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INTERVIEW

Ibeyi

  • Text & Interview : Yoshiharu Kobayashi

  • 2015.2.10

  • 9/10
  • 2/1 追加
  • 9/10
  • 2/1 追加

ヨルバの伝統音楽とヒップホップの出会い、あるいはJames BlakeがプロデュースしたNina Simone――そんな乱暴とも思える位置付けも、あながち的外れではないだろう。名門〈XL Recordings〉のオーナーであるRichard Russellが惚れ込み、自らプロデュースを買って出たニューカマーのIbeyiは、自分たちのルーツ/アイデンティティであるヨルバ音楽とモダンなエレクトロニックミュージックの影響を交配させながら、どこまでも神秘的で美しいサウンドを創出している。

 

ナイジェリアとベナン共和国に居住する西アフリカ最大の民族であり、植民地時代のキューバに奴隷として連れてこられたヨルバ族。彼らの言葉で「双子」を意味するIbeyiは、その名の通りLisa-KaindéとNaomi Diazからなる双子の姉妹デュオ。フランスとキューバを故郷とし、Buena Vista Social Clubのパーカッション奏者、Anga Díazを父親に持つサラブレットだ。

 

そんな彼女たちがRichardと二人三脚で作り上げたデビュー作『Ibeyi』は、ヨルバ音楽やジャズやソウルをヒップホップ的なプロダクションと掛け合わせ、現代的にアップデートしたもの。先日、自分たちが影響を受けた音楽を詰め込んだミックステープ『EE-BEY-EE』を発表したばかりだが(以下にウィジェットを貼り付けてあるので、ぜひ聴いてもらいたい)、そのトラックリストにEarl SweatshirtやKendrick Lamarから、Lauryn HillやD’Angelo、Kate BushやBillie Holliday、さらにはヨルバ音楽までが並んでいるのも決して不思議ではない。むしろ、その奇妙だが極めて美しいミックスと、(亡き父と姉に捧げられたがゆえの?)全体を貫くスピリチュアルで神聖なムードこそがIbeyiのオリジナリティだと言える。

 

この素晴らしいアルバムの完成に際し、彼女たちにはメール・インタヴューに応えてもらった。なお、2人の共通意見として返答された部分はどちらが回答したかわかりかねるので、話者は「Ibeyi」と表記してある。

 

Ibeyi

 

――あなたたちのデビューアルバム『Ibeyi』は、様々な音楽や文化、あるいは伝統的なものと新しいものを融合させて生まれた、非常に美しい作品だと感じました。

 

Ibeyi:ありがとう! このアルバムは100%私たちのものだと言えるものだから、自分たちでも誇りに思ってる。私たちの曲を日本でプレイできるのが待ち遠しいの。

 

 

――あなたたちは幼い頃から音楽学校に通っていたそうですが、その時から将来はアーティストになると漠然とでも考えていたんでしょうか?

 

Ibeyi:自分たちがプロのミュージシャンになるのが可能だっていうことはわかってた。父親がそうだったからね。でも自分自身の楽しみのため以外に音楽をやるなんて考えたことなくて。私たちの最初のコンサートでさえ、自分たちにとっては現実味のないものだったし。

 

Lisa-Kaindé:だから、本当に実感したのは、Richard Russellとスタジオに入ってレコーディングを始めた時かな。大学の授業を休まなきゃいけなくなったし、そのうち音楽学校に行くのも止めなきゃならなくなって。それで私の人生が変わろうとしているんだって気が付いたっていうか。でも、私たちがこれを選んだんじゃなくて、人生が選んだの。Richardに出会ったとき、この冒険に対してノーとは言えなかった。流れに身を任せるべきだと感じて、自分の内にある表現したいものの存在に気が付いて。自分の中の炎を感じ始めたのよ。

 

 

――あなたたち二人は性格が正反対だとよく話していますが、それでも一緒に音楽をやろうと思ったのはなぜですか?

 

Naomi Diaz:Lisaが15歳の時にステージで演奏するのを観て、私はすごく泣いちゃって。で、彼女がEPを作る話を持ちかけられたときに、私は彼女に「絶対、私抜きでやらないでね」って言ったの。彼女は笑って、私たちは2人で一緒に音楽をやり始めたの。

 

 

――それぞれ、互いのキャラクターと、自分にはない相手の長所を寸評してください。

 

Lisa-Kaindé:Naomiは直観的で、繊細で、エネルギーに溢れていて、私は彼女のダンスの仕方が好きなの。彼女はタフで、ネガティヴな意見を気に留めないわ。そこがすごく好き。

 

Naomi Diaz:Lisaは内省的で、穏やかで、創造的で、面倒見がよくて、スウィートで、私は彼女の作る料理が大好きなの!

 

 

 

――エレクトロニックで現代的でありながらも、伝統的な部分も兼ね備えているIbeyiの音楽性を形成する上で、欠かすことが出来ない影響を与えたアーティストを何組か挙げるとすれば、誰になりますか?

 

Ibeyi:音楽だけじゃなく、あらゆるアートが私たちに影響を与えてる。色々な映画、写真、ダンスとか……それと人生が大きな影響の源になってるし、私たちや私たちの周りの人々が感じることが私たちの音楽に入ってるの。少し例を挙げるなら、Meshell Ndegeocello、Nina Simone、James Blake、Jay Electronica、Frida Kahlo、Francis Bacon、(John) Cassavetes、Xavier Dolan、最近だと映画の『Whiplash(邦題:セッション)』とか。それと私たちの母ね。

 

 

――母親からは、具体的にどのような点で影響を受けたと言えますか?

