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Report

ULTRA JAPAN 2015

  • 2015.09.19(Sat) / 20(Sun) / 21(Mon) @ TOKYO ODAIBA ULTRA PARK
  • Text : Hiromi MatsubaraPhoto : ©ULTRA JAPAN 2015

  • 2015.11.23

  • 9/10
  • 2/1 追加
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  • 2/1 追加

DJとオーディエンスが示す、ダンスミュージックが日本のエンターテイメントを牽引する可能性

これは今年の夏にZeddのパフォーマンスを観た時にも思ったことだが、現在のポップミュージックを世界規模で席巻しているDJの下に集まるオーディエンスは、想像以上にピュアに音楽を楽しんでいる。日常的に聴いているのか、この『ULTRA JAPAN 2015』(以下、ULTRA JAPAN)のために前もって聴きこんでいるのか、知っている曲であれば全て一緒になって歌い、例えハードな4/4ビートのハウスライクなトラックでも、ヒップホップの派生スタイルとして近年のUSシーンから勢いを増しているトラップやトワークのトラックでも、縦ノリ……というか垂直にバウンスバウンス。もう跳んでノっている人がたくさん。それも昼から夜まで。本当にタフだなと思いながらも、これは「大好き」という気持ちからやってくる姿勢以外の何物でもないとも確信をする。ダンスミュージックに対して変にバイアスがかかっておらず、「どういう展開で何が起こるのか」というDJたちのプレイスキルよりも「あの人があのヒット曲をかけるか」の方に圧倒的に関心があり、ただただEDMというハイテンションな音楽が鳴り響いている空間を心底純粋に楽しんでいる人が多いように思えた。これはおそらく都内のクラブのフロアでもなかなか見ることのできない光景で、かなり新鮮だったし、圧倒もされたし、想像以上に美しく見えた。

 

その一方で、DJたちのパフォーマンスは、DJミキサーの左右にCDJが2台ずつ並んだ至ってシンプルなセッティングのDJブースを基本として、トップバッターからヘッドライナーまで終始繰り広げられた。例えばSkrillexがフェスでパフォーマンスをする際に乗っている奇妙な戦艦型DJブースのような、特別な演出マシーンなども持ち込まれることもない。もちろんJustin Bieberが登場することもない。映像演出も同じスクリーンを使い、ライティング機器も同じもの。メインステージ、RESISTANCE(初日のみULTRA WORLDWIDE)、UMF RADIO、全てのステージで共通していることだ。少し誇張しているような言い方にも見えるかもしれないが……、要するに、DJたちは皆ほぼ同じスタート地点から各々がその時々の状況に応じたプレイをするという、ある種のストイックな勝負を求められている。それがDJでしょ、と言われればそうなのだが、前述のような面白い展開を作り出すプレイスキルや、トラップをトレンドのサウンドとしてフロアで感じることをひとつの楽しみとして念頭に置いているわけではないオーディエンスを盛り上げるとなると話は別なのだ。そういう点では特にメインステージはシビアかもしれない。どんなヒットトラックにしてもそのプレイの仕方が問われるし、オーディエンスを惹きつけるマイクパフォーマンスも大事で、オーディエンスを煽るジェスチャーや、時にはブースのテーブルに登って盛り上げることだって必要なのだ。2日目にSkrillexがプレイした、宇多田ヒカルのマッシュアップ・エディットや、いま最もノリにノっているラッパーのKOHHの“周り全部がいい”(Fetty Wapの“Trap Queen”をジャックした曲)のような、その国ならではのパフォーマンスを披露することもフロアを瞬時にロックするための重要なポイントなのだ。時々、EDMのトップアーティストたちを「USBたった数本で世界を回るだけで……」と揶揄するような話が馬鹿げてくる。AFROJACK、Skrillex、David Guetta、Nicky Romero……今年の『ULTRA JAPAN』のヘッドライナーに名を連ねている、いまをときめくDJたちはいつでも楽しそうに慣れた動きで軽々とプレイしているが、彼らのアーティストパワー、エンターテイメント性、テクニックなどなどはとんでもない鍛錬から成っているのだ。並大抵のことではない。ステージを観て、オーディエンスを見れば、その凄みはすぐさま伝わってくる。

 

『ULTRA JAPAN』は今年で2回目。日本にこのダンスミュージック・フェスティバルが定着しているかどうかの答えは数年後に先延ばししたとしても、日計の動員数も、開催による経済効果も、多角的なメディア露出も、企業のサポートも、どれを取っても遥かに増えたことは確かで、チケットは今年も即完だった。個人的には、一度もダンスミュージックの話をしたことがなかった友人とも『ULTRA JAPAN』の話題で盛り上がり、思わぬところでイベントの波及を感じることがあった。トレンドに乗って、モードのファッションに身を包んで遊びに行って、トップレベルのDJパフォーマンスを体感する。色んなカルチャーが混ざった贅沢なエンターテイメントだ。また別の側面では、今年のRESISTANCEの導入や、Party2style Sound、HABANERO POSSE、HyperJuice、TREKKIE TRAXのandrewとMasayoshi Iimoriといった基本型から未来型のベースミュージックを示すDJたちのピックアップが、本場マイアミの『ULTRA MUSIC FESTIVAL』の幅広いキュレーションを追随していく志向を感じさせる動きも確実に形になっている。この両方の動きが今後も順調に引き続いていけば、ダンスミュージックそのものオーバーグラウンドとアンダーグラウンドというカテゴライズが全く気にされないものになるはず。それだけでなく、ダンスミュージック・カルチャー自体も他のカルチャーと深い繋がりを持った巨大な複合文化になるはずだ。『ULTRA JAPAN』が定着したかの答えは、そういったことが実現した時に同時に明らかになるだろう。

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