Kenji Takimi Interview Feat. S-DJ80X
Interview : Yoshiharu Kobayashi Photo : Kenji KuboThanks : Junya Okami
2013.12.5
日本のクラブ・シーンを追いかけている人で、彼の名前を聞いたことがない人はいないだろう。言わずと知れた人気レーベル 〈Crue-L〉 のオーナーであり、時代やジャンルに捉われない独自の審美眼でディープかつエレガントなサウンドを創出するDJ / プロデューサーでもある瀧見憲司。 実に6年ぶりとなるミックスCD『XLAND RECORDS presents XMIX 03』 も話題になっている氏には、8インチの S-DJ80X を使ってみてもらった。
Interview : Yoshiharu Kobayashi / Photo : Ryu Kasai / Directed by : Noriaki Tomomitsu / Thanks : Junya Okami, Takuya Sakai
――瀧見さんには8インチのアクティブ・モニター・スピーカー、S-DJ80X を使っていただきましたが、どのような印象を持ちましたか?
Kenji Takimi : ロー(低域)と中高域のバランスがすごくいいと感じた。クラブ・ミュージックだけじゃなくて、普通のビンテージ・ロックを聴いてもバランスよく聴こえるね。定位感があって、位相のバランスもいいんじゃないかな。カジュアルな CD リスニングにも全然対応できると思う。今の若い人が部屋で使う、普通のコンパクトなパワード・スピーカーとしても、すごくいいなって。
―――クラブ・ミュージックの DJ / プロデューサー向けのスピーカーとしては、どのように感じましたか?
Kenji Takimi : ワンルームでノート PC を使って制作しているようなベッドルーム・クリエイターにジャストなんじゃないかな。値段とのバランスがすごくいいと思う。今は、PC のジャックから繋いでいるだけのスピーカーを使っている人もいるけど、それでは物足りなくなった人にいいと思う。デザイン・スピーカーの次のレベルのエントリー・モデルとして最適というか。あと、インシュレーターを入れる必要がないっていうのもよかったね。一応入れてみて試してみたけど、小さい部屋レベルでは全く問題ない。そういう意味でも、エントリー・モデルとして最適。開けたらそのまま置いて、すぐに使えるわけだから。
――ちなみに、瀧見さんはどのような曲を聴いて S-DJ80X の鳴り方を試したのでしょうか?
Kenji Takimi : いくつかのジャンルの音を聴き比べると良さがわかるかな、と思って色々試してみましたよ。新譜のダンスものはもちろんだけど、例えば Nick Drake の 『Five Leaves Left』。彼はブリティッシュ・フォークのアーティストだけど、こういう生音のアンサンブルの響きがすごくよく聴こえた。ヴォーカルの聴こえ方もいいね。CDとレコードと聴き比べてみたけど、本当にバランスがいいから、こういうもののリスニング用として使うのもいいよね。それから、Being Borings の “Love House Of Love (Dr. Dunks Club Remix)” は、生音をサンプリングしたものに打ち込みを重ねて、それを更に別の DJ がリミックスしている作品だけど、こういうのを聴くと元々の生音の部分と(打ち込みの)低音のバランスの重層感がすごくよく聴こえるよね。低音はある程度出ているんだけど、出過ぎずに、元々の音に近いのかなと。そういう意味では、モニター・スピーカー的にもいい。癖がないから。特に出過ぎてしまっている周波数があるようには感じないし、全体的にバランスがいいっていうのは、やっぱり一番のポイントだよ。
――他にはどのような曲を試されましたか?
Kenji Takimi : Zsou vs Velvet Season & The Hearts Of Gold の “Wild Honeyz” も聴いてみた。打込みと生音の絶妙なバランスとコラージュ感で,全体のテクスチャー的にはミニマルな音像を作っているレコードだけど、アーティストが思っているローのバランスと奥行き感がちゃんと再生されているなと感じた。あとは、テクノ/ハウスの最近の公約数的なものだと、Rebelski の “The Rift Valley (Lee Van Dowski Binary Re-Up Mix)” はミッドロー辺りのキックの鳴りがしっかり再現されてるし、ローの部分とコーラス部分の中域のバランスもいい。後は実際の自分の制作音源もって事で、Nina Kraviz"Taxi Talk"のBeing Borings RemixのLogicでのデータも鳴らしてみたけど、やっぱりバランス感はよかったですね。レコードでクラブ・ミュージックを聴くのと、CD でビンテージ・ロックを聴くのと、テクノっぽいテクスチャーのトラック、さらにデータと、色々較べてみたけれど、どれもアベレージにいいかなと。やっぱり、打ち込みのレコードがよく聴こえても、Nick Drake みたいにコンプレッサーがかかっていない昔の作品がよく聴こえないのは、よくないでしょ?でも、これは適度なヴォリュームで効いている限り、どの方面でもいい感じに聴こえるね、それは間違いない。
――S-DJ-X Series は、低音の豊かさと中高域の広がりがひとつのポイントとなっているのですが、そこに関してはどうでしょうか?
