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Highlight
ENA Interview Feat. S-DJ50X / 60X
Interview : Yoshiharu Kobayashi Photo : Kenji KuboThanks : Junya Okami
2013.12.5
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GOTHTRAD率いるBack To ChillのレジデントDJとして活躍し、今年はフランスの〈7even〉から初オリジナル・アルバム『Bilateral』をリリース、そしてResident Advisorのポッドキャストに日本人2人目となるミックスの提供も行うなど、アンダーグラウンド・シーンで世界的に活躍するEna。これからの飛躍も大いに期待されるカッティング・エッジなアーティストである彼に、5インチのSDJ50Xと6インチのSDJ60Xの使用感を訊いた。
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――まず Ena さんがモニター・スピーカーを選ぶ際に注意していることを教えてください。
Ena : 周波数的なピークがないこと、そして原音を味付けしないで再生してくれることです。人によってはスタジオ・モニターにもある程度楽しさを求める人がいますが、俺はある意味「つまらない」スピーカーが好きなんですよ。奥行きとかちゃんと見えたり、EQをちょっと変えた時の変化が分かったり、コンプレッションのアタック・タイムとか、そういった点をちゃんと忠実に再現してくれるスピーカーをスタジオ・モニターとして選んでいますね。
――そういった観点から言うと、今回使っていただいた Pioneer DJ のアクティブ・モニター・スピーカー、S-DJ50X と S-DJ60X はいかがでしたか?
Ena : 制作っていう意味では、俺は5インチ(S-DJ50X)の方が気に入りました。こっちの方が癖がないです。5インチでも音量はちゃんと鳴りますし、メインがあってサブ・モニターとして使ってもいい。そんなに場所を取らないのもいいですね。俺の制作スタジオはスピーカー・スタンドがあるので6インチ(S-DJ60X)でも全然構いませんが、5インチの方はレコード棚の上とかにも置きやすくて気軽に使える感じがします。制作用、DJ用と人によって使い方がいろいろあるでしょうけど、ちょっと制作するには十分ですね。
――では、6インチの方の印象はいかがでしょうか?
Ena : 5インチとは方向性が変わってくる感じがしました。低音の量感がありますよね。キックがすごいはっきり出る。制作には別のベクトルが必要になりますが、聴いているぶんにはとても楽しいので、どちらかと言うと DJ をするのに合っていると思います。ホーム・パーティーとかにいいんじゃないでしょうか。それに、小さい音量でもベースがちゃんと鳴っている印象がありましたね。みんな自宅で大きな音が出せるわけじゃないので、そこは結構重要だと思います。もちろん音を絞ればそのぶん迫力は少なくなりますが、鳴っていることはしっかりと意識できるので、そこがいいですよ。
――コスト・パフォーマンスの面ではどのような印象ですか?
Ena : 気楽に買える値段じゃないですか、そこは結構重要だと思いました。今はパソコンのモニターでも結構な価格がしますから、それを考えるといいですよね。ちなみに、俺が普段使っているモニター・スピーカーは中古車くらいの値段がするんです。それと較べると断然コスト・パフォーマンスはいいですし。今は曲を趣味でちょっと作る人はめちゃめちゃ多いと思うので、そういう人にもばっちりハマると思います。
――誰もがいきなり「中古車」レベルのモニター・スピーカーに手を出せるわけではないですからね(笑)。
Ena : そうですよね(笑)。俺の場合、スピーカーでの音の見え方を気にし過ぎて、今使っているものに行きついたところがあるんです。音の粒の位置がちゃんと見えるのが大事。ハイハットの一個ずつのアタックだったりとか。個人的に、ちょっと頭おかしいくらい突き詰めちゃっているところがあるんで(笑)。
――音が見えるという点で言うと、S-DJX Series もちゃんと見えていると思いますか?
