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Yutaka Asada x Yuji Murai Interview

  • Interview : Hiromi Matsubara

  • 2018.4.25

  • 9/10
  • 2/1 追加
  • 9/10
  • 2/1 追加

ダンスミュージックを知り、快適に遊べる音響空間をつくる

Pioneer Pro Audioが国内でのサウンドシステム事業を本格的に展開し始めた2015年から、HigherFrequencyではレポートや企画担当者へのインタヴューを行い動向を追い続けてきた。始動から僅か数年のうちに、国内の様々なダンスミュージックのフェスティバルやクラブイベントへの継続的な協賛を行うようになり、都内ではCircus Tokyo、大阪ではALZARといった音に強いこだわりを持ったクラブにXY Seriesがフル・インストールされたことを皮切りに、北は北海道から南は沖縄までの15都道府県内に50を超える店舗に導入され、今もなお急速にその評判と知名度を高めている。そして今年はその更なる発展をレポートすべく、『Pioneer Pro Audio Japan Tour』と銘打ち、Pioneer Pro Audioのサウンドシステムが使用された各地のフェスティバルとイベントに同行して取材を敢行。

 

本インタヴューでは、Pioneer Pro AudioのフラッグシップモデルGS-WAVE Seriesを始め、2017年9月に正式発表された最新モデルXY-3Bなどがインストールされた全国各地のフェスティバルやイベントなど、現場の多くを知るお二人にご登場いただき、1年間の活動から展望までをお話しいただいた。

まずは、フェスティバルやイベントの現場において、システムの設置から本番中の微調整に至るまで、音響を通じてその土地に最適な空間をプロデュースしてきたPAエンジニアの浅田泰。2017年は、日本のクラブシーン/ダンスミュージックフェスティバルを黎明期から知る浅田氏が自らオーガナイズも手掛け、様々なシチュエーションで20年以上開催されてきた『LIFE FORCE』でも、Pioneer Pro AudioのXY Seriesを使用し、最早その信頼関係は深い。Pioneer Pro Audioのサウンドシステムを熟知するPAエンジニアと一人と言えるだろう。そして、最新モデルXY-3Bの生みの親であり、育ての親でもある、Pioneer DJ Pro Audioの企画担当者の村井佑史。Pioneer Pro Audio本格展開から毎年、日本全国にサウンドシステムを運ぶだけでなく、時には海外のクラブなどで自社サウンドシステムのインストールにも携わり、音響を通じてダンスミュージックシーン/カルチャーの発展に情熱を注ぎ続けている。

 

プロフェッショナルなお二人の対談はマニアックかもしれないが、クラブとは全く異なる環境下で存分に音楽を楽しむための音響空間をつくる工夫や、本番に至るまでの工程を少しでも知っていただき、フェスティバルに行った際にはサウンドシステムにも注目をしていただければ幸いだ。

 

 

 

 

ーーではまず、村井さんにPioneer Pro Audioとしての2017年を振り返っていただいて、そこからお話を進めさせていただきたいと思います。

 

村井:はい。Pioneer Pro Audioとしては、2015年からダンスミュージックをメインとするフェスティバルに対して、イベントの成功に向けて協賛するという形で弊社のサウンドシステムをお使いいただいて、またフェスティバルに来場していただいた方には「素晴らしい音の体験を提供する」ということを心掛けてきました。そして、私たちにとっては自社の商品を多くの人に認知していただくと共に、今は何が足りていて何が足りていないのかを把握して、今後のビジネス展開に反映していこうということで私自身も現場に出ています。
今年はフラッグシップモデルの「GS-WAVE」に関しては、『Rainbow Disco Club』のRed Bull Music Academyステージと、浅田さんとご一緒した『Body&SOUL』の合計2回、現場で稼働させました。

 

 

ーーちなみにお二人は、今年はどのフェスティバル/イベントでご一緒されたんですか?

 

村井:浅田さんと現場でご一緒したイベントは、今年は『Re:birth』と『Body&SOUL』ですね。あと、ほんの一瞬でしたが『rural』もですかね。

 

浅田:あとはこの間の『LIFE FORCE』ですね。でも今年、二人でみっちり関わっていたのは『Body&SOUL』でしたね。

 

村井:『Body&SOUL』では、国内のダンスミュージックのフェスティバルとしては初めてGS-WAVEを4スタックで稼働させるという、いわゆる理想の本数とセッティングでの現場稼働を実現させました。私としても屋外でGS-WAVEを4スタック稼働させるというのは初めての体験だったので、システムのプランニングや配置に関しては、浅田さんと綿密な打ち合わせとシミュレーションを重ねてから当日を迎えました。昨年『Body&SOUL』の会場だった晴海埠頭客船ターミナルはメインステージの対面側が壁になっていたので、奥行き方向には制限がある中での空間作りだったんですが、今年の『Body&SOUL』のお台場特設会場はそういった壁が周囲に一切無いほぼほぼオープンな状態になっていまして、その中でどのようにしてダンスフロアさながらの空間を会場内に作り上げるかという部分で、4スタックのGS-WAVEの配置を検討していきました。実際の配置に関しては浅田さんの立案で、フロントに関しては少し間口を狭めに、リアに関しては少し間口を広めにすることで、前と後ろの密度を少し変えるような形でフロアを構成しました。

 

 

Body&SOUL 2017

 

 

ーー僕も実際に今年の『Body&SOUL』の現場を拝見したのですが、4スタックのGS-WAVEで囲って作っていたフロアの形/サイズはあの時の大きさがベストなんですか?

