Peter Van Hoesen
Interview : HigherFrequencySpecial Thanks : Mindgames
2010.9.3
いよいよ今年も、開催まであと2週間をきった人気野外パーティー『THE LABYRINTH』。2年前の同パーティー初日、一切の予備知識もなしにメインへ向かった筆者にとって、Peter Van Hoesenの名前は、その一音目から全身を襲った、とてつもない衝撃と共に記憶されている。昨年の同パーティーではライヴセットとDJセット、そしてYves De MayとのユニットSendaiでのアンビエントセットでフロアを魅了した彼は、本年度の『THE LABYRINTH』にも還ってくることが決定している。
今年3月にはアルバム『Entropic City』を自身のレーベル〈Time To Express〉からリリースし、『Resident Advisor』をはじめ多くのメディアのレヴューでも高い評価を獲得。5月には来日ギグを敢行したことも記憶に新しい。
とにかく、高度に計算された音響でフロアに「場」を創りだす彼の音は、是非大きなスピーカーで、それも『THE LABYRINTH』のFUNKTION ONEのような最高のシステムで、その震動と共に体感して欲しい。そして、このインタヴューがその助けになれば幸いだ。
ーーまずは音楽的なバックグラウンドを教えてください。例えば子供の頃好きだったアーティストですとか、初めて自分で買ったレコードですとか……。
PVH (Peter Van Hoesen):子供の頃からエレクトロニックな音には興味があったんだ。好きだったバンドとか、最初のレコードとかについて正確には思い出せないんだけど、諸々のきっかけになったバンドは、ベルギーのTelexってバンドだよ。70年代の後半から80年代初めくらいに活躍してたエレクトロニック・バンドで、確実に僕に強いインパクトを与えてくれたね。
ーーどのようにしてDJやエレクトロニックのプロデューサーとしての活動を始めたのでしょうか? 以前拝見したインタビューで、ベースを弾いていたこともあると伺ったのですが。
PVH:Telexをテレビで観たあと、僕も音楽を作りたいって思ったんだ。両親が僕に電子オルガンを買ってくれて、たぶんKAWAIのだったと思うんだけど、それが最初の楽器だったよ。そのオルガンにはリズムプログラムとかシンプルなドラムループが入ってたな。その数年後、ベースを弾きはじめて、しばらくバンド活動をしてたんだ。自分で作曲し始めたのは1996年か97年頃で、その頃作ってた曲もちょっとひねくれたテクノとか、かなり実験的でミニマルな曲とかがほとんどだったね。
ーー2008年の『THE LABYRINTH』であなたのセットを初めて聴き(その時は「一目惚れ」ならぬ「一キック惚れ」という感じでした)、続いて昨年もプレイされていましたね。『THE LABYRINTH』のクルーとは最初、どのように知り合ったのでしょうか?
PVH:まず『THE LABYRINTH』側から連絡があったんだ。ちょうど僕のレコードが日本でも出た頃で、(オーガナイザーの)Russはきっとそれを聴いたんじゃないかな。それに、僕のミックス音源もインターネットのあちこちにあったし、僕がどういうことをやってるのかっていうのがすぐにわかったんだと思う。話もうまく進んで、そのまま2008年、そして2009年の出演に繋がったんだ。
ーー最近、DJのスタイルをヴァイナルとCDからPCにスイッチしたそうですね。この新しいセットアップについて説明してもらえますでしょうか。また、スタイルを変えた背景にはどんな思惑があったんですか?
