Taylor McFerrin
Text & Interview : Yoshiharu Kobayashi
2014.5.19
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祖父はメトロポリタン・オペラ・ハウスで初の黒人バリトン歌手となったRobert McFerrin、そして父親は誰もが一度は耳にしたことがあるだろう“Don’t Worry, Be Happy”などのヒットで知られる名ジャズ・シンガーのBobby McFerrin――〈Brainfeeder〉が新たに送り出す才能Taylor McFerrinは、まさに名門音楽一家の血筋を引いたサラブレットだ。
これまでにRobert Glasper ExperimentやJosé Jamesなどと共演を果たし、いわゆる新世代ジャズ・アーティストたちと緩やかに共振する活動を繰り広げてきたTaylorだが、満を持して発表された1stアルバム『Early Riser』では、幼い頃から聴いていたというヒップホップ/ソウルが軸となっている。サイケデリックかつ浮遊感のあるサウンドが特徴で、全体的にチルアウト気味のリラックスしたムードながらも、その音世界はしっかりと耳を楽しませてくれるものだ。本人は、自分自身にとってジャズの影響は大きくないと語っているが、Robert Glasperや〈Brainfeeder〉が誇る天才ベーシストのThundercatが参加した“Already There”や、Bobbyとの親子共演が実現した“Invisible / Visible”などには、やはりジャズ/フュージョンの影響は色濃く、それが本作の魅力を高めるのに大きな役割を果たしているのは間違いない。
5月23日(金)にageHaにて開催されるレーベル・ショーケース、『BRAINFEEDER4』では、アルバムからの新曲を披露する初めてのライブを行うTaylor。今回のバンドには、本作でも大活躍している新世代の凄腕ジャズ・ドラマー、Marcus Gilmoreも参加しているというのだから、大いに期待していいだろう。Flying LotusやThundercatなど豪華な顔触れが揃う『BRAINFEEDER4』だが、この新しい才能のステージも見逃せない。
ーー初めてのインタビューなので、基本的なところから訊かせてください。あなたは父親、祖父ともにミュージシャンという音楽一家の生まれですが、そのような環境から何かしらの影響は受けましたか?
Taylor McFerrin:もちろん。祖父とはあまり一緒にいなかったけど、いろいろと聞いていたから俺にとっても大事な存在だった。彼は、アフリカ系アメリカ人で初めて、ニューヨーク・メトロポリタン・オペラと契約を結んだ人なんだ。だからアフリカ系アメリカ人のコミュニティや、クラシック音楽界の進展にとって重要な人物だった。父も指揮者をやっていた時期があったから、家はそういう家系だったんだよね。俺は、幼少時代、いつも父のショーを観に行っていて、ミュージシャンたちと一緒にいた。そういう環境にいたから、自分もミュージシャンになりたいと思うようになったんだと思う。今でもクリエイティヴな人たちと一緒にいるのが大好きだし、ライブに行って演奏者からインスピレーションを受けるのが大好きなんだ。
ーーそういった家庭だと、小さい頃はどのような音楽が家では流れていたのですか?
Taylor McFerrin:両親がよくかけていたのは、James Brown、The Beatles、Stevie Wonder、Joni Mitchell、そして〈Motown〉や昔のソウル。俺は、Sly & The Family Stone、Earth, Wind & Fireとかも好きだった。両親は別にレアなレコードをかけていたわけじゃない。60年代、70年代のファンクやソウルを色々かけていただけさ。
ーーそのような音楽は、今でも自分にとって重要なものだと思いますか?
Taylor McFerrin:そうだね、若い頃はヒップホップにはまっていたけど、後々、ソウルに興味を持ち始めたとき、ヒップホップのトラックは、俺の好きなソウルのレコードをサンプリングしていたことに気付いたんだ。だから、ソウルから受けた影響は大きいね。例えばインストゥルメンテーション、特にシンセサイザーとかのヴィンテージの機材の多くは70年代のものだし。当時のサウンドは俺が大好きなサウンドだよ。モーグ・シンセサイザーやフェンダー・ローズは、ソウルのサウンドにおける最も重要なサウンドのひとつだと俺は思っている。俺が好きなヒップホップのトラックも、そういうサウンドがサンプリングされているものだった。だからその影響は巨大だよ。60年代、70年代はポピュラー・ミュージックにとって頂点だったのだと今でも感じるよ。
ーーヒップホップはどのように発見して、どんなところに魅了されたのでしょうか?
