GONNO x YUJI MURAI Special Interview
Interview : Hiromi MatsubaraPhoto : Asami Uchida, Hiromi Matsubara
2016.4.7
2013年にPioneer DJ Pro Audioがクラブ向けサウンドシステムへの参入を発表し、ここ日本でも本格的にクラブイベント/フェスティバルへの導入がスタートした。今回は、様々な場所でのお披露目が増えているこの機会に、サウンドシステムを日本で最もよく知るPioneer DJ Pro Audioの企画担当者の村井佑史氏に2つのサウンドシステムシリーズの性能から今後の展望まで、たっぷりとお話していただいた。同時に、2015年2月24日に行われた試聴会でデモンストレーションDJを務めたGonno氏にもご登場いただき、初めてサウンドシステムに触れた日本人のDJとしての感想も伺った。対談はいつしかクラブサウンドシステムの話から盛り上がり、お二人のクラブ観/DJ観にも迫ることに。しかしその語り口からは日本のクラブカルチャーへの情熱が確かに感じられるだろう。
ーーではまず、GS-WAVEシリーズの長所を教えてください。
村井:GS-WAVEシリーズは、基本的にはバラバラで使うのではなくて、全てのパーツを合わせて1セットとして使用するものになっています。低域は足元から、高域は頭上から出るようになっていて、全身に適切に音が届くようになっています。全長が3.4メートルで、それなりに大きいサイズのクラブで威力を発揮するシリーズになっています。やはり一番の魅力は、スピーカーは基本的には“様々な現場で使われること”を重視するものが多い中で、GS-WAVEシリーズは完全に“クラブでダンスミュージックを楽しむため”に設計されていることです。“多様な現場に対応できる広い振り幅は持っているけど、何に対しても最も優れたものにはならない”というものとは違って、“クラブ向け”なので対象は狭いですが、その中では1番尖っていて、他社の同形等のものよりも150%良いものを届けようと思っています。
ーー日本は小型から中型のクラブが多いので、GS-WAVEシリーズを入れるのはなかなか難しいと思うのですが、もともと設計の段階から大型のクラブで使用することを想定されていたんですか?
村井:そうですね。私自身は体験したことはないのですが、例えばParadise Garage(1980年代にNYのマンハッタンにあった3000人を収容できるディスコ)や、The Loft(1970年にNYでスタートした伝説的なパーティー)といった、70年代、80年代のニューヨークで人気を得ていた規模の大きいクラブやイベントがありまして。そこで使われていたスピーカーとサウンドシステムをデザインしていたRichard Longという方がいて、その方がいまの基本的なスピーカーの構成を設計しました。そして、その意思を引き継いだ者として、日本を含む世界中のクラブのサウンドデザインをされているSteve Dashや、Paradise Garageのサウンドシステムに関わっていたGary Stewartといったサウンドエンジニアがいて、今回は、そういった源流を継承していった方々の中のGary Stewartと協業をして、GS-WAVEが生まれた次第です。なので、スピーカーとサウンドシステムの原点は未だにParadise Garageにあります。非常に「Paradise Garageを超えるクラブはない」と言われていますが、その時代の、その場所の良さを知っている人が我々の協業パートナーとなって開発したので、スピーカーの全体的な構造に関わる設計思想は近代的なものではなくて、古き良き過去の技術ではあります。ですが、そういった技術をPioneer DJと共用するにあたって、現代の高出力に耐えるようなドライバーの選定であったり、企業として全世界に同じものを同じクオリティーで届けるためにといったところの信頼性を徹底的に追求したり、入力の端子からドライバーに音を届けるまでに様々な細工がありますが、そういった細部を徹底的に見直したりしました。要するに、古き良き時代の非常に優れたスピーカーを、現代の音楽と現場での使用ケースに対応させて、現代版として甦らせたのがGS-WAVEの特徴です。
ーー“クラブ向け”というのは、他のスピーカーとどこが異なるのでしょうか?
