Lapalux
Text & Interview : Yoshiharu Kobayashi
2013.3.29
チルウェイヴ以降のインディ・ミュージックとJames Blake的なポスト・ダブステップ、そしてインディ/アンビエントR&Bの三者は今やダイナミックに撹拌され、その磁場から新しい才能が次々と登場しつつある。〈R&S〉が送り出す若き3人組Vondelparkはまさにその潮流から誕生した期待の新鋭だし、イギリス人で初めて〈Brainfeeder〉と契約を交わしたこのLapaluxことStuart Howardも、やはりこの流れにおける注目すべきアーティストの一人に数えられるだろう。
ノスタルジーとシック(Chic、上品な)という言葉を掛け合わせた『Nostalchic』なる造語がタイトルに冠された彼のデビュー・アルバムは、端的に言えば、チルウェイヴ的な恍惚と倦怠にまみれた新世代的な R&B/ビート・ミュージック。しかも、そのリズムは不規則に揺らぎ、上モノは大胆に混ぜ返され、酩酊感を持ったサイケデリアが醸成されている。アルバムの最初と最後にカセットテープのチリチリという音が使われていることに象徴的なように、どこか懐かしく暖かみもあって、刺激的なサウンドとは裏腹に心地よい安心感を覚えるところもあるだろう。やや大げさに言えば、Flying LotusとD’Angelo、James BlakeとWashed Outの間にあるどこか――そんな気分にさせられる魅力的な作品だ。
――基本的なことから訊かせてください。まず、あなたはどういった音楽を聴いて育ってきたのでしょうか?
Lapalux : とにかく色んなものを聴いて育ったよ。まずは父親の持ってたレコードから入って、友達の家でまた新しい音楽を聴いて、っていう感じでジャンルは問わず、ロックからヒップホップ、エレクトロ、R&Bと何でも聴いて育ったね。
――現在の自分の音楽観を形成する上で、一番大きな影響を受けたアーティストを挙げるとすれば、誰になりますか?
Lapalux : 特定の人から特に、っていうのはないかな。音楽はもちろんアートやヴィジュアルなどさまざまなものから影響を受けてLapaluxのサウンドは成り立っているからね。
――自分で音楽を作り始めたのはいつ頃でしょうか?また、最初から今の音楽性に近いようなサウンドを作っていたのですか?
Lapalux : 最初始めた時とは全然違うよ。元々Lapaluxのサウンドはジャンルに特定されず色々な音を使いながらもLapaluxらしい音になることを目指しているから、今もなお進化し続けているよ。
――エセックス(Essex。イングランド東部の州)出身であることは、あなたの音楽に何かしらの影響を与えていると思いますか?
Lapalux :うーん、どうだろう。僕はエセックスに住んでいた時も常にアウトサイダーだったんだ。ロンドンまで20分くらいの近さだったし、常に街の中というより外にあるものから影響を受けていたと思う。子供の時から気がいつも外に逸れてる感じだったのかもね。
――Lapaluxという名前の由来は?
Lapalux : Lap of Luxuryの略なんだ。“富と快適さ” っていう意味なんだけど、日本語と同じでその言葉を縮めてみたんだ。まあ、音楽的な意味で富と快適さを手に入れたいという願いも込めているかな。
――所属レーベルである〈Brainfeeder〉には自分からデモを送って契約が決まったようですが、契約前はこのレーベルにどのような印象を抱いていたのですか?
Lapalux : 僕は前からレーベルのファンで、〈Brainfeeder〉のアーティストがどれも好きだったから、いつかここからリリースできたら夢のようだなって思ってはいたんだ。それが現実になって、正直、信じられない気持と嬉しい気持ちでいっぱいだよ。
――『Nostalchic』は、ビートミュージックからチルウェイヴ、更には90年代のR&B などが美しく織り交ぜられた作品になっていますが、自分としてはどのような作品にしたいと考えていましたか?