 

浅田:実は今年のお台場特設会場は初めてではなくて、晴海客船ターミナル以前にも『Body&SOUL』はあの会場でやっていたんです。晴海に比べて面積が結構広いので、その中にフロアをどういう風に置こうかという形で考えていきました。GS-WAVEを使うことに関しては去年と今年の2回目で、なおかつ4スタックは初めてだったので、能力的にどうなるのかはよく分からなかったんです。結果的に反省の弁にはなりますが、ちょっと広げ過ぎたかも知れないと思いました(笑)。
そしてまず、4つのスタックを正方形に置くという事は最初から考えていなかったんです。それは主に、低音のキャンセリングのポイントの出現場所をコントロールする為であったり、フロア全体にわたる滑らかなグラデーション的な音量/音圧の変化という部分が目的でした。そのために正面には割と集中していて、後方には割と広がっているという配置にしていて、こうした配置に関しては20年ぐらい前から僕はほとんど野外でのサウンドシステム構築はそうしているんです。小さいサウンドシステムであればフロアを小さくしますし、会場の制限もありますからフロアのサイズについては自由なんですけど、各スタックの位置関係は可能な限り同じようにします。とは言えGS-WAVEはかなり大型のシステムなので、最初の4スタックの試みとしては少し広めにしてしまったというのがあると思います。来年は今年よりも少し狭めるということを考えています。

 

村井:やはりステージの前の方がお客さんが真ん中に集まって、後ろの方に行けば行くほどお客さんが左右に分散していくので、扇状にフロアを作るというイメージなんでしょうか?

 

浅田:そうですね、箱の中であればおよそ四角い壁で仕切られた空間ですが、多くの野外フェス会場は広い解放空間で、その中にどの様な形のフロアが構成されるかは、音響システムのサービスエリアに左右される部分が大きい訳です。そしてこれは長い間やってきてよくわかったんですけど、お客さんの耳や音の好みは全員違うんですね。低音がもの凄く好きな人で耳が痛くなる寸前までの音圧を求める人もいれば、それが嫌な人もいます、高い音が無いと寂しいと感じる人もいて、要するに例えば低音マニアと高音マニアでは全く別の音色が好きなんです。その事実をふまえると僕の立場的には、音の好みが異なるタイプの人でも満足できる様な音場にするべきだと思ってるんです。それは皆さん同じお金を払って来ているわけですから、同じだけの満足感を得て帰っていただきたいので。ただいずれにせよ、しょぼい音は聴きたくないわけですから、それなりにしっかりした音を聴かせたいんですけど(笑)。ある程度音色にムラができること、その音場の中の立ち位置によって音質が微妙に変化することに関しては、僕は必ずしも否定的には考えていなくて。それが効果的であるかどうかは検証する必要があるんですけど、音質の緩やかな変化が満遍なくお客さんの好みにマッチすれば良いだろうと思っているんです。そういう意味で言うと、今年の『Body&SOUL』は、お客さんの好みに対してわずかに音の密度が希薄になってしまった傾向があるかも知れないと思っているんです。位置関係は変えずに4つのスタックをもう少し近づけることで、そうしたエネルギー感に対しても丁度良くすることができるのではないかと思っているんです。

 

 

村井:音場作りのポイントで、全てを100点にするのは物理的に不可能なところを、「何パターンかの人の耳に合わせて場所ごとに音を作っていく」ということは、浅田さんと現場でご一緒してお仕事をさせていただいた中で勉強になったことでした。フロアの前の方にいる人は、視覚と合わせて感情的に音を身体で受け止めている人が多いんですね。

 

浅田:強い刺激が好きな人ということですね。視覚的な刺激は印象に強いですから、それと比べると後ろに引いている人はより客観的に見ているということですね。

 

村井:後方に行くほど、耳だけじゃないところに意識を分散してフロアを見ているという方が多いんです。例えば、腕組みをしながら様子を見ている人って、どちらかというとフロアの後方にいますよね。あとは隣の人と話をする人だとか、音を聴くだけじゃない楽しみ方を持っている方がフロアの後方には多いと思うんですね。そういったところにも必ずしも爆音が必要なわけではなくて、フロアの後方にはフロアの後方なりの満足度の高い音の鳴り方がある、ということなんです。これは今年の『Body&SOUL』での音場の作り方もそうですし、いつも浅田さんの現場に行くと、同じ音楽を聴いているのにポジションによって異なる楽しみ方がいくつも用意されていて、そういう音場の作り方はとても勉強になりますね。

 

浅田:それと同時に、フロアの面積を有効に使うという結果にもなります。これは特に4スタックで囲んだ場合に顕著な事なんですが、もし全体を同じ音で仕上げる事が出来たとしても、実際には中央部が突出してしまい、多くの人たちが中央部に集中してしまって、凄く混雑した部分と凄く空いている部分ができてしまう結果になります。それを微妙に分散させることに成功すると、本当に程良い感じにフロア全体に人が広がっていってくれるんです。

 

やっぱりダンスミュージックのイベントの場合、極端にフロアが過密な状態は良くないと思うんですね。特に『LIFE FORCE』での経験でよく言われているんですけど、過密な状態だと「手がぶつかってしまって踊れない」等のクレームが来るんです(笑)。逆にライヴハウスのバンドイベントのように上下に跳ねてるだけで良いような縦ノリの現場であれば、1平米に4~5人は入っても大丈夫だと思うんですね。もしろ窮屈な中で暴れての接触を楽しんでると言いますか(笑)。しかし特に踊ることが好きな人が多い現場ではフロアの過密度は重要な要素で、1人で音に浸って踊りたい人にとっては手がぶつかってしまうと興が削がれてしまうわけなので、人がフロアに満遍なく散らばれるように音場を作らなければいけないんです。またそうかと言って、がら空きのエリアが存在するのも興が削がれるものです。そこで人によって音の好みが違うという部分を逆に僕は利用させていただいてる、ということなのです。

 

 

 

ーーダンスミュージックのイベントに来るお客さんは踊っている時のスペースの使い方も本当に様々ですしね。

 

村井:特に『Body&SOUL』の場合は、その名の通り、身体を使ってステップをちゃんと踏んで踊るのが好きな人の割合が高いと思うので、見ていると、周囲を察知してフロアの中に自分のスペースの確保をするのが上手な人が多いなと思いましたね。どんなに盛り上がっても一部分に人が集中しているというのは見掛けなくて、常にフロアの前方から真ん中までは良い塩梅の入り具合がキープできていたのではないかと思います。

 

浅田:もしもフロアの一部だけに人が集まって、他が閑散としていると、僕は不安になって調整に走るんですよ(笑)。

 

村井:やはり浅田さんは、ずっとコンソールミキサーやコンプレッサーやプロセッサーをオペレーションしているだけじゃなくて、時間を見ながら、大きな変化があった時に必ずPAブースを出てフロアを歩いてらっしゃるんですね。それもひとつの場所だけじゃなくて、縦にも横にも移動しながら音場の確認をして、またブースに戻って来て調整をされていて。その姿を見ると、楽しみ方を知っている人のオペレーションをしっかりされてるなといつも感じますし、本当に勉強になります。

 

 

ーーそもそも『Body&SOUL』でGS-WAVEを使うようになったきっかけは何だったんですか?

