HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Richie Hawtin Interview

80年代の後半からDJ・音楽制作活動をスタートし、永年の盟友となるJohn Acquavivaとの運命的な出会いを経て、テクノ界の伝説的レーベルPlus8を設立する事となったRichie Hawtin。1990年にDaniel BellとのユニットCybersonik名義でリリースした"Technarchy"が世界的ヒットを記録した事で、一気にシーンの中心的存在へと躍り出た彼は、それ以降10数年に渡ってテクノ界のカリスマとして常にシーンをリードし続けてきた。また、電気技術師の父親を持ち、その遺伝子を見事に受け継ぐことで「テクノ科学者」の異名を持つRichieは、ターンテーブルを使ってパソコンの中のデジタルデータを再生する驚異のシステム「ファイナル・スクラッチ」の開発に参加。DJの価値観そのものを覆してしまうような革命をクラブシーンに引き起こした事も記憶に新しい。

2004年の6月からは、Plastikmanとしてのライブ活動も再開し、「DJプレイとライブ・パフォーマンスの完全なる融合」という新たなテーマへの挑戦を始めたばかりのRichie Hawtin。そんな彼が、6月26日、WOMBにおいて久々の再来日を盟友Magdaと共に果たし、記録的な動員を誇った超満員のクラウドを前に、最新テクノロジーを縦横無尽に駆使した驚異的なプレイを見せ付けてくれた。

Richieと個人的にも親交があるArctokyoのLaura Brownをインタビュアーとして行われたHigherFrequnecyのインタビューは、終始リラックスしたムードで進められたのと同時に、彼のニューテクノロジーに対する思いや、Plastikmanとしての今後の活動についても話が及ぶなど、非常に興味深い内容のものとなった。

> Interview : Laura Brown (ArcTokyo) _ Photo : Ollie Beeston _ Translation & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : 今回はワールドツアーの一環ですか、それとも日本公演のみですか?

Richie Hawtin : 10年前に始まったノンストップで終わる事のないワールドツアーの一環さ(笑)。まぁ、それは冗談としても、いつもツアーばっかりしているね。でも、今回はMagdaと一緒に"Minimize and Maximizeツアー"の一環として世界を周っていて、日本の他にもカナダ、アメリカでもやったし、あと9月にはヨーロッパにも行く予定にしているんだ。普段はMagdaも僕もそれぞれの仕事で忙しいから、年に2〜3回くらいはこうやって一緒に何かをやろうって事にしていているんだけど、やっぱり一緒にプレイすると、パーティーを長く引っ張る事も出来るし、僕ら二人が音楽的に成し遂げようとしている事も伝わりやすくなるから、とても良いと思うんだよね。

HRFQ : Magdaとはどのようにして出会ったのですか? 実際、一緒に曲を作ったりもするのですか?

Richie : いや、音楽制作を一緒にやる事はないかな。Magdaとは、かれこれ6〜7年くらいの友達付き合いで、ルームメートとしての付き合いも3〜4年くらいは経つんだけど、彼女は僕が今まで出会った人間の中で、僕に最も強いインスピレーションを与えてくれる存在なんだ。それに、彼女自身も大きな可能性を持っているアーティストで、またその可能性にキチンと応えてきた人間でもあるしね。今までにPlus8やMinusを通じてたくさんの人と一緒に仕事をしてきたし、その中には僕が手を差し伸べた人もいれば、自分から一緒にやりたいと言って来た人もいた。でも、ツアーをしたりプロデュースしたりといった事が出来るような強さを兼ね備えている人は殆どいなかったんだよね。その点、Magdaはそれらの全てを持ち合わせているし、何よりも友達としても楽しい時間が過ごせるって言うのがとてもクールなんだ。勿論、楽しむだけじゃなくて、やるべき事に関してはとても真剣になるしね。

Richie Hawtin Interview

HRFQ : あなたのDJブースのストラクチャーについて教えてもらっても良いですか?あなた自身、Final Scratchのスポークスマンでもあるし、Ableton Liveのようなソフトも使った事があるとおっしゃっていましたが・・・

Richie : 勿論、その2つのソフト(Final ScratchとAbleton Live)は、僕のDJセットやライブ・パフォーマンスにとって大切なものだよ。でもそれ以外にも、新しいインターフェースや、ちょうど何週間か前にやったPlastikmanのライブ・ショウでも使えるような新しいコントロール・システムも開発していて、自分の父親と一緒にその為の新しい回路を設計しているところなんだ。あと父親とこの2年ほどに渡って開発してきたのが、Allen & Heathのミキサーのカスタム・バージョン。これには、実際に僕がパフォーマンスを行う時に必要になるような色んな機能が追加されているんだけど、ようやく開発もひと段落したから、今夜も試しに使ってみようと思っているんだ。今は最終プロトタイプ・バージョンと言った感じで、実際に試してみながら良いところと悪いところを見極めていっている段階なんだけど、恐らく、今後数週間のうちに製品としても発売される事になると思うよ。

まぁ確かに、テクノロジーやコンピューター、それにソフトなんかが更なる進化を必要としているのは事実なんだろうけど、それと同時に、まだまだその可能性が完全に追求されていない既存の機材がたくさん存在しているのもまた事実だと思うんだ。僕にとっては、それがインターフェイスという領域であり、そのインターフェイスを我々人間がどうやってコントロールしていくか、どうやってクリエイティビティをテクノロジー経由で伝えていくか、と言ったことにすごく関心があるんだ。

HRFQ : あなたの父親は、どこかのハードメーカーで働いているのですか?

