Pioneer DJ presents – 音と光の連動がもたらす、エンターテイメント空間演出の未来
Text : Hiromi Matsubara
2017.12.22
最先端技術でコントロールする、さらなる演出の可能性
クラブには視覚的な快感も存在する。DJのプレイ中のアクションやフロアへのアピールに視線を送ることも現場ならではの楽しみだが、DJのプレイに合わせてそれぞれのプロフェッショナルが手動で空間の演出をしているライティング(LJ)やヴィジュアル(VJ)も欠かすことのできない要素だ。本場ニューヨークのクラブには常駐のプロLJがいたり、DJによってはツアーのチームの中にLJやVJを加えたりと言うほど、その重要度は高い。
そして2017年、クラブシーンの音に関しては常にリードしてきたPioneer DJが、ビジュアル演出機器制御において経験豊富なTC Supplyと協業をし、rekordboxの解析情報と連動した照明や映像やスモークなどの自動演出を可能にしたネットワークシステム「ShowKontrol」を共同開発。CDJ上で再生されている楽曲の解析データとシンクロさせて楽曲の速度やジャンルに合わせて、「ShowKontrol」が、ライト、レーザー、ストロボなどの動作や、スモークや花火などの特殊効果を発動するタイミングを自動に判断するという高い技術を備えたソフトウェアとなっている。また「ShowKontrol」の画面上では、DJがプレイしている楽曲と、その次にプレイする楽曲の情報や展開などをモニターで通して知ることができるため、自ずとDJブース内のライヴ感が離れた位置にあるLJとVJのブースにも共有されていく。DJのプレイを徹底的にサポートする、より視覚的なインパクトの強い空間演出を可能にするという訳である。
11月30日~12月2日に開催された『TOKYO DANCE MUSIC EVENT』では、『Pioneer DJ presents – 音と光の連動がもたらす、エンターテイメント空間演出の未来』と題した、クラブでのライティングやヴィジュアルに加え、2018年以降に本格始動していく「ShowKontrol」を巡ってのトークセッションが行われた。スピーカーには国内屈指の3名のエンジニアが登壇。NYを旅行した際に80年代の伝説的クラブ「THE SAINT」のオーガナイズパーティーでの照明演出に衝撃を受けて以来、90年代後半からライティングエンジニアとして活動するLighting AIBA。そのAIBAとはLS WORKSを結成していることで知られ、東京の伝説的クラブYELLOWにて1996年からクローズまで照明と音響を担当して以降、ELEVENやORIGAMI、Dazzle Drums主催の『BLOCK PARTY』など、数々の照明と音響を手掛けてきたMACHIDA。最先端機のレーザーやLEDとオールドスクールな照明機材を駆使し、『FUTURE TERROR』や『POWWOW』などの演出を担ってきたライティングアーティストYAMACHANG。さらに、センションホストのPioneer DJからは商品企画の湯浅豊久氏が、司会進行にはライターの河村祐介氏が登壇した。
長きにわたり現場経験を培ってきた3人からのエピソードはまさに目から鱗だった。昨今のライティング技術の発展は、LEDなどの新しい光源の誕生と、自動操作を行うためのプログラミングの演算機能が進化していることによって支えられている。しかしその一方で、ややアナログ的に打ち込み操作を行い、レーザーの上下によって空間が明るくなるポイントと暗くなるポイントを作るタイミングを自身の感覚と手動で操作していると言うYAMACHANGのように、照明や映像も身体での感知を優先して手動で行っているエンジニアも少なくないという。それは、DJのプレイしている楽曲のことを気にし過ぎて、フロアにいるお客さんの雰囲気が眼中から外れてしまうことが、時に空間に鳴っている音楽とのズレを生んでしまうからだそう。また、演出がプレイに合わせた決め打ち状態になっている、いわゆる「ショーケース/コンサート化」しているEDMに比べると、クラブにおける演出は、お客さんが空間に滞在する時間をより長くすることが重要になる。音楽だけでなく、お酒を飲みながら人と会話をしたり、一晩踊って楽しみ続けたりといった、様々なニーズを総合的に内包している「場の空気感」を最大の価値としているクラブでは、ライティングにも高い自由度に伴った適応力が求められているのだ。ライティングは、時に色と明るさでオーディエンスの高揚感を煽ることができ、時に音楽への没入感を生み出すことができる。その導入を空間とお客さんに与える一大要素とも言えるのである。プログラミング技術が現在のレベルに至る以前、DJがプレイしているレコードの溝やCDJのディスプレイに表示されている波形を横目で見ながらブレイクの位置を確認して演出を変化させたり、レコードのジャケットから曲調を推測して照明の色を判断をしていた時と比較すると、今は格段にコントロールがし易くなったそうだが、技術の進化に沿って、空間演出を判断する観察眼を磨くことも確かに重要であるということだ。
トークセッションでは、「ShowKontrol」の登場による今後の発展にも話題は及んだ。「ShowKontrol」の登場はその手軽さから、よりクラブのLJやVJになれる可能性も上がるだけでなく、DJ自身もCDJから照明や映像の演出を操作することを可能にする、という点について3人は、「LJやVJへのハードルが下がる分だけ、演出センスがより問われる」という意見を示した。さらに、「ShowKontrol」で演出がさらに自動化されるとLJとVJの手が空いてしまい、ゆくゆくはブースに立つ必要も無くなってしまうやもと思われる側面もあるのではと尋ねられると、「自動化で手が空いた分だけ別の演出に手を掛けることができる」という、さらなる演出の進化を示唆していた。そして、Pioneer DJの湯浅氏は以下の言葉でセッションを締めくくった。
「Pioneer DJは、フェスやトップクラブのステージから小さなバー、個人の自宅まででDJ機材使っていただいています。この数年はスピーカー事業に参入し、Paradise GarageのサウンドエンジニアをしていたGary Stewartと共に“GS-WAVE”を作り、いまやスピーカーもラインナップして、Fabricを始めとした世界中のクラブに導入されつつあります。今後は照明を始めとした、空間演出でも皆さんにこれまでにない体験を提供したいと考えています。 DJブースだけでなく、空間すべての演出を支えていきたいと思います」
「ShowKontrol」の登場が、音と一体となって黒い空間の彩りをコントロールしているLJとVJの存在を、より意識できるきっかけになったらと思う。