Taylor McFerrin:俺は90年代の子供だから、ヒップホップが当時のラジオでかかっていただけさ。みんなヒップホップが好きだった。俺は小学校時代をカリフォルニアで過ごしたから、その時、人気だったのはDr. Dreのアルバム『The Chronic』、それからSnoop Doggの1stアルバム(『Doggystyle』)。あれは西海岸では大きなムーブメントだった。彼らのアルバムが出た時、俺はまだ小さかったんだよね。親にとっては子供に聴かせたくないような内容の音楽だったと思うけど(笑)、でも逆にもっと知りたくなるようになった。小学生の頃は、西海岸のものが流行ってて、俺もその流れに乗っていた。それがパーティーミュージックだったんだ。でも、もう少し大きくなって、自分に語りかけてくるようなレコードを探していくと、それは大抵、東海岸のものだったっていう。それでA Tribe Called QuestとかDJ Premierの作品やNas、そういう人たちの音楽に共感するようになったんだ。やっぱり東海岸の方が落ち着いた雰囲気があったっていうか。西海岸の音楽は、車に乗ってチルを吸って……という感じのパーティーアンセム的なところがあったけど、東海岸の音楽はもっとハードコアで、サンプリングやプロダクションもなぜか東海岸のヒップホップの方がしっくりと来た。Dr. Dreのハイピッチなサウンドとは違ったサウンドだったんだよ。
ーーヒップホップのアーティストなら、誰に1番感化されましたか?
Taylor McFerrin: 1番はJ Dillaだね。彼のソウルフルな音楽と、MPCの熟練度。そして彼の領域。それからDJ Premier。いつの時点でも名盤と言えるような作品を作ったのはその2人だと思う。俺が感化されるのはいつもプロデューサーだったんだよ。
ーーなるほど。あなたはビートメイカーであり、ビートボクサーであり、様々な楽器を使いこなすマルチ奏者でもありますが、となると、自分にとって1番の軸になっているのはプロデューサー、ビートメイカーの部分だと言えるのでしょうか?
Taylor McFerrin:そうだね。といっても、俺は常にビートだけを作っているわけではない。このアルバムにも沢山の生演奏の要素を入れて、自分の領域を表現しようとした。俺は今まで色々な人たちとバンドを組んで、キーボードを担当したり、ヴォーカルを担当したりしてきたんだ。その前はビートばかり作っていたんだよ。最初はビートメイカーとして始めて、それからライヴパフォーマンスへの入門という形でビートボクシングを始めた。それが歌うことへと発展した。でも、ある時点ではバンドでキーボードだけを担当していたこともある。今回、このアルバムを作るにあたって、自分は色々な分野での経験があると感じていたから、それをまとめようと思ったんだ。ライヴパフォーマンスを何年も経験しているから、その経験を今回のアルバムのプロダクションで出したいってね。
ーーそのアルバム、『Early Riser』は〈Brainfeeder〉からのリリースとなります。彼らとはどのような経緯で知り合ったのですか?
Taylor McFerrin:Flying Lotusはとても社交的な人で、俺が1st EP『Broken Vibes』を2007年に出した時、彼もちょうど『Reset』EP を出していた。その時に、彼からMyspace経由で連絡があって、俺の作品をとても気に入っていると言ってくれたんだ。それから俺たちは個々の道を行っていたんだけど、彼はそれから成功を収めていって。もう4年前の話だけど、俺がこのアルバムの制作を始めた時、LAでショーをやったんだよ。その時も、Flying Lotusから連絡があって「行きたいけど行けない」って言われたりして。それからメールでお互いのやり取りが始まって、Flying Lotusから「制作中の曲をいくつか送ってくれ」と言われてね。で、俺の送った音源を聴いたFlying Lotusは、「〈Brainfeeder〉と契約しないか」と言ってくれたんだ。とてもクールだったよ。その時にはもう〈Brainfeeder〉はかなり大規模になっていたのにね。
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ーー『Early Riser』は、これまでの自分の経験をまとめたかったとの話がありましたが、それ以外にはどのような作品にすることを目標としていたのでしょうか?
