Andrew Weatherall – The Asphodells
Text & Interview : Yoshiharu Kobayashi
2012.11.9
壁一面に張られた深紅のカーテンを背に、50年代にタイムスリップしたかのように立派な口髭を蓄えたヴィクトリア調ファッションの男が佇んでいる。その一見して只者ではない風貌の DJ が二台のターンテーブルを操って描き出すのは、ディスコ、ダブ、バレアリック、ポスト・パンク、ハウスなどが bpm 120 以下でドロリと溶け合った、果てしなく幻惑的で深いグルーヴが渦巻く世界だ。4時間にも渡った彼の DJ プレイは、その流れに身を任せていると俄かには気付かないほど自然に熱を帯びていく。そして終わりも近い朝方になると、緻密に組み立てられた彼のセットはまるで魔法のようにフロアへと絶頂の瞬間を呼び込むのだ。そう、今年7月、代官山 UNIT のアニヴァーサリー・パーティーで Andrew Weatherall が披露したロング・セットは、掛け値なしに素晴らしいものだった。
長年に渡って英国のアンダーグラウンド・シーンで尊敬を集め続けている Weatherall だが、このような DJ スタイルが顕著になったのは、ここ数年のことだ。本人が 「ヒプノ・ビート(催眠的なビート)」 と命名しているこのサウンドは、イースト・ロンドンの小さなクラブで Sean Johnston と開催しているパーティー、A Love From Outer Space にて2年ほど前から展開。そして、今年このパーティーでの一夜を表現した3枚組の素晴らしいミックス・アルバム 『Masterpiece』 を送り出したことで、「ヒプノ・ビート」は小さなパーティーのチェックにも余念がない熱心なロンドンのクラバー以外にも知れ渡ったのである。(この辺りの話は、実際に足繁く A Love From Outer Space に通っている熱心なロンドンのクラバー、TAKA 氏のブログに詳しい。)
このような近年の経緯を踏まえると、Weatherall が自身のスタジオ・エンジニアも務めている古くからの友人、Timothy J. Fairplay とのプロジェクトとして The Asphodells 名義でリリースする最新アルバム 『Ruled By Passion, Destroyed By Lust』 の内容にも納得が行くだろう。ここで聴くことが出来るのは、A Love From Outer Space や 『Masterpiece』 で表現されていた美学を受け継ぐ、bpm120 以下の折衷的なサイケデリック・サウンドだ。Weatherall が50年の人生を費やして聴きこんできたありとあらゆる音楽がじっくりと煮込まれているような、どこまでも奥深い味わい。その長いキャリアと知識、そしてストイックなまでの音楽的な探究心に裏打ちされている本作は、尻の青い若造達には到底真似できないだろう。これは近年の Weatherall 関連のアルバムの中でも、間違いなくベストの一枚だと言える。相変わらずこちらの質問に対して深い音楽愛と強い信念に貫かれた言葉の数々を投げ返してくれる英国アンダーグラウンドの至宝に、じっくりと話を訊いた。
――7月に開催された UNIT のアニヴァーサリーでの DJ は、全体を通して素晴らしかったのはもちろんですが、個人的には特に最後の一時間が神掛かっていたように感じました。あなたにとってあの日のプレイはどうでしたか?
