“Talking about CDJ-3000” // cut from Pioneer DJ CDJ-3000 Launch Streaming
- 2020.10.30 (Fri) @ Contact Tokyo // streamed on GH Streaming
Text & Interview : Hiromi MatsubaraPhoto : Noriaki Tomomitsu
2021.3.29
去る2020年10月30日に、東京・渋谷に位置する国内屈指のヴェニュー・Contact による、世界に向けた配信プログラム「GH Streaming」にて行われた『Pioneer DJ CDJ-3000 Launch Party』の配信パートより、CDJ-3000のあれこれを語り尽くしたトークセッションの模様をこちらにテキストでお届けします。
ゲストスピーカーに、日本から世界を股にかけてテクノ/ハウスを軸とするアンダーグラウンドなダンスミュージックを牽引する2人のDJ/プロデューサー、DJ NOBU氏とGonno氏を迎え、〈Pioneer DJ〉ブランドのDJ機器を展開するAlphaTheta株式会社からはCDJ-3000の企画に携わった村井佑史氏と古賀隆氏にご登場いただきました。
世界的にコロナ禍を迎え、従来よりDJプレイやパーティーの機会が圧倒的に減少した2020年9月に発売されたCDJ-3000。経済的な苦境に立たされるヴェニューも少なくない状況もあって、現場のDJ機材のアップデートはひとまず憚られ、国内では未だ思うように普及していないため、実機に触れたことのないDJも多いことと思います。
そんな方々に、こちらのトークセッションのテキストを通じて少しでも、CDJ-3000がいかに“次世代フラグシップマルチプレイヤー”と銘打ちされるに相応しい機器であるかが伝われば何よりです。そして、新次元に臨み続けながら常にシーンを推し進めてきた〈Pioneer DJ〉の真摯な姿勢と、今回においてその大きな一例である、ディスクドライブを無くしたことによって広がったDJプレイの可能性をトッププレイヤーお二人の言葉から感じていただけたら幸いです。
上段左からDJ NOBU、Gonno、下段左から村井佑史、古賀隆(共にAlphaTheta株式会社 事業企画統括部 事業企画部 商品企画1課)。
ーー 早速なのですが、CDJ-3000はCDJ-2000NXS2から具体的にどこが変化したのでしょうか?
古賀:まず、ディスプレイに関してはCDJ-2000NXS2では7インチだったのですが、CDJ-3000では解像度の高い9インチ・ディスプレイを新たに採用しました。加えて、従来だと4個だったHOT CUEボタンが8個になり、またBEAT JUMPボタンが新たに搭載されて、ハードウェア面での進化を遂げました。また、それらを支える信頼性という意味で、CUEやHOT CUEのボタンの耐久性も従来よりかなり向上しているのでボタンの破損などもしにくくなっています。そして最後に、その全てを担うソフトウェア面では新しいMPUを採用したことで、素早いローディングを実現し、LINK CUE PREVIEWやKEY SYNCといった新しい機能も搭載することができました。
ーー ありがとうございます。各機能ひとつずつ、順を追ってお伺いしていきたいと思います。まず、CDJ-3000ではディスクドライブが無くなったことでCDは入れることができなくなりましたが、その分だけMPUを搭載することによって、CDJで出来ることが2個も3個も増えたということですよね。またCDJ-3000で新たなMPUを採用したことによって、音質もCDJ-2000NXS2からさらに向上しているそうですが、どのぐらい変化しているのでしょうか?