村井:私自身もクラブに遊びに行くのですが、クラブは単純に“音が大きければ良い”というわけでもないですし、1人でクラブに行ったら楽しいかと言われると決してそうではないですよね。隣に友人や恋人、あるいは仕事仲間やスタッフさんといったコミュニケーションを取る相手が存在している上で、全身で音楽を楽しむ、というその両方があって始めてクラブの楽しみ方は成立するのではないかと思います。GS-WAVEは、まさにその両立を徹底的に追求して実現したものになっています。ライヴの場合は、基本的にステージの上にアーティストが立って歌ったり、喋ったりしているので、隣の人との会話よりもステージにいる人の声が通りやすいようにという音作りをするのに対して、クラブ向けのものは、楽曲のヴォーカルが1番聴こえるよりも隣にいる人の声の方が聴こえやすいように作られている、というのが違いだと思います。単純に音量を下げれば声が聴こえやすくなるのですが、それだとダンス・ミュージックを全身で楽しむという点が成立しなくなってしまうので、主に低域は首から下の胸や下半身で感じられるようにして、低音はしっかりと身体に当てつつ、耳に届く帯域は基本的にクリーンな歪みの無い音にして、声がしっかりと通りやすくなるようにしています。もう1つは、私自信、優れた音響と良いプレイをしたDJを同時に楽しんだ時に、“魔法にかかった”と言えるぐらい、フロアの天井や壁を超えた広い空間を感じる時があります。例えば、代官山SALOONは壁が狭いですが、音響とDJのプレイと自分のマインドが融合した時には、壁を超えたところから音が出てきているような感覚になって、空間を広く感じます。これは、身体がというよりかは、耳もしくは耳よりも上の音域、特に高域がどれだけ綺麗に鳴っているかという部分がそういった効果をもたらします。そして、それを現場で鳴らすのが、GS-WAVEでいうとトゥイーターポッド(WAV-TWPOD)なのです。これは音楽を再生するのに必要というわけではなくて、音響空間をより広げて表現する、例えばリヴァーブをかけた状態でクラップの音が広がった時の鳴り終わりがいかに綺麗に長く鳴っているか、といった余韻や残響の部分を担っています。頭上に音が舞っているように鳴らすことで実際の天井よりも空間を広く感じたり、あとは上から音は鳴って広がった時に余韻があることで、左右の壁を超えたところから聴こえるようにします。
Gonno:対応周波数が5kHzから20kHzっていうのは、まさしくクラップの余韻であるとか、ハイハットの音ですよね。
村井:そうですね。クラシックなNYのクラブとかで昔から使われていた手法で、国内のいくつかのクラブでも未だに使われている手法ですね。先ほども名前が出たSteve Dashと、George SrarvoというIntegral Soundのサウンドシステムを手掛けた2人の設計思想によるものです。彼らがアメリカ出身で、NYの古き良き時代のサウンドシステムを知っているから、彼らのアイディアをそのまま使ってサウンドシステムを作っています。
Gonno:以前、クローズドで開催されたクラブチッタでの試聴会の時、自分でプレイしてたってことと、途中でXYシリーズに切り替わったっていうことがあって、そんなに長い時間はGS-WAVEの音を聴けなかったんですよ。いまの話でちゃんと聴くのが楽しみになりました。GS-WAVEは野外ではどうなんですか?
村井:いや、基本的には屋内のクラブ向けですね。野外で全く使えないというわけではないのですが、野外になると、ステージから音を受け取るアリーナとされるところに向けて、音を一方向に流すのが基本の形になります。そうなると、ステージの前にいる人はある程度音量を感じられるけど、後ろに行くほど音量が下がってしまうというような、距離によって音量が減衰していくのを極力減らすことを実現したラインアレイ・スピーカーを使用するのが主流になってくると思います。通常距離が2倍になると音量がマイナス6dBされてしまうところを、ラインアレイの場合はマイナス3dBに減衰量を抑えることができるので、音を長い距離飛ばすだけでなく、後方の人にも音量を損なわせることなく音を届けることができます。ラインアレイと比較すると、GS-WAVEはタイプとしては対極にあたるポイントソースなので、音を球面状に出しているスピーカーです。基本的には四隅にスタックして、フロアの中心が1番良い音になるようにセッティングします。ラインアレイは音が良いということよりも、音を長距離飛ばすことを1番としているので、ある意味で“スイートスポットで80点の音をできるだけ広く均一に”という風にしているのに対して、GS-WAVEに関しては、四隅で包んだ時に中心に向かって音が100点になるようになっていて、その代わり見た目は大きい割に距離はそんなに飛ばすことができません。ただ、クラブチッタでの試聴会の時は、2スタックしかなかったのですが、ラインアレイだと、例えばハイハットが右で鳴っても、それは音源としての右ではなく、右側に位置するスピーカーから鳴っていることがわかってしまうというように、前から音が鳴っているとか、目で見たところから音が鳴っていることがすぐにわかります。ですが、実際にGS-WAVE4スタックを四隅に置いて聴くと、音源の位置がどこというよりは、自分の身体を中心に音が鳴っているような感覚が得られます。それはライヴ会場では得られない感覚、クラブのフロアならではのサウンドシステムの作り方になると思います。置き方は色々ありますが、理想的に四隅に置いた場合、温泉に浸かっているような、音が身体に沁み込んでいくような感覚になれる音響空間を作ることができます。クラブで、ラインアレイを使っているところもありますが、色々なサウンドエンジニアの方とお話していると、「ラインアレイは音が身体のあたりで止まる」という表現をされます。
Gonno:4ユニットが理想ということですけど、ユニットが増えれば増えるほど、スピーカー自体にも余裕が出ますし、良い音になっていきそうですね。
村井:いまGS-WAVEが入っているのは、最初に入れたイビサのBOOOMと、一昨年の秋頃にLAのハリウッドにあるSound Nightclubに入ったのですが、そこにはGS-WAVEが4スタック入っています。もともとSound Nightclubは、某社のスピーカーを使っていたそうですが、弊社のアメリカのスタッフがGS-WAVEを持って行ってデモをしたところ、「ぜひGS-WAVEにしたい!」と言ってくださったそうで、リプレイスをしたという経緯があります。アメリカでSound Investmentという会社のDan Agneという、よく記事に出ている方が、Sound Nightclubに行った時に弊社のアメリカのスタッフに「音良いね、Good jobだ!」とメッセージを下さったそうで、それぐらい弊社の商品は現場で認められているのだと思います。体感していただければ、お客様にちゃんと伝わるのだなということを実感していますね。あとは、ベルギーのアントワープにある、毎年ベルギー内のトップクラブ1位2位を争っているCafe D’AnversにはGS-WAVEが2スタック入っていて、リアにXYを使っていますね。もともと何百年と続いていた教会をクラブにしているので、設置場所の条件で2ヵ所しか置くことができなくて、フロントにGS-WAVEを2スタック入れて、リアにコンパクトなXYで埋めるという感じの設置になっています。
ーーXYシリーズは、Cafe D’AnversのようにGS-WAVEのサポートに入れることもできますし、試聴会の際にはモニタースピーカーとしても使用していましたが、もともとはGS-WAVEに対応するライトなモデルとして生まれたシリーズなんですか?