 

村井:『Body&SOUL』は浅田さんがご提案いただいたんですよね?

 

浅田:そうですね。『Body&Soul』の場合、およそ半年前に僕が何を使うか考えて決めて、オーガナイザーからもオーケーをもらって、ニューヨークともやり取りをしてもらって、という流れで決まって行きます。場合によってはニューヨークからNGが来て再考しなければならない時もあります。

 

村井:今となってはですけど、GS-WAVEを屋外で使いたいという話を最初に聞いた時は本当にびっくりしたんですよ(笑)。

 

浅田:去年の一月末ぐらいにパイオニアさんに打診したのですが、しばらく返事がいただけなくて、ちょっとやきもきしましたね(笑)。理由は室内向けに作られた製品で耐水性がなく悪天候を心配されていました。そのためトラスで屋根をかけ、さらに万一の場合に備えて機材保険をかけたうえでスピーカーを手配してもらっています。

 

村井:その辺りはメーカーの気質があるかもしれないんですけど、メーカーの方から未体験のところにチャレンジしたいからという理由で一歩踏み出してしまって、興行の方に迷惑をかけてしまうのは絶対避けなければいけないと思うところがあるんですね。あくまでオーガナイザーさんと音響の方が納得のいく形でPioneer Pro Audioのスピーカーを使いたいという場合はご協力したいんですが、弊社の方から「これが新商品です」とゴリ押しするのは避けたいんです。ただ最初に『Body&SOUL』から屋外でGS-WAVEを使いたいというお話をいただいた時は、当然自分たちも屋外で使ったことがなかったので、耐えることができるのかという不安があったんですけど、結果的にはある程度そういうチャレンジをしていかないと商品の実力を自分たちでも分からずに手配をし続けることになってしまいますし、それは良くないので、お声掛けに応えるな形で使っていただけて本当に良かったなと思います。

 

浅田:コンセプトとしては、もともとGS-WAVEがニューヨークのオリジナルのスタイルを全くそのまま再現してるので、『Body&SOUL』に絶対に合わないはずはないと僕は考えていたんですね。それ以前はD&BのJシリーズと言う強力なシステムを使っていたのですが、機材のMaximumな能力的なものに関して言えば補強の手立ては色々あると踏んでいたので、以前使っていたスピーカーよりも3人のニューヨークスタイルに合うものをと思ってGS-WAVEを選びました。案の定「このスピーカーの値段はいくらぐらいするんだ?」などと言ってきて、彼らも興味を惹かれたようで、とても喜んでいました(笑)。

 

村井:GS-WAVEの「GS」はGary Stewartの頭文字で、今はもう亡くなられてしまったんですが、ニューヨークを中心に幾つものクラブにサウンドシステムを提供してきた偉大な方なので、その方の魂も現場に持って行って鳴らしているというのは本当に感慨深かったですね。実は、Gary Stewartの遺品と言いますか、パワーディストリビューターの試作品を持っていまして。現場で使っている訳ではないんですけど、『Body&SOUL』時のアンプラックにマウントして、「Gary Stewartの意志も魂もここにある」ということを感じながら現場でオペレーションしてました。

 

 

 

 

ーーそんな素敵な裏話があったんですね! 今年の『Body&SOUL』のお台場特設会場は、地面が道路のようなコンクリートになっていて、少し離れてはいましたが周りにいくつか大きな建物があり、一方でそばには海もありました。いわゆる山地に音場を構築する際とは状況も条件も異なるように思うんですが、『Body&SOUL』のような都市型の現場では周囲からの影響による音響の変化としてはどういったことが想定されるんですか?

 

村井:今年の『Body&SOUL』の日に関しては、風はそんなに無かったですよね? 山だと風が強いと音が流れるというような話もあるんですけど、あの会場に関してはそれほど強い風の流れを感じなかったと思います。

 

浅田:あの日は風の影響を受けた覚えはないですね。でもあの会場は海岸沿いなので風が吹く時は吹きますね。

 

村井:そういう意味では天候に凄く恵まれていたと思いますね。湿気の多い日だと広域の飛び方に影響があって、どうしても中高域が籠りがちになってしまうといいますか、天気の見た目通りの曇った音の印象になってしまうんです。あの日は非常にカラッと空も晴れていたので、天候と浅田さんのオペレーションが相まって、爽快感と開放感のある音が鳴っていたのではないかと思います。
あと、今年はその開放感を演出するのに、GS-WAVEのトゥイーターポッド(WAV-TWPOD)をトラスの部分に4点吊っていて、最後の最後まで細かい調整を続けていたんですが、天井の無いところでも頭上に空 間を感じさせるような音を鳴らすことができまして、屋外なのに屋外じゃないような空間の音を提供できたのではないかと思います。

 

 

 

ーーサウンドシステムを設置する地面に関しては、コンクリートと土とでは差はあるんですか?

 

浅田:人がいない時には地面の影響は大いにあります。人が入ってしまうとほとんど地面からの影響は無くなります。地面は音を反射するんですけど、主に低域の反射ですね。低域がスピーカーから直線で自分に達する部分と、反射してくる部分との距離差があるんですけど、距離差の分だけ音がズレるんですね。ズレるということは、ズレ方によっては打ち消し合ったり強め合ったりするので、位置と距離感によって違うんですね。スピーカーとの距離と高さも影響するので一定のものではないんですが、大体は低音の音圧が上昇します。人が増えてくればフロアが覆われてしまうので、それほど関係無くなってしまいます。人間の身体自体はとても吸音性が高いので、フロアで吸音材が踊っていると思えば良いかな(笑)。

 