Andrew Weatherall : とても楽しめたよ。DJ をする時は、クレッシェンドを付けていくようにしている。その時に神掛っているかどうかは分からないが……。DJ として出てきて同じテンションを保つだけではいけないと思う。つまらないし、クラウドをどこかに持っていかないといけないからね。もし俺が4時間 DJ をしていたら、4時間後にはある終点に達していなければならない。最後の1時間を気に入ってくれたというのは良いことだが、なぜそうなったかというと、その前の3時間が綿密に計画され考えられた内容だったからだ。最後の1時間と同じ感じでプレイを4時間続けたら、「最初の1、2時間は良かったけど、そのあとは少し飽きた」 と言っていたと思う。俺にとっての最高の褒め言葉は 「前半はなかなか良かったが、最後の1時間が神掛っていた」 という言葉だね。それが一番大事なことだよ。4時間プレイするなら、最終的な結果を出す必要がある。もし俺が1時間半しか DJ しないという話だったら、同じテンションを保ったままプレイするが、4時間 DJ する場合は旅の始まりという地点があるんだ。でなければ4時間ずっと同じ終点で過ごしていることになるだろ? 駅で電車を4時間待ち続けているようなものさ。退屈するよ(笑)。
――そのアニヴァーサリーの時もそうでしたが、近頃のあなたのファッションは非常にクラシックですよね。その辺りのこだわりについても教えてもらえますか?
Andrew Weatherall : まず、これは俺にとってファッションではない。スタイルだ。その2つには大きな違いがある。ファッションは自分のスタイルを確立するまでに行う様々なことだ。俺は昔からファッションに興味を持っていたが、多少アウトサイダー的なところにいた。若い頃からファッションに関わってきて、服屋で働いたりしていたしね。だけどファッションに関わるには、色々な好みがあり過ぎたんだよ。昔の物も好きだったし、現在の要素も好きだった。それをいつも色々混ぜていたんだ。そして年を取るにつれて、現代の服装よりも、昔の美意識に共感するようになって。それは年のせいもある。今どきの格好をしても、ばかげた気分になるだろうし、見た目もばかげた感じになるだろう。50歳になる奴でそれができるやつもいると思うよ。俺は思い付かないけど……。人によっては、20歳のときにファッションをスタイルに変えてしまえる人もいる。そこに掛かる時間は人によって違うんだ。ファッションは自分のスタイルを確立させていくための踏み台だと思っているよ。俺は今までそうやってファッションを使って、自分のスタイルをようやく確立させたんだ。俺は12、13歳の頃からファッションに興味を持っていたから、今までで40年間近くファッションやスタイルに興味を持ってきたことになるね。
これは音楽に関しても言えることだけど、自分というのは、自分の無意識の部分部分をまとめあげている存在なんだ。俺は、自分の今までの40年間のファッションやスタイルに関わる知識や経験を元に、今、100年前のヴィクトリア朝の人間のような格好をしているというわけさ(笑)。別にステートメントとかそういう堅いものではなくて、当時の美学が好みなんだ。特定の時代の洋服が好きなんだよ。50年代の服装も好き。ただ、今は船長の口髭みたいなのを生やしてるから、それが50年代の美意識と合わないんだ。エドワード朝の美意識と合う。もしひげを全部剃ったら、50年代の服をクローゼットから引っ張り出して着始めるかもしれない。
――まさに音楽的にもファッションではなく独自のスタイルを確立していると言えるニュー・アルバム 『Ruled By Passion, Destroyed By Lust』 には、先日のあなたの DJ、そして最近リリースしたミックス・アルバム 『Masterpiece』 に通じる音楽的な美学を感じました。そのような捉え方は、あなたにとって納得の行くことですか?
Andrew Weatherall : もちろんだよ。『Masterpiece』 はロンドンで俺がやっているパーティー、A Love From Outer Space を表現したアルバムだ。俺は毎週末そのパーティーで DJ をしているから、週末が空けてからスタジオに仕事に行く時、そのパーティーでのサウンドがまだ頭の中に残っているんだ。スタジオでダンス・トラックを作っていなくても、頭の中にはダンス・トラックの構成やサウンドや美学が入っている。だから今回のアルバムの曲は、全てがダンスフロア向きではないけれど、全ての曲のスタート地点はダンスフロアにある。曲は全て、最初にドラムマシーンやドラムとベースから作られる。とてもダンス・ミュージック的なアプローチだけど、同時にロックンロール的アプローチ、R&B 的アプローチでもある。バンドに曲作りについて聞いてみると、多くはドラムとベースが曲の骨格になっていると答えるだろう。俺が作る曲は常にダンスフロアの美学に影響されていて、ダンスフロアの美学というのは俺がその時に手掛けているイベントのことだ。だから今回のアルバムは A Love From Outer Space にインスパイアされている。クラブで始まったアルバムだけれど、クラブ以外の場所でも聴ける内容になっているんだよ。
――なるほど。それにしても、最近のあなたの DJ やこのアルバムで聴くことが出来る、bpm120以下のスローでエクレクティックなディスコ・サウンドには、どのようにしてハマって行ったのでしょうか?