村井:そうですね。弊社はDJ商品を取り扱っているので、音の入り口から出口までをPioneer DJというひとつのブランドで手掛けたいなという思いがありまして。1番大きいメインフロアのお客様を踊らせるスピーカーもあれば、大音量は必要としないけどメインフロアの音が漏れ込んでくるようなバーやラウンジ、DJがフロアの音を確認するためのモニタースピーカーと、クラブの中にもサウンドエリアって様々あります。GS-WAVEだけだと、メインのフロアスピーカーは良いのだけど、その他のエリアで別のブランドのスピーカーになって音のキャラクターが変わってしまうと、クラブに統一感がなくなってちぐはぐしてしまうので、GS-WAVEと全く違う音ではなく、GS-WAVEの音の良さをできるだけコンパクトにした作りになっています。当然、設計者やテスト評価をする人が同じなので、GS-WAVEとは全く違う方向の音作りではなくて、小さくするから出力レベルが下がったり、違いは出てきますが、極力GS-WAVEをコンパクトにした形として再現できたらなと思って作られたものです。確かに多様な用途で使っていただけるのですが、特に弊社の強みとしてあるクラブの中の様々な音の鳴らし方、例えばダンス向けのフロアスピーカーからバーラウンジ用、DJブースモニターといったところは他社のスピーカーよりも音作りはしていると思います。あとは、会場のサイズに合わせて必要とされる音量が異なるので、XYシリーズのラインナップはフルレンジの8インチから15インチまで、大小揃えています。あと、サブウーファーに関してはXY-215Sが弊社のラインナップの特徴でして、これがGS-WAVEで鳴らしている低域の鳴り方に1番近いです。他のサブウーファーのXY-115S、XY-118S、XY-218Sは割とスタンダードなタイプで、低域を幅広めにナチュラルに鳴らすのに対して、XY-215Sは帯域を少し狭める代わりに出力レベルを高めているので、少し密度感が高まって芯のある音になります。なので、キックがしっかり身体に当たってくれる効果が得られて、小中規模のスペースだと、メインスピーカーのサブウーファーとして機能します。あとは、DJブースは会場の大小に関わらずDJブースの大きさはそこまで変わらないので、限られたエリアの中でキックをしっかりと身体に当てる音を鳴らそうと思うと、XY-215Sは有効ですね。ローエンドをしっかりたっぷり鳴らす必要はなくて、ローエンドよりも少し上の、膝から上の辺りで感じるような低域を近距離でもしっかりと届かせるという点が強みですね。
ーー音が像としてハッキリとわかるんですね。
村井:そうですね。やはり低域は耳で聴くものではないので、身体にちゃんと当てたいなという思いですね。しっかりとした低域を鳴らそうと思うと筐体のサイズがどうしても大きくなってしまうのですが、GS-WAVEの筐体をギュッと凝縮してできたのがXY-215Sですね。
Gonno:キックのアタックが聴こえるというのは、DJにとってはとても有難いことですね。
村井:やはりビートをしっかり確保するのがDJの役目として強くあると思うので、それを耳で行うとどうしても疲れてしまうんですよね。これは今日伺ってみたかったことなんですが、Gonnoさんにとっての気持ちの良いDJブースと、やりにくいDJブースの差は、どういったところがポイントになってきますか?