Taylor McFerrin: 実は、このアルバムは俺が最初意図したものとは全く違ったものになったんだ。本当は、アルバムのほとんどでヴォーカルを担当したかったし、今後はそういう方向へ進んで行きたいと思っている。作品の中心、ヴォーカルにおいても中心となっていきたいってね。でも、ビートメイキングや音楽のプロダクションは何年もやってきたことだけど、ヴォーカルに関してはもう少し色々やってみて自分のサウンドを見つける必要があると気づいたんだ。この何年かで、本当に沢山の素晴らしいアーティストと知り合いになり、一緒に音楽を作りたいと思った。でも、先に自分のアルバムを仕上げないといけないと感じてもいて……でも、改めて考えると、今回のアルバムに必要なのは、俺の強みを表現することだと思った。で、それは、他の人とコラボレーションすることや、ここ数年で知り合いになった素晴らしいアーティストたちと仕事をすることだった。だから俺のアルバムを別次元に発展させてくれるようなアーティストたちに参加してもらおうと、去年、決心したんだよ。でも、アルバムで自分でも歌いたいという希望もあって。今後の作品で俺が歌っていても、みんながショックを受けないようにね(笑)。
ーーでは、何人かのゲストシンガーが参加する中で、“Florasia” では自らヴォーカルを取るというのは、本作における挑戦のひとつだったのでしょうか?
Taylor McFerrin:そうだね。さっきも言ったように、俺は1年半くらい前にヴォーカルを一度諦めたんだ。自分に対してイライラしてしまってね。でも、アルバムに、婚約者に捧げる曲をひとつ入れたくて。それに、自分自身がアルバムで歌うということも、やっぱりしたかったし。この曲はアルバムの中でも最後の方でレコーディングされた曲なんだよね。難しかったよ。俺のヴォーカルがリスナーを圧倒するとは思わないけど、特に下手というわけでもないと思う。自分にとっての良い第一歩になったんじゃないかな。結局、1曲で歌えたというのは、今回の作品にとってもよい仕上げになったと思うし。知り合いで、俺が歌うのを聴いたことのない人がアルバムを聴くと、「お前のヴォーカルはドープだったよ。もっとやればいい」と言ってくれる人も結構いたから、そうやって自信を付けるということは、俺にとって今後先に進むためには必要なことだったのかもしれないね。
ーーThundercatにインタヴューしたときも似たようなことを話していました。彼も前回のアルバムで歌うことを、恥ずかしながらもやって自信を付けたと。
Taylor McFerrin:そう、とにかくやってみないと何も始まらない。俺はもっと早くそれをやるべきだった。そうしていたら、今の時点では、もっと先に進んでいたと思う。でも、今それをやったことは自分にとってとても重要なことだと思えるから、実際に歌って良かったよ。
ーーでは、ジャズとヒップホップを進歩的な形で融合させるという本作の音楽性は、トラックメイキングをやり始めた当初から目指していたものだったのでしょうか?
Taylor McFerrin:いや、それは違う。俺はもう16年くらい音楽を作り続けている。今の時代って、みんな色々な種類の音楽に触れることができるよね。だから、俺も色々なエレクトロニックミュージックにはまっていたし、ドラムンベースやジャングル、ブロークンビーツとかにもはまってた。それらの音楽の多くは、レゲエ、ジャズ、ソウルとか様々な音楽をサンプリングしている。俺は今まで、特定のジャンルを修得しようと思ったことはない。様々なジャンルから情報を取り入れることに寛容でいて、それを自分のクリエイティヴィティというフィルターを通して解釈できればいいと思っている。音楽のひとつひとつのスタイルにもっと集中して取り組めば良かったと感じることも時々あるけど、こういう関わり方をしてきたからこそ、色々な音楽を素直に受け入れ、自分のスタイルを確立することが出来たと思うんだ。俺にとってジャズは最大の影響ではない。それよりも、ソウルやファンクの方が俺のサウンドに影響している。でも、このアルバムを完成するために貢献してくれた人たちの何人かは、ジャズの影響を大きく受けている人たちだから、そのサウンドがアルバムに出たのかもしれないね。
ーーでは、あなたにとってジャズはどのような音楽だと言えるでしょうか?