村井:例えば、GS-WAVEをクラブで設置するとなると床の振動でエネルギーを取られてしまって、そのエネルギーは音楽には含まれない雑音としての低音で音に混じってきてしまう部分があるんですが、そういう意味では『Body&SOUL』の会場ではその様な影響も無くて、コンクリートの地面も非常にしっかりしていたので、低域が地面を滑るように前出てくれたという印象はありますね。低域に余計な付帯音もあまり無かったと思いますし。同じようにGS-WAVEを使った『Rainbow Disco Club』のRed Bull Music Academyステージは体育館でやっているので、前の方に行くとパワー感はあるんですけど、後方につれてどうしても床の方に取られてしまうエネルギーがあって。

 

浅田:床に取られたエネルギーは、床が歪んでからの時間差で身体に直接伝わるんですよ。足の裏がくすぐったい感じですね。

 

村井:なので、『Body&SOUL』の時の方が屋外で音が広がって遠くに飛ばないと思いきや、実際はちゃんと床面を滑ってくれた印象があって、逆に『Rainbow Disco Club』のRed Bull Music Academyステージの時の方が、どうしても床によるエネルギーのロスで後ろの方まで低域が飛んできてくれなかったんですね。そういう部分の違いは大きいと思います。ですが、『Rainbow Disco Club』のRed Bull Music Academyステージの音響は今年で3回目だったので、今年はリアに設置したサブウーファーからの低域のレベルをあらかじめ強く出して、低域の量感の減衰を後ろから出すことで前の人と後ろの人との差を極力近づけるようにしていました。でも先ほど浅田さんが仰っていたように、後ろの方にかけて徐々にレベルが下がっていくようにはコントロールしていたんですけどね。『Body&SOUL』の方に話を戻すと、低域に関しては、左右にスピーカーを置いた際の2つのスピーカーの距離差でキャンセレーションの帯がフロアの真ん中から両脇に出てしまうんですね。それは屋外の方が顕著に出てしまうんですね。

 

 

Rainbow Disco Club 2017  Red Bull Music Academy / Photo: jiroken

 

 

浅田:去年の会場と比べて今年の会場は建物の反射が無いので。反射があるとそれを埋めてくれるんですけどね。

 

村井:『Body&SOUL』の時は去年も今年も、実はセンターにこちらのホーンローデッド・サブウーファー(XY-218HS)をキャンセルを埋めるためのセンターサブとして中央に置いていて。2点のGS-WAVEで生じるキャンセルを埋めるようなことをやっています。『Rainbow Disco Club』だとステージ向かって左側に壁があるので、左右のスピーカーによるキャンセルを反射で良い具合にごまかしてくれていて、センターサブを置かなくて済んでいるんです。こればかりはシミュレーションやっても、特に屋内だと実際にはどれぐらい反射を抑えてくれるのかが現場で稼働してみないと分からないので、屋内と屋外ではそれぞれ生じる課題も違っていて、それによる対処方法も違うということです。

 

浅田:そうですね。一口に反射と言っても、例えばこの会議室の壁と体育館の壁では性質が全く違います、一定の条件を入れてシミュレーションをしたとしても現場でかならずしも反映することができないんですね。実際にある程度のシミュレーションの予備知識を持った上で現場に入って、実際に音を出してみないと何が問題か分からない事が多いのです。現場で起こった問題に対して、対処療法的に何かを施していくというオペレーションのやり方になりますね。屋内では共震や反射に悩まされて、屋外では地形の問題もありますし、解放空間ではとにかく音が抜けていってしまうのでパワーの問題があります。そしてあとは苦情問題。これは日本では山でも海でもどこでも人が住んでいるもんだから苦情問題はどうしても起こりますね(笑)。

 

 

 

 

ーーある程度のシミュレーションと予備知識に基づいて準備をした場合、メインで稼働させるサウンドシステム以外にもオプション的なスピーカーやウーファーを控えておくことも大事になってくるということですよね。昨年の『Rainbow Disco Club』で、村井さんが途中でリアにウーファーを足していたのを覚えています。

 

村井:そうですね。最近は特にまず最初に間口が何メートルかということを確認して、フロントから後ろに向けての低域の鳴らし方で左右方向にムラができないようにしようという手法は、現場で勉強しながらではありますが、心掛けています。間口を確認して、ある程度キャンセルを想定して、それに対処できる方法もバックアップで用意するであるとか、そういったことも含めて準備してからイベントに挑むようにしています。

 

例えば、つい先日に日本科学未来館で行なった『MUTEK.JP』は、間口が20メートルを超えていたので、確実にフロアの左右方向の中央から両脇の部分にキャンセルが出ることがあらかじめ分かっていたので、サブウーファーを横一列に10台並べていました。横並びにはしていたんですが、両脇に行くほどディレイを持たせて、中央よりも両脇に行くほどサブウーファーが少し後ろに置いているように感じられる、音の出し方の細かい調整をしました。これは「ビームフォーミング」という手法なんですけど、ただ横一列に並べて、入力した音を一斉に鳴らしてしまうと、中央だけが非常に強くなってしまって、両脇の部分が薄くなってしまうというのを分散させるための手法です。Pioneer Pro Audioでご協力するイベントの規模が段々と大きくなるにつれて、そういった手法にもトライしていってます。
元々クラブを中心にと思って最初は活動していたんですが(笑)、幸いなことに色んな種類とか様々な規模のイベントのオーガナイザーさん/プロモーターさんからご要望いただくことになりまして。私の勉強がまだ追いついていない部分もありますが……。

 

浅田:いや、村井さんは凄いスピードで成長してますよ。もう私達音響屋に十分比肩するだけの能力をお持ちですよ。

 

 

ーー2015年のPioneer Pro AudioとGS-WAVEの本格始動の際にも、村井さんにはGonnoさんとの対談形式でお話を伺わせていただきましたが、当時に展望を伺った際は「屋内の現場を強化していきたい」と仰っていたと思うんです。でも年々、フェスティバルや、クラブ以外の大中規模のイベントの現場をサポートされていて、個人的に少し驚いている部分はあったんですよ(笑)。

 

村井:確かにそうですね(笑)。でもそれには理由があって、一つは「DJがプレイする現場が多様化している」ということが確実にあると思うんです。Pioneer DJ株式会社としては、今現在は「作って、演奏して、届ける」という3つの事業を展開してるんですが、元々はずっとクラブだけをメインのお客様として捉えていたところから、Pioneer Pro Audioの事業を展開して以降に、DJのプレイする場所がクラブに留まらずに様々な商業施設にも進出をしたり、中規模のダンスミュージックのフェスティバルが急激に増えたりという変化が起こった印象がありまして。実際にそういったところからのオファーもいただくようになったので、実感としてもここ3年ほどで文化自体が大きく変わったのではないかと思います。