Kenji Takimi : 最近のクラブ・ミュージックがデフォルトの世代の子たちの耳は、最初から低域と中高域の捉え方が違うんだよ。基準値が変わっていて、高域か低域のどちらか一方を極端に聴くようになっている。そういう世代からすると、わりと低音はしっかり出ていると感じるかもしれない。だから、クラブ・ミュージックがデフォルトの世代にとってのプロへの入門編でありつつ、なおかつオールラウンドなリスニング用としてすごくいいスピーカーだと思う。
――見た目の印象はいかがですか?
Kenji Takimi : Pioneer はハイエンドの商品を結構出しているから、そういう経験もあってか、曲線の使い方とか上手いよね。全体的にダウンフォース気味な重量感を感じさせるし。あと、やっぱり今の若者には白があるといいと思うから、5インチだけじゃなくて全部のサイズで白を作るといいんじゃないかな(笑)。
――それはいいかもしれませんね(笑)。他にも、もっとこうなったら嬉しいというご意見はありますか?
Kenji Takimi : 細かいところだけど、キャノンケーブルを差すところにストッパーを付けた方がいいんじゃないかな。それが付くと、更にプロフェッショナルな感じになると思う。あとは、ミキサーと CDJ とスピーカーのセットで売り出してもいいし。DTM をやる人にはすごくいいと思う。
――なるほど。
Kenji Takimi : でも本当に、プロを目指したい人にとっての入門編としていいスピーカーなんじゃないかな。パワードっていうのもいいし。若い子で、ちょっとグレードアップしてみようかなという人には最適だと思う。もうちょっと頑張ってみたいっていう人への橋渡しモデルになるっていうか。ワンルーム・クラバーにはうってつけだよ。自宅で制作する人にとってのスタンダードを目指すといいんじゃないかな。そうなる可能性が十分あると思うよ。
――ところで、先日リリースされたミックス CD 『XLAND RECORDS presents XMIX 03』 がそちらに置いてありますが、S-DJ80X を使って聴いてみましたか?
Kenji Takimi : いや、これは聴いてないんだよね(笑)。っていうのも、いろんな時代やジャンルの曲が入っていて、特定の種類の音というわけではないから、スピーカーの特徴を把握するのには向かないかなと思って。
――確かに様々なサウンドが詰まっているミックスだと思います。それにしても、瀧見さんがミックス CD をリリースするのは6年ぶりですが、これほど間が空いたのは?
Kenji Takimi : オフィシャルのミックス CD を出すための環境は、ここ数年どんどん厳しくなっているんだよね。これまでも何回か話があったんだよ。大手からエディットも含めたミックス CD を出さないかとか。でも、企画に挙がっても、実際にリリースされるまでにはなかなか至らなくて。コストの問題もあるし、結局もう、Soundcloud とかがあるからね。そこでは制約なしにミックスを作って発表出来るわけだし、Beats In Space みたいなDJミックスに特化したサイトもあるしね。
――そういった中で、商品としてのミックス CD を出すことの意義はどのように考えていますか?
Kenji Takimi : やっぱりプロは出さないとね、というのはあるよね。出せる人は出せるうちに出した方がいいと思うし。逆に、プロじゃないと出せないからね。当たり前だけど、金を取れるミックスじゃないとね。オフィシャルのミックスCDのリリースはDJとしてプロ/アマの境のひとつの指標ではあると思うし。ライセンスを取るのに費用も時間もかかるし、ライセンスが取れる取れないっていう制約もあるよね。その中で頑張って結果を出すっていうのがプロなんじゃないの。
――今回のミックスを作る上では、どのようなことを意識していましたか?