PVH:理由はいくつかあるんだけど、1番大きな理由は、ミックスに対するアプローチを変える必要を感じたからなんだ。以前は3台のデッキとCDJを使ってたんだけど、それでもまだ不十分だった。それが去年のある時、ふと気づいたんだ。「僕はレコードじゃなくて、音楽をミックスしたいんだ」ってね。ビートマッチングの技術じゃなくて、音とグルーヴを彫りだすという、これまでとは別な階層のことを重視していて、今はそこにフォーカスして鍛錬を積んでるんだ。あと、これはスタジオワークにも共通して言えることで、どんなテクニックよりも、音自体にフォーカスしようと思っているよ。スタイルを変えたことで、とても解放された気がするし、DJをやることに対してまた新たなエネルギーと興味が湧いてきたんだ。新しいDJ用のセットアップでは、PCと、PCにシンクロさせたドラムマシーンを使っていて、リアルタイムでプログラムをして、曲の上にかぶせることもできるんだ。
ーーあと、ライヴ用のセットアップも変えられたと聞いていますが、『THE LABYRINTH』ではどのようなライヴをするのでしょうか? それと、使用機材についても教えてください。
PVH:ライヴセットは『THE LABYRINTH』用のものを用意してるんだ。緩めで、よりサイケデリックな音が出せるのは『THE LABYRINTH』だけだからね。今回は新しい音素材や、まだどこでもプレイしてない新曲も準備してるよ。あと、機材面ではインプロヴィゼーションの可能性を広げられるような機材を追加するよ。つまり、全ての面でよりよくなっているってことさ。
ーー『THE LABYRINTH』は今年で10周年を迎えますが、何か特別なことなどは考えていますか?
PVH:『THE LABYRINTH』自体が、10周年じゃなくたって、そもそも特別だからね。『THE LABYRINTH』のお客に向けてプレイするときは、いつもなにかしらスペシャルなことをやろうと思ってるよ。DJセットは去年のものとはちょっと違って、よりアブストラクトな音やブレイクビーツ寄りになると思う。それに、最近自分のレコードコレクションを発掘して、しばらくやってなかった曲を録音しなおしたりもしたよ。
ーーあなたの音を聞いていると、重く深いキックと、空間の響きがとても特徴的で、それらがフロア全体にひとつの「場」のようなものを創りだしているように感じます。ご自身でもこういったことは意識してやっているのでしょうか?
PVH:うん、それは確かに僕が追求してることの一つに挙げられるね。音というのは空間をもった現象で、その空間に応じて取り扱うことが重要だと思っているんだ。『THE LABYRINTH』のサウンドシステムは、FUNKTION ONEを通して音の持つ空間性を容易に引き出すことができるから、やり甲斐があるよ。システムの特性を知っていけば、それで何ができるかってことも解ってくる。僕の曲の多くは「空間」や「場」といったアイデアに基づいて構築されていて、それこそが僕にとって、「音」とは何なのかということなんだ。サウンドシステムについて学ぶことは、そのシステムが音楽をどのように解釈するのかという面でとても重要だね。今年の初めにBerghainでライヴをやった時も、ライヴをやる前にクラブに3週末は通って、前列でサウンドシステムの質をしっかりチェックしたんだ。そうやって詳細にFUNKTION ONEの音を聴き込んだことが、ライヴセットの準備にとても役立ったよ。
ーー続いて、Fuseでのレジデントについてお聞かせいただけますでしょうか。あと、Fuse いうクラブ自体についても簡単にご説明いただけると嬉しいです。もちろん、Fuseについてはここ日本でも、ブリュッセルの最重要クラブとして知られてはいるのですが、まだまだ情報が少ないのが現状なので……。