Andrew Weatherall : 俺はそれくらいのテンポの音楽はいつも好きだった。みんな忘れがちだけど、初期のハウス・ミュージックのレコード、つまり87年から90年くらいのものはテンポがあまり速くなかったんだよ。bpm 115~120くらいだった。でも、年々ダンスフロアでの集中力の持続時間が低下していくに連れ、音楽のスピードも速くなっていったんだ。それは何のドラッグをやっているかにもよる。ここ10~15年間、クラブではコカインが人気でコカインは人を短気にする。とにかくみんな忘れているのは初期のハウス・ミュージックやディスコ・ミュージックはそんなに速くなかったということだよ。だから「テンポをゆっくりにしよう」と決めたわけではないし、テクノに対する反抗をしているのでもないけどね。
俺は Sean Johnson という古くからの友人とギグにやっていたんだけど、彼が車を運転して、車でギグに向かう途中、ミッドテンポのコズミック・ディスコ、ポスト・パンク、バレアリック、テクノの要素を含むハウスなどを聴いていたんだよ。そして、こんなにたくさんの素晴らしい音楽があるのになんで DJ で掛けられないんだろう、と話していた。もし DJ を早い時間にやるとしたら、こういうミッドテンポの音楽も掛けられるだろう。それで、こういうミッドテンポの音楽を一晩中かけているイベントを二人でやろうということになったんだ。最初は色々大変だと思ったから、小さい規模で始めた。キャパが100人くらいのパブの地下でやることにしてね。最近になってみんな俺達のコンセプトを理解してくれるようになったよ。さっきも言ったけど、俺達は決してテクノに対して反抗しているわけではない。オルタナティヴを提供しているだけだ。例えば、俺達がフェスに出るとする。5つあるステージの4つはハイテンポな音楽が掛かっているだろう。俺達は、残りの4つのステージとは少し違ったものを提供する。そうするとみんな、他のステージと違う感じがする場所があって喜んでくれる。それは他のステージ対する反抗ではなく、もう少しスローなオルタナティヴを提供しているだけのことだ。一見、とてもラディカルなことをやっていると思われがちだが、もともと俺がハウス・ミュージックにハマった時はこういうテンポだったんだから俺にとっては自然なテンポなのさ。もちろんテンポが速くなっていった時はそれなりに楽しんだよ。だけど個人的には、bpm 130の音楽を1時間半プレイするよりも、bpm 110の音楽を6時間プレイする方を好むね。どちらも楽しめることは楽しめるけど、もし俺がキャリアとしてどちらかを選択しなければいけないとしたら俺は後者を選ぶ。
――今回のアルバムは、Timothy J. Fairplay とのユニットとしてのリリースですが、Timothy とはどのようにして出会ったのですか?
