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Report

Rainbow Disco Club 2015

  • 2015.05.02(Sat) / 03(Sun) / 04(Mon) @ 東伊豆クロスカントリーコース特設会場
  • Text : Hiromi MatsubaraPhoto : Rakutaro Ogiwara, Yusaku Aoki

  • 2015.11.22

  • 9/10
  • 2/1 追加
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年に1度は帰りたいダンスミュージックの桃源郷

晴れた日の乾いた芝生に腰を下ろして、少し揺れながら感じるハウスのビートがいかに気持ち良いことか。晴天の下、身体を音の鳴る方へ向けて心地良さそうに揺れている人々を見るのがいかに感動的であるか。オーディエンスとアーティストの関係性、連帯感、その場にいる人々の間に和みのあるグルーヴが生まれていく実感。GWに都心から離れて訪れたダンスミュージックの桃源郷『Rainbow Disco Club 2015』(以下、RDC)は、そういった少し当たり前の出来事とも思える物事をありありと目の前に映し出していた。世界の注目のアーティストを招くということはもちろん、そしてはじめに記したこととはまた別に、あるいはそれ以上に、フェスティバル/レイヴがその場に集まる人々に果たすべきことの多くが、短くも濃密な3日間には詰まっていたように思う。

 

その要因は全て、RDC自体の変化にある。まずは、会場を都会のビル群を抜けたところにある晴海客船ターミナルから、自然豊かな伊豆半島の稲取高原に位置する東伊豆クロスカントリーコースという真逆のロケーションへと移したこと。そして、開催日を1日増やし、会場内にテントを立てるキャンプイン・スタイルになったこと。この2つのポイントが、人々を日常から引き離し、クラブとは異なるダンスミュージックの体感をより強めたことは当然ながら、木々に囲まれた場所で同じように3日間を過ごしているという部分から密かに生まれる仲間感覚や、日常的にも繋がりのある人との日頃以上の親近感を感じさせていた。加えてこれは行きにGWの渋滞にハマってしまうことがなければ……の話になるが、多くの人にとって伸びた会場への移動距離も、RDCへの期待を募らせるための演出として作用していたかもしれない(僕は、本サイトのデザイナーの運転で早朝も早朝に出たので、GWのえげつない渋滞にどハマりすることはなかった)。

特に2日目、まだ眠気の残る時間から、緑が香る空間の中で、井上薫や瀧見憲司の緩やかでありながらも確実に足元からグルーヴを伝えるプレイをキャンプサイトにて体感して、「あー、堪らないですね」などと共有し合えるシチュエーションは、今回のRDCがもたらした新しい贅沢の一例だったと言える。また、1日目の日が沈みかかっている頃に、高い位置に立てられたハンモックからゆったりと観ていたSO INAGAWADJ NOBUのプレイからの、日が沈んですっかり暗くなった空間に響いていたDeadbeatのダブテクノ・トラックとTikimanのポエトリーも僕は忘れられない。3日目、雨が降ったり止んだりするのに合わせて、木陰に逃げたり、またステージの方へ戻ったりしながら味わう、〈Rush Hour〉のSan ProperYoung MarcoAntalと彼らの家族によるファミリー感溢れるプレイとその時の光景も、きっと思い出として残り続ける。

 

メインステージのことを思い出すと、必然的にRed Bull Music Academy Stage(以下、RBMAステージ)のことも思い出される。東伊豆町体育センターを利用した屋内型のRBMAステージは、今回が本邦初またアジア初公開だったPioneer Pro Audioのサウンドシステムのフラッグシップモデル「GS-WAVE Series」が搭載され、都内のクラブさながらの様相。メインステージの非日常感は薄らぎながらも、ここにはここで、体育館の中に、高音から低音まで幅広い音域が本来の迫力を損なうことなくオーディエンスの身体をソフトに包み込むという、クラブ級の極上の音響空間が実現されているある種の非日常があったとも思える。そして何と言っても2日目の最後、RBMAステージの大トリ、John Talabotのプレイによるオーディエンスの熱狂が素晴らしかった。プレイの後半に、John Talabotが自らオーディエンスをステージ上に呼び込んでからのオーディエンスの乱れ様は、1日中(2日中)ダンスミュージックを楽しんで、ナチュラルハイになっていたとしか考えられなかった。けど、これこそがダンスミュージック・フェスティバルだと、レイヴだと感じさせられる一幕だった。

 

時として野外フェスが音楽とは別にキャンプレジャー(/キャンプエンタメ)的な角度からレコメンドされていることがあって、楽しみ方は人それぞれなんだなと感じさせられるが、RDCにおける至高の瞬間は、やはり基本的にダンスミュージックを楽しむ気持ちがないと訪れないという側面が大きく存在しているように思う(僕はまだ行ったことがないが『The Labyrinth』にもきっとそういうシビアな側面があると思う)。誤解をしないで欲しいのは、これは決してネガティヴな話でも、批判でも線引きでも当然なくて、「ここにあるダンスミュージックの桃源郷ってそういうものだよ」というリアル、それだけの話である。だって、最高に居心地の良い郷に行きたいでしょう。しかしそういう一方で、自分と同世代の20代前半の人たちにもっと遊びに来て欲しいという想いが、恥ずかしながら、前言と矛盾するように湧きあがってくるのもまた事実だ。今年のクローザー、ATAの熟練のプレイを背後に再び忙しない都会へと戻る途中、僕はRDCを年に1度は帰りたい最高に居心地の良い郷と少しでも多くの同世代に思ってもらえるように……とどこかで気持ちを引き締めていた。とりあえず来年は同世代のクラブ仲間を引き連れてRDCに帰ろうと思う。

Pioneer DJ

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