Lapalux : 90年代のR&Bからの影響は結構濃く出ているとは思うんだけど、今上げてくれたジャンルに音楽はどれも聴くし、すべての影響は受けていると思うよ。でも、アルバムを作る時に、特にこれといったコンセプトを決めて作ったわけじゃないんだ。どっちかと言うと、自分の中から自然に出てきてるものを曲として作り上げていっているだけで。
――あなたは以前、カセットテープのみで作品をリリースしたことがあり、本作でも最初と最後の曲のサブ・タイトルは、それぞれテープ・イントロ、テープ・アウトロとなっています。カセットテープというフォーマットには、何か特別な思い入れを持っているのでしょうか?
Lapalux : 僕はカセットでアルバムを聴いて育った世代なんだけど、そういうのもあってカセットテープにはノスタルジーを感じるというか。だからカセットテープの雰囲気をアルバムに入れたかったっていうのもあって、それぞれ最初と最後にテープによるイントロとアウトロを入れたんだ。
――アルバムタイトルの『Nostalchic』は、ノスタルジーとシックを掛け合わせた造語ということですが、あなたはノスタルジーという感覚をどのように捉えているのか、教えてください。というのも、アーティストの中には、進歩的であることとは対極だという意味でノスタルジーという言葉を嫌う人もいますよね?
Lapalux : 僕はノスタルジーっていう言葉が進歩の対極とは思わないな。どうしてそう思うのかよくわからないよ。僕にとってノスタルジックっていうのは例えばレコーディングの手法とかで新しいものに古い技法を取り入れるとか、ちょっと懐かしいような古き良きものを今の最新の技術に取り入れるとかいうことで。そういうものが融合する部分にノスタルジーを感じるんだよね。
――本作にも何曲かヴォーカル・トラックが収録されていますが、あなたの音楽におけるヴォーカルの位置づけを教えてください。
Lapalux : 単純にヴォーカルを入れるのがいいかなって思ったのもあるし、皆ヴォーカルが入ってるアルバムが好きじゃない?(笑)それにヴォーカルを使うことによって曲に深みを持たせたり、感情を表現したりっていうことを加えられるし、アルバム全体がインストよりもメリハリがあっていいかなって思ってさ。
――最近、気になっているアーティストやプロデューサーはいますか?
Lapalux : Matthewdavidをよく聴いてるよ。あとは自分のコレクションの古いカタログを引っ張り出してよく聴いてるかな。でも最近は、立て続けにライブがあったりしてあんまり音楽を聴いてなくて……というか、聴くのを休んでる状態だね。ライブがあったりするとクラブで何時間も音楽を大きい音で聴いたりするから耳が疲れちゃって、無音の世界に浸りたい時が結構あるんだ。だから自分の音を作る時以外は、結構無音で過ごしている時もあるね。
――今のイギリスのシーンについてはどのような印象を持っていますか? 数年前と比べて、何か変わってきたこととかはありますか?
Lapalux : 今はみんながMy SpaceとかSoundCloudに自分の音を自由にアップロードできるし、皆がプロデューサーっていうか。僕自体がそういうシーンのどこかに属しているわけじゃないから、今一体何が流行っているのかとか正直言ってあんまりよくわからないっていうのが本音だけど、とりあえず特定のシーンというよりは各自が好きなように選んで聴いてるっていう感じじゃないかな。
――最後に、『Nostalchic』 は、あなたの何をリプレゼントしていると思いますか?
Lapalux : アルバムはまさに僕の子供というか、すべてというか……もちろんデビュー・アルバムっていうこともあって、僕自身を表しているものだと思うよ。正直言って、これで成功したいとかそういうことより、単純にアルバムが出来て、リリースできて嬉しいっていう、本当にそれだけだね。
End of Interview
リリース情報
Lapalux
『Nostalchic』
Release Date: 2013.03.16
Label: Brainfeeder / Beat Records
Cat No.: BRC-367
Price: Y1980 (tax in)
※日本盤特典 : ボーナス・トラック追加収録
Tracklist:
1. IAMSYS (Tape Intro)
2. Guuurl
3. Kelly Brook
4. One Thing (ft. Jenna Andrews)
5. Flower
6. Swallowing Smoke
7. Without You (ft. Kerry Leatham)
8. Straight Over My Head
9. Dance (ft. Astrid Williamson)
10. The Dead Sea
11. Walking Words
12. O E A (ft. Kerry Leatham) (Tape Outro)
13. Fat Gold Chain (Bonus Track for Japan)