村井:CDJ-2000NXS2では、44.1khz 16bitの音源はサンプリングレートを変えずにオーディオ処理をしていたのですが、CDJ-3000では、再生する全てのオーディオフォーマットを96khz 32bitの浮動小数点演算という非常に高解像度を保ったまま高度なオーディオ処理が出来るような仕組みになっています。なので、楽曲を作ったアーティスト/プロデューサーさんが意図した楽曲の元の表現力は損なうこと無く、DJさんの手によってCDJで楽器的に演奏されるという部分をしっかりと統合しています。言うなれば、“アーティストさんとDJさんの表現がコラボレーションしているような音を出す”、ということが実現できています。
公式イントロダクション 『A New Dimension – Pioneer DJ Official Introduction: CDJ-3000 Professional DJ multi player』より。
ーー DJ NOBUさんとGonnoさんは、今回の『Pioneer DJ CDJ-CDJ-3000 Launch Streaming』でCDJ-3000を使ったセットを披露するに向けて何度も触って練習をされていたと思うのですが、CDJ-2000NXS2からの音質の変化を感じることはありましたか?
DJ NOBU:CDJ-2000NXS2よりもノイズレベルが下がり、解像度も上がったと思いますし、ディスクドライブが無くなったお陰で搭載されたKEY SYNCみたいな音源に関わる機能も含めて、本当に素晴らしい進化を遂げたなと思います。今でもCDを使ってDJをしている人がいるので、そういう人たちはこれを機にデータに移行して、rekordboxを使ってよりクリエイティヴなプレイをした方が良いと思いますね。
Gonno:僕は今回のストリーミングにあたって、Pioneer DJのスタジオで練習させていただいて、その際にCDJ-3000とCDJ-2000NXS2を比較試聴させていただいたんですが、違いが分かりました。解像度が高くなっている分、ミキサーのレベルメーターでそれぞれ同じ音量を出しても、CDJ-3000の方が聴感上で少し音を大きく感じたんですよね。多分それは、ハイレゾで音の密度が高くなっているからなんじゃないかと思うんですけど、とにかく音質はかなり良くなっているという印象です。
ーー 今回の配信ではNOBUさんとGonnoさんに新たな6チャンネルDJミキサーのDJM-V10も使用していただきましたが、こちらの製品も音質面にかなり拘っていますよね。音質の良し悪しの判断は人それぞれの感じ方や聴き方にも寄るので、少し難しい質問ではあると思うのですが、Pioneer DJブランドとしては、“良い音質” という大まかな概念をどのように考えて向き合い、向上を心掛けているのでしょうか?
村井:音質というのは、話し始めたら何時間でも話し続けられるぐらい奥深いものだと思うのですが、全ての人にとっての理想の音というのは無く、それぞれに好みの音があると思うのですが、弊社の方で追求しているのは、“音楽を通じて人を幸せにしたい” ということです。そのためには、まずは楽曲を作った方たち、そしてそれを楽器のように、また自分の武器として演奏表現するDJさんの気持ちをオーディエンスの皆さんに届けるというところが一番大事だと思うので、やはり楽曲が元々持っている表現力が損なわれないようにすることと、そしてDJさんが演奏をしたことで楽曲に余計なノイズが足されないようにすることで、本当に音を通じて心を通じ合えるような音を鳴らしたいというところが、Pioneer DJの音作りの真髄かと思います。加えて、クラブにおいては、ただただ音に向き合うだけではなく、隣にいる人と喋りながら音楽を聴いて身体を揺らすという要素もあるので、大音量にしても耳が痛くなかったり、会話がちゃんと通じたりするような音作りも心掛けています。どちらかと言うと、CDJでは再生される曲の原音再現性を追求していて、ミキサーの方ではそれをオーディエンスにとって気持ちの良い音にしたいという、それぞれの音作りのポリシーが異なっているのですが、最終的にはそれを統合して、音楽を通じてより潤いのある人生を過ごしていただきたいというところで社員一同で尽力しています。
DJ NOBU:素晴らしいポリシーですね。