特に中規模のフェスティバルですと、ロケーションから既に様々な種類のものがある中で、それぞれのオーガナイザーさんから音響システムにこだわりを持ったフェスティバルにしたいという内容のお声を受けることが多くなっていまして。中規模のフェスティバルの現場にはPioneer Pro Audioのサウンドシステムが使用されることが多くなっている現状かと思います。浅田さんは凄く昔から『LIFE FORCE』を続けて運営されていて、『LIFE FORCE』は『Body&SOUL』以上に濃ゆいお客さんの集まりで、やはり音が良くないとテンションの上がらない人たちの集まりですから、『LIFE FORCE』でサウンドシステムをお使いいただいた時は若干緊張感がありましたね(笑)。

 

 

LIFE FORCE 2017 at BUCKLE KÔBÔ

 

 

ーーそうだったんですね(笑)。今年の『LIFE FORCE』に話を移していくと、今年はシェアアトリエとして開かれている京浜島の鉄工所「BUCKLE KOBO」を会場にされていて、通常よりもシチュエーションが特殊だったということがありましたよね。

 

浅田:そうですね。ああいったウェアハウスパーティーは、我々にとっては本来の形ですから、久しぶりにそういう場所に帰ってきたという感じではありましたね。東京はなかなか良い会場が少ないものですから、たまたまBUCKLE KOBOのような良い会場が見つかって、面白いと思ってやってみました。

 

村井:『LIFE FORCE』は凄く昔で言うと、ヒマラヤでやったりされていて、ハードコアなトラベラーのイベントだなと思ったこともあって。ここ数年でスタイルも変わっていって、屋外だけ留まらず屋内の小さいところから大きなところまで毎回違った場所で開催されていますよね。

 

浅田:そうですね。決して特定のスタイルを持ちたくないと言う訳ではなくて、むしろ決まったパターンをあんまり持てないと言いますか、本当はひとつの会場で何年も何度もやっていきたいと思うんですが、なかなか良い会場が長い期間で使えないことが多くて、何かしらの理由でやはり変わっていくんですね。

 

村井:私自身は『LIFE FORCE』に足を運んでいたこともあるので、『LIFE FORCE』がどういうイベントかを知った上で接点を持つことができたのは凄く幸せなことだなと思っていて。初めてお会いするお客様からのお問い合わせ以上に、前から知っている方やいつか使ってもらいたいなと思っていた方からのお問い合わせ受けるというのは本当に嬉しいですね。なので、以前はブースの中にいらっしゃった憧れの存在だった浅田さんと、Pioneer Pro Audioのサウンドシステムを通じて、お仕事させていただけているのは嬉しいと同時に、身が引き締まる想いでもあります。

 

 

 

 

ーーではもうひとつ、今年、村井さんと浅田さんでオペレーションをされた『Re:birth』の際のセッティングやプランニングについて教えてください。

 

村井:『Re:birth』に関しては、浅田さんに現場調査に行っていただいて、フロアの構成とかをプランして、必要な機材を挙げていただいたところから弊社の方で提供をさせていただきましたね。

 

浅田:『Re:birth』というのは、運営チームのメンバーの被り方からしてある意味『渚音楽祭』の流れを引いているフェスティバルなんですね、さらに遡れば初期の春風に近いところもあります。そしてまず特徴的な事は、かなりカオスなところから始まるところでしょうか。全然逆のことを言う人が何人もいるんですよ(笑)。それをWaon Productionsの鈴木伸哉君が四苦八苦してまとめているところを、僕が後ろからちょっと助けてあげたりしているんです。
しかし、どんなシステムを使ってどうやるかにしろ、音のクオリティに関しては全く妥協しないのが良いところでしょうかトランスのサイトはVOIDのシステム、フリースタイルにはTW Audioをお願いして、僕がオペレートしていたテクノのサイトは村井さんにお願いをして、XY-Seriesを使用しました。それと同時にPioneer DJさんからDJ機材全般のエンドースをお願いして、それ以外にもマーケットのステージにはXPRS-Seriesを使いました。今年はそんな感じでしたが来年は、村井さんにもっと手を広げていただくことになるかなと思います(笑)。

 

村井:『Re:birth』の時も間口が広かったので、サブウーファーと、いわゆるインフィルと言うスピーカーを真ん中置いて、真ん中に生じるキャンセルを埋めていました。あとリアには、イントレにもXY-Seriesの12インチか15インチを2本置きましたね。『Body&SOUL』の時にGS-WAVEでやったセッティングを、一回り小さいXY-Seriesで構成した形でしたね。あの日はとにかく雨が凄かったですね。私も実際に現場に行って、設営と撤収をしたんですが、あまりの雨でiPhoneが水没してしまって。やむを得ず中抜けした時もあったんですが、どの時間に見に行っても、とにかく雨が降ろうが何だろうが踊ってる人ずっと踊っていて、それで言うと『Re:birth』のお客さんは1番ストイックなんじゃないかなと思いました。

 

浅田:お客さんの中には元々トランスの界隈にいる人も多いので、雨でもお構い無しにテンションが上がるんですよ(笑)。と言うか、何でもテンションを上げるネタにしようとしているんですね(笑)。トランスのサイトもあるんですが、今年のテクノのサイトにはSystem7やMinilogueのMarcus Henrikssonみたいなトランスとテクノの中間のような音のアーティストが集まっていました。今トランス側の人たちがその辺のテクノを掘ろうとしている流れも散見しています。徐々にこれから出てくるシーンなのかなと思っています。

 

村井:今年の『Re:birth』はXY-3Bがまだ無かったので、XY-Seriesの2WAYのフルレンジスピーカーと、音を長距離飛ばすよりもエリアをカヴァーするバスリフレックス・タイプと言うサブウーファーにしていたんですが、今年稼働をさせてみた感じでは『Re:birth』の音楽性や環境だと、来年はこちらのXY-3BとXY-218HSの組み合わせで、リアを足すのが良いかなと思いましたね。

 

 

 

ーーその今年9月にSTUDIO COAST/ageHaで正式発表された最新モデルXY-3BとXY-2が現場で初稼働したのは『rural』でしたよね?

