HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Richie Hawtin

2月10日からイタリアのトリノで開催されるオリンピック冬季競技大会のオープニング・セレモニーの楽曲を担当するなど、さらにその活動の幅を広め続けるテクノ・シーンの改革者 Richie Hawtin。「テクノ科学者」の異名を取る彼が '99年より世に提示し続けている実験的精神に溢れたアルバム・シリーズ "DE9" の第3弾目 "DE9: Transitions" が昨年11月に満を持してリリースされた。過去の作品と同様、時代の一歩先を行くスタイルを持つ本作。そのリリースを記念して、昨年の12月に本人も大のお気に入りというクラブ WOMB でパフォーマンスが行われ、その機会に HigherFrequency も Richie Hawtin とのビデオ・インタビューを決行した。

実は、2004年6月の来日の際や、2004年11月に Ricardo Villalobos と共に来日した Club PHAZON の際と、過去2回にわたって HigherFrequency のインタビューに応えてくれている Richie。記念すべき初のビデオ・インタビューとなった今回も、ギグ当日のタイトなスケジュールの中、科学者らしいそのインテリジェントな思想をジェントルマンな姿勢で語ってくれた。

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> Interview : Mark Oxley (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : ""DE9: Transitions" は、テクノロジーが進化したことによって、ビート・マッチングに時間を取られることなく、音の組み合わせや、構成における可能性をさらに追求出来るようになったことから生まれた作品ですね。このようなテクノロジーの進化が、間違った方向に使われること…このような建設的な使われ方ではなく、ただ単にミックスを簡単にすることに使われることに対して、どのような意見をお持ちですか?

Richie : 僕は楽天家でね。基本的には、「僕たちが他の仕事に集中できるように、テクノロジーが自動的に仕事をこなしてくれている」という考え方をしたいと思っているんだ。ただ、特に音楽の話になると、機械の可能性に頼って、自分は努力をしない人が絶対に出てくるし、機械なしでは作ることの出来なかったような音が出来てしまうという危険性もあるよね。

今、僕たちはすごく面白い状況にいると思うんだ。特に音楽シーンでは、発達したソフトウェアによって、ほどんとの人が簡単にミックスCDをつくったり、ビートを合わせたり、エレクトロニック・ミュージックを作ることが可能になった。だからそのことについては考えるよ。でも…そこまで心配はしていないかな。僕にとってエレクトニック・ミュージックとは常にやりがいのあるものであって、ミュージシャン、そしてアーティストとしての自分を向上させてくれるもの。それに、僕がこのシーンで活動を続けている理由の一つでもある。いくら有名になったからって、それに甘んじて努力を続けないなんてダメだと思うんだ。年をとるごとに、何もしないで、「僕はこれだけやったんだから、リスペクトしろ」って言いたがる人が多いけど、僕のようにテクノロジーと関わりの深いフィールドで活動していると、そういうわけにはいかないのさ。リリースする作品や、どれだけ新しいテクノロジーに敏感でいるかでアーティストとしての真価が問われるんだから。

HRFQ : ご自身は、シーンのパイオニアとして先端のテクノロジーを使いこなせていると思われますか?それとも、自分の自由な時間を作るためにテクノロジーを使っているに過ぎないのでしょうか?

Richie : シーンを引っ張っているかどうかは分からないけど、カッティング・エッジだとは言えると思うよ。スタジオでの仕事や、日常生活において自分の手助けになるようなテクノロジーの可能性には常に敏感でいるしね。ただ、例えテクノロジーがある一つの仕事を僕の変わりにやってくれたとしても、僕は結局また他の仕事を5つは見つけてしまうんだ。言うなれば「不変のバトル」さ。僕に自由な時間を過ごさせてくれるテクノロジーはまだ存在しない。もしそれが可能になったとしたら、是非リラックスしたいね!

HRFQ : 分かりました。"DE9: Transitions" のコンセプトの一つに、「完成するまで気付かれることのない音楽的な変化」だそうですね。あなたが今までに経験した最も驚くべき、劇的な音楽的な変化とは何でしたか?

Richie : 音楽的に?……だとしたら、 Micheal Jackson の "Thriller" からエレクトロやブレイク・ダンシングを聴くようになったことかな。この変化がなかったら、僕は今ここにいなかったかもしれない。あれは僕が初めてラジオで流れているような典型的なポップ・ミュージックから、エクスペリメンタルとまではいかなくても、標準から一歩離れた音楽を聴くようになった瞬間だったからね。

HRFQ : もしかしたら Justin Timberlake のようなスターになっていたかもしれませんね!

Richie : かもしれないね!でも僕には合ってなかったみたい。一度ポップ・ソングを作ろうとしたこともあったんだけど、ダメだったね。

Richie Hawtin Interview

HRFQ : 当時はよく聴いていたのに、今は全く聴かない音楽は何ですか?