Gonno:1番重要なのは、DJブースとフロアはもちろん広さが違うんですけど、それでも同じ音響、同じ音のキャラクターで再生されているということがとても重要だと思います。擬似的にでも良いんですけど、感じているものはできるだけ一緒に近いと良いですね。例えば、ヴォーカルがフロアでも良く鳴ってるかどうか、ベースがしっかり出てるか出てないかが、ブースの中でもわかるのが非常に重要なんです。僕は、音の取り辛いところではフロアにいちいち出て確認したりするんですよ。だから、その必要性がないところが僕にとっては1番良いブース環境ですね。
村井:GS-WAVEに対して、XYをDJブースモニターとして使っていただいた時には、当然サイズと経緯式が違うので全く同じにはならないにせよ、DJブースモニターの役割として周波数のバランスや音色が極力近いというのがやはり1番重要になると思うので、コンパクトでもGS-WAVEが鳴らすような音を鳴らす設計にしたのは、まさにGonnoさんがいま仰ったことを実現するためにこだわったところですね。
Gonno:2015年3月7日に開催された『rural presents ‘ANEMONE’』の時にSALOONでプレイした時がまさしくブースとフロアが同じ感じでしたね。クラブによって様々ですが、フロアの音とブースの音がかなり違うことが多いんですよ。他のDJを見ていても結構勘違いをしてしまっていて、例えば、外の出音のローがもの凄くキツいとブース内で感じていてミッドとハイを上げてたりするんですけど、実際はフロアにミッドとハイが上げた分だけうるさく出ちゃってる、みたいな勘違いのケースが結構多いんですよね。でも、XYを入れてる時のSALOONは全く一緒だったので、DJがモニターしながら狙ってる音がフロアでもちゃんと再現されててビックリしました。
村井:メインスピーカーの音を聴いてからモニターの音を聴いた時に、音が違っているとミスリードしてしまいますよね。そこはアジャストしました。
Gonno:いままでのスピーカーだと、SALOONではベースと高域にフォーカスしたようなサウンドだったので、例えば凄くミニマルな音とか、ダブとかには適していると思うんですけど、僕はどちらかというとハウスもテクノも、って色々なジャンルをかけるんですよ。そうなると再現性がちゃんとしていて、音が限定されないスピーカーというのが重要なんですよね。だからこの間の『rural presents ‘ANEMONE’』の時は本当に嬉しくて。なかなか無いんですよ。
ーークラブ向けに作られたサウンドシステムですが、テストの際にはいわゆるクラブミュージック以外のジャンルの曲をかけることもあったのでしょうか?
村井:はい、そうですね。どの曲というのは言えませんが、基本的にはやはり90年代の後半以降はCDに記録される楽曲のレベルが圧縮されて、ダイナミックレンジが非常に少なくなってしまったのです。小音量のところがなくて、パツパツに音が入っているので、音響システムのチェックに不向きです。いわゆる現代的なダンスミュージックって、圧縮をかけてダイナミックレンジが少ないものが多いので、それだけでやると小音量の時にもちゃんと鳴るかの評価ができなくなります。なので、まず様々な曲をかけることはやっています。僕も新しい音楽はアップデートしていくのですが、レファレンスとなる曲はDJ商品の開発をやっている時からずっと使っているものを使っています。アーティストさんにDJ商品の評価を依頼した時に、「どんな曲を使ってチェックしていますか」と伺って学んだりはしていますけど、ダンス・ミュージックは作るけども、音響のチェックだったり、音質の評価をするのに、ダンスミュージックだけだと本当に限定的になってしまうので、生音系と、年代違いは様々変えて、必ず聴くようにしていますね。ヴォーカルも、女性ヴォーカルと男性ヴォーカルを聴いていますね。
Gonno:僕の最初の印象としては「現代的な音だな」と思ったんですけど、SALOONとかにインストールすると「クラブっぽい音だな」とも感じましたし、最初にお話されていたRichard Longの設計図から着想を得ているという話とか、現代的なものに対応できる最新型なのに、古き良きという部分もしっかり備わっていて面白いですよね。
村井:新しいテクノロジーはどんどん出ていますけど、クラブの遊び方自体がガラッと大きく変わらない限りは、スピーカー自体もそこまで無茶な変化をする必要がないかなという気はするので、例えば新しいエンターテイメントとして、DJがいないけど、クラブに100人いて、その100人はそれぞれ別の音が聴こえる環境を作るという風になると既存のスピーカーでは絶対に実現できないので、ヘッドホンを使うとか、もの凄い指向性の強いスピーカーを100個使ってスポットで音を鳴らすとか、そういうことをする場合は音を届ける仕組みを全く変えなきゃいけないと思います。いわゆる、いまのクラブの構図は昔から変わっていないので、それなのにものだけが形もサイズも大きく変わることは無い気がしますね。だから、70年代に良い音だと思ったものより、いまの方がより良いと思えるものがたくさんあるかもしれないですが、全く違うものでなきゃいけない理由はないと思うので、だからこそ継承することに意味があるのじゃないかと思います。
Gonno:あぁ、その継承の考え方は素晴らしいですね。
村井:ただ、かけるコンテンツと作る環境というのは大きく変わっていて、昔はアナログの機材を使っていて、いまはデジタルの機材を使っていますよね。なので、音色やコンテンツの音自体が変わってくるので、昔は必要とされなかった帯域が重要となってきたジャンルとか、そういったところに対しては対応していく必要がありますね。
ーーいまはレコードをかけるDJもいれば、CDでかけるDJもいて、デジタルでかけるDJもいると思うんですけど、再生する音源のフォーマットに関しては何を重視して開発されるたんですか? やはりいまはデジタルを主流として作るんですか?
