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taicoclub15

Report

TAICOCLUB’15

  • 2015.05.30(Sat) / 31(Sun) @ 長野県木曽郡木祖村「こだまの森」
  • Text : Hiromi MatsubaraPhoto : Junji Hirose,Koji Tsuchiya,Makoto Tanaka,Rui Yamazaki,Ryuta Shishikura,Wataru Kitao,Yoshihiro Yoshikawa,Yuki Maeda

  • 2016.1.2

  • 9/10
  • 2/1 追加
  • 9/10
  • 2/1 追加

こだまの森と唯一無二のフェスのこの10年

止まらないフェスブーム。音楽フェスティヴァル市場はここ数年は上昇傾向で拡大を続けている。とはいえ、『TAICOCLUB』のように、10年も同じ場所と変わらぬコンセプトでフェスを続けるのはやはり困難なことだと思う。ざっとこの10年を振り返ってみても、すっかり開催されなくなってしまったフェスもあるし、人気がありながらも不定期で行われているフェスもあって、はたまた復活したからといって大盛況とはいかなかったフェスも様々思い当たる。市場が拡大しているからといって単純に状況が良くなっているだけではないのがリアルなのだろう。そんな中で『TAICOCLUB』は2015年にめでたく10年目を迎えた。みんなが集ったのはいつも通り長野県は木祖村、木々が生い茂る、こだまの森だ。

 

『TAICOCLUB』は、国内外から様々なジャンルのバンドとDJが揃う日本で唯一のフェスと言える。またそのバランスも絶妙で、新作がリリースされれば来日が待望される中〜大型のアクトはもちろんのこと、一方ではキュレーター側にしてみれば挑戦の一手である初来日の新人アクトもいて、はたまたNick The Recordやクボタタケシ、石野卓球といった『TAICOCLUB』の歩みを知る恒例アクトもいる。個人的には、こういったジャンルレスでシームレスなフェスはこの10年の間に増えていてもおかしくなかったのではと思っていた。しかしながら、10年間、ライヴハウスやバンドのシーンと、クラブのシーンは深くは交わらず平行線も同然、むしろアンダーグラウンドでなければなくなるほどより隔絶してきた状況を少しでも見ていると、趣向が異なる良い音楽を一気に楽しめることをモットーにしているタイプのフェスがいかに多くの支持を集めるのが難しいかも理解ができる。

 

ただそういったシーンでありながらも、『TAICOCLUB』はカテゴリー別に販売されるチケットがほぼ毎回早いもの勝ちとなっているほど、安定して支持されている(その一方で、いちいち販売期間をあまり記憶していないようなゆる~やかなタイプっぽい人がそれなりにいるのも『TAICOCLUB』の面白いところである)。それは、今年僕がAkufenにインタヴューをした際の、「ロックバンドとクラブミュージックのアーティストが一緒にやるには?」という質問に対して、彼が『TAICOCLUB』を良い例として挙げながら答えた「正しい目的のもとで正しい方法でやる必要がある」に集約されていると思う。こだまの森という限定された規模感における徹底されたオリジナルな音のキュレーションと、木祖村の地元の方々への弛まぬアプローチによってこだまの森に元からあるローカリズムとが強固に結びつく、真摯な公式によるマジックは『TAICOCLUB』でしか堪能することができない。加えて、2014年からレクチャーや独自のステージといった企画で、これまでのアーティストキュレーションとコンテンツにさらなる国際性と新鮮味を与えているRed Bull Music Academyも、すでに『TAICOCLUB』の独特な雰囲気作りには欠かせないコラボレーターとなっている。

 

そういった環境の中で迎えた10年目の『TAICOCLUB’15』も唯一無二性を強く感じさせていた。木々の隙間を抜けて反響していくAutecherのハードな電磁波を、コンクリートの上に立つ特設ステージでたっぷりと味わった後に、数分坂を登っていってclammbonの優しさを野外音楽堂で感じることができるのは、世界中探してもこのフェスだけ。再び物々しいClarkの音像を体感してから、坂の上に立つRed Bull Music Academyステージから放たれるAmetsubの森に染み渡るプレイを経由して、山奥に渦巻くceroの熱量あるグルーヴにたどり着き、そこからまたMarcel Dettmannのハードなテクノセットか、A Taut Lineのアブストラクトなフィーリングに折り返すことができる、というステージ/タイムテーブルのセッティングは、世界中のどこを探してもこの『TAICOCLUB』と、こだまの森にしかないのだ。

 

個人的には、四方八方からNosaj Thingがプレイする模様を真鍋大度が映し出し、かつてないほどにこだまの森に緊張感が漂っていたあの瞬間的な数十分と、早朝にSugar’s Campaignの指導のもとラジオ体操(?)をしたのが忘れることができない思い出となっている。そういった特別な体験のどれもは、おそらく2016年も、そして5年後もその先も変わらず、『TAICOCLUB』のオリジナルな体験として在り続けるのだろう。

Pioneer DJ

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