HELM
Text & Interview : Hiromi MatsubaraInterpreter : Shimpei KaihoSpecial Thanks : DJ Soybeans
2016.4.27
説明できない感覚は混乱の音楽に
あぁ……動いてるなぁ……、と感じることも音楽を聴く上での快感のひとつだ。何が動いてるかと問われれば、第一にはリズムであったり、メロディーであったりが、「音楽が動いている」という感覚と理解を与えている。しかし、どうやらその快感の極みは、むしろフィールド・レコーディングの方に、そしてそれを基にしたミュジック・コンクレートやノイズやアンビエントのような非音楽的なサイドにあるようで、肉声と機械音が混在する都市の喧騒や、今にも崩れそうな薄っぺらなビル群の軋み、ザラつきのある薄汚れた空気、それらを目の前にして生きる人間の胸の奥で渦巻く何かを、音楽として体感し、聴覚が他の五感とリンクした実感を得ることこそが聴いている側としてはリアルであり、身体的な興奮度が高い。
そういった都市的なフィールド・レコーディングと生楽器のサンプリングが、マシンの限界を侵食し始めた時に生じるノイズを、リズムやループなどの方法とバランスという理性によって「エレクトロニック・ミュージック」へと昇華させた、HELMの『Olympic Mess』は最高に気持ち良くなれるアルバムだ。送り出したのは〈PAN〉。Bill Kouligasは、HELMの音楽を電子音楽史に新たなシーンを加える重要なドキュメントとして提示している。
HELMの狂騒曲をライヴで体感する機会があるとしたら。2016年のゴールデンウィーク、そのチャンスは日本にやってくる。迷わずにお近くの会場へと動くことをお勧めしよう。その前に、HELMを主導するLuke Youngerの言葉を頭に入れておくといいかもしれない。描くべきイメージと、掴むべき感覚と、落とし込むべき理解は、HELMの音像に対峙する個々に委ねられている。
ーー日本語のインタヴューは今回が初めてだと思うので、いくつか基本的なことを訊かせてください。あなたには、HELMとしてのキャリア以外にも、ハードコア・パンクバンドのメンバーとしてのキャリアもあるそうですが、そもそも音楽にのめり込むようになったきっかけは何だったんですか?
HELM:音楽にのめり込んだのは10代前半からで、きっかけを言葉にするのは難しいね。強いて言えば、学校のバンドでギターをやってたんだけど、Roland MC303とFostexの4トラックのカセットテープのレコーダーを使って音楽を作ろうとしていった、ってくらいかな。
ーーでは、あなたが初めて出会った(もしくは初めて衝撃を受けた)エレクトロニックミュージックは、誰のどの作品でしたか?
HELM:そんなに沢山はないけど、電子音楽が「これだ」って思ったのは90年代後半で、僕はまだ10代だったね。レコードで言えば、その当時だとFuture Sound Of London’sの『Lifeforms』、 Underworldの『Second Toughest In The Infants』、Orbitalの『Snivilisation』と『In-Sides』だったかな。結構メインストリームだったけど、電子音楽に引き込まれるきっかけになったのは確かだね。その数年後に、WhitehouseやThrobbing Gristleだったり、自分の作っている音楽に影響されたアーティストを見つけたんだ。
ーーあなたが遊びに行っていたヴェニューやパーティー、あなたが深く関わっていたアンダーグラウンドのシーンについて教えてください。あなたの現在の音楽活動に大きく影響している体験はありますか?
HELM:特にこれってのは無いね。10代の頃は何でもいいから、とにかく色んなものを見に行ってた。16歳の時は毎週4回はライヴを見てたし、今考えると狂ったように行きまくってたね。20歳になる前くらいに、変なノイズ系のイベントが少しづつ出てくるようになったんだけど、DIY系のパンクのライヴが流行りはじめてて、その中でも印象的だったのがRed RoseでのWhitehouse、The Mean FiddlerでのJesus Lizard、ノッティンガムのパブでやってたArab On Radar、ロンドンでのThe Locust(かなり初期のツアーだったと思う)は、いつ聴いても良いってわけではないんだけど、その時に感じた雰囲気、客の熱量、恐ろしいほどの狂気は、恐らく自分の中に一生残り続けると思うな。
ーーエレクトロニックミュージックの中でも、ノイズ、アンビエント、ドローン、インダストリアルサウンドといった、より実験的で前衛的な音楽スタイルへと、またそういった音楽を演奏するアーティストへと辿り着いたのはどうしてですか?
HELM:バンドの中でギターとか他の楽器を使った、「伝統的」な音楽の作り方みたいなのがつまらなくなってね。音楽を沢山聴くのも、「新しい音」を探すのも、こうなったら面白いだろうなって思うアイディアやヴィジョンが自分の頭で浮かび上がってきて、その世界観に近付きたいっていう感覚なんじゃないかと思うんだ。
ーー現在、HELMとして作っているノイズやドローンのようなトラックは、あなたの全体的な作業としてよく磨かれていて、音像として洗練されているように思います。あなたがメンバーを務めていたハードコア・パンクバンドはより本能的で野性味あるノイズサウンドですが、一概にこの2つのノイズサウンドに共通点は無いとは言えないとも感じています。あなた自身では、HELMの音楽性と以前やっていたハードコア・パンクに共通点を見出しているのでしょうか? それとも全くの別物なのでしょうか?