村井:そうですね、弊社はDJ機器だとCDJ、DJミキサーと扱っているので、基本的に音源ソースとしての優先度を高くしているのはCDJから再生された音にしています。アナログターンテーブルとレコードで音響調整を行おうと思うと、盤の質、カートリッジの状態、また再生していると盤もカートリッジも消耗してしまうように変動要素が多過ぎて参考にならないです。それを参考に評価していくと、今日評価したものと全く同じ環境を5年後に構築できるかというと、全く同じものは構築できません。なので、参考評価を取るのにはデジタル機器を使って確認しています。
ーー音源がデジタルフォーマットの場合は、またMP3やWAVといったバージョンが出てきますよね。
村井:そうですね。でもまずMP3は評価には使わないですね。MP3を再生するプレイヤーの場合、MP3を再生した時の音の評価はしますけど、いま私が担っている音響システムに関しては、MP3を使っての評価は重要視してないですね。でも言われて気付いたのですが、MP3で評価もやらないといけないかもしれないですね(笑)。良い音の音源の時は良く鳴るけど、MP3はどうだろうって勉強しないといけないですね。
ーーそういったデジタル・フォーマットの話は以前GonnoさんもTwitterでされていましたよね。「PCM音源でしかプレイしないと決めていたけど、折角プロモで良い音源をMP3で頂いているのに、そんな個人的なこだわりでかけないのは良い音源に失礼になってしまう」とのことでした。
Gonno:ありましたね。フォーマットによって音楽が左右されすぎちゃうのは逆に矛盾しているという話ですよね。とはいえ、優先順位でWAVだったりAIFFだったりをかけてしまうんですよ。 やっぱりそっちの方がキックのアタックとか良い音が鳴るので。でもヨーロッパってまだネットの環境がナローだったりするので、MP3でプロモを配布しているところが多いんですよ。なので、MP3もなるべくプレイして、曲の良さを伝えるのも重要だと思うので、工夫しなきゃなとは思っていますね。
村井:実際「320kbpsだと問題ないよ」という意見も非常に多いですよね。そもそも音源はMP3だけど、コンソール卓、グラフィックイコライザー、アンプ、スピーカー、環境っていう音響システムが、MP3とWAVを聴き分けられる環境になっているかとなった時に……。
いままでvinyl/flac/wav/aiffなどのPCM音源しかDJでプレイしないと決めていたんだけど、もうやめようと思いました。買うものはそれらに限るけど、折角プロモで良いmp3を頂いて、そんなフォーマットのちゃちな理由で掛けないのは曲そのものに対して失礼だなとふと思った。
— Gonno (@gonno_desu) 2015, 3月 6
本当は高音質でプレイしたいのだけど、例えばヨーロッパはネットのインフラも日本と比べ劣っていて、mp3でプロモを配ることがとても理解できます。プロモいただいてどうしても高音質で欲しい場合は、買い直す、そう決めました。
— Gonno (@gonno_desu) 2015, 3月 6
ただし192〜254kbpsのmp3はやっぱり音が響かないのでちょっと…という感じ。320kbps、Apple LosslessはOKラインだと思ってます。
— Gonno (@gonno_desu) 2015, 3月 6
Gonno:なってないんですよね。
村井:音響システムの方である一定の質に落とされてしまうと、音源よりもシステムをメンテナンスしないとってなります。なので、音響にお金のかかっていないところになればなるほど、音源がいくら良くてもある一定のところまで落ちてしまうので、そこはシステムによりけりです。でも逆に、システムが良くなればなるほど音源の差がわかりやすくなります。この間、UCラウンジで使った時に、左のターンテーブルのカートリッジが消耗してしまっていて音があまり出ていないことがわかったことがあります。実際になんでそんなことが起こったかというと、通常はシステムに入っているコンソールとかを通してなかったので、粗が見え過ぎてしまったのです。弊社がいまデモで使っているスピーカー類は再現性が高いので、消耗まで見えてしまったのです。ただ、再現性を追求し過ぎることが本当に正しいのだろうかと疑問に思ったところも少しあって、ある意味DJ商品の方なのか、音響システムの間なのかはわからないのですが、あるキャラクターにまとめあげることも必要なのかなという気もしまして。なので、原音に忠実にというのをそのままスピーカーに反映させたものがクラブに相応しいかというと、やはりそうではないのだろうなと思います。どちらかというと“現場に相応しい鳴らし方だろうな”を実現する方が、音の出口の考え方として優先すべきなのではないかなと思います。入り口に近いものほど入り口に近い環境に併せて対処して、出口に近いものほど出口の環境に併せて対処して、音を作って、再生して、まとめあげて、空間を震わせるという処理を全部前で行うのもおかしいですし、全部後ろでやるのもおかしいし、それぞれのポイントで対処するものを持つべきだと思います。音源の種類が違うものを全部良い音で鳴らすスピーカーがありかというと、あまり私はそっち側ではなくて、音源に対しての差異を埋めるというのはやはり再生機やミキサーで本来は吸収してあげるべきだと思います。というのも、もともとDJ商品の企画をやっていて、その後に音響に移ったので、どちらの方もわかるだけに、何をどちらでやるべきかが昔以上に明確にわかるようになりました。
Gonno:原音に忠実にってなると、DJも大変ですよね。
村井:精神衛生上、曲をかける前にチェックしなきゃいけなくなったりしますしね。
Gonno:それもそうですし、もう突き詰めると、The Loftの“テンポを変えないで、ミックスしないで”っていう思想になってきちゃうんですよね。それって観賞用としては素晴らしいと思うんですけど、ある1つの形として徹底しないと成立しない感じはしますよね。
村井:The Loftスタイルは良し悪しではなくて、そういう楽しみ方ってことですよね。曲を作った人の気持ちを100%理解するのを、演奏者ではないところから1曲1曲に対してしっかり向き合うという楽しみ方だと、アーティストが作った時のマインドを100%伝える方が良いという形になると思いますね。もう一方では、曲はツールとして、DJは表現者としてあった時に、絵の具のような発想で作られた曲を使って絵を描くようにミックスしていくDJプレイをしてくれた時に、そこでキャンバスになるようなものとして音響空間があると思うので、そうなるとThe Loftの思想とは凄い対極になりますよね。
Gonno:個人的には、やっぱり後者の方が良いですね。曲が混ざっていって新しいヴァイヴが生まれるという方が良いと感じてDJを続けているので。個人的にはそっちの方が酔えるんですよね。正確な音響でなくても酔えれば良いと思うんですよ。でもわからないな、年取ったら、The Loftみたいな思想になるかもしれないです。
ーーなるほど。これはまたさっきの話に戻る部分もあるんですが、以前、村井さんとお話をさせていただいた時に、「サウンドシステムを作る仕事は技術的なことだけではなくて、クラブに来ていただいたお客さんに最高の空間を味わっていただくための研究をしているんです」と仰っていましたよね。村井さんが目指している最高のクラブの空間とはどういう状態なんですか?