Richie : いや、実際に僕らが運営しているのは、コントロールという言葉を意味する"CTRL"という名前の架空の会社みたいなもので、そこで僕と父親は、必要なものを何でも改良したり、カスタムバージョンを作ったりしているんだ。最近では、Allen & Heathとの仕事が多いんだけど、それは、この会社の人たちが僕の良い友人であると同時に、これ程まで僕に自由を与えてくれて、しかも僕の話に耳を傾けてくれる会社が他にいないからなんだ。普通は、「僕らの製品を使ってください。で、お名前だけお借りできますか?」なんて話になる事が多いでしょ。でも、彼らは「僕らの製品を使ってください。それで何が良いか悪いかを見極めて、改良を加えてもらえませんか?」と言ってくるんだ。それに、僕が彼らの機材をバラバラに紐解いて、本来期待されていないようなことを提案したとしても、すごくオープンに接してくれるし・・・。確かに彼らは、パイオニアやテクニクスといったところと比べるとずっと小さな会社だけど、その分小さなレーベルやテクノ・コミュニティーの発想と近いものを持ってるし、だから僕らとも上手くフィットしてるんじゃないかな。

HRFQ : 最近のアーティストにとって、新技術というものは最も重要なテーマになりつつありますが、MP3のような新たな技術が、クリエイターの姿勢と言うものを今後10年に渡って変えていくことになると思いますか?

Richie : どれほど大きく変わるのかは良くわからないけど、この5年間を振り返ってみても本当に大きな変化があったよね。みんなもようやくFinal ScratchやAbleton Liveみたいなものを受け入れるようになってきたし・・・。それに、人気を得る為に、いやそれどころか、自分の音楽を人に聞いてもらう為にCDやレコードを作るって考え自体も、完全に時代遅れになってしまったんじゃないかな。僕はコンピューターに入れたMP3をたくさん使ってプレイしているんだけど、その中には、まだ発売されていない曲のデジタル・ファイルや、時には永遠に陽の目を見ない作品もあったりするんだ。まぁ、そういった意味では、僕らはちょうど新たな時代の橋を渡ろうとしているみたいなもので、デジタル・オーディオやデジタル・メディアが個々の人間にどのような力を与えていくのか、と言った考え方も今後はどんどん変わっていくんじゃないかと思う。みんなが名曲を作れるって訳じゃないにしても、今や誰でも曲を作れて、それをウエブ経由で全世界に向けて発信する事が出来るようになったわけだからね。5年前にはこんな事は言えなかったし、10年前には間違いなく言えなかった。僕が音楽制作を始めた15年前には、もしそんな事を言おうものなら、きっと異端児として扱われていただろう。当時は、誰もが音楽を作れるなんて事は、本当に不可能なことだったからね。

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HRFQ : 先ほど、プラスティックマン名義でのライブ・パフォーマンスの話が出ましたよね。本当に久しぶりに活動を再開されたばかりと聞きましたが、どうして再始動しようと思ったのですか?今後の予定はどんな感じですか?

Richie : チャレンジみたいなものかなぁ。DJする事自体は大好きなんだけど、ちょっと人のレコードばかりをプレイしているのに疲れちゃったんだよね。きっと将来的には、他人の音楽的素材と自分自身のアイデアとを自然に融合させていくという手法がもっと進化していって、創作活動と直感的なインスピレーションとの関係が、お互いにもっと切り離せないものになっていくような気がするんだ。今はDJとして、他人の音楽をサンプリングしたり、エディットをして使ってはいるけど、それでも結局は人の曲をプレイしている事に変わりないでしょ。だから、もっと自分自身の音楽を使った実験をする為に、プラスティックマンとしてのライブ活動を再開したというわけ。他人の音楽と自分自身の音楽が交わって一つになるような場所へ進んでいくため、とでも言うべきかな。それは、サンプルや直感的インスピレーション、それに他人のアイデアや自分のアイデア、自然に生まれてくるプログラミング的発想などの要素を含んだもので、毎日の一瞬一秒が"Hawtinライブショウ"とでも呼べるようなものかもしれない。だから、それに備えるためにも、両方の音楽を研究して色々と実験をしておく必要があると思ったんだ。

HRFQ : 現在は東ベルリンに拠点を置いていますよね。どうしてそこへ移ろうと思ったのですか?