Andrew Weatherall : 俺は90年代中ごろから2000年代初期まで Haywire というパーティーで DJ をしていて、Tim はそのパーティーの常連だった。だから共通の友人もたくさんいたんだよ。彼は Battant というバンドにいて、ギターを担当していたんだけど、そのうち彼は俺の所有するスタジオの一部屋に移ってきた。俺のスタジオは4、5部屋あってその1部屋が空いたからね。だから彼は常に俺がいる隣の部屋で作業していたんだ。そして、俺がエンジニアを必要としている時、Tim が理想的なパートナーだと気付いてね。彼は俺の仕事の仕方も分かっているし、俺が求めているサウンドも分かっている。彼は、俺のキーボードやドラムマシーンの好みなんかも知っているんだ。だから、とても自然な成り行きで彼と組むことになって、一緒に音楽を作るようになった。で、俺達の作品は Andrew Weatherall の作品ではなく一緒に作って出来上がったものだから、ユニット名が必要だということになって、俺が The Asphodells という名前を付けたんだよ。アスフォデルとはユリ科の花の名前で、ギリシャ神話では死や破壊を意味する不吉なものとされていた。だが同時にとても美しい花だ。俺はそういう組み合わせが大好きなんだ。こんなにも美しいものが、悪の象徴とされているっていうのが。
――彼とあなたが音楽的、精神的にシェアしているものとは何だと思いますか?
Andrew Weatherall : 全てだよ(笑)! 音楽的には好きなものが全て同じだ。俺の方がディスコとソウル・ミュージックについては彼よりも知っているだろう。彼の方が、無名ホラー映画の電子音楽のサウンドトラックについて俺よりも知っている。俺達はいいコンビだよ。俺はいつも彼から何かしら学んでいるし、彼も俺のスタジオにいつも来て俺のサウンドを聴いたりしている。それに文学の好みも似ているから似たような本をお互い読んでいるし、芸術の好みも似ている。俺達の基礎的なところは似ているけど、細かい部分で違いがあるんだ。それが友情をより一層面白いものにするんだよ。
――近年の作品と同様に、本作もエレクトロニクスと生楽器が絶妙なバランスで配合されたトラックばかりですが、これまでと制作の過程で違いなどはありましたか?
Andrew Weatherall : 制作過程は今までと変わっていない。さっきも言ったように、俺達が音楽を作る時はいつもドラムやドラムマシーンとベースからスタートする。だけどスタジオで長年仕事していると、スタジオの機材が段々と増えてくるんだ。最近はアナログテープ・エコーの機材が増えたから、自分が出したいサウンドを表現することができるようになって、とても助かっているよ。その他にもキーボードとか色々な機材が増えてきたから、サウンドも変わったと思う。ギタリストがギターを代えたり、新しいエフェクト・ペダルを手に入れたりするとサウンドが変わるのと同じ話で、スタジオのサウンドも機材が増えるたびに変わるんだよ。最近俺のサウンドはオーガニックな方に向かっていて、新しいアナログ機材が入るとそれで色々実験してどんなサウンドを出せるのか試してみるのが好きだね。今回のアルバムでは、ギターのサウンドが良い感じで出せたと思う。1960年代のフェンダー・ツイン・アンプやテープループ・エコー/ディレイの機材を手に入れたから、今回のアルバムで出したかったサウンドを出せたんだ。俺が長年求めていた、ゴーストっぽいロカビリーのサウンドが出せたと思う。どうやって表現するのかが分かるようになったからね。
――このアルバムには、ディスコ、ポスト・パンク、サイケデリック、ダブなど様々なサウンドがブレンドされていますが、最近あなたが特に夢中になっているジャンルはありますか?