HELM:それはどうかな。自分がHELMとして出しているものは、合理的で簡単に測ったり説明出来ない直感や感覚のようなものに基づいていて、だからその音楽の背景にあるプロセスやそれ自体を話すことは実際とても難しいよね。ハードコア・パンクを作ることは、皆がどうしたいのかを徹底的にディスカッションするグループ全体の決定や形式に大抵は左右されるし、究極的に言えば、バンドの方が制限があると言えるんじゃないかな。
ーー以下はあくまで調べた情報に過ぎないので、ぜひともHELMの正確な経歴を教えてください。2008年に最初のLPを出す以前の2006年~2007年頃に、類似した音楽性の作品で、本名のLuke Youngerとしてリリースしている作品と、HELMとしてリリースしている作品があると思うのですが、HELMという名義はいつから名乗り始めたんですか? また、なぜ「HELM」という名前にしたのですか?
HELM:HELMとしての初めてのリリースは2007年になるかな。その名前は、「Helm」の意味(支配、指導)からの拒絶で、ソロでのアウトプットや自分が関りたい他のアーティストとのプロジェクトのような容れ物でもあって、バンドになることだってあるかもしれない。スタジオで外部のミュージシャンを招く機会もあったし、ライヴパフォーマンスでダンサーも入れることもあるし、それらがどんどんHELMの一部になっていく。HELMそれ自体は僕ではなく、僕のサウンドを伝えるパッケージだと思って欲しいね。
ーー初期にはカセットテープでのリリースを多く行っていたり、最近はヴァイナルがメインのリリースフォーマットになっていますよね。あなたが2010年から始めたレーベル〈Alter〉のカタログを見ても、アナログのリリースフォーマットとの結びつきが強いように思います。HELMの活動や音楽性には何かアナログと関わるコンセプトがあるのでしょうか?
HELM:フォーマットに関してだけど、自分の音楽がどう聴かれたいかって拘りは全く無くて、そのフォーマットによって影響を受けることもない。これまでのリリースでカセットやヴァイナルが多いのは、オーディエンスが楽しんで買ってくれるからだよ。不便だけどヴァイナルは好きだね。プライベートで音楽を聞くときはデジタルがほとんどだけどね。
ーーあなたが3枚目のLP『Cryptography』をリリースしたレーベル〈Kye〉のオーナーで、アートワークのデザインでもあなたに関わっているGraham Lambkinは、出会う前から影響を受けていたアーティストのひとりでしたか?
HELM:Grahamは厳密に言えば僕のアートワークをデザインしたのではなく、Bill Kouligas(〈PAN〉のオーナー)が持ってきたイメージをクリプトグラフィーでレイアウトしたもので、グループ効果だね。Grahamに会う前からもちろん彼のファンだったよ。Shadow Ringのアルバム『Lighthouse』と『Lindus』、彼がCDで出してた『Salmon Run』は最高のレコードだし、長年にわたって賞賛される、世代が変わってもフレッシュに聴こえる作品だと思うよ。
ーー最新作の『Olympic Mess』を含む2枚のLPと、2枚のシングルをリリースしている〈PAN〉とはどのような経緯で繋がったのですか? Bill Kouligasからアプローチがあったのでしょうか?
HELM:ある日電車でね……特に話すほど面白くないよ(笑)。
ーー『Olympic Mess』(直訳で「オリンピックの混乱」)というタイトルに親近感を覚える日本人のリスナーが多いと思います。というのも、2020年に開催される東京オリンピックを巡って、一度は採用されたオリンピックエンブレムのデザインに盗作疑惑がかけられて再度デザイン・コンペティションが行われたり、採用されたはずのオリンピック・スタジアムのデザインが総工費の膨張と財源の未確保によって取り消しになったり、といった様々な問題が既に起きていたからです。おそらく東京で起こったこととアルバムは無縁かと思いますが、実際にあなたが『Olympic Mess』に込めたコンセプトと、アルバムで描いているものはどういった現象なのですか?
HELM:日本語だと伝わりにくいかもだけど、「オリンピック」は形容詞的な意味で使われることがあって、「仰々しい」とか「巨大」なものをここでは指していて、少し内省的でもあって、いろんな解釈でイメージ出来るよね。
ーー『Olympic Mess』は、Iceageのツアーへの帯同と交流によって、これまでよりもリズムを意識して制作されたとのことですが、具体的にどういった経験にあなたが感化されたのか教えて下さい。
HELM:ツアーの長旅ってある意味ループにも似てて、リズミックなパターンの音楽から生まれるものに惹かれていったね。
ーー特に“I Exist In A Fog”や“The Evening In Reverse”を聴いていると、あなたの音楽は情景の描写がとてもし易いと感じられます。タイトルによるところもあるかもしれませんが、リスナーの視覚や心象に強く訴える音楽だと思います。これは、あなた自身がある特定のシーンを思い浮かべながらトラックを作っているからでしょうか?