Richie : ずっとヨーロッパに移住したいとは思っていたんだ。もう5、6年はベルリンに移る話をしていたかな。実は、1年ほどあそこにアパートを持っていて、そこに4日ほど滞在した事もあるんだ。でも、移住はなかなか実現しなくてね。で、結局はニューヨークに1年ほど移ることにしたんだ。僕は、友達や家族のネットワーク、それに様々な生活基盤をカナダに持っていて、それは今でも変わらないんだけど、それからしばらく離れて暮らすって事が本当に大変だったんだよね。だから、ニューヨークに移ったのは、ちょっとしたステップと言った感じで、実際に僕がいなくても物事が(カナダで)きちんと回っていくのか、全てのことがどの様に変化していくのか、と言ったことを見極めるいい機会だったんだ。で、次第にニューヨークにも飽きてきたから、「もうこのステップは充分だから、次に行くとしたらどこに行こう?」という風に考えられるようになって、「そうだな、ベルリンに行く事をずっと考えていたし、そろそろ行ってみようか」って事になったというわけ。確かにベルリンは5年前の方がクールだったし、グレートだったかもしれないけど、僕自身にとっては、今の方が友達やプロデューサーのネットワークも大きくなっていたし、タイミング的にもベストだったんだ。まぁ、物事には何か起こるべき理由と起こるべきタイミングがあるでしょ。僕にとっては、その時が行くべきタイミングたったと思うんだ。だから、いつまで居る事になるかは分からないけど、少なくとも今はしばらく住んでみようと思っている。でも、またベルリンでの時間が終わりを告げる時にも、次に向かうべき場所が分かっていると思うよ。

Richie Hawtin Interview

HRFQ : 今、Ricardo Villalobosと一緒に仕事をしていますよね。彼とはどうやって知り合ったのですか?

Richie : 実は、10年ほど前、Ricardoからよくレコードを買っていたんだ。僕より彼の方がその時のことを覚えているんだけど、僕が覚えているのは、Ricardoが僕の余り好きじゃないレコードを売りつけようとしていた事くらいかな。でも、もし今同じレコードを薦められていたら、きっと好きになっていたかもしれないけどね。まぁ、こうやってあちこちを旅していると、本当にいろんな人に会うんだ。それはある時は同業者だったり、またある時は友達だったり、プロデューサーだったり。でも、たまに、色んな部分で自分とつながった人間に出会うことがあるんだ。Ricardoと僕との出会いもそんな感じだったかな。勿論、さっき話した10年前の事じゃないよ。でも、ここ2、3年くらい頻繁に会うようになってからは、とても自然、かつ、スムーズに友達同士になることが出来て、DJでのコラボレーションは勿論、一緒に遊びに行ったり、「もし一緒にスタジオに入ったらどんな事が起きるかなぁ」なんて事も話したりするようになったんだ。

HRFQ : 多くの日本人アーティストからデモテープを受け取られますか?何かポテンシャルのある作品はあったでしょうか?

Richie : うん。いつも世界各地から山のようなデモテープが、MinusやPlus 8宛てに送られてくるんだ。丁度、2週間ほど前に、2ヶ月ぶりにオフィスに戻ることが出来て、ざっと耳を通したばかりだよ。僕のやり方は、興味を引いたものだけをざっくりと選んでおいて、残りは後から聞くってパターンなんだけど、確かに日本人の作品もその中に幾つかあったと思うな。ただ、一つ問題があるとすれば、勿論最終的には全部聞くようにはしているんだけど、ある時はテープが届いた日に聞けてしまう事もあれば、ある時は6ヶ月の間ずっと聞かないままになっていることもあるって事かな。結局、それって僕がいつオフィスにいるか、というスケジュール的なことに絡んでしまうでしょ。だから、たくさんの日本人から送られてきたデモテープが、僕に聞かれるのを待っているはずだと思うよ。

でも、こと契約するとなると他の要素もあるかな。今、Minusからは本当にたくさんの新譜が出ていて、常に新しいアーティストや楽曲を探してはいるんだけど、デモテープを聞いたとしても実際にそのアーティストに会ってみるまでは、契約について保留にしておくようにしているんだ。Minusは家族みたいな感じのところで、単に売れるからとか、カッコイイからとか言った理由だけで、曲単位での契約をするようなことはしない。実際に会ってみて、僕らが作っているこの家族的な構成にフィットする人間であれば良いんだけど、そうじゃなければ契約しないんだ。そういった事に関しては、Minusのスタッフにも意見を求めるようにしていて、賛成の声がたくさん上がればオーケーだけど、もし反対の声が多い場合は、「君の音楽はクールだけど、他のレーベルの方があっているかもしれないね」という事になるだろうね。

End of the interview

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