ここ数年、大きな盛り上がりを見せつつあるカナダのエレクトロニック・ミュージック・シーン。その中にあって、このヴァンクーバー出身の知性溢れるアーティスト Mathew Jonson が果たしてきた役割は、かなり大きなものがあったと言えるだろう。10代の頃から音楽制作に親しみ、ジャズ、ハウス、テクノ、ファンクなど様々な音楽を吸収することで築き上げたその独特のスタイルは、まさに今のジャンルをクロスオーバーしたサウンドが好まれるシーンにおいて大きく開花。ディープでミニマルな作風でありながら、水に垂らした絵の具が徐々に溶けていくかのように、じわじわと変化していく構成にすっかり魅せられてしまったファンも多いことだろう。
そんな注目のアーティスト Mathew Jonson が3月下旬に来日し、代官山 AIR で素晴らしいライブセットを披露してくれた。今回お届けするのはその際に行われた HigherFrequency とのインタビュー。来日から多少時間が経っての掲載となるが、旬のアーティストによる生の声をお楽しみいただきたい。
> Interview : Laura Brown _ Translation & Introduction : H.Nakamura
HigherFrequency (以下HRFQ) : 恐らく何百回と聞かれた質問だとは思いますが、あなたのことを余り知らない日本のファンの人のために、ご自分の音楽スタイルを教えて頂いてもいいですか?
Mathew Jonson : 技術的なことを言うと、自宅ではいつもアナログ系の機材を使っていて、ライブでも基本的にはベースラインとかキーボードとかいったサウンドは自宅の機材で構成されているんだ。あと、ライブの時は、ドラムをリズム・マシーンとかでリアルタイムでプレイしてるよ。
HRFQ : と言うことは、ソフト系の楽器は使っていないということですか?
Mathew : そうだね、使っていないね。
HRFQ : 具体的にはどんなアナログ機材を使っているのですか?
Mathew : ほとんどの曲ではローランドのSH101を使っていて、あとNord Lead 3、JX3Pとかのシンセ、それにリズム・マシーンでいうと TR909やTR808、STS800。それに24チャンネルのミキサーにエフェクト用に2台のSPX900など等…とにかくたくさん使っているよ。でも、ライブでは Ableton Liveを使うこともあるかな。
HRFQ : あなたのアルバムを聴いていると、すごくディープでありながらも、その制作過程で生まれた思考錯誤や感情といったものを感じることが出来るのですが、音楽制作をしている時に、ダンスフロアでのオーディエンスの反応といったものをどの程度意識しますか?
Mathew : いわゆるトラックものを制作している時は、DJを意識した作品が多いと言えるだろうね。自分自身の楽しみとしては、何も録音しないで実験的な作業に多くの時間を費やしたりしているんだけど、実際にレコーディング・ボタンを押して、トラックのレコーディングをする時には、どうしてもダンス・フロアのことを考えた作品になるんだ。まぁ、必ずしも「ダンス・フロア」でなくてもいいんだけど、DJがプレイしてクラウドを躍らせるのに充分なエネルギーがあるかどうかってことを意識するって感じかな。でも、僕自身の頭の中には「あまりフロアを意識しすぎないように」という声もいつもあるんだ。僕が音楽をつくる時は、いつも夢中になりすぎてしまうからね。
HRFQ : あなたのライブは、どの程度即興で構成されているのですか?
Mathew : まずドラムは全て即興さ。あと、全てのミックスもね。ただ、ベースラインのシーケンス・パターンやパッドとかのサウンドに関しては、あらかじめ用意したものを使っていて、それをループにしていろんなパーツをそこにミックスしてマッチングさせていくという手法をとっているんだ。だから、ベースラインなどの要素については即興じゃないよ。家だったら即興で出来るんだけど、どうしても外でのライブだと家の機材を全部持ち込むわけにもいかないからね。
HRFQ : あなたの作品は、世界のトップ・クラスのアーティストから常々絶賛されてきましたよね。ところで、カテゴリー化をしたり、ある特定のジャンルとの結びつきを強調したりといったことは、どちらかと言うとネガティブな面で捉えられることが多いのですが、あなたから見て、ダンス・ミュージック、あるいはエレクトロニカの未来はどこへ向かうと思いますか?