PVH:Fuseはブリュッセルで一番最初にできたテクノのクラブで、今年の4月で16周年を迎えたよ。今ので多少、Fuseがどんなクラブなのか気づいたんじゃないかな? クラブをそんなに長い間続けるってことは簡単なことじゃないからね。クラブ内には2つのスペースがあって、下の階の広いフロアと上の階のフロアがあるんだ。下のメインフロアは約900人、上の階は約350人のキャパシティがある。僕のレジデンシーは主に下の階、テクノ主体のフロアでやっているよ。来る人たちも、ここで何をやってるかよく解ってる人が多くて、音楽自体にも、誰がプレイしてるのかってことにも興味を持っている人たちが多いよ。僕達が最近始めたイベント『Time To Express at Fuse』は2、3ヶ月に一度のペースで開催していて、これまでFuseでプレイしたことがないアーティストや、しばらくクラブでプレイしていないようなアーティストを呼ぶこともできる。10月にはJames Ruskinをゲストに呼ぶから、すごく楽しみにしてるんだ。
ーーあなたとYves De Mayのプロジェクト、Sendaiについてもお聞かせいただけますでしょうか。『THE LABYRINTH 2009』での「Midnight Lounge」セットはとても素晴らしく、個人的には間違いなく去年のハイライトの一つでした。
PVH:ありがとう。Yvesにも伝えておくよ(笑)。星空の下に集まってくれた皆に向けてプレイするなんて、あれは僕ら2人にとってもすごくスペシャルな出来事だったよ。Sendai関連で言うと、今はアルバムを製作中なんだ。特に締め切りも設けてないし、おかしなプレッシャーみたいなものもないから、いつ出来るかははっきりしていないんだけど、その時が来たら出来上がると思う。今のところ解ってるのは、Sendaiのエクスペリメンタルな面が出たものになりそうで、すごくアブストラクトな曲も入る予定だね。
ーー最近のベルギーのエレクトロニックミュージックのシーンはいかがでしょうか? あなたの周りの興味深いアーティストなどいましたら名前を挙げていただけますか?
PVH:今のベルギーのシーンを説明するのは難しいね。実際、90年代の初頭には世界でも最良のシーンがあった。多くのアーティストが革新的な作品を作り、面白いレーベルがそれをサポートするという状況だった。だけど時代が変わるにつれ、この状況が変わってきたんだ。様々な理由でね。3年前まではちょっと停滞気味だったんだけど、今また面白いことが色々起こっているよ。素晴らしい作品を作るプロデューサーもいるし、それをオーディエンスに伝える方法も確立して、着実に前進していると言えると思う。あと、レーベルについても、〈Curle〉、〈Music Man〉、〈Mowar〉、〈Meakusma〉といったレーベルがシーンを後押ししているよ。そして何より、どんな形のものであれ、エレクトロニックミュージックが聴き手側に広く受け入れられていること。みんながエレクトロニックミュージックに親しんでいる、それが、時代が変わってもあまり変わらずにいたことなんだ。だから、シーンの状況については前向きにとらえているね。
ーー続いて、あなたのレーベル〈Time To Express〉についてお聞かせください。まず、このレーベルはどのようにスタートしたのでしょうか。
PVH:まず、友人と一緒に〈Foton〉というレーベルを設立したことから始まっているよ。〈Foton〉はエクスペリメンタルにフォーカスしたレーベルだったんだけど、2006年くらいに、僕がまたテクノをやりたくなったので、そこから2年かけて準備を始めたんだ。2008年に〈Time To Express〉は〈Foton〉のサブレーベルとして、主に僕自身の作品を出すためにローンチした。僕の個人的な音楽の遊び場っていう感じでもあるね。
ーー〈Time To Express〉でやっているポッドキャスト『Timecast』についてもお聞かせください。アーティストはどのように選んでいるのでしょうか。また、エンハンスド方式になっているのも面白いですね。あれは誰が作られているのでしょうか?