ーー ちなみに音質の話で派生すると、DJプレイで使用する音源データのフォーマットはどれを選ぶか、圧縮されているMP3なのか、非圧縮のWAVもしくはAIFFなのか、という話がたびたび出てくると思うんですが、NOBUさんとGonnoさんは何を使っているんですか? 加えて、どうしてそのフォーマットを選んでいるのかも教えてください。
DJ NOBU:僕はやっぱりWAVかAIFFですね。普段買う時はAIFFで買うんですけど、知り合いのDJとかアーティストとやり取りする時はWAVでいただいています。僕はMP3をかけることは絶対に無いですね。
Gonno:僕もMP3反対派ではあったんですけど、最近ちょっと色々と研究をして、MP3でも比較的鳴っているところは鳴っているなと思ったんです。なのでフォーマット問わず、音の良し悪しはレコーディングやミックス、マスタリングの状態如何に寄るんですよね。
DJ NOBU:MP3を使っているんですか?(笑)
Gonno:いや、そう言っておきながらMP3はひとつも使っていないです(笑)。ただ、あるDJがPanorama BarでもMP3で良い音を出していたんですよ。それに結構びっくりしてしまって。とはいえ、MP3は論理的には間引きされているので、僕もMP3を使うのに抵抗はあってAIFFを使っています。加えて言うと、CDJ-3000が出る直前までDJセットの8割ぐらいがレコードに戻ってきていました。でも高度なオーディオ処理を搭載したCDJ-3000が出てきて、これからどうなるのかなとは思いますね。
ーー 以前、Gonnoさんと個人的にお話させていただいた時に、クラブでデータとレコードをかけた時のオーディエンスのフロア滞在率と滞在時間が違ったというお話をされていたと思うのですが、改めて伺っても良いですか?
Gonno:以前、あるクラブで一晩プレイした時に、全て同じ曲で、レコードと、そのレコードを自分でリッピングしたAIFFと、Bandcampで購入したAIFFとをそれぞれ1回ずつかけて実験をしてみたことがありました。滞在率を順位付けしていくと、下から「レコードをリッピングしたデータ → オンラインで購入したデータ → レコード」と、レコードが圧倒的に滞在率が良くて、時間で言うと3分ぐらい違いました。レコードは論理的には正しく原音再生がされているわけではないのですが、やはり何か人を惹きつける帯域や周波、倍音成分等を持っているのではないかと思います。それに先ほど村井さんが仰っていたみたいに、DJをしている時はミキサーで音のバランスを変化させることもあり得ますし、必ずしも原音再生であればお客さんが滞在するわけではないということも痛感はしましたね。
トークセッションの司会はHiromi Matsubara (Romy Mats) が務めた。
ーー CDJとレコードという話題から引き続いていくと、レコードではピッチを変えていくとそれに合わせて音程も変化をしますが、CDJ-2000NXS2までの従来のCDJではMASTER TEMPOというピッチを変えても音程を原曲キーで固定してくれる機能がありました。そしてCDJ-3000からは、新たなMPUが採用されたことによってKEY SYNCというキーの調整に関わるさらに新しい機能が搭載されました。これは、MASTER以外のCDJでKEY SYNCを押すと、MASTERのCDJで再生されている楽曲のキーと相性が良いキー(近親調)に瞬時に合わせる機能ですが、具体的にどういう背景からこの機能が生まれて、実装に至ったのですか?
古賀:従来からキーを意識した選曲を行い、ハーモニックにミックスするトレンドがあると思うのですが、CDJ-2000NXS2まではオリジナルのキーでしか再生することができなかったので、DJさんの選曲の幅に制限ができてしまうという課題がありました。それを今回のCDJ-3000では、“あらゆる楽曲でもハーモニックなミックスをすることができる”というのをひとつのコンセプトとして念頭に置いて、KEY SYNCを開発し搭載しました。今回、KEY SYNCを搭載するにあたってアルゴリズムをブラッシュアップしていて、従来だと、全てのキーにシンクするとなると±6半音ぐらい一気に飛んでしまうパターンがあって、それだと音階が崩れてしまうんですね。ですがCDJ-3000はあらゆる現場で使われる機材なので、最大±2半音以内の変化量でシンクするアルゴリズムに設計されており、あらゆる楽曲でも音階が崩壊することなく再生することができる仕組みになっています。
ーー Gonnoさんは今回の配信のセットでKEY SYNCをかなり使用されていたと思うのですが、使用感はいかがでしたか?