HELM:たまにかな。普段はタイトルは最後につけるから、そういった情景的なシーンは音楽の後に来るかな。曲のイメージをタイトルが出しゃばり過ぎて邪魔しないよう、リスナーの想像に任せる方が良いと思ってて、何かリスナーにこれといった特定のイメージを押し付けるようなことはあんまりしたくないね。
ーーそして『Olympic Mess』に2パターン収録されている“Sky Wax”についても訊かせてください。まず「Sky Wax」というタイトルが面白いと感じているのですが、これはどういう現象のことを指し示しているのですか? また、“Sky Wax (London)”と“Sky Wax (NYC)”に特別な関係性はあるのでしょうか?
HELM:ドラッグの引用だね。その2曲は同じ素材を使っていて、2つの違った場所で完成したんだ。
ーーでは、あなたが音楽制作にあたってよくインスピレーションを受けている物事は何ですか?
HELM:何でも。これまでコミットしてきた人生全てからの影響で、そういった限定された範囲でこの質問に答えるのは不可能だね。何からインスパイアされたのかとかは全く意識してないな。
ーー『Olympic Mess』収録のトラックたちを構築する数多くのレイヤーの中のひとつに、Boiler Roomで共演をしていた即興演奏家のEli Keszlerのパーカッションがあります。これはあなたが彼の即興演奏を収録して編集しているのでしょうか? それともある程度のディレクションされた音なのでしょうか?
HELM:あの録音はBoiler Roomのサウンドチェックで出来たものなんだ。本番もサウンドチェックもほとんどデジタルのレコーダーに録音してたんだよね。ニューヨークのHeaven Streetでレコーディングしてた時に、Eliのドラムを録ろうとしてたんだけど上手くいかなくて、あの時のレコーディングの一部を切り出して使ってる。彼をクレジットに載せようともしたんだけど、ちゃんとしたセッションで録られたものでもなかったし、10秒くらいの素材だったから、そのまま知らせずに使ったんだ。Eliはとても良いアーティストでもあり、ミュージシャンでもあるね。
ーーあなた自身はライヴではどれぐらいの即興性を意識しているのでしょうか? よかったら、どのような機材を使っているのかも教えて下さい。
HELM:今は30%くらいかな。機材は知る必要ないんじゃないかな。パフォーマンスや音楽に関係あるわけでもないしさ。
ーー初めてのジャパンツアーを目前にした今の心境や期待していることを教えて下さい。
HELM:温かく向かい入れて貰えると嬉しいけど、それ以外は全くの未知だね。日本はずっと行きたい国だったから本当に楽しみにしてるよ。
End of Interview
イベント情報
HELM JAPAN TOUR 2016
Tour info: http://meltingbot.net/event/helm-japan-tour-2016
【東京】
Forestlimit 6th Anniversary
Date: 2016/4.29 (fri)
Venue: Forestlimit
Open/Start: 18:00
Door Only: ¥2,500 + 1D
Line up:
[LIVE]
HELM (PAN / from London)
CARRE
CVN
[DJ]
7e
Dirty Dirt
Forestlimit 6th Anniversary
4.22 -30 at Foreslimit Tokyo
ゲストに初来日公演となる、ロンドンからHELM(PAN)とマンチェスターからACRE (Tectonic)を迎えたレフト&アウトサイダーの巣窟、東京地下の実験所、幡ヶ谷のFORESTLIMIT6周年記念イベント開催中!
More info: http://forestlimit.com/fl/?page_id=11019
【新潟】
experimental room #22
Date: 4.30 (Sat)
Venue: 砂丘館 (Sakyu-Kan)
Open/Start: 17:00/17:30
Line up:
[LIVE]
HELM [PAN from London]
食品まつり a.k.a foodman
PAL
[DJ]
JACOB
Ticket:
ADV ¥3,000
Door ¥3,500
Ouside Niigata ¥2,500
※FREE Under 18
チケット・メール予約: info@experimentalrooms.com
※件名を「4/30チケット予約」としてお名前とご希望の枚数をご連絡下さい。
more info : http://www.experimentalrooms.com/events/22.html
【大阪】
BFF#002 HELM Japan Showcase
Date: 2016/5/2 (Mon)
Venue: Conpass Osaka
Open/Start: 19:00/19:30
ADV: ¥2,800
Door: ¥3,000
Falus Sticker: ¥2,500
Line up:
[LIVE]
HELM [PAN / Alter from London]
bonanzas
[DJ]
行松陽介
Falus
more info: http://birdfriendfalus.tumblr.com/