村井:最高って人や時間帯によって違ったりすると思いますが、例えば『rural presents ‘ANEMONE’』のGonnoさんの時間帯に良いなと思ったのは、通常だともう終わっている時間なのに、アフターアワーズとして踊り足りない人が精根尽きるまで踊るという時間が最後まで続いたことですね。お客様が疲れ切ったというよりかは、満足し切ったからというところで終わったように感じて。
Gonno:そうですね、ちょうど良かった感じがしましたね。
村井:当然、DJさんのセンスが無くて、好きな音を淡々とかけているだけだったら途中で疲れてきて、もういいかって、満足しきったのでは無くて、時間で飽きて帰っちゃうという感じになりがちかなと思うですが、最後の最後まで本当に満足し切っている時間がもっと続けば良いなってみんな思っているように見えましたね。Gonnoさんの音を表現する音響を用意したのとで、上手くマッチできたのだとしたら、凄くベストだったかなと思いますね。でもベストって何だろうって思った時に、ベストをひとつのものとして固定してはいけないのだなと感じましたね。
ーーでは、Gonnoさんはいかがですか?
Gonno:例えば、イベントが10時オープンだとして、自分の出番が早い時は通常の半分ぐらいの音量から始めたりするんですよ。でもそれもひとつの演出なんだと思うんですよ。そこからだんだん大きくしていって、騒ぎたいときは音量をマックスしにして、みたいなことは。あと、たまにオーバースペックなんだけど音量をドンと鳴らしてビックリさせることも演出としては、あったりもするんですよ。だから、一部の時間にフォーカスして欲しくないというところがあるんですよね。美味しいところをつまむというよりも、全部のストーリーを体感して欲しいというのが僕はありますね。僕もクラブに行くので、『rural presents ‘ANEMONE’』でプレイしていたあの時間とかはもう酔っぱらいながら居るんですよ。大体あの時間にかかっているのは、ミニマルとか、とにかくビートをキープする音楽なんですけど、僕としては最近それに飽きてきてしまっていて。よりあの深い時間でも多彩な音楽を聴かせたいっていうは凄いありますね。1番みんなが帰るか帰らないかの瀬戸際だと思うので。
ーー今回のGS-WAVEシリーズとXYシリーズは、クラブという現場に新たな音響空間をもたらすことになるモデルですが、今回のシリーズが今後ますます発展していくと、クラブから飛び出したところで音響空間を設計することにもなってくるかと思います。いま挙げた例は少し先過ぎるかもしれませんが、いま現在から見た今後の展望を教えてください。
村井:まず、いまのクラブ向けのスピーカーに関してはまだ完成だと思っていないので、いまはラインナップの拡充を考えています。クラブの次は、ライヴハウスかバーラウンジか、その両方を狙っているところではありますね。クラブの二面性って、ライヴ会場と飲食の場というのがあるので、XYシリーズはライヴというよりも飲食の場で使えるようなものになっていると思うので、飲食関係の現場でもっと扱いやすいものを持ちたいなと考えています。 国内においては2020年に東京オリンピックを控えていますので、2020年に海外の方をお招きした時には、 国内の音が鳴る環境に対しては弊社の商品で海外の方をお迎えしたいなと思います。あらゆる場所で、お客様の楽しみ方にちゃんと合わせたものをご用意して、 「日本ってどこに行っても良い音だね、良い場所があるね」って言っていただけるようにしたいなという野望はあります。
Gonno:それは素晴らしいですね!
