Kyoka @ LiveSoundtracks
- 2016.04.19(Tue) @ Sala Hiroshima, Barcelona, Spain
Text : Toshinao RuikePhoto : Toshinao Ruike, Live Soundtrack
2016.5.11
感情から離れ届けられた音
Alva Noto、Frank Bretschneider、坂本龍一など錚々たる面々に囲まれ、ドイツの電子音楽レーベル〈raster-noton〉で注目を浴びるアーティストKyokaは、ベルリンを拠点としながら日本やヨーロッパなど世界中でパフォーマンスを行うため忙しく動き回っている。
特にエクスペリメンタルな電子音楽シーンにおいて影響力のあるレーベルからのレコード・リリースもさることながら、世界各地でのライブ活動、スウェーデン国営の電子音楽スタジオEMSやドイツのZKMといった貴重な場所でのレコーディングやパフォーマンスなど、それらの成果が評価され、国際的に名声が高まっている。
今年2月末にはEP『SH』を日本で先行リリース。3月半ばから4月にかけての短期間だけでも忙しく、ジュネーブ、ロシア、日本では東京、大分、岩手でライブを行い、そのままバルセロナへ直行、イベント『LiveSoundtracks』のために訪れた。今回はその様子をレポートしたい。
Alva Noto、Frank Bretschneider、坂本龍一など錚々たる面々に囲まれ、ドイツの電子音楽レーベル〈raster-noton〉で注目を浴びるアーティストKyokaは、ベルリンを拠点としながら日本やヨーロッパなど世界中でパフォーマンスを行うため忙しく動き回っている。
特にエクスペリメンタルな電子音楽シーンにおいて影響力のあるレーベルからのレコード・リリースもさることながら、世界各地でのライブ活動、スウェーデン国営の電子音楽スタジオEMSやドイツのZKMといった貴重な場所でのレコーディングやパフォーマンスなど、それらの成果が評価され、国際的に名声が高まっている。
今年2月末にはEP『SH』を日本で先行リリース。3月半ばから4月にかけての短期間だけでも忙しく、ジュネーブ、ロシア、日本では東京、大分、岩手でライブを行い、そのままバルセロナへ直行、イベント『LiveSoundtracks』のために訪れた。今回はその様子をレポートしたい。
バルセロナの『LiveSoundtracks』は映像と共にサウンド・アーティストがリアルタイムでサウンドトラックを演奏する地元で話題のイベントだ。その昔、サイレント映画の時代に生演奏が付いたように、現代のサウンド・アーティストが生で映像に合わせて演奏させ、古き良き生のサウンドトラックの価値を再発見しようという試みだ。今回Kyokaが2008年からずっと気に入っているという韓国のアニメーション作家Joung Yumiの短編に合わせ音を付ける。
Kyokaは、「ベース」「キック」「高音」「元の作品からのサウンドトラック」の計4トラックをNative InstrumentsのTraktor Kontrolを使ってコントロールしていた。
ライヴでのミキシングのスキル、使用する効果音と映像との同期による効果、映像作品に対する解釈など音以外にも注意を払わなければいけないため、より通常のパフォーマンスとは異なるスキルやコントロールが要求される場面もあっただろう。
KyokaはJoung Yumiのやや内向的で淡々としたシーケンスに合わせ、元のサウ
会場になったのはSala Hiroshima(バルセロナはやや遅れた日本ブームで日本にちなんだ名前を店舗などに付けることが流行っている)。
「私の場合、音楽は感情からは離して作っているんです」 彼女は自身の音楽表現を行うスタイルについてこのように語った。
その通りパフォーマンスを行っている際はコントロール・デバイスに向かい合って、無機質でクールなサウンドを作り出しているが、パフォーマンスが終わり、バーでリラックスして音楽や機材のことを語る時には楽しそうにとても生き生きとしていて、それはそれで違った形で音楽人として輝いていた。
ベルリンには様々な企業が集まっているので、音楽系の技術者が多いのではないか尋ねたところ、「ミュージシャンとしてエンジニアとアーティストのどちらもやっている人が多いですね」と語っていた。彼女もアーティストでありながら、また自らもエンジニアのように音響の細部をどう決めるか、どういったロジックや方法を用いるかこだわりがあるのだろう。
会場にはKorgのモバイルアプリ「Cortosia」の開発に携わっている地元のミュージシャンでサウンド・エンジニアでもあるOriol Romaníも訪れていた。彼はKyokaに今回のパフォーマンスでどのようにサウンドを処理したのか、またいつもサウンドはどのようにアーカイヴしているのか、といった少々専門的な質問をしていた。そして、また最近彼女がドイツのZKMという施設で参加した、4DSOUNDという3D音響空間で行われたraster-notonの20周年イベントについて聞いた。
Kyokaは一生懸命に頭の横で手をくるくると回転させながら、サイン波が大きな空間の中で様々な位相を取り、あちらこちらと動き回っていた様子を伝えようとしてくれた。
4DSOUNDはオランダの会社がハンガリーのブダペストに施設を作り、さらにそのシステムをドイツのメディアアート系の文化研究施設であるZKMにも設置。大きな空間にスピーカーを数個ずつ組み込んだ柱が多数配置され、空間的な音響効果を生み出す。〈raster-noton〉がレーベルの20周年記念イベントを行ったり、バルセロナや世界各地から音響空間の研究者がプロジェクトに参加したり、さらにアーティストやYamahaやAbletonといった企業も関わり、ヨーロッパの音楽系テクノロジーの世界で今話題のプロジェクトだ。
とても面白そうだが、それに対する観客の反応はどのようなものだったのかというと、両手を組み合わせ、まるで祈りを捧げるようなポーズを取って集中して聴いている者もいたという。それは、ドイツの生真面目なオーディエンスだったからかもしれないし、どちらも非日常的な音響空間で、本当に教会に来るような気持ちを音響空間で持ったのかもしれない。そんな話を間に挟みつつ談笑しながら、今度はゆっくり『Sonar』で会えたら会いましょう、新しいテクノロジーと出会う場所ですよ、と言ってその夜は別れの挨拶をした。
音楽を作る際は感情を切り離しているということだったが、音楽やテクノロジーの話題を介して温かな交流が生まれたと感じた夜だった。様々な分野の才人たちと交流し、非凡な才能を発揮しているKyokaを今後も見守っていきたい。