Nina Kraviz
Photo : Yosuke Demukai (AVGVST)Hair&Make-up : Takahiro HashimotoInterview&Text : Kana MiyazawaTranslate : Asako KatoSpecial Thanks : HITOMI Productions, Inc., うさぎ おうどん, きばいやんせ, BANANA
2014.7.8
世の中の真の神秘は目に見えるものだと思うわ。
内面から溢れ出る"美"も外に現れているから
オーバーサイジングな Tシャツにレザースカート、BLK のワントーンコーデで DJ ブースに現れた彼女に一斉に向けられたカメラの数はまさに”スター”そのものだった。 今、これほどまでに世界中から羨望の眼差しを向けられているアーティストは、Nina Kraviz 以外いないのではないだろうか? 待望のニュー EP「Mr.Jones」の日本限定版 CD のリリースに合わせて来日した Nina。かなりの過密スケジュールの中、貴重なインタビューを敢行した。 ”その美しさとオーラはどこから来るのか?”ファンの1人として、同じ女性として、一番聴きたかったことだ。しかし、数時間に渡るインタビューとシューティングを終える頃には、全く別の”NIna Kraviz”が目の前にいた。彼女にとって、”美”とは誰もが思う表面的なパブリックイメージとは全く違う、もっと奥の奥から溢れ出る自然的なものであり、NIna Kraviz という全てからアウトプットされたもの、それが真の”美”であると感じた。突然訪れる爆発的な人気というのは一過性のものであることが多い。彼女はそれを片隅で諭しながらも自身のフィルターに入れることはなく、もっと先の大きなビジョンを見据えているのだろう。
――今、最もブッキングが難しい人気 DJ の1人として、世界中からラブコールが絶えない状態だと思いますが、ここまで注目されることについてどう思いますか?その理由は何だと思いますか?
Nina Kraviz : それは、私よりあなたたちの方が分かってくれてることだと思うわ。私が最も重要視しているのは、アーティストとして良い音楽を作ること、自分の信じた音楽を作ること。そこにビジョンがあるから、自分の人気の理由を分析したりしないし、それは私が考えることではないと思っているの。
――今回は、「Mr. Jones」の日本限定版 CD のリリースに合わせての来日でしたが、この作品は昨年 Rekids からヴァイナルリリースされていますよね?日本限定という形でリリースしたのには何か理由があったのでしょうか?
Nina Kraviz : 「Mr.Jones」は自分にとってとてもスペシャルな作品だと思ってる。だから沢山の人に聴いて欲しいと思ってたの。ヴァイナルのみのリリースというのは、リスナーも限られるし、特に日本に関しては、正直そこまで広がらなかったのね。そんな時に、セイジ( HITOMI Productions ヒトミ氏)から「作品のクオリティーが良いし、このままではもったいない。日本には CD のマーケットもあるから、ボーナストラックとか日本だけのスペシャル企画を考えて、再リリースするのはどう?」という提案をもらって、リリースすることになったの。
――リリース直後の感想は?
Nina Kraviz : とにかく”日本限定”というのが嬉しかった! 以前から日本盤というものにすごく憧れを持っていたのよ。私は長い間DJをやっているけど、最初は今のようにテクノ中心ではなく、いろんなジャンルの音楽をやっていた。私のコレクションの中には、James Brown の日本限定盤というのがあるんだけど、ジャケの文字が日本語で書かれていて、それがとても美しいと思ったの。すごく高かったけど(笑)だから、日本限定リリースの話が来た時に真っ先にそのイメージが浮かんで、自分の作品で作れるなんてとてもスペシャルなことだと思って、本当に嬉しかったわ。日本語はとても神秘的で美的よね。
それに、日本は他の国とは少しマーケットが違うと思ってる。レコードショップもジャンルごとにキレイに並べてあって見やすいし、新譜は日本語の POP 付きでフェイスに並ぶでしょ?そこに自分の作品が並ぶことを想像して、すごく興奮したわ。
――「Mr.Jones」に収録されているトラックの多くにはヴォーカルが含まれていて、一貫性を感じます。とてもセクシーで、ハードなミニマルにレイヤーすると固さを和らいでくれる心地良いサウンドに仕上がっていますが、特に意識した点はありますか?
Nina Kraviz : 「Mr.Jones」自体は2008年頃に作った楽曲なの。もともとバンドでボーカルをやっていたんだけど、そのバンドがとにかく活動が遅くて、自分としては、もっともっと作品を作りたいという欲求に溢れていた時期だったから、徐々に方向性が合わなくなっていって、結局自分1人で音楽活動を始めることになった。最初に買った機材は日本のメーカー KORG の R3(シンセサイザー)だったわ。でも、私はボーカルだったし、機材に関するテクニックがなかったからエンジニア面に関して全く自信がなかった。そこで、自分の武器であり、楽器である”声”で勝負しようと思ったの。自分の声をサンプリングしたものにエフェクトを掛けたり、レイヤーしたりして楽曲を作っていった。その頃はとにかく楽曲制作へのモチベーションがすごく高かったから、作りたいもので溢れていたの。だから、当時制作していたボーカルトラックが「Mr.Jones」のフォーマットになるわね。
それと、「Mr.Jones」というのはどこにでもある名前であり、どこにでも存在するような人物像を描いているの。だけど、姿は見えない。でも、必ずどこかにいて、何かに迷った時に正しい道を教えてくれる存在。それが、”Mr.Jones”なの。だから作品自体もそのイメージに合うような、トリッピーで、ヒプノティックな雰囲気を出したかった。そのために、自分が一番自由に表現したいことを表現できる「声」を使って、さまざまな形でオリジナリティーを表現したわ。歌だけでなく、会話もサンプリングに使っているのよ。「Black White」という楽曲にはマイアミのホテルで友人とオイスターについて話してる何でもない会話が使われてるの(笑)
――まさに楽曲には女性らしく、魅惑的な要素が含まれていると思いますが、DJ中は男性顔負けのパワフルなプレイと選曲をされているように感じます。何か分けている点、気を付けている点などはありますか?
