ENA Live Performance @ DOVER STREET MARKET GINZA
- 2015.04.03(Fri) @ DOVER STREET MARKET GINZA
Text & Photo : Hiromi Matsubara
2016.1.13
音楽にインスパイアされたファッションデザイン、ブランドイメージにインスパイアされたショーのサウンドトラック。これまで、コレクションやファッションウィークにアーティストがゲストとして登場してライヴをすることや、そのアフターパーティーとして音楽イベントが開催されることはあった。だが、DOVER STREET MARKET GINZAがCalx Viveを起用したこの試みのように、「店舗」という、より日常性のある空間でコンセプチュアルなライヴが行われることはあまりなかったように思う。『ENA Live Performance@DOVER STREET MARKET GINZA』、なんともフレッシュな字面と響きだ。そして、このライヴによって、ファッションと音楽の新たな関係が始まったように思う。
このライヴイベントは、DOVER STREET MARKET GINZA(以下、DSMG)の音楽環境の創作を、ニューヨーク、パリ、東京を拠点にサウンドアーティスト/キュレーターとして活動しているCalx Viveに依頼したことに端を発したもの。Calx Viveが店内のサウンドインスタレーションに使用する音源をDSMGと共同購入することでアーティスト(またその音源に関わるレーベルやディストリビューター)をサポートしようという目的と一貫したイベント企画になっており、あまり知られていないが実力のあるアーティストの露出をDSMGがサポートしようという、新しい密な関係性を築く試みなのである。今回イベントに登場したENAの音楽も実際にDSMG内のスピーカーから流れている。Calx Viveいわく、ENAとの出会いは渋谷・宇田川町にある「TECHNIQUE」。彼女がいわゆる“ディグ”をしている時だったそうで、一聴してENAの音楽に惚れ込んだとか。ちなみに、先ほど話題にしたCalx Viveのサウンドインスタレーションは、既存の天井スピーカーと新たに各フロアに設置したBang & Olufsen社製のスピーカーからそれぞれ異なるテーマでキュレーションされた音源を流すことで、音源同士が偶発的にフロア内でクロスオーヴァーし、また音源を受容する我々もフロア内を動くことで音量や場所毎に流れている音といった条件が変化し、1秒前とは異なる融合を味わうことができるというものになっていた。
当日、ライヴ会場となったCOMME des GARÇONSのメンズラインが並ぶDSMGの3階には、ENAのナマもののようなサウンドスケープが拡がっていた。いや、“ような”というよりも、生モノそのものと言った方が良いかもしれない。離れて並ぶ2つのスピーカー、musikelectronic geithain社製のME-800Kから迫ってくる音像に自ずと耳を委ね、音が指先をすり抜け、首もとにからみ、そして足元ではねる瞬間に集中する。ミキサーやエフェクターによって常に変化が加えられ、高域から低域は常に空間のどこかしらで動き、常にダンスミュージック的なグルーヴは変化し続ける。同じ瞬間は二度と訪れない。また、フロアのショーケースのそば、並んでいる洋服の隣など、音を受容する場所によって身体を包み込む音像の姿と動きは異なっていく。偶然か必然か、ENAのライヴパフォーマンスは、Calx Viveがサウンドインスタレーションによって空間に生もうとしているものと共鳴していたように思う。ただ、ENAがパフォーマンスしながら、この日の特別なサウンドシステムと駆け引きをしていた(ようだった)ことが、我々にライヴという事実を直視させ、生々しさをより一層引き立て、空間をより濃密なものにしていた。
ライヴパフォーマンスを終えた後の現場には、ENAの音像の余韻と、まだまだこれからDSMGは音楽への面白いアプローチを用意しているかもしれないという予感が充満していた。音楽もファッションと同様に身体に馴染めばより輝きを増す……おぉ、思い出してまたちょっと鳥肌が立つ。一見すれば特別な催しのようでもあるが、ENAのライヴパフォーマンス然り、Calx Viveのサウンドインスタレーションもまた然り、「インストアライヴ」や「店舗のBGM」という視点から考えれば、この試みは、音楽を洋服のように日常的に身にまとうことその行為の美しさをより身近な距離感で提示していた、といえるかもしれない。