Kenji Takimi : ミックス CD っていうフォーマット自体が、音楽産業の中で今後も続いていくのかっていうことは少なからず意識して作ったね。だから、新譜だけではなくて、自分の中でのクラシックやクラシックになるべき曲を適度に入れるように意識はした。新譜のダンス・トラックだけの作品は、商品としてのミックス CD として自分は作る必要はないかなと思っているし。全てレコード音源を使っての一発録りというのは毎回そうだけど、今回一番意識したのは、何年か経ってもちゃんと聴けるものというか、リピートの自然な循環性とミックス自体の普遍性と耐久性みたいなもの。なおかつ2013年感というか、2010年代初めの時代性が反映されている事、さらにそれがバランスよく自然に聴けて余白があるという事。
――野外フェスの XLAND がリリースしているミックス CD シリーズの一環としての作品ですが、そこは念頭に置いていたのでしょうか?
Kenji Takimi : 正直、あまり念頭には置いてない(笑)。でも、例えば野外フェスのタイムテーブルのどの時間帯でも対応出来るものになっていると思う。どこに起点を置くかで時間軸が濃縮も弛緩もするという。聴き方によって朝にもなるし、夜中にもなるという時間軸と空間軸を自由にとれるものに結果的にはなっているんじゃないかな。
――他にミックスを作る上で考えていたことは?
Kenji Takimi : 自分の持ち味を全部出してみようかなと思った。その持ち味というか、センスと技術が何かは、自分の口からは説明したくないけど(笑)。
――僕としては、全般的にエレガントな印象を受けました。
Kenji Takimi : そこは……持ち味かな(笑)。サイケデリックなんだけど、ジェントルな部分がないといけないっていうのは常に考えていて。崩れすぎないっていうか。でも、揃えすぎもしないっていう。崩し過ぎても揃えすぎても、色気がなくなるでしょ?
――確かに。先ほどもおっしゃっていたように、ミックス CD を取り巻く環境は大きく変わってきました。瀧見さんは DJ として長年クラブの現場も見ていますが、そちらの方での変化は何か感じますか?
Kenji Takimi : 今みたいな状況だったら、例えば500枚しかないレコードでも、一人だけかもしれないけど、海外のどこかの地方でそれなりのDJがちゃんと聴いていれば色々な事が成立するっていうのはあるよね。それは昔だったら考えられないかな。SNSのおかげでそれがダイレクトに分かるようになったっていうのもあるし。そういう意味では、むしろどこにいっても一緒なんだなって。あるトラックやレコードがグローバルに通用する小さい世界はいっぱいあって、それが複合的に結びついてる感じは凄くしますね。出してるレコード数百枚のプレスのあがりの何倍のギャラのDJも沢山いるでしょ。
――例えば瀧見さんのやっているような音楽を好むコミュニティーが大きくなっているわけではないけど、ある意味、広くなっているということでしょうか?
Kenji Takimi : 点在していて、違うダンジョンで緩やかにつながってるっていう感じだね。実際の距離と広さは大きくなってると思う。そこに自分のやっているような音楽が好きな人が一人いて、その人がその国でパーティーをやって盛り上がっていれば、呼んでもらえるわけだし。その国に自分のレコードは3枚しかないはずなのに1000人がその曲を知ってて踊ってるという。
――ある意味では、前よりグローバルになっていると。
Kenji Takimi : そう、狭いんだけど広い(笑)。だから、イタリアのペスカーラに行くのと、名古屋に行くのは自分にとっては変わらないんだよ、感覚としては。もちろん、海外のそれなりのクラブだと、お客さんの半分くらいの人はただ週末に遊びに来たっていう人だけど、そうじゃない人、自分と同じような音楽が好きな人も一定数いるっていう。
――ということは、前より海外のいろんなところに行く機会が増えたということでしょうか?
Kenji Takimi : 実際増えている。そのための回路が広がった感じがするね。それは単純にいいことだと思うよ。でも、海外のいろんなところでやる機会が増えて、日本人としてというか人間としての弱さも実感するけど。どうしても越えられない一線があるように感じるっていうか。例えば盛り上がっている現場で受けるトラックをそれなりのミックスでかけるのは簡単なんだけど、そうじゃない状態で一線を越えるのは難しい。自分固有のものを持ったまま、あくまでDJとして通用させるのは難しいよね。まだ自分はその一線を越えているとは思えないし。
――それは日本国内でやる時とは全然違う感覚なのでしょうか?
