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Convenanza Festival 2016

Report

Convenanza Festival 2016

  • 2016.09.29(Thu) - 10.01(Sat) @ CARCASSONNE CASTLE, France
  • Text & Photo : Toshinao Ruike

  • 2016.10.21

  • CDJ-2000NXS2 DJM-900NXS2

Andrew Weatherallと粋な大人達のパーティー

Convenanza Festival 2016

 

90年代から今に至るまで多様な音楽シーンに影響を与え続けてきたAndrew Weatherallも今年で53歳になる。2016年は健康問題で来日公演が中止になり、心配しているファンもいるだろう。今年発表されたアルバムのタイトル『Convenanza』にもなり、本サイトのインタヴューでも取り上げられていたが、Andrewは4年ほど前から毎年秋に『Convenanza Festival』を主催している。中世に築かれた南フランス・カルカソンヌ(Carcassonne)の古城という味わい深いロケーションで、名プロデューサー自ら主催するパーティーがどのようなものか好奇心をそそられ、今回はその『Convenanza Festival』を訪れた。

 

気の利いたオーガナイズによる質の高い音楽フェスティバルはこれまでいくつか見てきたが、経験豊かな一人のアーティストがフェス全体をコーディネートしている例は少ない。アーティスト性が強く反映されたフェスティバルとはどのようなものか、それを見たかったのが今回訪れた動機だ。

 

 

最寄りの都市トゥルーズからは車で1時間ほど、バルセロナからは3時間ほど、延々とブドウ畑が続く農村部を抜けカルカソンヌにたどり着く。カルカソンヌは12世紀から13世紀にかけてキリスト教の一派であるカタリ派が領主に保護されていたため、ローマ・カトリックの反感を買い、ローマから派遣された十字軍がこの要塞都市を攻略し、カタリ派を異教徒として火刑に処していたという。「Convenanza」とはこのカタリ派の信者が城内で行っていた儀式のことを言う。

 

今はユネスコ世界遺産に登録され、日本人含め多くの観光客が広い城内をのんびり散策している。城塞の周辺地域は「cite(※都市という意味で、英語のcityに相当する)」と呼ばれ、その広大な城塞内は居住スペースとしての館や教会など生活空間もあり、平時の生活を忍ばせる。しかしその歴史を知ると、高く積み上げられた城壁のその石の隙間から浮かばれない魂たちが今もなお語りかけてくるような気がして、それはある種の刷り込みのようなものだが、古めかしい中世の雰囲気を引きづった古城をただ美しいと感嘆して眺めていることができない。

 

 

夕方観光向けに美しくライトアップされた城塞を眺めながら、会場となっている城の中庭に入る。

 

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会場では2人組のDJチーム、Red Axesがプレイしている。700~900人程度のキャパシティで決して大規模なものではない。フェスティバルと言うより、親密なパーティーと言った方がしっくりくるかもしれない。城壁に照明が当たり、中庭の樹木にはLEDのイルミネーションが巻き付けられていた。特別な視覚効果があったわけではないが、場所の古さを生かした非日常的な雰囲気だ。Andrewの采配だと思うが、ブースにもベテランらしき年齢のPAがいて、フロアは四方が壁に囲まれているが、どの場所にいても変な音の返りや偏りが少ない。照明も音響もよく調整されていた。

 

 

会場ではチーズやソーセージなど地元の食材を使った料理が提供され、ワインがボトルで売られている。瓶が割れると危ないので、他のフェスティバルでは中々あり得ないことだ。それだけ落ち着いた客層がメインであるということだろう。ワインどころの南フランスで、瓶からグラスに注ぎあって友人とわいわい飲めるのはやはり嬉しい。

 

初日に会場に入り、客層の違いにすぐ気づいた。ぱっと見て、Andrewと共に青春時代を送った40代から50代にかけての年齢層の観客たちが多く、若くても30代ぐらい。際立っているのは年齢だけではない。フロアでの踊り方や立ち居振る舞い、ドレスアップする楽しみをよく知っているような人たちが多く、一言で言うと、かっこいいのだ。実際若い時によく遊んでいたのだろう。

 

 

年を取っても派手な服を無理に着て痛々しいというようなこともない。明らかにクラブ文化を既にわかっている「かっこいい大人たち」がほとんどで、私たちが日々見慣れている40代、50代の男女の標準からはかなり離れている。そんな少し「普通」からいい意味ではみ出た大人がこのフェスティバルの多数派だ。

 