村井:例えば、開会式でGonnoさんがDJをされる場合に、日本って会場も良いし、セレモニーも良ければ、DJも良くて、音も素晴らしいなって思っていだければいいなと思いますね。
Gonno:開会式でDJはないだろうなー (笑)。観光で来る外国人の方もたくさんいらっしゃると思うんですけど、その時にどこのクラブ行っても、どこのライヴハウス行っても、どこのバーに行っても、全部良い音だなと思ってもらえれば、例えば僕みたいな立場でも変わりますよね。「日本のミュージシャン、DJってどうなってるんだ?」っていう方向にも関心が向いてもらえれば有難いですね。
村井:そこに、日本に本社のある弊社が、国内ブランドとしてちゃんと普及したいですね。DJの文化って、市場としては欧米の方が大きくて、文化としての成熟度も欧米と比べるとまだ小さいですが、オリンピックに向けて文化の域からビジネスに関わるように成長する可能性もあると思うので、そこにちゃんと乗っかって弊社としてちゃんと場所を提供できるようにし、商品の提供とサービスの提供を行えたらと考えていますね。あと、弊社だと作ったものを買ってもらうというところでビジネスをしていますが、ゴールがものを作って買ってもらうではなくて、特にDJ商品の場合は、あくまでその先にエンターテイメントが存在しているので、ただ売れたから万歳ではなくて、先ほどGonnoさんが仰っていただいたような良い時間を作ることがゴールです。で、またそれが弊社の製品であれば世界中のどこでも同じように思いのままにプレイできるようにこだわっていますし、音響機器に関してもこれというだけじゃなくてテクノやハウスなど様々な音楽表現を許容できる範囲で対応していく、そしてその先にクラブとバーの売り上げが上がるような時間帯を設けられたらと思って商品としてはどうあるべきかということを考えて仕事はしていきたいなと。薄々とそういうことは感じていましたが、改めて使われている現場を見ると、やはり現場だなと思いますね。
Gonno:最近サラウンドとか22.2マルチチャンネルに興味があって、クラブミュージックもそろそろ歴史が長くなってきたので、クラブとは全く違った環境でクラブミュージックは成立するのかということは試してみたいですね。
村井:いまのところは多分映画館がフロントだけじゃなくて両サイドにもスピーカーがあるので、手軽に楽しめる立体音響だと映画館が良いと思いますね。特に3Dの映画とかは前後に動くのを意識しているので、映像以上に音作りの前後移動を意識しているなと思いますね。
Gonno:Larry Levanとかは映画館に行って、Richard Longにあんな音響にしたいと言ったみたいですね。例えば、ステレオで鳴ってる音に、1つだけ高周波の効果音を付けるとか、っていうのをミキサーで操作できたら面白いんじゃないかなと思います。
村井:お客様の期待があって初めてそれに答える場合も、こちらから世に無いものを提案して関心をいただくという両面が非常に重要かなと思っているので……何より、私たちはPioneer=「開拓者」という社名になっていますので、挑戦はどんどんできたらと思います。
Gonno:開拓者は大変ですよね。
村井:でも、どちらも大事だと思います。Charさんというギタリストの方の2インタヴューを2年前ぐらいにテレビで見たものが凄い記憶に残っていて、6本の弦と24フレットの中で表現できる音楽はまだまだ出切ってないはずだと仰っていて、それに凄い感銘を受けました。そういった意味では、このGS-WAVEとXYはそれに近い状態だと思います。既存のフォーマットではあるけど、まだまだ追求できるところはあると思います。ちゃんとそういったものは可能性を把握しつつ、これからは世の中になかったものを、スピーカーの技術だけじゃなくて、その他の技術が進化することで、融合して新たなエンターテイメントが生まれるということはあると思うので、クラブのサウンドシステムだけに捉われるのではなく発掘とか提案とか商品提供はできるだけ行って、広げることができたらと思います。
After Talk
ーー『rural presents ‘ANEMONE’』でのGonnoさんのロングプレイは顕著だったと思うんですけど、Gonnoさんはジャンルも多様に使われますし、前半から後半にかけて大きく変わっていきますよね。
Gonno:そうですね。あれは僕のやりたいことなんですよ。僕は、テクノもハウスもどちらも良い音楽なんだよってことを伝えたくて。僕の技量がまだまだということもあるかもしれませんけど、それを上手く鳴らせるサウンドシステムがなかなか無いので、『rural presents ‘ANEMONE’』の時は限りなく上手くいったんですよ。
村井:Gonnoさんのプレイはこれまでに何度も体験しましたけど、あの時Gonnoさんがプレイされた3時間ぐらいは本当に神懸かっていて、松原君とずっと語り合いながら体感していましたが、私自身も楽しかったですし、あの時にフロアにいたみんなの楽しみ様は素敵でしたね。
Gonno:面白かったですよね。確か最後にTerry Rileyとかかけてたんですよ。“これでみんな帰りましょう”っていうつもりでかけたのに、まだ10人ぐらいフロアで揺れてましたからね。良いパーティーの光景でしたね。だから、自分でも多分DJが良かったんだろうなって思いましたね。
ーーTerry Rileyかけてましたね。神秘的でした。
村井:Gonnoさんのプレイにほんの少しでも協力できたのなら、良い結果なのかなと思うので、嬉しく思います。
