Evan Baggs
Interview : RIKU SUGIMOTOText & Edit : Hiromi MatsubaraSpecial thanks : KABUTO (DAZE OF PHAZE / LAIR)
2017.4.14
ただ耳を傾け、感じ、観察して流れに任せる
持ち手札が多く、それも日々熱心に入れ替えているDJには大きな期待を抱くことができる。それでいてSound Cloudで聴けるポッドキャストが軒並み素晴らしいと、もはや週末が異様に楽しみになってくる。Evan Baggsが残しているポッドキャスト/DJミックスは決して多くはないが、そのうちのいくつかを聴けば、トラックが秘める音のDNAの糸を手繰り寄せて再び編み込むようなミックスを随所で発見することができる。ベルリンを拠点にするアメリカ人DJらしく── NY仕込みのガラージ、そこから一歩退いて見ればディープハウス、2000年代NYで発祥したアンダーグラウンド・ハウス、そしてヨーロピアンでミニマルなハウスに到達すれば、たちまちミニマルテクノが絡み始める。その奥底ではエレクトロ・スタイルも、ロウな質感も、文脈/背景同様に存在価値を発揮している。Evan Baggsにとっては音楽も有機体なのだ。
『DAZE OF PHAZE』の初回に出演したAndrew James Gustavのインタヴューを掲載した際の冒頭文で、『DAZE OF PHAZE』のコンセプトである「完全現場主義」へと話を繋げる形で、「飛躍している理由やプレイの良し悪しは、一概にはオンラインに転がっている情報だけでは判断できない」と僕は述べていたようだが……、期待を募らせることは悪いことではないはずだ。仮に裏切られたとしても。欧米を忙しく飛び回って様々なDJと共演し、Joy OrbisonとRyan ElliottとのB2Bもドラマティックにこなし、2017年にはThe Pickle Factoryのレジデントに就任した、この多くの事実が物語るEvan Baggsの現場へと臨む姿勢に、我々も揺らがずに臨もうではないか。
今回の『DAZE OF PHAZE』は、ベルリンを拠点に活動するEvan Baggsとdj masdaを招聘します。
Evanのプレイを現場で聴いた事がなかったのですが、楽曲やPodcastが素晴らしく、彼と現場が一緒になる機会も多いmasda氏からも評判を聞き、今回のゲストとして招聘する事に至りました。
これまでにAnadrew James Gustav、Gwenan、Max Vaahs、Cedric Dekowskiを海外から招聘してきましたが、現場主義な彼らだからこそ生み出す現場でしか体験出来ない素晴らしいプレイをしてくれました。今回も是非一緒にパーティーを楽しんでくれたらと思います。
KABUTO (DAZE OF PHAZE / LAIR)
ーー近年あなたを知ったリスナーは、スペーシーなテクノ/ミニマルの印象を強く持っていると思いますが、音楽的なバックグラウンドを含め、ぜひあなたのDJキャリアの変遷を教えてください。
Even Baggs:1997年前後のアメリカ、特に東海岸エリアでは凄くレイヴシーンが盛り上がっていた時期があってね。それらのパーティを通じてあらゆるスタイルの音楽に触れたんだ。その後すぐにNYCのレコードショップで働き始めた。5年間そこで働いて、別のレコードショップでも1年間働いた。合計6年間、毎週のように新譜をいち早くチェックしていたわけで、新しいサウンドを知ったり音楽そのものへの視野を広げるには絶好の機会だったよ。
ーー過去、現在においてあなたのDJに影響を及ぼした人物がいれば、教えてください。
Even Baggs:特定のDJはいないけれど、「DJってこんなに凄いことができるんだ」って僕に気付かせてくれたDJは沢山いる。彼らには感謝しなきゃね。
ーー同様に、あなたの今のスタイルを形成するまでに重要な転機となったパーティー/イベントがあれば教えてください。
Even Baggs:ターニングポイントと言うべきパーティはないかな。でも、当然ながら全てのパーティはその夜1回限りのものだし、そこでは音楽の聴こえ方も全く違う。だから、常に僕のDJは進化と変化を続けているって感じかな。
ーージャンルを跨いでの選曲もあなたの持ち味ですが、レコードを選ぶ際に注視しているサウンドや、あなたの中での共通点はありますか。
Even Baggs:僕は頻繁に音楽をディグして、気に入るトラックを見つけたらじっくりと時間をかけてセットに組み込んでいく。1年ぐらいかけて1つのトラックの色んなかけ方を試すこともあるし、そのトラックがしっくりとハマる展開や時間帯を見つけるのに1年ぐらいかかる時もあるんだ。
ーーDJにおいて現場で特に意識し、注力している点は?