Ena :そうですね。リスニング的な見え方で、結構気持ちよく見えていると思います。今の自分のモニター・スピーカーは、リスニング的な見え方というよりは顕微鏡的な見え方なので、すごい細かいところが見え過ぎてしまうんですよ。見え過ぎるのでアラが見えてしまうんです。ヴォーカルのいろんなテイクを継ぎ合せているところや、ギターをワン・フレーズだけカットして別のテイク使ってるところとか。でも、そういうのは普通の人は見たくない。だから、それを上手くオブラートに包んで再生してくれていると思いますね。だから、顕微鏡レベルでは見えないけれど、リスニング・レベルではちゃんと見えていて、気持ちよく聴けると思います。
――S-DJ X Series の大きな特徴は、トゥイーター部に凸形状ディフューザーを採用したことによる音の広がりと、豊かな低音の量感という2つなのですが、それぞれに関しての感想を教えてください。
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Ena : 5インチの方は低音がすごく出るわけではないので、そのぶんトゥイーター部の効果が綺麗に出ている感じがしましたね。高音も気持ちよく聴ける印象がありました。6インチは低音が出るので、高音の聴こえ方がそれに少し左右された部分もあるのかなとは思いました。
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――クロスオーバー(周波数帯域の分割)には癖を感じましたか?
Ena : 6インチの方は意図的な低音の強調があると思いますが、それはクロスオーバーのせいじゃなくて味付けですよね。80Hz、90Hz、100Hzっていうキックの帯域にピークをわざと作っている印象があります。でも、だからこそ楽しいっていう部分があるんです。これだけ低音が効くんだから、例えば低音のEQが付いていても面白いかもしれない。
――なるほど。
Ena : 周波数の話は理解できる人は少ないかもしれませんが、5インチだと30~40Hzとかベースが潜った時の音を再生することが難しいですが、6インチになるとそのへんは再生しやすくなりますね。でも、それは本当に低い帯域の話で、普通の人には必要ない帯域だと思います(笑)。30Hzは置いておいて、40Hzはいいシステムで再生した時にベースのラインとか……例えばドラムンベースだとドューンと落ちる808のキックを使ったベースがあるじゃないですか。いいシステムで聴くと振動が体を走るんですよね。眼球が揺れて、体が揺れて、足が揺れて、爪先が揺れるみたいな。たぶん日本のシステムは爪先まで行かないんですよ。それは本当に30Hzとか40Hzの話で、そこがクリアに出て音圧もあると、本当に体が揺れます。レゲエみたいにピッチが動くベースだと、ピッチによって体の揺れ方が変わってくるっていう。60Hzは日本のクラブでも再生するところは少なくないですけど、その下の50Hz、40Hz、30Hzくらいだとクリアに再生できるところはあまりなくて。優劣の話じゃなくて、単純に味付けの話ですけどね。求める人がどれくらいいるのかどうか。6インチで単純にスピーカーが大きくなった方が、そういったサブ・ベースは聞きやすくなります。あと6インチで一般的なスタジオ・モニターと一番違うのは、周波数の話以外だと、キックが伸びるというか。今僕が使っているモニターはキックが点で見えるんですけど、こっちはもっと迫力が出るようにキックが伸びて聴こえるんですよね。そこはバスレフの影響だと思うんですけど。
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――それがつまり6インチの楽しい音に繋がっているというわけですね。
Ena : そうですね。5インチもそうですが、楽しい音です。見た目も全然安っぽくないですし。
――Pioneer DJ の商品全般に言えることですが、ローエンド商品でも安っぽく見えないように気が遣われているんですよね。プラスチックのものでも、ちょっと凝った感じにしてあったりとか。やはりパッと見が安っぽいと使っていてテンション下がりますからね。
Ena : そうそう、テンションが下がる。散々音が見える見えないとか言っておいて、見た目も大事ですから(笑)。
――両方の意味での「見える」感じが(笑)。ところで Ena さんは先日までベルリンに滞在していたんですよね。
Ena : はい。いろんな人に会ったりして楽しかったですよ。DJ もやりましたが、ベルリンだから全てが良いって訳では無くて、いい部分もあれば悪い部分もあるっていう。例えばベルリンだからクラブの音がいいわけではなくて、ベルグハインはさすがに音がいいですけど、そこそこ有名なハコでもあんまり、っていうことはあります。反射が多くてスピーカーから鳴っているっていうよりは、共鳴しているような感じだったりとか。基本的に日本の建物は共鳴しないところが多いんですけど、ベルリンの場合はだだっ広い工場を使っている場合もありますし、壁が全部タイルの会場もありますからね。でも、だから4つ打ちなのかな、とも思うんですよ。4つ打ちは隙間もあるし、ボトムがそんなに多くないし、キックが決まったスピードだから、決まった反射になる。それだったら問題ない。でも、ブレイクビーツっぽい打ち方だったら、ピークがランダムに来るので共鳴もランダムに来てゴチャゴチャしちゃう部分もあるんじゃないですかね。まあ、そんなことまで考える人もいないですけどね(笑)。
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――(笑)。向こうでは制作もやっていたそうですが。
Ena : 今回一番面白かったのは、Felix K とやったことですね。Felix K は最初のリリースから好きで、なんとなくメールで連絡を取りながら曲を作ろうという話になったんです。俺のアルバム『Bilateral』は4月に出て、Felix K の『Flowers Of Destruction』もたぶん同じくらいに出たから、互いにアルバムを褒め合うっていう気持ち悪いことをしていたんですよ(笑)。それで作ろうかということになって。彼は曲作るのがあんまり速くないって言っていたんですけど、そのわりには一日3曲とか出来て、すごい相性がいいのを感じました。午前中から始めて、夜11時くらいまでやったりしていたんです。出来上がった音は、一応ドラムンベースと言えばドラムンベースなんですけど、ドローンみたいな感じでもあります。何なんだかよくわからないです(笑)。そういうのを一日で3曲作ったんですが、来年〈Hidden Hawaii〉 から EP として出る予定です。
――楽しみですね。ちなみに、一人で作るのと共作するのではどちらが好きですか?