Mathew : 僕はあまり一つのジャンルにこだわって何かをするって感じではないんだ。だって、ドラムン・ベースの曲も書くし、ヒップ・ホップ、ハウス、テクノの曲だって制作してるし、それにジャズだって演奏するからね。だから、僕には自分の音楽がどこに向かっていくのか、あるいは、ダンス・ミュージック自体がどこへ向かっていくかなんてことはよくわからない。音楽っていうのは、常に変化と進化を続けるものだと思うけど、僕にとってもっと重要なことは、今まで何を成し遂げてきたかということであり、そこから更に自分自身にとって新しいことにチャレンジしていくということなんだ。それに、僕自身が受けてきた影響という面では、いわゆるエレクトロニック・ミュージックのシーンというものからものすごく掛け離れたものなんだよね。確かにクラブでテクノはプレイしているけど、実際に家にいる時はほとんど聴かないし…。だから、シーンがどこに向かっていくかということについては上手く答えられないな。
HRFQ : 以前あるウエブサイトで、「自分の音楽がはやりのシーンとリンクしているというのは、ただの幸運さ」と発言されていましたが、あなた自身はどのような影響を受け、どのようにそのスタイルを進化させてこられたのですか?
Mathew : 僕が音楽制作を始めたのは86年のことで、当時は 2 Live Crew や NWA、それにヘビメタなんかも聴いていたし、エレクトロニック・ミュージックの方面だと、ブレイクダンス系のエレクトロとかも聴いていた。でも、同じ頃ジャズ・バンドでプレイもしていたし、何しろ若かったからいろんなものから影響を受けたものだよ。ただ、レイブみたいなものに出かけたこともなかったし、テクノをプレイしている人に出会ったこともなかった。実際、DJプレイというものを始めて耳にしたのも17歳の時だったし…。だから、当時はやっていたシーンとは全く掛け離れていたところいたんだ。まぁ、ブレイクダンス系のサウンドには随分とのめりこんだけどね。
HRFQ : ブレイクダンス自体もされてたんですか?
Mathew : 若い頃にはチャレンジしたこともあったかな。今でも踊ることは好きなんだけど、でもさすがにブレイクダンスじゃないよ(笑)。たんに踊るだけ。
HRFQ : "Typerrope"や"She Is He"といったトラックは、結果としてあなたのヨーロッパでの知名度をアップさせることになりましたが、有名になるというのは楽しいことですか?あなたにとって「名声」とは?
Mathew : ハハハ… そりゃ、嬉しいさ(笑)。ただ、僕は今カナダのヴァンクーバーに住んでいて、そういった「名声」みたいな話からはチョッと掛け離れた生活を送っているから、自分が有名なんだみたいなことを実感する機会はあまりないかもね。確かにツアーに出るたびに、そういったことを実感することもあるけど、何より僕にとって嬉しいのは、みんなが自分の音楽を楽しんでくれているということなんだ。
HRFQ : そのカナダについてですが、現在のシーンはどんな感じですか?
Mathew : 東海岸の方がちょっと盛り上がっている感じかな。というのも、あちらの方がヨーロッパに地理的にも近いし、アメリカから訪れる人も多いからね。逆に西海岸の方は、いつもアップダウンがある感じで、盛り上がっている時期があったかと思えば、警察の取締りが厳しくなると盛り下がったりするって感じ。でも、最近ではまた調子よくなってきていると思うよ。ヴァンクーバーやヴィクトリアにもどんどん新しいレーベルが出来てきているし、シーンはどんどん大きくなってきているんじゃないかな。今は変化の時期であるとは思うんだけど、シーンが上り調子なのは間違いないね。
HRFQ : ありがとうございました。
End of the interview
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