The Do-Over Tokyo 2013
Text : Masashi HayakawaPhoto : Taro Mikami
2013.10.30
10月13日、祝前日の日曜日。晴海客船ターミナルにて、話題のサンデーアフタヌーン・パーティー、Do-Overが開催された。事前に予約すればエントランス・フリーで入ることができ、毎回大物DJがシークレット・ゲストとして登場するというこの画期的なスタイルの音楽イベントは、2005年にロサンゼルスのサマーシーズンにスタートして以来同地の夏の風物詩となり、現在では世界中の都市で開催されている。今年の Do-Over Tokyo 2013 のシークレット・ゲストは DJ KIYO、Force of Nature といった日本のシーンを支える実力者と、DJ DAY と Tony Touch というアメリカのベテラン・ヒップホップ DJ 達であり、会場は終始良質な音に包まれていた。
まるで Do-Over クルーがロサンゼルスから“夏”を日本に持ち込んだかのような、10月とは思えない陽気に恵まれた当日。お昼すぎに到着し、ターミナルの広場に出るとまだ人はまばらであったが、早めに来たパーティーピープルが DJ ブースに向かって軽く身体を動かしていた。客船ターミナルという立地のため海に面しており、夏を感じる陽の光と海風がなんとも心地良い。規模の小さめなフェス、といった開放感があった。Do-Over Bar では Do-Over 用に作られた特別なシャングリアを始め、ビールやソフトドリンクなどが売られ、Jose Cuervo Barではセクシーな Cuervo ガールズがショットやカクテルを販売していた。そして今回、Pioneer DJ から新しく発売されたミキサー、DJM-900SRT がイベントの公式ミキサーとして導入されており、この新型ミキサーとDJコントローラーの Digital DDJ-SP1 を実際に試す事ができるPioneer DJ ブースもあり、客の興味を引いていた。 DJM-900SRT は USB サウンドカードを本体に搭載しており、「Serato DJ」に USB ケーブル1本で接続することができる優れものだ。そして、DDJ-SP1はパッド、フェーダー、ノブなどを完備した 「Serato DJ」 用のコントローラーであり、様々なクリエイティブなプレイを可能にするアイテムだ。
Do-Over クルーのプレイでブース前が盛り上がり、人も増えて来たころ、シークレット・ゲストの1人目、DJ KIYO がブースに登場。冒頭から2枚使いやスクラッチを華麗にこなし、確実に盛り上がる選曲でしっかりとフロアをロックした。DJM-900SRT の隣に NI 社のエフェクターも繋げ、900SRT とのエフェクトと組み合わせて独特な音の加工を行っていたのが印象的だ。Dilla、Common、といったヘッズを唸らせる選曲ももちろん、James Brown や N.E.R.D まで幅広くチョイスし、オーディエンスを楽しませた。途中、サークルが出来上がり、ブレイクダンスをする者やバスケットボールを使ったダンスをする者が視線を集める中、全身赤いベルベットのスーツに身を包んだ貴公子も目立っていた。15時を過ぎた頃、今回が初来日であったというアメリカ代表 DJ DAY が登場。彼はコントローラーの DDJ-SP1 も使用しており、この日一番個性的なプレイを見せた。コントローラーの HOT CUEや LOOP 機能を駆使して曲の一部分をループさせながら、次の曲へと繋げ、勢いを全く失うことなく次々に名曲をドロップしていく。パッドを叩きながら同時にエフェクトもいじり、リアルタイムで音を加工し、パフォーマンス性の高いセットを披露した。ヒップホップからトラップやベース、オールドスクールやファンク、更にはディスコやハウスまで縦横無尽にジャンルを跨ぎ、客の足、腰を休ませることなく動かした。圧巻のセットの後半には Mobb Deep や Nas の名曲のアカペラに、有名なトラックを組み合わせてマッシュアップさせるなど、どこまでも遊び心のあるプレイであった。
徐々に陽が傾き、涼しくなってきた頃、ブースに現れたのはヒップホップ・レジェンド、Tony Touch!なんとこの日、ラッパーの Zeebra も急遽参戦しており、Tony の紹介 MC を行った後、2人で 「I’m Still No.1 Remix」 をラップ。盛り上がりが最高潮に達した 中で Tony の DJ プレイが始まった。ヒップホップはもちろん、オールドスクール・ヒップホップや、ハウス、ファンク、レゲエなど多岐に及ぶジャンルの名曲を次々にドロップ。耐久性と操作性の高い DJM-900SRT のクロスフェーダーを駆使し、Tony は怒濤のスクラッチや2枚使いプレイを披露した。エフェクトもここぞというタイミングで使い、新ミキサーのパワーを最大限に引き出していた。名曲を元ネタと組み合わせてかけるという、ヘッズがニヤリとするポイントもしっかり押さえつつ、「ニホンゴスコシワカリマス」や、「マチガイナイ」など知っている日本語のフレーズで客を湧かし、ファンサービスに溢れたセットを展開した。 陽が完全に暮れるまで、晴海客船ターミナルの広場はニューヨークのブロックパーティーと化していた。その後バトンタッチした Force of Nature はディスコなヴァイブスで引き継ぎ、まだまだ踊り足りない客を最後まで気持ちよく踊らせた。
ヒップホップDJが多かったもののそこに偏ることはなく、どの DJ も幅広い解釈のダンスミュージックを鳴らしていたように感じた。そして、ブースが1つであるため、フェスのようにあちこちに移動して疲れることもなく、丁度良い規模で野外の開放感を全身で味わえた。今回、筆者は Do-Over に初参戦であったが、これだけの良質な空間が無料だというお得感と、サプライズ満載の期待感、そして秋らしくない天候も相まって、また行きたいと思わせてくれる、次の日友人に語りたくなるようなパーティーであった。