Ena : 両方ですね。ソロの曲は自分が作りたいように作ればいいですけど、コラボは相手に投げてしまって何が返ってくるかっていう楽しみがあるので。僕がコラボする相手はみんな曲のキャラが濃いですから、ある程度投げた方が成立しやすいというのもあります。コラボと言ってもいろいろなやり方があると思うんですけど、僕はソロでもプロデュース出来る人とやるのが好きなんです。DJ 系に多いんですけど、サンプルだけ持ってきて、「こんな感じで作ってほしい」っていう人もいるんですよ。それでもコラボ名義になるんですよね。でも、俺はそういう人とは基本的に作りません。テクニカルな部分もしっかりしている人としかコラボにならないんです。だからこそ、投げる部分は投げてしまう。
――なるほど。先ほどもおっしゃったように今年アルバムを出したばかりですが、早くも来年前半には次のアルバムをリリースする予定もあるらしいですね。結構ペースが速いように思えますが。
Ena : ちょっとやり過ぎなんですけどね(笑)。実際、まだ出していない曲は40曲くらいあるので、アルバムは出そうと思えば出せるんです。でも、4月に出して今年中にもう一枚はないだろっていう(笑)。ちょっと時間も置きたいですから。なので、まずは 〈Samurai Horo〉 から来年の頭に EP が出ることが決まっていて、さっき話した 〈Hidden Hawaii〉 からのリリースとASCのレーベルAuxiliaryからのリリースもありますから。そういう一連の EP が出てからアルバムっていう形が一番いいので、ちょうどいいタイミングで出せればいいと思っています。今度のアルバムを出すレーベルは 〈Samurai Horo〉 です。
――曲はたくさん作る方だと思いますか?
Ena : そうですね。Back To Chill の話になってしまいますけど、あそこは DJ をするだけじゃなくて曲も作るっていうのが基本姿勢なんです。それもあって、毎月どころか、どんどん曲を作っています。それに毎年ヨーロッパに行っていると、以前と同じ曲をやるのは嫌ですから、もちろんダブプレートでいろんな曲をもらいますけど、あんまり他の人の曲をかけるのもな、と思うと、自分で曲を作るしかないので。だから、ヨーロッパに行く前はまとめて作っています。今年も8月、9月だけで10何曲作って、それでツアーに出ていました。実際、今回のベルリンでも自分の曲はたくさん使いましたし、セットの9割くらいが自分の曲のこともあります。2時間セットだといろんな曲が掛けられるので、〈Samurai Haro〉のやつを掛けることもあります。やっぱりダブプレート・カルチャーは好きですからね。アンリリースものばかりかけるっていう。子供っぽいですけど(笑)。
――来年出すアルバムはもうトラックリストまで固めているんですか?
Ena : 6曲くらいは決めています。前作はコラボなしでフィーチャリングが一人もいない、完全ソロだったんです。いろんな人と作るチャレンジはしたんですよ。でも、アルバムには合わないっていうことで全部却下しました。でも次のアルバムはコラボとか……Felix K と作ったのは 〈Hidden Hawaii〉 から出ますけど、Indigo とも曲を作っていたりしますから。完成しないと分からないですけど、いろいろとアルバムに入れてみたいなとは思っています。
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――音楽的な部分では、前作と較べてどのように変わっていますか?