Andrew Weatherall : 特に最近、というのはないね。俺がこの35年間で一番よく聴いてきたのはダブと50年代のロックンロールだ。俺の基礎はその2つ。何を聴きたいのかがはっきりしなくて、インスピレーションが欲しいときは、その2つに行くよ。古いロカビリーのレコードかダブのレコードを聴いてみる。例えば、ダブのレコードを聴いているとそれにインスパイアされて70年代の Tangerine Dream や70年代のエレクトロニック・ポスト・パンクを聴きたくなる。それを聴くと、この曲は Jeff Mills や Derrick May の曲を思い起こさせると思って、今度はテクノを聴く。かと思えば、テクノを聴いていてベースラインが70年代後半のポスト・パンク・バンドに似ていると思ったら、そのアルバムを探してみたり。でも最初に影響を与えるものは、50年代のロックンロールとレゲエだよ。そこからはどの方向にも行ける。俺の中でジャンルは全て繋がっているんだ。現代の音楽のルーツは全てリズム&ブルーズだ。リズム&ブルーズがロカビリーと衝突してロックンロールが生まれたからね。ブルーズなしではリズム&ブルーズもないし、リズム&ブルーズがなければスカ・ミュージックもない。ジャマイカ人がリズム&ブルーズを変わったリズムでプレイし始めてからスカやレゲエが生まれたんだ。そして、スカやレゲエがなければダブもないし、ダブがなければ生楽器をスタジオで演奏するという概念はなかったし、それがなかったらリミックスという概念もなかった。リミックスがなければ今のようなテクノなどもなかった。俺だけじゃなくて、全ての現代音楽はブルーズから生まれた。今、コンピュータだけを使って音楽を作っている奴らだって、例えブルーズがなんであるか知らなくても、そいつのルーツもブルーズなんだ。
――“Late Flowering Lust” は John Betjeman の詩をフィーチャーしているそうですが、あなたにとって彼はどのような存在なのでしょうか?
Andrew Weatherall : 彼はイギリスの詩人で、20世紀の初めに生まれて、1980年代に亡くなったと記憶している。とてもイギリス人らしい詩人で、イギリスの郊外や田舎など、とても心地よく見える情景についての詩を書いた。同時に彼には狡猾で鋭いウィットがあり、イギリスの上品で礼儀正しい生活態度は、皮をはがすと、かなりめちゃくちゃで腐敗していることを知っていた。イギリス人に John Betjeman というと、みんな 「イギリス人すぎる。ベタだ」 と言ってうんざりするだろう。John Betjeman はイギリス人のステレオタイプを詩にしてきた人だからね。でも、アルバムの “Late Flowering Lust” はとてもダークな詩で、その内容は二人の元恋人同士が酒の勢いでヤるために再会するという話だ。かなりダークでいかがわしいだろ? 俺はそういうイギリスらしさに惹かれるんだ。特にヴィクトリア朝、エドワード朝の時代は、イギリスは歴史的にも最高潮に達して非常に礼儀正しく上品だった。だが、その裏ではあらゆる種類のいかがわしいことが行われ、ダークな部分がたくさんあった。当時は非常に整った社会で、イギリスは礼儀正しく上品とされていたが、表面を取り除いてみると、当時のイギリスは非常にダークな世界だったということが分かる。俺は John Betjeman のそういうところ、彼の描くイギリスの二面性というものに惹かれるんだ。
――『Ruled By Passion, Destroyed By Lust』 というアルバム・タイトルに込めた意味を教えてください。
Andrew Weatherall : 俺に言わせると、これは人間特有の悲劇を表現する6単語なんだ。人間を前進させるのは情熱だ。新しいものに対する情熱、向上心に対する情熱…だが時々その情熱の方向性を間違えて、権力に対する欲望や金に対する欲望と化してしまう。それが結果として我々を滅ぼすことになる。どこでこの表現を見つけたかと言うと、実は見つけたのは Tim なんだが、Tim はB級映画やホラー映画が大好きで、彼は70年代のゲイ・ポルノ映画のポスターを持っていた。その映画には古代ローマ時代の剣闘士が登場するんだけど、そのポスターの一番下に、「Ruled By Passion, Destroyed By Lust」 と書かれていたんだよ。それを見て最高だと思ったんだ。ポップ・カルチャーやトラッシュ・カルチャーが、その辺の哲学者よりも簡潔に人間のありようについて言及できているのをみると俺は嬉しくなってくるんだよね。40年代50年代のパルプ・フィクションなんかもそう。路上にいる人々、通勤中の人々を魅了するためには還元主義的で直接的な表現を用いなければいけなかった。それと同じ意味で、直接的に簡潔に書くというのは、着飾った文章を書くことよりも難しいのかもしれない。だから Dashiell Hammett のような作家は偉大だと思う。人間のありようを一文で表現できるから。でも誤解しないでくれよ。俺は着飾った文書も、本を一冊まるごと読むのも大好きだ。俺は19世紀末から20世紀初めのヨーロッパ小説が好きで、その文体には着飾った文章や長々しい説明も多い。だが同時に、気の利いた言い回しや、安っぽい格言とかも大好きなんだ。自分で気に入ったものは書き留めておくし。一冊の本になるくらいの量があるよ。小説や映画などからピックアップするんだよね。とにかくアルバムのタイトルは人間のありようについての哲学的な言及だけど、ゲイ・ポルノ映画のキャッチコピーでもあるというわけだ。受け取り方は人次第さ。
――“A Love From Outer Space” は、もちろん A.R.Kane のカヴァーであり、あなたと Sean Johnston のパーティーの名前でもあります。この楽曲、そして A.R.Kane のどのようなところにあなたは特に惹かれているのでしょうか?