Gonno:セット中にも何回か試しましたね。KEY SYNCはもちろん素晴らしい機能ですけど、搭載されたことによって皆がキーをより意識し易くなって、たとえ実際にKEY SYNCを使わなくても、“あの曲とこの曲は同じキーなんだ”って気付いたりして、キーミックスをするようになっていくのであれば僕は凄く良いと思います。ただ僕からすると、キーが2度ぐらい上がるとまだ少し違和感がありましたけど、1度ぐらいの変化だったら全く違和感が無いですね。
ーー NOBUさんとGonnoさんは、普段の現場でプレイしている時は“キーミックスをする”ということをどのぐらい意識されているんですか?
DJ NOBU:現場によりけりですね。コード感が強い曲をかける時や現場によっ
Gonno:ドローンみたいな単音で和声の進行が変わっていかない反復の音楽とかは、音を重ねていく時にキーが合っていた方が気持ち良いと思いますね。
DJ NOBU:レイヤーが作り易くなりますよね。
Gonno:そうですね。よりキーの調整が取れていることによって、3チャンネルでも4チャンネルでもミックスをしていくことができるというのは確実にあると思います。
ーー そもそもの話をするとキーはrekordboxで楽曲解析をしないと表示がされないのですが、いま僕はDJやアーティストの方々に個別にPioneer DJ製品のレクチャーをする活動もしていて、rekrodboxのレクチャーをDJの方々にやっていて分かったのは、キー解析をしていない方が割と多いということでした。僕もDJをする身としては、場面によりけりですが、基本的にキーミックスすることを意識しているので、“なんで解析しないんだろう?”と感じることが多いです。
Gonno:僕がよくプレイしているハウスとかはメロディーがあるので、キーを意識するとプレイによりストーリー性を持たせ易いですが、キーにあまり重要性が無い音楽のジャンルと、そういう音楽をプレイしているDJさんも、ただそこにフォーカスしてないだけなので、それはそれで良いとも思います。ただキーの調性も知っておくことでプレイの可能性は増えていくだろうし、キー解析をしておいても、プレイ時にはキーを無視したり、解除したりすることはできるので。
DJ NOBU:僕とかGonnoくんみたいに、気持ち良く聴かせてハマらせたいと思ってDJをしている人にとっては、キーを解析しておいたり、KEY SYNCを使うのは凄く良いと思うんですよ。もちろん自分の耳で聴くことも大事ですけど、実際に今回CDJ-3000でやってて、KEY SYNCを使ってみた時に“こういう風に変わるんだ”と思ったこともありましたし。KEY SYNCが搭載されてキーを合わせるのが楽になった部分もあるし、クリエイティヴィティも広がったのではないかなと思いますね。
Gonno:NOBUくんがプレイするようなテクノだと和声進行がないものが多いので、それぞれの曲のフレーズでキーが合っていると相当気持ち良くなりそうですよね。
DJ NOBU:快楽度が上がりますね。
Gonno:キーが揃っていないことで不協和音のようなユニークなサウンドも勿論生まれることはありますが、実際の現場でそれを意図的に起こすのは難しいし、やっぱりミックスしてて不協和音が気持ち悪く聴こえることもよくありますからね。
ーー そしてCDJ-3000には、KEY SHIFTというまた別のキーに関する機能も搭載されていますが、これはどういった機能なのでしょうか?