Taylor McFerrin:俺にとってジャズはどのような音楽かだって? 分かんないよ(笑)。ジャズはたくさんのものを包括している。俺が大好きなジャズのアルバムは、John Coltraneの『Love Supreme』とMiles Davisの『Live Evil』。その2枚は、俺に飛びついて来るような感触があったのを覚えてる。名盤だよ。ジャズの中には、ジャズを勉強していない人や若い人にとっては、分かりにくいものもあるよね。特にプロダクションされている音楽を聴きなれている人たちにとっては。でも、あの2枚は、俺に直に語りかけてくるものがあったんだ。
ーーゲストミュージシャンにジャズの影響を受けている人たちがいるという話もありましたが、まさにその代表格であるRobert GlasperとThundercatが参加した“Already There”は、本作のハイライトのひとつですね。
Taylor McFerrin:Robert Glasperのような人には圧倒されてしまうよ。彼がキーボードを弾けるくらいのレベルで俺も楽器を弾けたらと思う。俺は何年もRobert Glasperのファンとして、彼のショーに通っていたんだ。だから彼と知り合いになって、アルバムに参加してもらうのはとてもクールなことだったよ。このアルバムを色々な意味で向上させてくれた。それから、彼は本当に落ち着いた人だから仕事もしやすかったんだ。スタジオに来て、45分で彼のパート全てをプレイして仕事を終えてしまったんだよ。一緒に仕事ができて光栄だったね。彼は、ジャズやソウルを再びカッコイイものとみんなに思わせることができた人だ。それは簡単なことじゃない(笑)。でも彼はそれをやってのけた。今では、若い人たちが彼を目標にしてジャズ・ミュージシャンを目指している。それってクールなことだよね。
ーー本作には他にも多彩なゲストが参加していますが、最も印象深かったコラボは?
Taylor McFerrin:最も印象深かったのが誰というのは難しいけど、このアルバムで最も重要だったのは、アルバムの多くのトラックで参加しているドラマーとベース・プレイヤーだね。5曲でドラムを担当したMarcus Gilmoreと、3曲でベースを弾いてくれたJason Fraticelli。この二人は僕の良い友人で、アルバムの音の世界を広げる手助けをしてくれた。このアルバムには、もっと有名な人が参加している曲もいくつかあって、そういう人たちと一緒に仕事ができるのは嬉しいことだったけど、このアルバムのコアとなってくれたのはMarcusとJasonだと思う。
ーー“Invisible / Visible”には父親のBobby McFerrinが参加していますが、親子共演をしようと思った理由は?
Taylor McFerrin:彼は僕の親父だからさ(笑)。俺が大好きなアーティストの一人でもあるしね。確かに、以前は親の人気に便乗していると思われるのが嫌で、父親のことにセンシティヴになっていた時期もあった。でも、俺は音楽作りをかなり長い間やってきたから、そういうことはもう気にしないことにしたんだ。そして、機会がある今のうちに、親父と音楽を一緒に音楽を作っておかないと後悔するなと思ってね。アルバムっていうのは永遠に存在する。だから彼と一緒に仕事をするのは俺にとって重要なことだったんだ。俺は彼から音楽的な影響を大いに受けてきた。それから、このトラックのピアノ・プレイヤー、Cesar Camargo Marianoもブラジル音楽における伝説的人物なんだよ。この2人をひとつの曲に参加させることは、僕にとって非常に有意義なことだったんだ。
ーーあなたの音楽からは、他の〈Brainfeeder〉のアーティスト達と同じく、サイケデリックな感覚も滲み出ていますが、サイケデリアは自分の音楽にとって重要な要素だと思いますか?
Taylor McFerrin:そうだね。このアルバムには、沢山の間(スペース)を残しておいた。聴いてすぐには気が付かないような、微妙なディテールがたくさん含まれているんだよ。リスナーが落ち着いた状態で熟考できるようになるような、サウンドの層もたくさん入っているよ。
――『BRAINFEEDER4』での来日が迫っていますが、当日はどのようなライヴになりますか?
Taylor McFerrin:アルバムに参加したドラマーのMarcusを連れていく。ショーはアルバムの曲と、即興をやってスペーシーな感じのジャムとの組み合わせになると思う。それから、今、制作中の新曲とかを披露する予定だね。アルバムは結構チルだから、クラブミュージックやベースヘヴィなもの、クレイジーなビートミュージックとかもかけるよ。アルバムにはないサウンドだけど、観客はとても楽しんでくれると思う。新曲をプレイするショーは今回が初めてだから、特別な感じになると思う。
End of interview
リリース情報
Taylor McFerrin
『Early Riser』
Rlease date: 2014.05.14 (wed) On Sale
Label: Brainfeeder / Beat Records
Cat no: BRC-418
price: Y2,000 (+tax)
日本盤特典: ボーナス・トラック追加収録
Tracklist.
1. Postpartum
2. Degrees of Light
3. The Antidote feat. Nai Palm
4. Florasia
5. 4 AM
6. Stepps
7. Already There feat. Robert Glasper & Thundercat
8. Decisions feat. Emily King
9. Blind Aesthetics
10. Place in My Heart feat. Ryat
11. Invisible/Visible feat. Bobby Mcferrin & Cesar Camargo Mariano
12. PLS DNT LSTN
13. My Queen feat. Vincent Parker (Bonus Track for Japan)