Huerco S.
Text & Interview : Hiromi MatsubaraInterpreter : Shimpei Kaiho
2015.7.8
よーく耳を澄まして。靄のようなリヴァーブの向こう側でうごめく、ビートとは違う、また別のグルーヴを持った何かが聴こえる? ただ、それが一体何かはあまりよく知らない方がいいかもしれない。Huerco S.であるBrian Leeds本人が言っているような、一見すると実体は無さそうで、実際にはこの世のどこかに存在している物事かもしれないから。ただ耳を澄まして、彼の物音だけを感じていさえいれば、それでいい。感じていれば充分にノれるから。
今回Huerco S.と共に来日をするAnthony Naplesがカタログの1番を飾った、パーティー兼レーベルの〈Mister Saturday Night〉や、日本のレコード屋でも人気なブルックリンを拠点にする〈L.I.E.S.〉、ハウス寄りの〈Golf Channel Rec.〉といったレーベルの状況を、インターネットを通じて眺めたり聴いたりしていると、確かにニューヨークがエレクトロニック・ミュージックに関して「いま再び注目の音楽都市」と称されているのは分かるし、確かに面白い。何と言っても、あまりにも薄っぺらなEDMに中指を立てるかのような、ロウでジリジリとしたアナログな質感のサウンドが堪らない。Legoweltのように、実際にアナログ機材を使いまくっているアーティストもいるが、多くのアーティストは、シカゴ・ハウス、デトロイト・テクノ、ベーシック・チャンネルにパソコンでデジタルのエフェクトをかけまくったら逆にアナログなサウンドになったという具合の、解体と更新を同時に行ったような雰囲気を漂わせている。そういったところが丁度、意識をどこかへさらっていくのだ。
Huerco S.が作っているサウンドも総じて、シカゴ・ハウス、デトロイト・テクノ、ベーシック・チャンネル等にパソコンでデジタルのエフェクトをかけまくっているタイプなので、ロウなハウス/ロウなテクノに含むことはできるが、彼に関してはどこか逸脱している部分もある。おそらく彼の多岐にわたる音楽遍歴と、その中でもHuerco S.のプロジェクトの直近にあるノイズとアンビエントのトラックを作っていた経験が、他のアーティストには無いエフェクト、レイヤー、空気感を与えている。アンビエントのグルーヴと言うべきか……、リヴァーブによる濃い靄の中は高湿で、寒冷でもあり、温暖でもあって……、濃厚に土と木の香りがする瞬間もあれば、ウッとくる路地裏の匂いがする瞬間もる……全身が常にシーンが変化するトリップを味わうような感覚だ。架空の建造物、架空の都市を作り上げるような音を展開してきたOneohtrix Point Neverが自身のレーベルに招いたのも納得できる。
本人はプロダクションとDJは全く違ったものと説明しているが、多様なトラックを駆使して予期せぬ変化を生むHuerco S.のDJは、彼のプロダクションが多分に含んでいる様々なジャンルをひとつひとつ解剖して見せているような側面もある。そう、Huerco S.の実態を知りたければ、彼のDJプレイに耳を澄ましに行く必要もあるということだ。
ーーあなたが、ポップパンクやハードコア、メタル、ノイズを経て、いまの音楽スタイルに至っているという話や、あなたのお父さんは音楽の好みが幅広く、多彩なCDコレクションを持っていた、といった話を少し読みました。Huerco S.のプロジェクトをスタートさせるに至るまでの、あなたの音楽遍歴を教えてください。
Huerco S.: そういった音楽はほとんど自分で見つけたよ。地元(カンザスシティ)のライヴハウスやインターネットでね。僕の父は主にクラシック・ロックを聴いていたから、自分と共振するようなことはこれまで無かったかな。10代の頃はバンドをいくつかやってて、ギターを弾いてたんだけど、最終的にはジャズ・ギターを勉強してたよ。それで当時、僕の仲良かったドラマーの友達が南フランスに旅行で行ったんだけど、帰ってきた時にドラムンベースの情報も一緒に持って帰って来て。Daft PunkとEnigmaを除いては、その時に友達がドラムンベースを教えてくれたのが最初に電子音楽に触れたきっかけだった。ドラムンベースでは、ジャジーでソウルフルな、どちらかというとメロディックなやつを探しては聴いてて、その音楽に影響を与えたトラックやアーティストたちを辿って行ったら、初期のシカゴ・ハウス、デトロイト・テクノ、ディスコに行き着いたんだ。それがHuerco S.の始まりに繋がってくると思うな。大学1年生の時だったかな。カンザスの実家で始めたプロジェクトなんだ。
ーー音楽以外の要素で、Huerco S.のキャラクターを創っているものを挙げるとしたら、他には何がありますか?
Huerco S.: Huerco S.の定義のようなものを挙げるなら、まずは「死が訪れる前兆、人の形をした陰が死ぬ間際」、そして「毛だらけで、牙のある、獰猛でしゃべる猛獣。人里離れた暗い森や庭で暮らしていて、人を捕まえては食べる、無情であり、それでいて情け深い、そういったおとぎ話」、この2つだね。
ーー2013年にリリースされた1stアルバム『Colonial Pattern』は、先コロンブス期のアメリカにインスパイアされた作品だそうですが、歴史や遺跡、考古学などには以前から興味があったのですか?
Huerco S.: そうだね。文学的に参照しているところはある。歴史とか地理は大好きだよ。もし音楽を辞めていたら、おそらく学校に行って歴史を勉強してたと思う。
ーー『Colonial Patterns』は、どちらかというとパーソナルな作品なんでしょうか? それとも、先コロンブスの歴史をもとにして、いまのアメリカや社会に対して何かを訴えた作品なんでしょうか?
Huerco S.: 作品を通して、忘られたアメリカの歴史にもっと興味を持つようになったくれたらと思うよ。
ーー歴史や遺跡からインスパイアされて、それを音楽に落とし込むというのは、あなたと遺跡や歴史的証拠との対話を音楽に変換していくような作業なのかのでしょうか? それとも、先コロンブス時代を想像して、その時代のサウンドトラックを作っていくような作業なのでしょうか?
Huerco S.: いや、そういうことではないね。先コロンビア時代の儀式、建築技術、河の構築、都市の構想とか、それらの基盤になった存在しない時間と場所からインスピレーション受けたこととは確かだけど、それがそのまま音として作品に出ているわけではないかな。
Huerco S.『Colonial Patterns』
Release Date : 2013.11.28
Cat No.: MBIP-5529
Label: Software / melting bot
Price : ¥1,886 + 税
現行NYハウスの深部をならすHuerco S.が盟友Anthony Naplesと初来日決定!
feat. Anthony Napels & Huerco S.
東京公演
Date : 2015.07.10 (Fri)
Venue : LIQUIDROOM
Open 23:30
Door : Y2000 Adv : Y1500
More info : http://www.liquidroom.net/schedule/20150710/24827/
大阪公演
Date : 2015.07.12 (Sun)
Venue : Circus Osaka
Open 21:00
Door : Y2000 + 1D
more info : http://circus-osaka.com/events/zipangu-present-anthony-naples-x-huerco-s/