古賀:KEY SHIFTはDJさんの好みによって手動でキーを変化させることができる機能です。ディスプレイ内の右上にある“KEY SHIFT”のボタンをタッチすると波形の下にGUIが表示されるのですが、キーを上げたい場合は右側をタップしていただくと半音ずつ上がっていき、下げたい場合は左側をタップしていただくと半音ずつ下げていくことができるようになっていて、中央を押すと原曲キーに戻すことができます。プレイ中に転調をしたい場合や、EDMのようなジャンルのDJさんですとブレイク前のビルドアップでのパーフォーマンスに活用していただいていますね。
公式イントロダクション 『A New Dimension – Pioneer DJ Official Introduction: CDJ-3000 Professional DJ multi player』より。
ーー KEY SHIFTは、いま仰っていただいたようなプレイ中にパフォーマンスを多く行うEDMなどのジャンルのDJからの要望や提案があって搭載されたのでしょうか?
古賀:搭載された背景としては、自動でキーを調整してくれるKEY SYNCは入れたのですが、ハーモニックなミキシングをする際に手動でもできるようにということでKEY SHIFTも入れました。加えて、いまご質問していただいた通り、アグレッシヴなダンスミュージックでも、ビルドアップを強調したりですとか、より魅力的なパフォーマンスをしていただけいるようにという想いもありました。
Gonno:エフェクト的に音階を変えていく使い方ということですよね。
村井:DJのそもそものスタートが、他人の作った曲を自分の音楽表現に変えるということで、ターンテーブルの時からテンポは変えることができましたが、そこに“キーも変える”という新たな武器が生まれることで、私たちのような物作りをする人間でも想像をできないようなプレイが生まれてくるのではないかと思っています。
Gonno:こういう機能で新しいスタイルも出てくるでしょうね。テンポを合わせて曲を繋いでいた歴史から、キーを合わせて繋いでいくDJも現れたように、こうした新しい機能によって新しい表現も生まれてくるのではないかなと思います。
ーー そういった話だと、CDJ-3000で使えるようになったLINK CUE PREVIEWが個人的には結構衝撃でした。スタイルが変わるまではいかないかもしれないですが、ちゃんと使い熟せるようになれば、DJプレイ中のルーティンがまた少しブラッシュアップされるのではないかなと思いました。どういう機能なのか、古賀さんからご説明いただいても良いでしょうか?
古賀:CDJ-3000では楽曲のプレビューの機能を2つ搭載しています。ひとつ目はTOUCH PREVIEWというブラウズ画面(楽曲を選ぶ画面)でのプレビューです。CDJ-3000では楽曲をブラウズしている時に画面の左側に小さな波形が表示されるのですが、その波形部分をタッチすると、実際にCDJで再生している音に加えて、触っている波形の音がモニタリングすることができるようになっているので、楽曲をロードしなくてもどういう楽曲なのかを確認することができるようになっています。そしてもうひとつは、楽曲をロードして波形が表示される画面になってから、画面下の全体波形をタッチすることで、触っている箇所をプレビューすることができるというものです。これは、昨今のフェスティバルではB2Bスタイルがトレンドで、B2Bユニットも増えていることを受けて搭載しています。例えば、B2Bのパートナーがいまプレイしている曲がどういう展開なのか分からない時に、再生位置よりも先の波形部分をタッチして素早く先の展開をプレビューして、次の楽曲のミックスに役立てていただけたらという想いがあります。
公式イントロダクション 『A New Dimension – Pioneer DJ Official Introduction: CDJ-3000 Professional DJ multi player』より。
ーー 現時点(2020年10月)では、DJミキサーの選択肢が、ファームウェアを最新の状態にアップデートしたDJM-900NXS2もしくはDJM-V10の場合に限られてはしまいますが、LINK CUE PREVIEWはかなり便利な機能ですよね。ちなみに、“LINK CUE”というボタンがDJM-900NXS2に搭載されていたということは、4年以上前に同機を開発されていた時からCDJ-3000で実装されたLINK CUE PREVIEWの構想があったのでしょうか?
