寿司シーケンサーとか街角巨大シンセとか、大がかりな仕掛けで注目を浴びている東京で現在開催中のRed Bull Music Academy。

 

今回東京で開催するに当たって、何かしら日本に関係したことをやりたかったんだろうと思いますが、その一連のプロジェクトの中で一番重要だと思ったのは日本のビデオゲーム・ミュージックのドキュメンタリー「Diggin’ in the cart」 です。10分ほどのビデオで6編に渡ってまとめられていて、全部見るのは大変そうですが、僕はある週末に見始めたら面白すぎて時間を忘れて一気に観ました。当時のゲーム音楽に携わったクリエイターや関係者へのインタビューを中心にまとめられたこのドキュメンタリー、必見です。

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そうそう、ゲストのコメンテーターとして現役で活躍しているミュージシャン達、Just Blaze、Thundercat、Flying Lotus、J. Roccなど有名なところがフィーチャーされていることが最初話題になっていて、タイトルから彼らが中古ゲーム屋でただ同然で売られている昔のゲームソフトを叩き買って遊ぶだけの酷い内容を想像したのですが(笑)違いました。ちゃんとミュージシャンの視点からもゲーム音楽を音楽として掘り下げる意味のあるドキュメンタリーでした。というか、先に名前を出したミュージシャン達はほとんど物心ついた時期にリアルタイムでゲームをプレイしていて、音楽に興味を持って色々レコードを聴き出したりするより早く、子供時代にゲームを通して音楽を知ったということがこのドキュメンタリーで語られているんですね。そしてゲーム音楽のクリエイターにもレゲエに影響を受けたという人もいれば、ロックサウンドやクラブを意識して作ったという人もいたり、その当時の音楽が反映されていたことがわかります。それを聴いて育った世代が今の現役ミュージシャンになっているわけですから、本当にゲーム音楽の及ぼす影響や可能性は馬鹿にできないと改めて思いました。

 

最初は音楽というより効果音の役割だけだったのが、BGMの役割を担い、限られた音数やハードウェアの制約と格闘しながら段々と音楽らしさを獲得していく、というかその時代時代の音源チップでどれだけやれるのかというある意味ミニマリズムのような音楽的挑戦がそこにはあったのです。音楽を制作する人が自分でサウンドドライバーを作っていた大変な時代もあったというエピソードまで出てきます。我々が遊んでたあれはどんだけ手がかかっていたのか、と今になって驚かされるわけです。

 

それと個人的に興味深かったのは、日本からはゲーム音楽のクリエイターの他にコメンテーターとしてHarryさんという方が出ていたこと。もう10年以上前にゲーム音楽やチップチューンに関するサイトVORG(現在更新休止中)を運営していた方です。まだ当時そういう音楽を楽しむことが本当に稀なことだった時代だったのですが、日本語・英語で国内外にゲーム音源のエミュレーションするための情報などを発信していたのを僕も読んで覚えていて、「ああ、あのサイトの人か!」とびっくりしました。僕も自分でゲーム音源を使って何か作ることはなかったのですが、その世界では有名なサイトでよく見ていました。

 

ゲームが制作されて20~30年経っていますが、まだ関係者も元気でこういう記録を残すにはちょうどよいタイミングだったのだと思います。また単純に記録を残すだけだったら興味のある人しか見ないけれど、現役の有名なミュージシャンも巻き込んだことで、広い層にも届く。それで、Red Bullはいい仕事してくれたなとは思うのですが、日本のポップカルチャーやストリートカルチャーを積極的に支援する企業といえばいつもNikeやRed Bullで、こういうことを日本が自らなぜやっていなかったのかとも思います。だって自分たちのことですから、「海外が評価してくれた」とか「海外でこれが売れた」という結果から逆算してこれから何を売り出すか考えるだけでなく、海外での評価も参考に今までの自分たちの文化の最良の部分は何だったのか振り返りの視点で考える機会も持ってほしいと思うのです。政府の支援を受けてクールジャパンも立ち上がりましたが、ああいった動きは別に、日本人が外向きに自分で品よくアピールできるようになるといいなと思います。

 

レトロゲームの海外流出を巡る現場の声

 

こんなtogetterのまとめもできていますが、日本人が売りに行かなければ外から人が来て買い取って持っていくという現状があるようです。まあ著作権の問題を別とすればエミュレーターがあるからゲームをプレイできなくなることはないんでしょうが、買いしめられていくのはやはりいい気持ちがしない人が多いようですね。でも、こういうことが国外に目を向ける機会になればいいなとも思います。