Andrew Weatherall : 70年代後期から80年代初期にかけてのポスト・パンクには、聴き逃されてしまったものがたくさんある。最近ではそういうのにハマっている人がコンピを出したり、YouTube にアップしたりしているから以前よりも触れる機会が増えたよね。でも、当時イギリスではそういう音楽が影響を与えていたにも関わらず、誰からも特に取り上げられずに終わってしまった。あの曲はそういう時代を象徴する曲だと思うし、俺が生きていたあの時代を象徴する曲でもある。ノスタルジックに、あの時代に戻りたい、とかいうのではなく、食べ物を食べて子どもの頃を思い出したりするのと同じように、俺にとってあの曲はあの時代を思い出させてくれるんだ。あの時代の良い思い出も悪い思い出も思い出させてくれる。それに、あの曲は俺がずっと好きな曲なんだよ。とても喜びに満ちた曲だけど、パンクっぽい響きがある。80年代のダンス・トラックだが、投げやりで嬉しい感じのパンク風な仕上がりのダンス・トラックだ。俺の好きな感じだね。俺はパンク・ロックも好きだが、ディスコも好きだ。ジャンルとして交わらないものと考えられているから、それは人々を困惑させるみたいだけど。でも俺はディスコの楽しい感じとパンクの投げやりな感じが混ざっているパンク・ロック・ディスコのようなレコードが好きなんだよ。だからこの曲は好きなんだ。クラブ・イベントの名前を考えている時にも、あの曲の名前ばかり考えていたね。
https://www.youtube.com/watch?v=zncvavRD3iA&list=PL9xHdOCyVqt2nykWJWr2KsU8AMejnHWmI&index=57
――このアルバムは 〈Rotters Golf Club〉 からのリリースとなりますが、最近あなたは 〈Bird Scarer〉 というレーベルも始めました。全てのリリースが300枚限定でヴァイナルでのリリースというのは、デジタル全盛の今の時代に対するあなたのステートメントのように感じられますが、実際どのような思いでこのレーベルを立ち上げたのでしょうか?