Gonno:いえいえ。幅広くダンスミュージックを再現できるとなると、さっき仰っていたラインアレイ・スピーカーは幅広く再現できるんですけど、なんと言いますか……冷静に聴いちゃうんですよね。クラブ的な雰囲気が出にくいというのはあるかもしれませんね。僕は個人的にラインアレイが大好きなんですけど、やっぱりクラブ的な雰囲気となると、四隅にスピーカー が置かれていて、真ん中に良い音がフォーカスされているというのが1番クラブの音としては理想的だと思いますね。
村井:そうですね。耳で、理性で聴くというよりも、もっと動物的に感情に直接訴えかけるものという例えになりますかね。
Gonno:そうですね。クラブって、先ほど村井さんが仰っていたように音楽だけを聴きに行く場所ではないと僕も思うんですよね。目当てのアーティストを見終わったら帰るというものでもないですし。 演劇を楽しむように、一晩の演出を長く楽しんで、その場にいるお客さんとかも役者だったり、というのが理想であるべきだと思うんですよね。
ーーDJもオーディエンスの反応を見ながら、かける曲を変えたりしていきますもんね。
Gonno:そうです。例えばライヴは、演目があって、曲ももう変えられなくて、リスナーが一方的に吸収するものだと思うんですね。DJの理想的な状態って、長時間お客さんと交互に交換ができるというか、そんなに高度なものではないんですけど、ミュージシャン同士がセッションするように、お客さんとDJとでもセッションができてしまうような感覚になれるんですよ。だからお客さんが楽しそうだとDJも楽しそうになっていって、お客さんが悲しそうだとDJも悲しそうになっていって、それで演奏が変わっていくので、それが長時間できるというのはクラブの醍醐味になりますよね。なので、ちょっとライヴとかコンサートとかとは違った雰囲気であるべきかなと感じますね。
村井:いまスピーカーをクラブなどに持ち込んだりしていますが、持って行ったスピーカーを1番良い状態で鳴らすというセッティングをしてもそれがクラブにとってのベストサウンドかというと、決してそうではないということは回数を増す毎に実感をしていて。『rural presents ‘ANEMONE’』の時も、人が入ってくると音が変わったり、チューニングをし直したりということがありましたし、あとはその後日UCラウンジに持ち込んだ時に、Milkやyellowといったクラブの時代からやられているお店の店長の加山さんと黒崎さんがずっとお客さんの楽しみ方を観察されていて、 それとタイムテーブルのどこが1番盛り上がりのDJになるかというところの両方を照らしあわせながら、「音量もう少し上げましょうか」とリクエストしてくださったこともあって。それって、社内で音を聴くだけだとわからない感覚だと思います。現場で1番大事にしているものが、お店の方からしたら中心となる魅せるDJとその前後を支えるDJと、ってタイムテーブルを組んでどちらに比重を置くかと考えたり、ここはDJを皆見るような楽しみに方にしたり、もう少し待ってお客さんが向き合って会話をするような時間にしたりだとか、その辺はやっぱり音響チームだけだとわからなくて、お店のひとりであったり、タイム キーパーの方だったりと会話をしないと何がベストかというのはわからないです。ただスピーカーを持って行くだけでは、絶対にわからないことだったなと現場で色々学びましたね。
ーー僕としては、GonnoさんのDJは比較的曲に忠実というか、ミックスをしていても曲の1番の魅力や大サビみたいな部分はそのまま伝えるDJをされている印象ですね。以前、Ben UFOにDJする時に意識していることを聞いた時に、「DJの仕事は曲そのものの良さをオーディエンスに伝えることだから、それなりのレングスで、ピッチもあまり変えずにかける」と言っていて。なので、GonnoさんのDJスタイルはBenと近いなと思っていました。
Gonno:確かに彼は曲をしっかりかけてますよね。でもそんなBen UFOと比較してくれるなんて恐縮です。
ーーなので、曲のサビとなる部分をかける時の、サビの部分に対してのイントロとアウトロもしっかりとかけることを意識されているのかなと思ったんですが。
Gonno:実際はそんなに意識はしてないですよ。多分僕の世代って、ちょうどNYガラージとかディープハウスとかが日本で最盛期ぐらいの時にクラブで遊び始めて、DJを始めた世代なんですね。その直後にテクノとかトランスとか出てきたので、ディープハウスとテクノの狭間の世代だったんです。例えば、テクノとかはDJをする時にトラックをツールとして捉えて使ってミキシングしていくっていう醍醐味が強いと思うんですよ。ヒップホップもそうだと思うんですけど。一方で、NYハウスとかガラージは曲を聴かせるという感じが根強く残っていて、僕は多分その両方を体感してきたんですよね。なので、『rural presents ‘ANEMONE’』の時は曲をしっかりかけるのを大事にしてたかもしれないですけど、していない時もありますね。3つ使ってずっと混ぜっ放しということも結構あります。でもそれって逆に良いところもあって、古い音源ソースって現代的なキックやベースが出てなかったりするので、1つのCDJでループさせておいて、キックとベースを足すこともできるんですよ。ちゃんと現代的に踊らせることもできて、メロディーもそのまま残せるっていう良さがあるんですよ。それはちょっと俺得なんですよね(笑)。結構シチュエーションによってバラバラだと思います。