Nina Kraviz : 良い質問だわ。やっぱり DJ する時は普段の時とは違うと思っている。DJ プレイ中はダンサブルなのヴァイブスがとても重要だと思ってる。特に大事にしてるのはヒプノティックなヴァイブスを引き起こすこと。 例えば、ディスコやファンクはボーカルが入っているから違う意味でのヴァイブスを引き起こすことが出来るけど、アシッドハウスやテクノ、ハウスというのはロウなサウンドで、ループしているものだからボーカルがメインではない。その代わり何でもアレンジ出来ると思ってるのよね。
私はグルーヴを作ってエナジーで人々を踊らせたいと思ってプレイしているの。パワフルにやろうとかエネルギッシュにプレイしようとか考えているわけではないのね。本当は出来ることなら、5~6時間かけてプレイしたいの。いつも思い通りのヴァイブスが引き起こせるわけではないから、それだけの時間をかけて、フロアーとの一体感を保ちたいし、その時間の中でジャーニーを作りたいと思ってる。そういった考えが自然と表れて、パワフルに見えているのかもしれないわ。
――日頃からスタイリッシュだと思っていますが、DJ中の衣装はどうやって決めていますか?好きなブランドもあったら教えて下さい。
Nina Kraviz : いろいろ好きなブランドはあるけれど、特にこれが好き!っていうのはないのよね。ワンブランドで固めるのはおもしろくないと思ってるし。いつも自分のビジョンに合わせたものを選ぶようにしているの。私にとってファッションは1つのツールでしかないの。でも、女に生まれて良かったと思ってる。女性らしいファッションが好きだし、ユニークなもの、スポーティーなもの、クラシックなものも好きだから、それらをコンバインして自分のスタイルを作り出すことがとても楽しいし、イメージの相反するものを組み合わせるのが私なりのファッションだと思っているわ。日本のブランドもすごく好きよ。昔のKENZO(*)やコム・デ・ギャルソン、JUNYA WATANABE、イッセイ・ミヤケとか、沢山あるわ。日本のブランドは伝統的なものと現代的なもののコンビネーションが素晴らしいし、コズミックなデザインにもとても惹かれるわ。
ちなみに、今日のサングラスは日本で買った”House Of Holland”(*)よ。
――ズバリ”美”の秘訣を教えて下さい。
Nina Kraviz : 人前に出るアーティストであって、女性である以上、もちろん外見は意識しているわ。エクササイズとしてヨガもやっているし、健康にも気を使っている。あと、タバコは吸わないし、DJ 中のアルコールも控えるようにしてる。 ”美は表面的なものに過ぎない”と言う人がいるけれど、少なくとも私にとっては決して表面的だけのものではない。アイルランドの詩人オスカー・ワイルドの言葉に「外見で人を判断しないのは愚か者である」とあるけれど、その通りだと思っているわ。 だって、結局は、人は外見に左右されているでしょ?第一印象は、見た目の印象でしかないし、それに私自身もレコードを探す時、アートワークが気になって手に取ることも多いもの。内面から溢れ出る”美”も外に現れていると思うし、世の中の真の神秘は目に見えるものだと思う。
――本来持っている美貌だけでなく、アーティストとしての魅力をここまで表現出来てるDJはなかなかいないと思うのですが、何か心掛けていることはありますか?
Nina Kraviz : そんなに自分のことを美しいと思ってないわ(笑)それに、何か特別に他のアーティストと違うことをしようとも思っていないわ。自分には常にビジョンがあって、それに忠実でいることかしら。ただ、自分は感受性が豊かな人間だと思っていて、常に外の世界から刺激を受けて、リフレクションされたものが自分のビジョンになっていくの。だから私のビジョンは常に変わりゆくものなのよね。
――日本の好きな場所があったら教えて下さい。
Nina Kraviz : 京都が好き。行く途中に見える富士山も素晴らしいわ。あと今、抹茶にハマってるの!抹茶の物なら何でも好き(笑)
*House Of Holland:エディター出身の Henry Holland によって、2006年にスタート。スローガンTシャツが火付け役となった、カラフルなカラー展開とハードロックテイストが人気の UK ブランド。
*KENZO:長年に渡り、高田賢三がデザイナーを努めていたが、2011年より OPENING CELEMONY 等で知られる Carol RIM・Humberto LEON の2人がクリエイティブディレクターに就任。
End of intervew
Nina Kraviz – Mr Jones
label: KSR
Cat No.: KCCD-562
定価: Y1,543