようですね。次の展開に推し進めるインタルードのような役割も強く感じられますし。“TBW17”と“Sensation”とか、“Diminuendo”のあととかもそうですね。

 

Daniel Avery:トラックリストを完成させるには本当長い時間を費やしたよ。聴いている間にエナジーの流れを崩さないようにということを意識して構成したし、そのためには長過ぎない方が良いと思ったんだ。逆に短いとしてもこのアルバムにとっては非常に大切な部分で、単純にブレークをしているのではなくて、それまでに蓄積してきたエナジーを次に流していくためのトラックにしている。息継ぎをするような感覚だね。

 

 

 

 

ーー“アルバム”を作るという点においては、Alessandro Cortiniと一緒にスタジオに入った経験もそれなりに影響があったのではないですか?

(※Alessandro Cortiniは、Nine Inch Nailsのライヴ/レコーディングに参加したマルチインストゥルメンタリストで、シンセマニアでも知られる)

 

Daniel Avery:『Song for Alpha』ができるまでに2つポイントがあって、そのひとつはCortiniと一緒にスタジオに入ったことだった。完全にアンビエントの音を作ることに徹底していたから、このアルバムのそういうサイドに影響をもたらしてくれたのは確かだね。もうひとつは何かと言うと、『DJ-Kicks』を作ったことだった。『DJ-Kicks』では直球的なテクノを徹底していったから、大きな影響としてはアンビエントとは真逆のサイドにあって。この2つの作業やその後のアイディアをミックスして完成のが『Song for Alpha』で、どちらも全く違う道のりだったんだけど、どちらも重要だと思っているよ。

 

 

ーー『Song for Alpha』は、Daniel AveryのDJとしての面とプロデューサーとしての面を結ぶ作品にもなっていると思うんですが、あなた自身はこの2つの面の理想的なバランスについてどのように考えているんですか?

 

Daniel Avery:DJを始めたのが今から14年前で、前作の『Drone Logic』が出たのが4年前で、それまでの間は”僕はDJだ”と思っていたんだけど、トラックの制作作業が全て終わった時に“もう違うな”と感じて、そしたら何もかもが変わったんだ。その後にDJとしてツアーをしたけど、全ての経験がプロデューサーとしての自分に反映されていくように感じた。そして、いまはプロデューサーもDJも自分の中でイコールに感じられるんだ。エキサイティングだったパーティーが自分の制作に直に反映されていくのが分かるからね。『Drone Logic』で本当に変わったと思うよ。プロデュースをすることがいかに重要かも分かったしね。

 

 

End of interview

 

 

 

 

『Song For Alpha』

Daniel Avery

 

Release date: 2018/4/6

Label: Phantasy / Hostess

Cat no.: HSE-4458

Price (JP version): ¥2,400円+tax

(※ボーナストラック1曲 & ライナーノーツ(河村祐介)付)

Digital version: http://smarturl.it/htumhk

 

Tracklist:

1. First Light

2. Stereo L

3. Projector

4. TBW17

5. Sensation

6. Citizen // Nowhere

7. Clear

8. Diminuendo

9. Days From Now

10. Embers

11. Slow Fade

12. Glitter

13. Endnote

14. Quick Eternity

15. Aginah(日本盤ボーナストラック)

 

More info:  http://hostess.co.jp/releases/2018/04/HSE-4458.html

Pioneer DJ

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