Richie Hawtin 率いるレーベル
M_nus から’05年にデビューし、その後は Mo's Ferry Prod.、 Music Man Records、 Spectral Sound
といったレーベルでリミキサーとしても活躍している NY はブロンクス出身のミニマル/テクノ・プロデューサー Heartthrob。 Sven
Vath のミックスCDにも収録された彼の人気曲 'Baby Kate' のリミックスEPが先日 M_nus からリリースされ、DJを中心にさらなる話題を集めているところだ。
そんなミニマル・シーンの今後を担う存在の彼は、大反響を呼んだモンスター・イベント Club Phazon M_nus Special - Nothing Much - にも出演。日本のオーディエンスにハイ・クオリティかつ貫禄のあるセットを披露してくれる前に HigherFrequency がインタビューを決行、トラック制作や M_nus クルーとしてのエピソード、さらには自身の名前の由来など、多くの話を訊いた。
> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translator : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Introduction : Masanori Matsuo (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : まず、先日リリースされた ‘Baby Kate’ のリミックスEP についてお話しを聞いていきたいのですが…
Heartthrob : リミックスEP は Minus からリリースされていて、 Troy Pierce や Magda、Konrad Black、Sasha Funke、Adam Beyer、Richie (Hawtin) といったアーティストが参加してるんだ。
HRFQ : その ‘Baby Kate’ ですが、今年のテクノ・アンセムとも言えるほどの人気でしたね。シーンの反応にはご自身でも驚かれましたか?
Heartthrob : そうだね。かなり驚いたよ。トラックの評判がすごく良いことや、それがリミックスされて、人々がものすごい関心を示してくれているという事実にはすごく感激してるんだ。実際に楽曲を作っている時には、あまり確信が持てなくてね。ただ、あの独特のメロディーにはすごく惹かれるものがあったんだ。同時に、かなり印象のあるメロディーだから、その使い方を考えるのに、ものすごく長い間を費やしたよ。この楽曲は僕が今まで作って来たどの楽曲と比べても独特だった。だから始めの頃はどんな風になるか想像もつかなかったよ。実際、仲間に聴かせるのを躊躇したくらいさ。ただ、そういう風に確信が持てないトラックこそ、大成功するものなのかもしれないね。
HRFQ : どういったタイミングで「これで終わりにしよう!」と見切りを付けられるのですか?
Heartthrob : レーベル仲間に聴いてもらうんだ。このレーベルには、常に個々の活動に対する尊敬の気持ちがある。だからレーベルの人々に良い点と悪い点を教えてもらうようにしているんだ。僕らの関係はすごくオープンなものなのさ。
HRFQ : 一年ほど前、Booka Shade のリミックスを Troy Pierce や Konrad Black と一緒に行われましたよね?
Heartthrob : 彼ら二人の住んでいるベルリンに遊びに行った夜に一緒に作ったんだ。 Troy のスタジオで3人一緒に飲んでいて、「リミックスをやろうよ!3人で一緒にやったら面白そうじゃない?」ってことになってね。3人で一緒に座って、リラックスしながらいろいろ意見を言い合って、僕たちのテイストを表すようなトラックを作ったんだ。そうやって心地よく作れたからこそ、いいトラックが出来たのかもしれないね。
HRFQ : あなたの所属するレーベル、 Minus のメンバーはまるで家族のように仲が良いですね。しかし、最近ではアーティスト個々の音楽より、レーベルの名前に注目する人が多くなっているとは思いませんか?
Heartthrob : 最近は、僕の音楽よりレーベルに対する注目の方が大きいと感じることもあるよ。ある意味、それは個々のアーティストの活動が正しく評価されていないという、レーベルに対するネガティヴな批判に繋がるのかもしれない。ここ数年のレーベルのリリース作品はものすごく評判がいいし、他のレーベルやアーティストは、それを恐れてるとは言わないけど、少なからず苛立ちを感じていると思うんだ。もしかしたらそれはごく自然な反応なのかもしれない…あまりそのことを批判するつもりは無いけどね。
僕自身、レーベルのみんなとは個人的にもすごく仲が良いし、プロジェクトとしての Minus も、僕や僕の友人、そして僕たちの音楽を好んで聴いてくれる人たちにとって、ものすごくポジティヴなものなんだ。それがすべてだよ。そういった人々の反応は、決して嬉しいものとは言えないけど、それが人々の意見なんだ。オーディエンスに対して何かを披露するということは、そういうことなのさ。インターネットのフォーラムみたいにね。もちろん、ポジティヴな意見もたくさんもらうけど、批判されることだってたくさんある。ただ、それだけ多くの人々が僕の音楽に対して意見を言ってくれることだけでも、ラッキーだと思うんだ。口コミやインターネット・ベースで広がったインディペンデント・ミュージックには、こういうことは珍しくないのかもしれない。でも、結局のところこういった友達同士の繋がりで生まれてくる作品こそ、クオリティーが高いんだ。
HRFQ : ‘Time For Ensor’ は、ベルギーの画家 James Ensor についてのトラックだそうですが、あなたは音楽をアートとしてとらえていますか?