PVH:『Timecast』は僕とYvesが一緒にやっているもので、音楽に対してよりアブストラクトなアプローチをすることを目指したポッドキャストのシリーズなんだ。Yvesはエンハンスドの部分を担当している。知り合いのアーティストを起用することもあれば、自分たちでイメージやスタイルを選ぶこともあるよ。
ーーあなたのアルバム『Entropic City』のライナーノーツで、『Horizontal / Vertical nights』というパーティーについての記述を拝見したのですが、こちらについてもう少し詳しくご説明いただけますでしょうか。
PVH:『Horizontal / Vertical nights』は、僕が2002年から2006年にオーガナイズしてたイベントだね。イベントの前半はリスニング主体の「Horizontal(水平)」パートで、床にはクッションを用意して、お客みんなが寝転がって音楽の世界に入っていけるようにしたんだ。サウンドシステムは場内の四隅に設置されている。で、後半はもっとダンスフロア向けのもので、クッションは撤去されて、お客は「Vertical(垂直)」に立った状態になるわけだ。一晩で異なる種類の音楽を提示する方法としては、すごく自然だったと思うよ。
ーー他にもこのようなコンセプチュアルなパーティーはやっているのでしょうか?
PVH:2007年に、イベントのオーガナイズは辞めたんだ。イベントに時間がとられすぎて、音楽を作る時間がなくなってしまったので、選択をしなければいけなかったんだ。イベントはいつかまたやるかもしれないけど、わからないな。今は音楽と、レーベル運営にフォーカスしてるよ。
ーー舞台やモダンダンスのパフォーマンス用の音楽制作もされているそうですが、こちらは今も続けていますか? また、その舞台の公演を観たりすることもできますでしょうか。
PVH:舞台関係の音楽制作は今も継続しているよ。今一緒に仕事をしているダンスカンパニーは、ちょうど新しい演目でツアーを再開したところでね。その作品には、5.1chサラウンドのスコアを書いたよ。僕自身は『THE LABYRINTH』もそうだし、他にも色々と予定があるから一緒にツアーを回れないのが残念だけど、彼らはこれから2ヶ月間、ヨーロッパ中で公演するよ。
ーー『THE LABYRINTH』への出演やジャパンツアーで何度か来日されていますが、日本からはどのような印象を受けましたか?
PVH:ああ、これは長い話になりそうな質問だね(笑)。まず、僕はずっと長いこと、ミュージシャンとして日本に行くのが夢だったんだ。しかも、僕の音楽が理由でね。この夢は2008年に『THE LABYRINTH』に出演したことで、文字通り実現することができたよ。日本の文化自体にも長年興味があって、毎回日本に行くたびにできるだけ色々なことを体験するようにしてるんだ。毎回驚かされるのが、気遣いと配慮についてだね。この点で、日本は僕の中ではとてもユニークな存在なんだ。あと、日常の中の細やかな点について、気を配っていること。必然的にそうなったということも理解できたけど、それでいて美しいものだよね。この辺は、ヨーロッパ人がおろそかにしがちな点だからね。僕自身も、細部へ気を配るほうだから、そこに共感するんだ。今回、このインタヴューが、日本のみんなにこれまでのサポートと気遣いに対して感謝を伝えるいい機会にもなったと思う。特に名前を挙げるつもりはないけど、たぶん当事者の人たちはわかってくれると思うんだ。ありがとう。
ーーTHE LABYRINTH 2010 出演後のあなたのご予定、もしくはレーベルの予定について教えてください。
PVH:今年中にはあと3枚、〈Time To Express〉からリリースがあるよ。現状、レーベルとしてのプライオリティはそれだね。Sendaiのアルバムはたぶん2011年になってからかな。
ーー『THE LABYRINTH』であなたを待っているファンに向けてメッセージをお願いします。あと、最後におかしな質問なんですが……Sendaiというのはやはり日本の仙台からとったんですか?
PVH:その通り、Sendaiはそこからとったんだ。William Gibson(アメリカのSF作家)の著作の中で見つけたんだけどね。僕からのメッセージはすごくシンプルで、今年も『THE LABYRINTH』の一部として参加できることをとても光栄に思うし、みんなが僕の音楽で楽しんでくれるようにベストを尽くすよ。先月も丸1ヶ月の間、『THE LABYRINTH』のことを考えない日は一日もなかった位さ。今年もみんなと、あの体験を分かち合うのが待ちきれないよ! See you soon!
End of the interview