古賀:ありましたが、USBのデバイスでは使えていませんでした。これまではrekordbox(PC/Mac)とCDJ及びDJMをLANケーブルで接続してプレイする “rekordbox LINK Export” でしか使用できず、いまいち知られていないマイナーな機能だったのですが、今回初めてUSBデバイスでも使えるようになったので、より多くのDJさんに使用していただけたらなと期待しています。
ーー 今回ご出演いただいているNOBUさんとGonnoさんを初め、CDJ-3000発売以降に色んなDJの方にレクチャーでLINK CUE PREVIEWをご紹介しているんですけど、皆さんからのリアクションが本当に良いです。一様に「これ待ってた!」みたいな感想が多くて。
DJ NOBU:本当に “これ待ってました” って感じですよ。さっき仰っていたように、僕も色んなDJとB2Bをしてきましたけど、たまに相手が訳の分からない曲をかけたりすることもあるので、これは本当に便利ですよね。
Gonno:B2Bの時に、よく知らない曲とか、後半に向けてピッチダウンしていく曲とかをかけられた時には便利ですよね。先の展開が分かればミックスの精度も上がりますし。
ーー ブラウズ画面の段階で波形が見ることができて、しかもプレビューができるようになった辺りからは、CDJ-2000NXS2からCDJ-3000に進化をすると共に、CDJ自体がよりrekordboxやPCに近付いていっているような印象を受けるのですが、実際のところはいかがでしょうか?
古賀:ブラウズの考え方とかは、どんどんrekordboxに近付けていこうというのは基本的にはあります。プレビューに関しては、昨今はデジタル音源の入手し易さもあって非常に大量の楽曲を皆さんお持ちだと思いますし、YouTubeやInstagramなどの動画媒体で公開することがメインのセットだと、どんどん1曲あたりの再生時間が短くなっているという流れもありまして、そういったDJさんがいかにより素早く次の楽曲をCDJにロードできるかという部分も考えて、ブラウズのプレヴューを搭載した背景があります。
ーー そして、クイックなミックスをするDJさんたちが頻繁に使用するのがHOT CUEだと思うのですが、こちらもCDJ-3000で大きく変化しました。CDJ-2000NXS2までは4つのボタンがディスプレイの左側に付いていて、A〜DとE〜Hで合計8つのHOT CUEをスイッチで切り替えながら使う形式でしたが、CDJ-3000ではディスプレイの下にA〜Hまでの8つのボタンになりました。こちらは特にDJさんのフィードバックが反映された部分なのではないでしょうか?
古賀:そうですね。今回、開発当初から “CDJ-2000NXS2のHOT CUEはどうしようかな” というのはずっとありました。従来と同じポジションで4つのままにするか、新たに増やすか、というのはずっと検討していたのですが、実際に使用していただくDJさんたちの声を聞くと、4つ以上のHOT CUEを使ってパフォーマンスをするケースが段々と増えていっているそうで、そうなると従来の4つのボタンを切り替えるのでは使いづらいなと思いまして、CDJ-3000ではよりダイレクトにHOT CUEのアサインとプレイができるように、8つにしました。加えて、ボタンのレイアウトに関しても色んなDJさんにヒアリングをしました。弊社のDJコントローラーのモデルではジョグの下に配置をしているのですが、よりプロフェッショナルな業務用機器となると、暗い場所であるとか、スタンドに立てるであるとか、様々な状況の場所にプレイヤーが置かれることがあるので、それによってHOT CUEの誤動作が起きるのは弊社としてもプロDJとしても望ましくないと思いまして、ジョグの下ではなく、ディスプレイの下に配置をさせていただきました。それによって、ディスプレイに表示される波形とHOT CUEのボタンは並行してあるので、全体波形のどこにどのHOT CUEがアサインされているのかが分かり易くなったのではないかと思います。
ーー NOBUさんは今回の配信では、事前に楽曲にループを設定して、それをHOT CUEで記録して使用するHOT CUE LOOPという機能を多く使うセットを初披露されていましたが、準備期間から含めてHOT CUEボタンの使用感などはいかがでしたか?