 

村井:そうですね。国内のイベントでメインのシステムとして使われたのは『rural』からでした。『rural』に関しては、弊社のスピーカーを実際に聴いた上で使ってみたいと1番最初にリクエストをして下さったオーガナイザーの方々だったんですよ。『rural』から色々なフェスティバルに協賛させていただくことが増えたので、そういう意味だと自分にとっては『rural』が原点のように想う部分があるんですね。なので、このXY-3BとXY-2が誕生したひとつの理由として、『rural』のオーガナイザーさんと一緒にお仕事するようになったというのは非常に大きいんです。『rural』は一昨年も去年もIndoor Stageでやらせてもらっていたので、今年は、『rural』があってこそ辿り着いたXY-3Bを、是非とも鳴らしたいなという想いがあったので初めての現場として使わせていただきました。このスピーカー自体が特定のジャンルを制限しているわけではないんですけども、1番最初にどんなイベントでXY-3Bを使ってもらいたいかを考えた時に、オーディエンスが音に対してのこだわりを強く持っている現場で使ってもらいたいなと思っていたので、そこに『rural』のディープな世界が当てはまりまして、今年の『rural』の時は私からオーガナイザーさんの方に「チャレンジをさせて欲しい」とお願いをしました。

 

あとフィールドテストをクラブでやろうと思うと、搬入して設置してから鳴らしても一晩で7時間ぐらいだと思うんですけど、『rural』だとぶっ続けで60時間ほど稼働できるので、クラブイベント10回分のフィールドテストを1回のフェスティバルでできたと思えば、非常に効率も良かったんです。実際に初めてフロントのスピーカーとして使ってみたら、それまで分からなかった配置の高さや角度に関する課題がいくつも見えて、すぐに対策を商品の加えることができたんですね。

 

浅田:その後に『FUJI ROCK FESTIVAL』でしたかね。

 

村井:私が実際に現場に設営しに行ったイベント以外にも、浅田さんにXY-3Bをお渡ししてお使いいただいたのが、『Time Is Art』と『NU Village』と『Eleven』でした。

 

浅田:『Time Is Art』は非常にファミリー向けのパーティーで、さっきも村井さんが話していたダンスミュージックのフェスティバル/イベントの新しい流れの中のひとつですね。子供たちを連れて回帰するお客さんたちが最近徐々に増えていて、その子供をお客さんに含めて考えたファミリー向けというのがテーマになっていて、割と小規模なところから堅実にステップアップをしていくであろうイベントですね。日中は子供たちのための遊びであったり、親子で参加できるワークショップがあったりして、夜は大人たちが遊んでいるという感じで。あとは食にこだわっている部分も強くあったりしますね。『OVA』を主宰している奈良龍馬が仕掛けている『NU Village』も家族向けのキャンプイベントになっていて、これは元々は龍馬の奥さんのママ友同士が「何かやろう」と相談をして最初は羽根木公園でやっていたのが本格化していって、会場も山梨県の白州にある「尾白の杜キャンプ場」という凄く良いキャンプ場に移して開催した、という感じなんですね。『NU Village』は今でもお客さんが300人オーバーぐらいはいて、これからさらに動員が伸びると思います。ファミリー向けなんで年齢層はもちろん高めなんですが、新しい形のイベントですし、今後も各地に増えていくんじゃないかなと思いますね。

 

村井:私も3年前から外に出る活動を始めて、年々増えているなと思うのはキッズエリアですね。私と同世代の人は、90年代のいわゆるDJ/クラブのブームが起きて、クラブ人口が爆発的に増えた世代なんですね。今その多くはパパママになっているんですけど、この歳でも現場を楽しみたいという方に対して子供連れて遊べる場所が増えているというのは、ここ最近の大きな変化だと思います。5年前は、キッズエリアのあるフェスはこんなに無かったと思うんですよ。

 

浅田:しかも、もう既に子供たちの世代からDJをやって、大人から喝采を受けるような人もいるんでね。そういった面でも期待できると思います。

 

村井:あとXY-3Bは、TRESVIBES SOUNDSYSTEMさんと〈Fasten Musique〉の皆さんが蔵前のRiverside Cafe Cielo y Rioで行なっていたイベントでもを使っていただきました。そして、中型イベントは『MUTEK.JP』と『LIFE FORCE』が続いたという流れでしたね。

 

 

ーーXY-3Bをメインのサウンドシステムとするイベントの音場作りをいくつか経てきて、現状はいかがですか?

 

村井:改めて、Pioneer Pro Audioとしては今年3年目で、3年連続もしくは昨年から協力しているイベントはいくつかあったんですが、今年に関しては、とにかく新商品のXY-3Bを現場でフィールドテストして量産商品に反映させるという部分が、これまでと大きく違った部分でした。そこに浅田さんにも色々なご協力をいただいて、現場でお使いいただいて、後でフィードバックを得るといった活動を何度も行なってきました。

 

私はスピーカーと車は完全に同じだと思っていて、スピーカーも結局はドライバーがいないと全く動かないものですし、ドライバーが安心して快適に乗れるようなものというのが理想的なPAスピーカーだと思っています。そういった意味だと、私自身はスピーカーは作ったんですが、まだ自分自身がドライバーとして把握し切れていない部分がまだ沢山あると思っていて、未だ使うたびに発見があるのがこの商品の現状です。例えば、左右に2本並べて置いた時と3本並べて置いた時では音の感じ方が違ったり、サブウーファーと組み合わせた時の音量のバランスであったり、XY-3Bが1本増えるだけでベストなところが少しずつ変わっていったりするところは、物を作っていく段階ではどうしても全てを網羅して把握し切れない部分で、それを現場で体験して会社に持ち帰って、という作業をこれからも継続的にやっていく必要があると思っています。

 