Richie : そういう音楽も確かにあるかもしれない。僕がDJを始めたのは、John Aquaviva と Plus 8 Records をスタートしたのと同じ時期でね。レーベルは成功したよ。批判も受けたし、絶賛もされた。ただ金銭的に成功していたというわけではないんだ。だから当時はレーベルからアンダーグラウンドな音楽をリリースしながら、ウィンザーとデトロイトのナイト・クラブで毎週DJしていたんだけど、その時プレイしていたレコードを見てみると、今僕がプレイしているような音楽と比べて、随分コマーシャルなものが多いんだ。完璧にコマーシャルってわけではないけどね。でも、それには理由があったんだよね。そういったDJギグのおかげで僕はレコードが買えていたわけだし、John と一緒にレーベルを運営出来ていたんだから。昼の仕事やDJギグをしながら、Plus 8 をお金よりも評判を呼ぶレコードをリリースし続ける自由なレーベルとして守り続けていたのさ。

HRFQ : "Decks and Effects 909" は、ミキサーとエフェクトを使ってプロデュースされたことから、制作の過程でミスすることも多かったと思います。今日では Ableton Live などのプログラムによって、音楽をコントロールし、ミスの頻度を低下させることが出来るようになりました。あなたにとってエキサイティングな音楽作りとは、前者と後者のどちらですか?

Richie : 完璧すぎる最近の世の中でも、間違いやアクシデントから偶然生まれるアイデアがあるってことを忘れちゃいけないよね。確かに Ableton は僕にこのようなアルバム "Transitions" を作る可能性を与えてくれた。ただ、僕が音楽制作を始めたのは '80年代後半〜'90年代初期で、確かにコンピューターで Cubase を使っていたけど、同時にフェーダーをいじったり、手で作業することもたくさんしていたんだ。だから今でも、自分の作品すべてにそういった方法を取り入れようとしていてね。決まったやり方ではないけど、常にそれを意識した音作りをしてるつもりなんだ。

'90年代の中ごろ、すべてコンピューター・ベースで、完璧にシーケンスしたトラックを何曲か作ったんだ。だけど、僕が最も嫌っていたり、扱いにくいトラックには、決まって「完璧すぎる」という共通点があってね。人々は、例えいい音やアイデアが思い浮かんだとしても、それを完璧にしすぎてしまうんだ。コンピューターに気を取られすぎて、元々のインスピレーションを失ってしまうのさ。あの不可解で、魅力的な感覚をね。だから、正しい方法も、間違った方法もない。音楽をつくるのに、正しい方法も、間違った方法もないんだ。ただ、常に頭の中に入れて置かなきゃならないのは、人々は人とマシーンの融合に好感を持つということ。そして、それがもしどちらかに偏るとしたら、人寄りじゃなきゃいけない。マシーン寄りになれば、人間らしいタッチは失われてしまうんだ。

HRFQ : それに関連した質問ですが、いずれ聴く側が気付かないほど完璧に繋がれたミックスは出てくると思いますか?また、あなたにとってそれは望ましいことですか?

Richie : もちろん、人間が気付かないほど、トラックが完璧にミックスされる日は来るだろうね。トラックからトラックの移行は、何か特別な用具を使わないと分からないくらいにスムーズになると思う。それが望ましいことかって?もちろんさ。そのくらいスムーズなミックスなら聴いてみたいものだよ。でも、それだけが聴きたいとは思わないな。スムーズ過ぎて、それが現実に起こっていると思わされるようなミックスなら体験してみたいな。

もしそのアイデアをさらに展開させるとしたら…人々に音を通して何かを体験させるDJとして、レベルの高いヴァーチャル体験をさせるためには、その経験をよりリアルなものに近づけなければいけない。そうやって、ヴァーチャル・リアリティーをリアルなものに近づけようとするうちに、いずれ Star Trek の Hollodeck みたいな、未来的なものに近付いていくのさ。ただ、僕は Hellodeck みたいに、今この世の中に実際にあるものを再現しただけのヴァーチャル・リアリティーは経験したくない。僕は、完璧にイマジネーション上のもので、この世には存在していない、リアルでないもの…それでいてリアルに感じるヴァーチャル・リアリティーを Hollodeck で、またはダンス・フロア上で経験したいんだよ。だってその方がエキサイティングじゃないか。それが僕が音楽を通して表現しようとしていることでもある。もし今から1〜200年後に生まれてたとしたら、音楽は作らずに、スターシップ・エンタープライズの Hollodeck で、とっても現実的なのに非現実的なヴァーチャル・リアリティーを作ってるだろうね。ハハハ!

HRFQ : 素晴しいですね。ハハハ。

Richie : 飛行機に乗りすぎて、最近ではこんなことばっかり考えてるんだ。

PART 02 へ続く

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