Kenji Takimi : 僕は旧譜と新しいのを混ぜるタイプの DJ なんで、そういうのが受け入れられる土壌っていう意味でも、また違うね。正直、日本でも以前よりも受け入れられやすくなっている実感はなくて。でも、世代交代している印象は受ける。20代前半で、元々はデータで聴いていた子がレコードを買い出したりしてて。そういう子たちを見ていると、いいな、すごいなって思うけどね。2、3年前はいなかったから。そういう子たちがそのまま成長した時にどうなるのか、興味があるけどね。
――一般的に、今は若い子の方がジャンルレスに何でも聴くと言われていますけど、世代交代が進んでいても、瀧見さんみたいにジャンルレスな DJ を受け入れる土壌が育っているという実感はないのでしょうか?
Kenji Takimi : でも、何でも聴けるっていうことは何も聴けないっていうことと一緒でしょ? データだと無限にあり過ぎて、無いと一緒っていうか。でも、そういうことを意識し始めた子が、そうじゃない方向を探しているっていう息吹は感じるかな。そういう子がレコードを買い出している気がする。ロックは常にそういった世代交代があるわけでしょ。バンド・フォーマットは一緒で、全く同じ音楽でも、世代が変わると変わるっていう。クラブ・ミュージックもそういう感じかな。自分はそれはすごくいいと思っているけど。
――〈Crue-L〉 でそういう世代の若いアーティストをピックアップすることも考えていますか?
Kenji Takimi : したいなと思っているね。ただ、デモをもらうこともあるけど、正直”すぐレコードにしたい!”くらいの凄い出会いはないかな。でも、若い子は若い子で苦労しているみたいで、データで配信して世界中で聴けることになっているはずなんだけど、誰も聴いてくれないっていう(笑)。世界に発信していて、ある意味世界デビューしているんだけど、誰にも届かない「どうしたらいいんですか」とたまにきかれたりするね。
――ネットに発信すること自体は簡単ですけど、その広大な世界で発見してもらうのは大変なことですからね。
Kenji Takimi : そうそう。
――そう言えば、〈Crue-L〉 で新しいコンピを出すという話を聞きましたが。
Kenji Takimi : 出すね。というか、出さないと(笑)。年内には出したいけど、もう11月か(笑)。ジャケットだけは進行しているんだよね。タイトルは、”Crue-L Cafe 2”と、もうひとつ制作進行中。最近アナログで出したトラックと新曲をまとめたもの。新曲やリリースされていないものもあるけど。最近 〈Crue-L〉 はアナログしか出してなくて、もう CD は一年くらい出してないかもしれない。
――データ、アナログ、CD と、それぞれ違うリスナー層がいる感じですよね?
Kenji Takimi : そう。やっぱり今回、自分のミックスを CD で出して、実際広がっているのを肌で感じるから。CD を聴く若い層が一定の数いるんだなって実感したし。
――コンピの他にも何かリリース予定はありますか?
Kenji Takimi : Crystalのアルバムの予定はあるね。後、アナログはかなりの予定タイトル数があるよ。でも、うちはプレスがアメリカなんだけど、最近は遅れ方が尋常じゃないね。過去最高に遅れている。それは小ロットでもタイトル数が増えているからなんだよ。去年くらいからそれはあからさまで。アメリカはインディ・バンドものが多いから、みんなアナログで出してタイトル数が多いのかな。それで後回しにされているんだろうね(笑)。でも、それだけ需要が増えているっていうこと自体はいいことだと思うし、希望は感じるようにしてます。結構前向きですよ(笑)。
¥2.520 (including tax)
KCCD-558
XLAND RECORDS presents XMIX 03
KENJI TAKIMI
<トラックリスト>
1. Baby - Donnie & Joe Emerson
2. Criollo (Kenji Takimi & Tomoki Kanda Being Borings Remix) - Phil Manzanera
3. N1 (Original) - Cale Parks
4. Scirocco Night Drive - Light Club
5. Summertime Our League (Original) - Babe, Terror
6. Wrottersley Road (The Oscillation Remix) - Nick Nicely
7. All Ya Got - LTJ
8. Midnight Runner (John Gazoo's Vintage Version) - John Gazoo
9. Love House of Love (Dr.Dunks Club Remix) - Being Borings
10. To Here Knows When - Rachel Zeffira
11. Voices (Original Mix) - Batongo
12. To Much Talks - Robert & Blind
13. Deflowered - Tiger & Woods
14. Badabing (Diskjokke Remix) - Martin Brodin
15. The Aspens Turning Gold - Velferd
16. A Love Song For Those Who Love Songs - Kris Menace & Anthony Atcherley
17. Cafe de Flore (Charles Webster's Latin Lovers Mix) - Doctor Rockit
18. My Baby Just Cares For Me (Special Extended Smoochtime Version) - Nina Simone