DJ NOBU:凄く正確で感度も良いですよ。今回は大事な配信だったのでrekor
Gonno:そういうところから始まるクリウィティヴもありますからね。
村井:もともとHOT CUEというのは、弊社製品で初めてスクラッチができるようになったCDJ-1000というモデルを導入した時に、当時はスクラッチDJさんたちはレコードのラベルにシールを貼って、スクラッチするポイントに瞬時に針を置けたりするようにしていたのですが、それをデジタルの機材でも実現しようというので生まれた機能でした。でもそれから約20年が経って、HOT CUEという機能を様々な形で使う人がどんどん増えていっています。例えば、レコードだと針を置いて最後まで再生しないとどういう楽曲かを把握することができませんが、デジタルだと楽曲をダウンロードして、rekordboxで解析するとBPMも検出されるので、頭の1拍目からBEAT JUMPで16拍ずつや何小節かずつ飛ばしながらHOT CUEでマーキングをしていくことで、音楽を全部聴かなくても自分自身が音楽を理解するための有効な武器になります。毎日大量に音楽を入手しているのに全部聴く時間が充分に無い場合でも、ちゃんとrekordoboxでマーキングをしておけば自分の武器として音楽をしっかりと使用することができるような、そういう人のための機能にもなっているのではないかなと思います。
古賀:あとこれまでは、CUEボタンに頭出し位置を設定して、CUEボタンでタイミングをはかりながらPLAYボタンを押して再生して、HOT CUEはNOBUさんが仰っていたようなサンプラー的なパフォーマンスで使うというのが多かったんですが、HOT CUEは押すと設定してあるその位置から再生が始まるので、特に最近の若いDJさんとかはCUEボタンを使わずに、HOT CUEボタンでポンポンと頭出しをしながら、そのまま再生する方が増えていますね。
ーー 確かにHOT CUEボタンをCUEボタンとPLAYボタンの代わりに使っている方を見かける機会は増えましたね。
村井:CDJにはクオンタイズの機能が付いているので、HOT CUEをある程度ラフに押しても、ミックスしていく楽曲のビートに合わせてスタートしてくれるので、それもあると思います。
DJ NOBU:本当にCDJのクオンタイズはどんどん良くなっていますよね。
Gonno:しかも設定でクオンタイズするビートを細かく設定できますよね?
古賀:1拍から1/8拍まで設定できます。
Gonno:例えば、3分ぐらいの短い曲のタイミングの良い位置にHOT CUEを設定して、クオンタイズもしっかり設定しておけば、HOT CUEを押してその位置まで戻ってを繰り返して、即席のエクステンデッド・ミックスみたいにもできるということですよね。そういうのやってみたいですね。
村井:短い曲を長くすることも可能ですし、逆に長い曲をHOT CUEで使いたい位置まで飛ばすというようなこともできるので、尺を自分で思い通りにコントロールする使い方はできます。
Gonno:凄いですね。考え方次第で何でも出来てしまいますね。機材が可能性を広げた先に、これから色んなスタイルのDJが出てくるんだろうなって思います。
DJ NOBU:未来の機材って感じしますね。CDJ-2000NXS2よりもCDJ-3000の方が断然使い易いですし。
古賀:やはりCDJなので、何より “信頼性” には重きを置いて開発してきました。冒頭にもお話させていただいた、楽曲のローディングのスピードや、各ボタンの耐久性の向上という部分はひとつ大きなコンセプトとして取り組んできましたが、HOT CUEのボタンを拡張したり、BEAT JUMPもハードウェアとしてボタンで搭載したり、パフォーマンス面でもCDJの楽器としてのレベルをひとつ上げたいなという強い想いがありました。あと個人的に、プロジェクトとしてかなり取り組んだのは、ループ機能でした。ループ機能に関しても色んなDJさんにお話を伺って改善をはかっていて、具体的には、従来は偶数のビートループが多く使われてきたのですが、CDJ-3000ではBEAT LOOPの2ページ目に奇数拍のループを多く取り入れさせていただきました。