Heartthrob : そうだね。僕はクリエイティヴな人間だから、ダンス・ミュージックを通してこそ、自分を一番上手く表現出来るんだ。幼少時代から現在まで、僕の個人的な音楽のバックグラウンドも常に踊ることに関係してきたし、アーティストにも常に魅了されてきたから、自分もそういったものに関わっていたかった。そういった方法こそ、自分を表現するベストな方法だと思っているからね。そのトラックは僕が大事にするものと関係しているんだ。だから君の質問への応えは、イエスだね。
HRFQ : 今後、現在とは違ったアートの表現方法に関わっていくことは考えられますか?
Heartthrob : ペインティングや絵を描くこと、つまりビジュアル・アーツには昔から興味があったんだ。今は音楽をつくることにフォーカスしてるけど、趣味としてはいろいろなことをしてるよ。要はその手順なんだ。音楽を作って、クリエイティヴでいること…。クリエイティヴな立場でいることは、僕に良い影響を与えてくれる。無限大の可能性がある時は特にね。だからアイデアを表現すること、もしくはアイデアをかたちにするということは、スタジオにいる時であろうが、絵を描いている時であろうが、上手く行くものなのさ。
HRFQ : 近い将来、それらを融合することは考えられていますか?
Heartthrob : ミュージシャンとしての僕のキャリアは、つい最近始まったばかりだと思うんだ。もちろん、長い間音楽を作り続けては来たけど、今はそれを聴いてくれるオーディエンスがいる。つまり肝心なのはこれからであって、今は音楽を作ることに集中しなければならない。絵を描いたり、ヴィジュアル関係の作業をすることは、楽曲作りをする上での刺激になると思う。でもアート・ワークをアート市場に売り出すことは、また勝手が違ってね。僕は音楽をエレクトロニック・ミュージック市場のために作ることを幸せに、心地よく感じているんだ。もし、人々が僕の活動に興味を持ってくれて、僕自身もそういった場で作品を発表したいと感じたらそうするかもしれないね。ただ、今の段階ではあまり興味がないんだ。
HRFQ : 今後あなたがヴォーカルを務めたトラックがリリースされるとのことですが、歌うことには以前から興味があったのでしょうか?
Heartthrob : そうだね。トラックはすごく自然に、楽しく出来たんだ。これは僕が楽曲作りの上で大事にしてる部分なんだけどね。トラックの名前は ‘Nasty Girl’ で、そのヴォーカルは基本的に自分のためにやったんだ。2年前にもこれと似たトラックを作っていて、その続編のよう楽曲を作りたくてね。楽曲は僕の女友達へのオマージュなんだけど、このヴォーカルを録音した当時はちょうど John (Gaiser) と友達になったばかりで、彼に録音したヴォーカルを渡して、アレンジしてもらったのさ。その彼に渡したヴォーカルというのは、5分間僕が怒鳴って騒いだりして、Rick Jone や Prince といった僕が影響を受けたアーティストの真似をしたものだったんだ。
HRFQ : Heartthrob(憧れの的といった意味)という名前は、少し傲慢な名前ですよね。なぜこのような名前を選んだのでしょう?
Heartthrob : この名前は、神から授かったものであると同時に、ちょっとした重荷でもあるんだ。もともとこの名前は僕たちが友達になった時に Magda が付けたニックネームでね。今から7年前くらいの話かな。僕らが初めて会ったとき、彼女の僕に対する印象は、「健全で礼儀正しい人」で、James Dean より前の ‘50年代の俳優みたいに、Heartthrob(素敵)だったんだって。今みたいに、バッド・ボーイ=クールっていうイメージが出てくる前の純粋な感じかな…まぁ違った風に理解されることもあるけど。だからレーベルからアーティスト名を付けるよう言われた時、レーベル仲間である Magda が付けたニックネームを選ぶことは理にかなっていたんだ。
End of the interview
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