Ena : この前のアルバムのタイトルが『Bilateral』で二面性という意味ですから、こじつけで次のアルバムも続編みたいな感じでやろうと思えばやれるんですよ。でも、どうしようかなと思っていて。この前のもよく分からないですけど、たぶんもっとよく分からない感じになっていると思うんですよね。もちろん音楽的によく分からないっていう意味じゃなくて、ジャンルが何だかよく分からないということです(笑)。〈Samurai Horo〉は一応ドラムンベースのレーベルなので、170のBPMのものはたくさんあるんですけど、170だと思えるような曲が果たしてあるのかっていう。
――というと?
Ena : DJ をやっているとBPMがよく分からないって言われるんですよ。昨日は Back To Chill だったんですけど、DJ 100mado さんに「BPM途中で変えたよね?」って言われたんです。でも変えてないんですよね(笑)。基本的にそういう感じなんで、よく分からないっていう。別に変拍子とかやるわけじゃないんですけど、俺は本当に何だかよく分からないテンポなんで。たぶん、そういった要素プラス、ドラムンベースっぽいのも掛けたりするから、そこで妙なコントラストがあって、BPMを失う感じが生まれているんじゃないですかね。でも、そういうよく分からないマニアックなことやっているくせに、昨日は迷い込んできたギャルがガン踊りしていたから、いいのかなって。
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――そういうのは大事ですし、嬉しいですよね。
Ena : そうそう。基本的にはDJ 用に曲を作っていて、ダンス・ミュージックとして機能するように意識していますからね。フロアでDJの流れで聴いた時はダンス・ミュージックとして成り立つと思っています。
――ちなみに、Back To Chill は最近どうなんでしょう?ここ数年、だいぶ有名になったというのもありますが。
Ena : あれは部活じゃないですか、ちょっとした体育会系(笑)。音楽の楽しみ方はいろいろあると思うんですけど、単純に聴いてワイワイ楽しむのと、技を極めて楽しむっていう二種類があるじゃないですか。その極めて楽しむっていう方だと思うんですよね。Back To Chillは。もちろん、ただクソ真面目にやっているだけではありません。
やっぱりダンス・ミュージックって踊るものですから。このへんの説明は難しいんですけど、みんながやっていることをやって人が楽しむのは当たり前だと思うんですよね。でも、そうじゃなくて、個性を出して、新しい音を出して、もちろんクオリティも高くて、その上でダンス・ミュージックとして成り立つっていうのを突き詰めているんだと思っています。
――なるほど。では、Ena さんが今後曲を作っていく上では、どういった部分を突き詰めていきたいと考えていますか?
Ena : この前のアルバムでは、同じ音をプリセットの様に何度も使わなかったり、よくあるリズム・パターンも使っていないんです。よくベース・ミュージックと呼ばれていますけど、ダンス・ミュージックはリズムの音楽ですから、新しいリズムをどんどん探求していきたいですね。特にドラムンベース、ガラージ、2ステップとかもそうですけど、リズム遊びなんだと思っています。リズムがあってのベースですし。それに今はソフトウェアの進歩が凄くて10年前とは全然違うから、実験もいろいろやりやすいですし、本当に何でも出来るんですよね。なので何でも出来るからこそ、新しい音を探してちゃんと自分のカラーのある新しいリズムを作っていきたいと思っています。もちろんグルーヴはちゃんとキープして、DJが使ってフロアでも機能することも意識して。そういった意味では前のアルバムと一緒なんですけど、それをもっと突き詰めていきたいですね。これは永遠の課題だと思うので、それをひたすらやっていくのみです。
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ENA - Bilateral
7even Recordings
7EVENCD03
¥2,415(税込)
<トラックリスト>
01. Intro
02. Community Space
03. Mule Mouth
04. Symbiot
05. Realization
06. Idle Moments
07. 86 Loop
08. Triple Heads
09. Inutility
10. Unplug
11. Ourselves
12. Double Meaning
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Various – Scope LP Part 4
[VINY]
Samurai Horo
HORO010.4
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Various – Scope
[DIGITAL]
Samurai Horo
¥1,500(税込)
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