 

Ibeyi:母は音楽と芸術を愛していて、楽器も母が買ってくれたし、音楽学校にもずっと付いて来てた。ヨルバの合唱団にも連れて行ってくれて、そこでチャントを学んで。私たちの人生はずっと母と一緒で、他のみんなと同じように母には大きな影響を受けてると思う。

 

 

――あなたたちの父親は高名なミュージシャンですが、彼からも影響を受けた部分はあると思いますか?

 

Ibeyi:もちろん。私たちは赤ちゃんの頃から父が演奏するのを観に行ってたから。でも、子供は誰でも父親から影響を受けるものでしょ?

 

 

――デビューアルバムは、どのような作品にすることを目指していましたか?

 

Naomi Diaz:エレクトロニックなサウンドだけで、私たちだけで演奏したものにしたいと思ってた。

 

Lisa-Kaindé:私はミニマルで、有機的なものにしたいって思ってたな。

 

 

――プロデュースはRichard Russellがやっていますね。

 

Ibeyi:Richardに出会ってすぐ「私たちのアルバムをプロデュースしてほしい」と思って。彼じゃなきゃいけなかったの。

 

 

――Richardでなくてはならなかった理由は?

 

Ibeyi:彼は私たちにレコードの聴き方や、自分の直感への従い方、それに自分自身を信じて、自分たちの表現するものや表現の仕方に自信を持つにはどうすれば良いのかを教えてくれたの。彼は私たちの人生を変えたっていうか。

 

 

 

――トラックは隙間、空間を効果的に使っている印象を受けましたが、トラックメイキングについて留意した点を教えてください。

 

Ibeyi:全部が有機的に、自然に生まれてきたものなの。時には、曲自体が勝手に生まれてるような感じさえしたし。

 

 

――あなたたちの音楽は、ヨルバの伝統的な音楽やジャズやヒップホップなどが入り混じったものですし、歌詞も英語とヨルバ語を混ぜ合わせて歌っています。その多様性、複雑さというもの自体が、自分たちのアイデンティティだとは思いますか?

 

Ibeyi:ええ、私たちには色々な文化や色々なものからの影響が混じり合ってる。アルバムは私たち自身を忠実に表してると思う。

 

 

――ただ、自分たちがそのように複雑なアイデンティティを持っていることは、昔から自然なことだったのでしょうか? それとも、どこかの段階でそれを受け入れて、むしろ強みとして表現していこうと思ったのでしょうか?

 

Ibeyi:私たちは自分たちがミックスされたアイデンティティを持っていることに不都合を感じたことはなかったな。異なった文化の一部でいられることは、とても幸運だと感じるから。

 

 

――あなたたちの音楽はどこかスピリチュアルで、祈りのような感覚があります。ただ、それは自分たちにとって大切なことですか?

 

Lisa-Kaindé:私は14歳の時、自分のために、気分を良くするために曲を作るようになった。歌うことは私にとって祈りなの。

 

 

――アルバムでは家族――他界した父親や姉についても歌っています。それらの曲は悲しみに浸っているようでもあり、それを浄化しているような感覚もありますが、自分たちとしてはどのような意図で彼らのことを歌うことにしたのでしょうか?

 

Ibeyi:Richardが私たちに「父親や姉についての曲はある?」って聞いてきたんだけど、私たちにはそういう曲がなくて。で、彼に「それを試してみるべきだ」って言われたから、やってみたら出来たの。

 

 

――アルバムでは男女の恋愛という「身近な愛」を歌っている曲も少なくないですが、“Ghosts”や“River”、“Weatherman”などは、より「大きな愛」について歌っているようにも受け取れます。実際、本作の歌詞はどのようなことを意識して書きましたか?

 

Naomi Diaz:希望ね。別れや死が訪れようとも決して消えることのない愛があることへの希望よ。

 

 

 

――アルバムの最初と最後をヨルバ語のチャントにしている理由を教えてください。

 

Ibeyi:ヨルバの文化は、今もキューバのアイデンティティの大きな部分を占めてる。私たちが歌っているチャントは、キューバのサンテリアという宗教の儀式で歌われるチャントで、私たちのアフリカからの遺産なのよ。で、どうしてアルバムの最初と最後に収録しているかというと、それが必然だったから。「なぜ?」と自分たち自身に問いかけたことはなくて。1曲目の“Eleggua”のチャントは、道を開き、そして閉じるOrisha(※数多くいるヨルバ信仰の神様の総称。なお、ElegguaはOrishaの中でも「道」を司る神で、儀式の最初に呼び出される)のためのものであり、最後のチャントはIbeyi(=ヨルバ語で双子の意味)のためのものであるの。

 

 

――このアルバムは、自分たちのどういった部分、どういった側面をリプレゼントした作品だと言えますか?

 

Ibeyi:私たちの心と精神ね。

 

Naomi Diaz:ひとつの眼。

 

 

End of interview

 

 

 

 ibeyi artwork

Ibeyi

『Ibeyi』

Release Date: 2015/2/11

Label: XL Recordings

Cat No.: BGJ-10231

Price: 2,371円+税

※日本先行発売、ボーナストラック2曲、歌詞対訳、ライナーノーツ付予定

 

Tracklist:
1. Eleggua (Intro)
2. Oya
3. Ghosts
4. River
5. Think Of You
6. Behind The Curtain
7. Stranger / Lover
8. Mama Says
9. Weatherman
10. Faithful
11. Yanira
12. Singles
13. Ibeyi (Outro)
14. Chains *
15. Fly *
*日本盤ボーナストラック

Pioneer DJ

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