今までサブウーファーは横に2段積み重ねてその上にXY-3Bを乗せるというスタックが多かったんですけど、『LIFE FORCE』の時は1台のサブウーファーを縦に置いてその上にXY-3Bを乗せるというスタックをしまして、そうなると高さが変わるだけではなくて、サブウーファーの鳴り方も結構違うんですね。クロスオーヴァーやゲインのバランスも違いますし。このサブウーファー(XY-218SH)は、縦に置いた時より横に置いた時の方がエネルギーが前に飛ぶんです。理由としては、地面に接地している辺が長いほど後ろに回り込む音が少なくて、逆に辺が短いほど後ろに回り込む音が多くなってしまって、本来前に出るはずのエネルギーが一緒に逃げてしまうからなんです。なので、サブウーファーを横に置いた時の方が効率良く音が前に出るんです。

 

浅田:実際使ってみると、XY-3Bのゲインがサブウーファーとは1.2dbぐらい違っていたりするんです。ほんの10センチ、20センチでも接地している辺の長さが違うだけでだいぶ変わりますよね。

 

 

ーーその差はどれぐらいのものなんですか? 素人の耳でもわかり易い差ですか?

 

浅田:XY-3BとXY-218SHのレベルで合わせるミッド帯域の音量の違いで言えば、1~1.2dbは違ったんですね。それは気が付かない人は気が付かないですけど、ちょっと耳の良い人だったら、おや?とある程度わかるぐらいの音量差ですね。

 

村井:音の反射や回り込みとかが3年前は現象としてはわかっていたんですけど、音は目に見えないのでその要因は頭で考えなければと思っていたんですけど、浅田さんとご一緒して自分自身も様々な現場で使うと、物として音の変化がある程度目に見えてくる感じが出てきましたね。

 

浅田:目に見えると言うと必ずしも正確ではないとは思いますが、感覚的に把握はし易くなると思います。これもドライブと一緒だと思うんですよ。例えば、コーナリングのラインとかは決して目に見えないですけど、プロのレーシングドライバーにとってみればコーナリングの時に「このラインを通ってる」という自覚がはっきりとあると思うんですよ。目に見える見えないで言うとそういう感じだと思いますね。

 

村井:それはやはり経験値によるところが大きいんですか?

 

浅田:経験値もあると思います、ですが誰でも把握できると言う性格でも無い様です。音が見えるような感覚と言うのはそれなりに意識していないと経験は難しいと思います。経験値と言えば「これはマズいな」ということの方がわかってきますよね(笑)。床を足でドンドンと踏んでみて「響くなぁ……」とか、よくありますよ。

 

 

ーーここまでフェスティバルごとの様々なケースを伺ってきて、改めて根本的な質問なんですが、イベントのオーガナイザーさんやプレイするアーティストさんとの音に関する打ち合わせは、事前にも現場でもどのような流れで行なっているんですか?

 

村井:出演者の方との事前の打ち合わせはまず無いですね。

 

浅田:まず無いですね。ただ、事前のサウンドチェックを要求してくれば一緒に立ち会って、話し合いはします。特に、出音に注文がある場合は綿密に対処して確認作業は行いますけど、割と日本の環境って最近信頼されてるんですね。なので、あまりうるさいことを言ってくる人はいないんですよ。例えば『Body&SOUL』も、最近はほとんど文句を言ってくることは無いんですけど、始めのころは常時文句言って来たものです。大体言ってくるのは三人を代表してフランソワ(François K)なんですけどね(笑)。日本語が上手なので。

 

 

ーーイメージ通りのこだわりの強さなんですね(笑)。

 

浅田:と言うのも、やはりニューヨークの人たちってプライドもありますし、彼らの標準のレベルが凄く高いので、そこのレベルに達していないと逆に彼らもプレイしにくいんでしょうね。でも最近はもう信頼もしてくれているようなので、あまり言われなくなりましたね。

 

 

ーーでは、オーガナイザーの方との打ち合わせはいかがですか?

 

浅田:オーガナイザーとの打ち合わせは現場ではほとんどやらないですね。機材の量であったりとか、音を出す方向であったりとか、フロアの作り方であるとかは、少なくとも3ヶ月~1ヶ月前にはやってますし、本番の1週間前には煮詰まっていないと、機材の発注もかけられないですから。なので、オーガナイザーとの打ち合わせは事前の早い段階に済んでいますね。それで実際に現場で出た音に関しては、大抵の場合はオーガナイザーの方から文句を言われることは無いんですけど、あとはやっぱり先ほども言った、近隣からの苦情問題がありますね。今年の『rural』も大変でしたよね(笑)。会場だった牧場のちょっと下の目で見えるような位置に人が住んでましたからね(笑)。

 

村井:事前の打ち合わせでオーガナイザーさんと話すことというのは、お客様の遊び方に対してフロアをどのように構築していくかと言う部分もメインになります。ステージへのスピーカーの配置をどうするのか、例えば後方にスクリーンがある場合はモニタースピーカーを低くするといったことであったり、テクニカルな面に加えてお客様の遊び方を確認しながらやり取りは当然行なっています。実際に現場に行って設置してしまえば後は動かせないので、それから現場で起こることというのはまさに苦情対応ですね。イベントを無事に終わらせるまでには音量を抑えなければいけないんですけど、お金を払って来てくださっている人に対しての満足度を著しく損なうことないように、という両方のバランスを取っていくことは事前には全くシミュレーションできないので。そういった場合は、現場での音のギミックで誤魔化すという方法を取ります。ある部分の帯域だけを強くして中にいる人だけには身体に当てるように聴かせておいて、外には音が漏れないようにしたりだとか。

浅田:遠鳴りするような帯域を下げていく感じです。後は、音量の上げ下げもゆっくりと鳴らしていって、気が付いたら変わっていたという状態にするんです。

 

 

ーーXY-3Bをメインのサウンドシステムとして使用するようになってからは、今年の『Re:birth』の様なこれまでのXY-Seriesでの音場の作り方や調整方法とはどのように異なっているんですか?