Andrew Weatherall : ファイル形式に対するオルタナティヴを提供しただけだ。俺はアンチ・テクノロジーだと思われがちだが、そんなことはない。テクノロジーに目がくらむようなことがないだけさ。ファイルは便利だし安いし扱いやすい。だが、だからといって3次元の世界に存在するものに背を向けてはいけないと思う。後悔することになるからね。さっきのインタビューでも話したけど、人間というものは新しくてピカピカのおもちゃに飛びつく。子どもにピカピカのおもちゃを与えて、子どもが最初それに飛びついて遊んでいても、1時間後にはそれまで遊んでいた段ボール箱に戻ってお城ごっこをしている。それは人間全てに共通することなんだよ。
俺が言いたいのは、「ピカピカのおもちゃで遊んでも構わないが、結局は段ボール箱の方が色々な方法で遊べるから段ボール箱に戻るよ」 ということ。俺は段ボール箱を提供しているんだ。ピカピカのおもちゃもいいけど、俺のレコードは手にとって触れられるから、想像力を更に掻き立てるよ。面白いグラッフィックスも付いているし、音質も mp3 よりは良い。オルタナティヴを小さい規模で提供しているんだ。300枚だけだから、それをやることによってダウンロード産業に打撃を与えるなんて思ってもいないし。俺はただ、見た目にも内容的にも素敵なオブジェクトを作り出し続けていきたいだけなんだ。アーチファクト(芸術品)というか。それを求める人というのはいつの時代でもいる。俺は決して大富豪にはならないが、300枚リリースすることによって、完売するから損はしないし、世の中に芸術作品を送り出したということになる。レコードはファイルよりも価値のあるものだと個人的に思っているよ。別にみんなにパソコンを使うのを止めてほしいなんて思っていない。でも、物体の価値を認めなくなってしまわないでほしいんだ。俺はとにかく、自分がコレクションとして集められるような芸術品を作りたいと思っている。自分の手に取って、感じて、ひとりひとりにとって各自の価値を感じられるものを提供していきたい。傲慢に聴こえるかもしれないが、レコード特有の魔法を提供し続けていきたいんだよ。
―― 最近、特に注目している新しいアーティストはいますか?
Andrew Weatherall : たくさんい過ぎるよ。スタジオを歩き回って見てみよう。最近聴いている音楽が山のように積み上げられているからね。Leyland Kirby というダークなアンビエントを作るミュージシャンがいるが、その人の作品はとても好きだ。The Caretaker という名義で活動しているんだけど、彼のアトモスフェリックな音楽は素晴らしい。それから今年リリースされたモダン・ソウルのレコード、Venice Dawn の 『Something About April』 はアナログ・サウンドが美しい作品で、昔のソウル・アルバムのようなサウンドだが、それにモダンなダーク・タッチが入っている。今年のリリースで大好きな作品のひとつだよ。それから、カントリーのアルバムで 『Country Funk:1960-1975』 というのも好きだ。『Personal Space』 という80年代のエレクトロニック音楽のコンピレーションも素晴らしい。最近のバンドで Toy というバンドがいて、彼らは好きだね。リミックスもやったし。最近聴いているのはそんなところかな。そう、渋谷に6階建てのタワーレコードがあるだろう? あそこで、俺は electraglide のプロモーションとして 「今年のベスト10アルバム」 を紹介している。だからタワーレコードに行ってみてくれ(笑)。
――わかりました(笑)。ところで、意識的にアンダーグラウンドに留まり、良質なサウンドを届け続けてきたあなたにとって、近年脚光を浴びている EDM のような音楽はどのように映るのでしょうか?
Andrew Weatherall : 特に心配していないよ。俺は既に、自分が活動するべき居場所を見つけてそこでやっていくと決心した。EDM の世界で DJ は絶対にしたくない。10,000人の前でプレイなんてしたくないんだ。そんなに脚光を浴びたくないし、そういうイベントでもプレイしたくないからね。EDM みたいな音楽は作りたくないよ。だから別に EDM を不愉快に思ったりもしない。25年前の俺だったらもう少し不愉快になっていたかもしれないけど、俺は今では比較的落ち着いた人間になった。ダンス・ミュージックが商業的な音楽として成功しているのを嫌う人が俺の周りにもよくいるけど、「もともとそういう音楽が嫌いで自分はそっちに寝返らないと思っているんだったら、なぜそんなに不愉快に思うんだ?」 と問いたくなるね。嫌いなら気にしなければいいだけの話だ。それはアニメや映画を不愉快に思うのと同じこと。俺達の世界とは違うもので、別の場所に存在している世界なんだよ。俺達が大好きなことを、ちょっと薄めて大々的に売り出すというのは多少不愉快だが、俺達はそれでも大好きなことをやり続けている。だから心配するな、と言いたい。他の人やジャンルの活動ばかり気にしていたら気が散って自分のことに集中できなくなる。だからあまり気にしなくていいと思う。
――さて、electraglide での再来日も近づいてきましたよね。大会場でのあなたの DJ はアップリフティングなテクノという印象が強いですが、当日はどのようなプレイを期待していいですか?