Even Baggs:そのパーティの空間で今何が起きているか注意を払い続けること。そして、自分自身が楽しむということ。僕がフォーカスしているのはこれぐらいさ。
ーーあなたの楽曲はベーシックなフォーマットに当てはまらないグルーヴとダークな質感が印象的ですが、制作におけるメソッドはありますか?
Even Baggs:いや、全然。まずは機材を触ってみて使い方を研究し、どんなサウンドが出てくるか試してみるだけさ。その結果としてひとつのトラックとして出来上がることもあるし、そうはならないこともある。
ーーまた、制作の際は自身のDJでの使用を想定していますか、それとも他のコンセプトや意識があるのでしょうか。
Even Baggs:大抵の場合、まずは実験してみるだけさ。音楽制作と人間の思考は必ずしも常にうまく結び付くわけじゃない。ただ耳を傾け、感じ、観察して流れに任せる方が良い結果が生まれるものさ。
ーーベテラン・プロデューサー/DJのKatsuya SanoとEkboxというユニット名で共作していますが、どのようにして出会い、楽曲を制作するようになったのでしょうか。
Even Baggs:Katsuyaとは2013年に初めてベルリンで会った。何度かパーティで顔を合わせて会話する仲になって、自然に「じゃあ一緒にスタジオで作業してみようか」って流れになったんだ。最初からウマが合ったというか、一緒にスタジオで作業するのが楽しかったしそれが今でもずっと続いているって感じだよ。
ーー〈Cabaret Recordings〉に続いて、Bihnが運営する〈Time Passage〉からもリリースしていますね。共演の機会も多いですがトラックのやり取りも頻繁に行っているのでしょうか。
Even Baggs:ああ、彼とはたまにお互いのトラックをシェアしているよ。
ーー他に、近年共演するなどして、注目しているアーティストやDJがいればお教えください。
Even Baggs:素晴らしいアーティストは各地に沢山いる。各地で色んな人たちがそれぞれの音楽表現に情熱を持って取り組んでいるってことだから、これは素晴らしいことだよね。それはただDJのみに限らず、Analogcut Mastering StudioのMarcoのようなマスタリングエンジニアについても同じことが言える。彼は色んな人のヴァイナルリリースを陰で支えてくれているんだ。彼のような存在こそ、僕たちの文化にとって掛け替えの無い支えとなっていると思うよ。
ーーNYとベルリンではシーンの在り方やオーディエンスのスタンスも全く異なると思いますが、移住してからおよそ10年経った今、あなた自身はどう捉えていますか。
Even Baggs:ベルリンのライフスタイルはもっとゆったりとしているよね。世界の他の大都市や首都とは違い、メジャーな銀行や証券取引所が無かったりするから、ベルリンは必ずしも経済を中心に回っている都市ではないんだ。金に踊らされることなく生活できるから、自ずと人々はよりリラックスしているし、金儲けのことを考えずに自分のやりたいことにフォーカスできるんだと思う。
ーー2017年からはThe Pickle Factory(※2015年にオープンした、ロンドンのOval Spaceの姉妹店)のレジデントに就任するなど、さらに活動の幅を広げていますが、これも『Resident Advisor』で語っていたように有機的なつながりによるものでしょうか。
Even Baggs:全く有機的で自然な流れさ。自然に花が実り、虫たちが土に養分を与えるようにね。
ーー今回のアジアツアーのように、新たな地域でのDJに臨む際の心がけはありますか?
Even Baggs:自分の知らない土地や国に行くのはいつだって楽しい。違う文化に触れることでインスピレーションが得られるしね。日本には凄く豊かな音楽文化があるから、必ずユニークなインスピレーションが得られるはずさ。
ーーリリースなど、この先の展望は?
Even Baggs:バルコニーに小さな家庭菜園をこしらえて、スタジオで音楽を研究して、友人や家族との時間を楽しむだけさ。
ーーあなたにとってのDJ、ダンスミュージックの魅力とは?
Even Baggs:音楽があれば、ポジティヴな雰囲気の中で人々と一緒に同じ時間を共有できる。ダンスとパーティーを楽しむには、他の人たちと君の間にひとつも共通点が無くたって構わないんだ。パーティーにおける全ての主体は音楽なんだ。僕にとってDJとダンスミュージックの魅力はそれに尽きる。
End of interview
Event info
DAZE OF PHAZE
これまでにAndrew James Gustav、Gwenan、Max Vaahs、Cédric Dekowskiといった新鋭を招き、テクノ/