Pioneer DJ DJS-1000 Workshop in TDME’17
Text : Hiromi Matsubara
2017.12.26
DJシステムに変革をもたらし得る新たなサンプラー
DJS-1000はクラブシーン、DJカルチャーに変化をもたらす機材となるのだろうか。発表と合わせて公開されたプロモーション映像では、Luciano、KiNK、UNKLE、Cassius、Gorgon CityがDJS-1000の機能と利便性について語り、すでに大きな話題となっている。そして去る11月30日~12月2日に開催された『TOKYO DANCE MUSIC EVENT』にて、ワークショッププログラム『Pioneer DJ Workshop: DJシステムに新たな彩りを与える、パフォーマンスDJサンプラー「DJS-1000」』が行われた。デモンストレーターとゲストスピーカーにはFake Eyes ProductionのShigeo JDとMustache Xが登場した。
まず、登場直後にFake Eyes Productionがパフォーマンスを披露。セッティングは、2台のCDJ-2000NXS2と、1台のDJS-1000を、DJM-900NXS2に接続。今回のパフォーマンスのスタイルは、Shigeo JD曰く「Mustache Xが起こした波の上で僕がサーフする形でした」とのことで、Mustache XがCDJを使ったDJプレイを行い、その音の上にShigeo JDがDJS-1000で音を重ねていくスタイルで行われた。パフォーマンスではDJS-1000に搭載れている機能を一通り使用したそうだ(DJS-1000の機能についてはこちらのNews記事をご覧ください)。
パフォーマンス後にはDJS-1000を巡ってのトークセッション。Shigeo JDはDJS-1000の衝撃について、「サンプラーをCDJと同じ形状にして、ブースに入れ込もうとするPioneer DJさんの意気込みが半端じゃないなと思いました」と語った。従来のライヴセットあるいはDJとハードウェアのハイブリッドセットとなると、機材やPCを持ち込んでセットアップをする必要があるが、DJS-1000はブース内でのセッティングに大きな手間もかからず、7インチ大型タッチディスプレイも搭載しているのでPCを設置する必要も無い。なおかつ、「もし今後クラブに設置されたら、プレイ中の余裕がある時にCDJ感覚で使うことができますよね。データのセーブとロードもUSBで手軽ですし(Shigeo JD)」という通り、パフォーマンスパッドとステップシーケンサーでの直感的かつ手軽な操作でノリ良く演奏することができる。
また、Shigeo JDはDJS-1000を制作機材としても高く評価。「友達が家に遊びに来て“曲を作ろう”となった時に、PCが1台だとマスターが1人になってしまうけど、DJS-1000はステップシーケンサーもパッドもあるので、ハードウェアとしても充分に使えます。ハードウェアの良さをしっかり踏襲しているのが良いです。液晶とパッドの色が一体なので視認性も高いですしね」。実際にスタジオで今回のパフォーマンスのリハーサルをしている際に、Mustache Xが「触ってみたい!」と言っていたエピソードもあったという。
さらに、「Fake Eyes Productionの曲に、Fake Eyes Productionのサンプルを重ねるというのは新鮮で面白いなと思いました(Mustache X)」、「DJS-1000を2台とCDJを1台のセッティングでも、DJS-1000からDJS-1000へ、DJS-1000からCDJへという様々なキャッチボールがし易いと思います(Shigeo JD)」と、今後のFake Eyes ProductionのDJパフォーマンスでDJS-1000を活かしていける可能性についても語った。
DJS-1000はシーンに変化をもたらす可能性を秘めている。そのひとつは、プロデューサー/トラックメイカーが増加する可能性だ。
私の実感を交えると、私の知人を始め、都内のクラブで頻繁にDJをしているけどトラック制作をしていない人の割合はそれなりに多い。そのほとんどが、制作することに興味はあるけど実際に手を出すことができない(あるいは、どこから始めたら良いのか)という理由で踏み留まっているようだが、「海を渡ってDJをして名を上げたいのであればトラックを作る(そしてリリースする)ことは最優先事項」というのはよく聞く話である。DJミックスがオンラインでいつでも聴けるようになった今でも、トラックを制作して発表することが一番のプロモーション。ライターをしながら時々DJをしている私でさえも、実際に海外のアーティスト/DJと話す機会があると彼らから「トラックは作ってないの?」と質問されるのだが、これもDJの知人たちの間ではよく聞く話である。例えば、現状ではトラックを作ったとしてもDJで披露するとしたら再生ボタンを押してミックスする以外にない。制作時の機材をブースに持ち込んでライヴセットを行うのは、さらなる労力も別のスキルも必要になる。
しかし、そういった状況下でのDJS-1000の登場と、さらなるクラブへの常設が進めば、今後ますますトラック制作に対するハードルを下げていく可能性があると思うのだ。DJS-1000があれば、仮にトラックが完成形に達していなくても、そのためのスケッチとしてソフトウェア/ハードウェアで作り貯めたキックのパターンやメロディーやサンプリングなどのパーツをUSBでブースに持ち込んで、従来のDJプレイとリンクをさせながら演奏することができる。そして様々なパーツを作り貯めているうちに、気付いたら素晴らしいトラックが生まれるパーツが揃うかもしれない。もちろん前述のShigeo JDの発言の通り、DJS-1000はサンプラーとしての機能やプリセットも充実しておりトラック制作もできるので、初めて購入する機材としても十分に検討する余地がある。
Pioneer DJは約25年にわたるCDJの進歩と普及と共に、DJにおけるポリシーにも多様性を与えてきた。いつかDJS-1000によって新世代のアーティストが本格的に登場した時、DJS-1000を巡って、かつてのCDJとヴァイナルDJの論争のような賛否両論が起こるかもしれない。しかし、先駆者こそ固定概念の破壊から新たな道筋を作っていかなければならない。DJS-1000はそういう気概の込もった機材なのである。