Andrew Weatherall : 俺が何時にプレイするか、誰の後にプレイするか、誰の前にプレイするかに拠る。俺の前の人が bpm 110で終わったとしたら、俺はそれをミックスして、そこからテンポを少し上げると思う。俺の前の人が bpm130 で終わったとしたら、俺はそれをミックスして、それと同じようなテンポのプレイをするだろう。俺はイベントで重大なステートメントをするよりは、イベントの一部となりたいんだ。インタビューの最初で 「最初の2、3時間は良くて最後の1時間は神掛っていた」 と言っていたけど、それと同じ考えで、もしイベントで俺の後にプレイした DJ が 「神掛っていた」 とレビューで言われたら、俺は嬉しく思うよ。なぜなら、それはその前の DJ が良い仕事をしたからだと思うから。俺は別にスターになりたいわけじゃない。良い流れが出来ればそれでいいんだ。確かに、テンポが速い、テクノのような音楽の方が大きなクラウドには効果的な場合もある。100人入る小さなクラブで DJ する時間が5時間あったら、微妙な感じを出したり、実験的になったり、うまいことを色々やれるしね。10,000人の前で1時間半 DJ するとなると、「微妙な感じ」 の DJ プレイはそのクラウドに適さないんだ。もちろん10,000人の前で1時間半プレイするのは100人の前で5時間プレイするのと同じくらい楽しいことだよ。ただ、もう少し速効性を求められるよね。もっと分かりやすく、大衆が理解できるものにしなければいけないから。多分 electraglide では、俺が bpm110 でプレイしていたらクラウドがおかしくなってしまうような時間帯にプレイすることになるだろう。だから、どうしようか考え中だよ。みんなまだ、俺がどんなプレイをするのか読めないから、イベント当日もたくさんの人が興味本位で寄ってくるんじゃないかな。
end of interview
リリース情報
The Asphodells 『Ruled By Passion, Destroyed By Lust』
Release Date : 2012.11.03 (Wed)
Label : Rotters Golf Club / Beat Records
Cat No. : BRC-347
Price : Y2200 (Tax In)
イベント情報
electraglide 2012
Date : 2012.11.23 (Fri / Holiday)
Venue : Makuhari Messe
Open 21:00
Door : Y9800 _ Adv : Y8800
Line-up
HALL9
Flying Lotus
Squarepusher
Amon Tobin ISAM
TNGHT
Mark Pritchard b2b Tom Middleton
DJ KRUSH
Kode9
HALL11
電気グルーヴ
Orbital
Four Tet
Andrew Weatherall
Nathan Fake
DJ KENTARO
高木正勝
Special Guest
DAITO MANABE
※18歳未満入場不可。顔写真付き身分証明書をご持参ください。
YOU MUST BE 18 AND OVER WITH PHOTO ID.
企画制作
BEATINK
SMASH
DOOBIE
Media Support
SHIBUYA TELEVISION
NIGHT OUT
Red Bull Music Academy Radio
Sponsor
HOLDTUBE
SINGHA BEER
electraglide 2012 Osaka
Date : 2012.11.24 (Sat)
Venue : ATC Hall
Open 21:00
Door : Y8800 _ Adv : Y7800
Line-up
Flying Lotus
Orbital
Squarepusher
Four Tet
Andrew Weatherall
TNGHT
Nathan Fake
Kode9
※18歳未満入場不可。顔写真付き身分証明書をご持参ください。
YOU MUST BE 18 AND OVER WITH PHOTO ID.
企画制作
BEATINK
SMASH
協力
GREENS
Media Support
FM802