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Andrewは自身のソロセット、ゲストと行うB2Bの他、Woodleigh Research Facilityというグループでは祈祷のようなスピーチで始まる何とも不思議なパフォーマンスを行っていた。ギターとサウンド・エフェクトのメンバー2名と共に、Andrewが歌うというより節をつけて詩をつぶやくようなスタイルでヴォーカルを取る。

 

 

ここではいかにもAndrewらしい幅広いラインナップで、クラブ系のイヴェントではほとんど見ることがないロック色の濃いバンドやDJ、さらには実験色の強い電子音楽のアーティストなどが出演する。Andrewが彼のラジオやPodcastの番組を持っていて、そこで紹介したアーティストを中心に出演者を構成しているそうだ。

 

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大きな羽飾りの付いた黒いカウボーイハットといういで立ちのSilver ApplesはAndrewが「レジェンド」と呼ぶアメリカの電子音楽のミュージシャン。ステージで多数のモジュラーシンセと共にタブレットも組み合わせて用いる。実験的というだけではなく、ダンスミュージックやニューウェイブ、インディーロックの要素も併せ持っていた。

 

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Fumaça Pretaはポルトガル語で「黒い煙」という意味のバンドで、ドラムを叩きながらボーカルを取るリーダーのAlexはベネズエラ出身のポルトガル人。現在はアムステルダムを拠点にしていて、昨年あるイヴェントでDJをしていたところ友人に紹介されて会ったが、普段は穏やかな人だ。だが、ステージにはグラム・ロックを思わせるメイクとパジャマのようなふんわりとしたドレスという出で立ちで現れた。

 

 

ヘビー目のギターとパーカッションを取り入れたトロピカルなサイケ・ファンクロックといった感じのかなり風変りなサウンドで、どこまで本気で冗談かわからない。しかし演奏力にものを言わせるタイプのミュージシャンで、この何だかわからない型破りなスタイルを洗練させていったら独自の音楽スタイルを確立できるのではないかと思う。一部の観客に大変受けていたし、今後に期待したいバンドだ。

 

 

この他、深夜の城内にひたすらシンセのスペイシーなサウンドを数時間流したり(その名もA love from outer spaceというアクト)、その特殊で異質な雰囲気はかつてこの城でカタリ派が行った宗教儀式「Convenanza」を連想させようとしていたのかもしれない。そういった出演者のピックアップのセンスやコンセプトにアーティストのこだわりが感じられるフェスティバルだが、はるばるイギリスやスペインなど遠方から訪れる人も多く、今年で来場するのは3、4回目というリピーターも多かった。

 

今回特にイギリスからやってきた年配の世代を見て、90年代の最良のシーンを共に作り上げたアーティストとオーディエンスが再びタッグを組んだように見え、そんなことを勝手に想像して楽しんでいたが、それもそのはず、後日フェスティバルのアート・ディレクターのBernie Fabreに話を聞いて納得した。彼自身がカルカソンヌの出身だが、ロンドンに長年住み、80年代後半のアシッドハウスやレイヴのシーンを体験していたのだそうだ。その頃から彼はAndrewと知り合いで、その縁で数年前に故郷に戻った後、DJとしてAndrewをパーティーに招聘した。それがこのフェスティバルが始まったきっかけだったのだそうだ。

 

80年代の厳しい社会状況への反発から生まれたアシッドハウスのシーン、そしてレイヴカルチャー。その頃は、まだクラブやレイヴパーティーが特別な行き先で、新しい楽しみ方を自分たちで考えなければいけなかった時代だ。90年代のイギリスに居ることはできなかったので、雑誌の記事やヨーロッパに来てから実際に体験した人々から話を聞いて「あー、行っていればよかった!!」と羨ましい気持ちになったり、想像でしかわからなかったその当時のクリエイティブなエナジーに満ちた様子が、かなり近い形で追体験できたようでとても嬉しい。

 

今回Andrew単独のDJセットは「Music’s Not For Everyone」というタイトルが付けられていた。誰もが夏休みの終わった後の9月末にわざわざフランスの田舎の古城まで簡単に訪れられるわけではない。またメインストリームの有名な音楽フェスのように、ただ騒ぎに来るだけの若者もここにはいない。歳を重ね成長しても、まだアーティストと共に何かまだ新しいことや面白いことができるのかな? と思うような人たちが集まることができる特別な場所なのだと感じた。予想の付かない何かを静かに待ち望む、奇跡を信じる者のように。

Pioneer DJ

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