DJ NOBU:初めて見た時に、奇数拍のループがこんなに沢山入ってて感動しました。
古賀:ありがとうございます。これは私が実際にベルリンに訪問した際に、ベルリンを拠点にしているテクノDJさんたちから「奇数拍ループにもっと対応して欲しい」という非常に熱い要望をいただきまして、その後にアーティストのKiNKさんとお話する機会がありまして、彼からも奇数拍ループの使い方をヒアリングさせていただいて、最終的に搭載しているこの奇数拍ループの拍数も彼の意見をもとにブラッシュアップしたものになっています。
ーー KiNKさんは自身のFacebookに、ハウスからジャングル、ジャングルから緩いヒップホップのビートに、という感じで奇数拍ループを使ってBPMの異なる楽曲をミックスしていくテクニックを紹介する動画をアップしていましたしね。CDJ-3000がリリースされた後にも、『Resident Advisor』のYouTubeチャンネルに奇数拍ループの使い方を紹介する動画が上がっていたり、DJさんが個人のInstagramで奇数拍ループのテクニックを披露していたりと、反響は大きかったように思います。
Gonno:奇数拍ループビートが1/3になるから、例えばBPM 120の曲がBPM 90になるからハウスからジャングルにミックスしていけるということですよね。
DJ NOBU:あと実際に最近のリリースって奇数拍の曲が多いから、僕もそういう曲をプレイしますし、精度も非常に高いので単純にそういう時にも便利だなと思います。
Gonno:僕はDJとは別に、ドラマーのKazuhiko Masumuraくんと “Gonno x Masumura” というライヴユニットもやっているんですが、そこで演奏する僕のフレーズは奇数拍のループが多いんです。これはいまふと浮かんだアイディアですが、ラップトップやシンセではなくて、CDJ-3000の奇数拍ループを使ってライヴをするのも面白そうだなと思いました。
ーー また新しいクリエイティヴが生まれますね。CDJ-3000の進化に一通り触れてきたところで、そろそろこのトークセッションも終わりの時間が迫っているのですが、NOBUさんとGonnoさんは、ここまで話してきた機能以外にCDJ-3000の気に入っている部分はありますか?
Gonno:機能以外だと、僕はジョグの中央にアートワークが出るのが見易くて凄く好きです。音楽作品ってアートワークも込みでひとつの作品だったりするので、しっかりと絵が見えるのは良いことだと思います。例えば、「この曲何だろう」と思った時にレコードだったらラベルを見れば分かりますけど、CDJだといままで文字情報だけだったので、それを写真に撮るのはさすがに気が引けるし、あとで聞いても宵越しだと覚えづらいなというのがあったんですけど、CDJ-3000のジョグはレコードのラベルを見ている感覚に近いというか。アートワークが見えると良いですよね。楽しくなります。
DJ NOBU:アートワークもだし、上のディスプレイも見易くて良いですよね。他の機能も含めて、“こんな凄い機材を作ってくださって本当にありがとうございます”って思いますよ。本当に。
村井:こちらこそです。これからも思うことがあったらどんどん気軽に言っていただけたら嬉しいです。私たちは商品を出す時には、常に私たちの最高到達点のものをお届けしようという姿勢でやってはいるのですが、楽器というのは常に進化をし続けるものなので、私たちだけでは思い付かないアイディアは現場で実際にプレイするDJさんとアーティストさんからどんどん聞き入れて、より良い、もしくは想像の遥か上を超えていくような物作りに向けて、今後も尽力していきたいなと思っております。今後もしやりたいことがあったらどんなことでも仰っていただけるほど、私たちの次の仕事が、そして次の製品が生まれる喜びになりますので。これからも是非よろしくお願いします。