 

村井:今までのXY-Seriesのバスレフ・タイプのスピーカーとサブウーファーというのは、空間の四隅に置いて四方から包むような音場を作りたいというところには非常に使い勝手が良いんですけど、飛距離がそれほどないというのがあったので、ある程度を空間に奥行き距離が出た時はXY-3Bを使うようにしています。その場合、フロントからリアの後方まで音が流れるようにして、サイドやリヤにもスピーカーは置くんですけど音量はかなり下げています。『Body&SOUL』のように同じGS-WAVEを4スタック並べても、音量のバランスはフロントの方が大きくて、リアは少し下げていて、これまでのXY-Seriesでも同様だったんですけど、XY-3Bを使う場合はさらにサイドとリアの音量を下げています。

 

浅田:まだこれからの話なんですけど、僕としては、XY-3Bを使う場合はリアスピーカーをフロントのスピーカーに向けてやるのではなく、少しディレイスタック的に使うと言いますかね。ディレイスタックというのは非常に大きな会場の場合は複数のサウンドシステムを使うんですよ、例えばヨーロッパのEDMのフェスティバルの写真に上から何本もスピーカーが吊ってあるのを見た方もあると思いますが、あれは音の出る時間差を調整して、まるで全部で1つの音楽が鳴っているように音場を仕上げているんですね。XY-3Bがフロントにある場合、リアのスピーカーは前を向いているというよりも横から後ろに向けて、少しエリアを広げる様な感じにしようかなとも思ってます。

 

 

ーーそういった角度や配置はもちろん、フィールドテストを経て、XY-3Bの内部にも調整や修正を加えているというお話は9月の発表の際のプレゼンでも仰っていたのが印象的でした。

 

村井:そうですね。浅田さんはもちろん、色々なオーガナイザーの方や音響の方からのフィードバックもいただきながら修正をし続けていますね。

 

浅田:でももう最終的な細かいブラッシュアップの段階になっていると言って良いんじゃないでしょうか。

 

村井:環境が違うと分からない部分はもちろんあるんですけど、この子(XY-3B)に関しては、環境の変化なのかこの子の問題なのかという部分はこの3年間ずっと聴き続けて蓄積されているので、「この問題はあそこなんじゃないかな?」みたいに分かってくるんですよ。なので、私がフィールドテストに行って持ち帰ってくると、設計の方に「村井さんの品質チェックが厳しすぎて困る」って言われるんです(笑)。

 

浅田:このクラスのスピーカーは車で言うとフェラーリやポルシェの世界ですからね。それぐらいは我慢してもらうしかないですよね(笑)。

 

村井:会社の人間を守るよりもお客様に最高の喜びを提供するためにと思ったら、心を鬼にしてでも、設計の方に直すべきところは直してくださいと言わないといけないと思うんです。それが私の役目だと思っているので。

 

浅田:でも結局はそれが会社のためになると思いますよ。

 

村井:そうですね。その代わりに設計の方も弊社のスピーカーを使う現場に連れて行って、どれだけ大勢の人が良い音があることによって人生を豊かにしているのかということを知ってもらって、作っている物のアウトプットはスピーカーじゃなくて喜ぶ人を少しでも多く生み出すことだ、ということは社内でも伝えるようにしています。物を作るのはあくまでもスタート地点にすぎなくて、弊社のスピーカーも多くは業務用途なので、人の役に立って初めて存在意義が出てくるものなので、使い方やティップスの部分まで責任を持って伝え切るところが我々の役目だと思っています。

 

あとPioneer DJ株式会社としては、他のスピーカーブランドとは違って、特にダンスミュージックに関しての文化についてもわかった上で商品を出しているので、 イベントの協賛となった場合に音の観点だけでなく、遊び方を踏まえた音のエリア作りなど、スピーカーを作るだけでは語れないような部分についてもイベントに対してご協力できるかなというのは強みかなと思います。
例えば、「良い音とは何か」というのはこの業界に携わる人の永遠のテーマだと思うんですね。決してひとつの答えがあるものではないので、世界一の美男美女を語るのに等しいぐらい難しいと思うんです。それぞれのイベントに対してベストがあると思います。音響の観点で言うと、どうしても課題が出てしまって、音楽に対して向き合いたいのに余計な音が付いてきたりして意識が分散してしまったりするんですね。向かい合って誰と喋っている時に隣から喋ってきたら邪魔じゃないですか。そういうような余計な要素をどんどん取り除いていって、アーティストと向かい合える環境に極力近付けていくというところで、最後は音に対する意識じゃなくて、アーティストの演奏結果を自然と全身で受け止められるようになるのが一番良い状態だと思うんです。どちらかというと「今日はあそこのスピーカーだから音が良いよね」というのは感情的な部分じゃなくて、理性的な判断だと思うんですけど、弊社のスピーカーに対して一番嬉しい感想というのは「今日は本当に楽しかった!」という言葉なんです。これを聞くとやはり最良の音を届けられた結果なんじゃなかと思います。最良の音を気にしているのは音響に携わっている人であったり、イベントの成功に関して客観的な判断基準を持っているスタッフのような、裏方側のような気がしますね。オーディエンスにとっての最良の音というのは最高の体験とイコールに近いんじゃないかなと思います。

 

浅田:僕の場合の最良の音は、やはり邪魔になるものを省いていくことだとは思います。例えば画面に映り込んでいる蛍光灯の反射が無くなればずっと画面を良く見ることができたり、横向いてるのが真正面を向けば色合いも変わってくるという事と似ていると思うんです。そう言う邪魔な要素やセッティングを修正することによって、より画像そのものに意識が行くようになり、ひいては映像表現そのものに意識が深く入っていけるようになります。それと同様に、音響システムからの音が受け手側に素直に入って行けるようにすることで、最後はサウンドシステムという物の存在から意識がなくなっていけば良くて、そこにある音楽に意識が集中して、さらには音楽が自分の外部ではなくて身体の中で鳴っているようになった時が、最良の音だと思いますね。最近はそうでもなくなりましたけど、昔ははっきり分かったのは、女性の方がそういう部分をよく感じとれていたようでした。調整が上手くいっている時には、女性が楽しそうにしてるんですよ。逆に女性がフロアから1人もいなくなった時は結構心配でして(笑)。しかし最近では男性もかなり女性性を持つようになってきているのででょうか、昔ほどそういう差は無くなりました。音を、そして音楽を、頭の中のデータや、知ってる名前とかにこだわらず、純粋に自分で感じたままに受け取ってくれている人が増えて来ていると思えるのは良いことだと思います。

 

 

 

End of Interview

Pioneer DJ

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