今、ヨーロッパのダンスミュージック・ファンや業界関係者に、「誰が一番ホットか」と言う質問をすると、必ず多くの人間が、このチリ出身にしてベルリン在住の天才肌アーティストRicardo
Villalobosの名前を挙げる。Richie
Hawtinとの親密なコラボレーションなどを通じて、ここへ来てようやく日本での知名度が高まりつつあるRicardoであるが、やはりヨーロッパと比べると、その認知の度合いはまだまだと言ったところであろう。
ただ、南米出身者特有の熱い眼差しを持つこの男が繰り出す繊細なプレイに、多くの日本人ファンが既に中毒症状を起こしているのも又事実であり、日本中のクラブファンに彼の名前が轟き渡るのも時間の問題かもしれない。どうしても、「クリック・ハウスの創始者」というイージーな形容詞が付けられがちなRicardoであるが、インタビューの中で彼自らが宣言している通り、彼のスタイルは紛れもなくハウス・ミュージックの進化系であり、その21世紀の後継者として、今後もシーンの中で重要な役割を果たしていく事は間違いないだろう。
Metamorphoseへの出演を果たし、そしてその翌日にはWOMBでのシークレット・パーティーに出演したRicardoに、HigherFrequencyがインタビューを行った。
> Interview : Laura Brown (Arctokyo) / Translation : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : 昨日メタモルフォーゼでプレイされましたが、いかがでしたか?
Ricardo Villalobos : すごく良かったよ。でもちょっと(時間が)短かすぎたかな。僕は普段から時間をかけてムードをつくっていくタイプなんだけど、1時間半でそれをやるのは難しかったよ。
HRFQ : 今までに日本で何回プレイされましたか?
Ricardo : これで二回目なんだけど、日本のクラウドの音に対する繊細さや、敏感さは世界でもトップクラスだと思ってるんだ。例えば、いきなりハイハットのビートが消えたりするとすぐ反応したりするしね。
HRFQ : 世間では、Ricardo Villalobosイコール "クリックハウスのパイオニア"と言われていますが、あなた自身、自分の音楽に対してそういったジャンル的意識はありますか?
Ricardo : (半ばうんざりと言った雰囲気で)そういった定義付けには納得できないな。結局、すべては"ハウス・ミュージック"であって、その周りにいくつか"違ったヴァージョン"が存在しているのに過ぎないんだ。テクノだって、ハウスに比べて少しビートが早くてアグレッシヴなだけで、本当は"違うヴァージョンのハウス・ミュージック"みたいなものでしょ。確かに、僕の音楽は、テクノとハウスの中間といった感じだけど、実際はすべてが"ハウス・ミュージック"に元づいたもの。だから僕は「ハウスのDJ」と呼ばれるべきだと思う。"クリック・ハウス"とか"マイクロ・ハウス"とか"ビープ・ハウス"とかいろいろあるけど、そうやってジャンルの名前をとやかく付けるのは、レコードを売るためだけものであって、結局はすべて"ハウス・ミュージック"のルールに従っているに過ぎないと思うんだ。ブレイクも、スナップも、スネアも、ハイハットもみんなハウスから来ているものだからね。確かにハイハットの代わりにクリックでも何でも使えると思うよ。でも結局は全部"ハウス・ミュージック"なんだ。
HRFQ : それにしても、どうやってその独自の音楽スタイルを生み出したんですか?Reaktorや、そのほかのプラグ・インなどのソフトウェアは使いますか?
Ricardo : ソフトウェアはそんなに使っていなくて、逆に50個くらいの小さな機材を持っているんだ。機材にはそれぞれの個性があって、それぞれが独自の音の鳴り方をするんだけど、そういった機材が出す小さなループを集めて曲を作っていく、それが僕のやり方かな。勿論、最後にはLogic(音楽編集ソフト)やAbletonのLiveを使ったりするけどね。例えば音を調整するためにとか。
HRFQ : Luciano、Cristian Vogel、それにあなた自身を加えた3人が、ピノチェト独裁政権のために母国チリを離れて移住し、今やその3人ともが素晴らしいアーティストになったという事実は非常に興味深い部分ですが、若い年齢で母国を離れるということは、やはりショックでしたか?
Ricardo : 当時、僕はまだ3歳だったから、自分に起きた事を理解はしていなかった。でも、ひとつだけ確かなのは、親と子供は何かで常につながっていて、両親が何かに怯えている時、子供もそれを感じて恐怖心を抱くものなんだってこと。こういった強いつながりは、人生の中で自分の両親としか持てないもので、彼らに起こった事は、必ず子供である自分自身にも絶対に起こりえる…そんな感じがするんだ。だから、3歳の時には理解しがたかった事でも、成長した時に初めて理解できるって事もあるんだよ。まぁ、僕にとってはドイツで軍隊に入るのを逃れるいい言い訳にはなったかな。「チリで軍事クーデターを経験した」って言うと、大抵の場合「OK OK、じゃあいいよ!」って事になったからね。
HRFQ : 最近はよくRichie Hawtinとプレイされていますが、6月に彼が来日した際に、彼がいかにあなたをリスペクトしているかを語っていました。もちろん彼だけではなく、Tobi Neumannやそのほかのたくさんのアーティストも同じことを言っていましたが。現在、Richie Hawtinと新しいプロジェクトに取り組んでいたりはしますか?
Ricardo : Richieとは一緒にプレイすることが多いんだけど、最高の瞬間は、やはり二人が自然体でプレイしている時だね。考えながらプレイしてしまうと、大体彼はテクノ寄りな感じになってしまって、僕はオーガニックな方向へいってしまいかちなんだけど、二人とも無心でプレイしている時は、本当に最高なんだ。例えば、すごく大きなフェスティバルなんかだと、クラウドの音に対する期待も大きいでしょ。自分の姿は機材の後ろに隠してしまうことはできるけど、やっぱり音は大事…。だから、時々、彼がちょっとハードな音をプレイしていて、僕がゆっくりした曲をプレイしている場面があると、次第に彼が僕に合わせようとしてゆっくりめの音へシフトしてきて、僕は彼に合わせようとしてちょっとハードな感じへと持っていく…、そう言った感じのプレイをする事が多かったりするんだ。特にフェスティバルみたいな大きな舞台ではなお更ね。(お客からすればそう言ったプレイは)ちょっと変な感じがするかもしれないけど、僕らとしてはすごく楽しんでるよ。でもやっぱりアフター・アワーズとかで、何にも考えない状態でプレイしている時が一番かな。
HRFQ : 最近取り組まれている新しいプロジェクトは何ですか?昨年の9月にリリースされたアルバム"Alcachofa"に続くアルバムの製作は進められていますか?
Ricardo : 僕自身を含めて数多くのミュージシャンが、ベルリンに住んでいて、それぞれがコラボレーションしているんだ。今、僕はRichieの楽曲のリミックスをやっていて、彼も僕の楽曲のリミックスをやっている。あと、同時に一緒に進めているプロジェクトもあるし、それ以外にも覆面プロジェクトもあったりするかな。これはひとつのグループみたいなものなんだけど、グループ・メンバーの個人名は出さないから、誰が楽曲を作ったのか、誰かライブをするのかもわからないって感じで活動しているんだ。9月の後半に、ベルリンのPop Kommというコンファレンスでプレイするんだけど、面白くなりそうだよ。10人ものミュージシャンとAbeleton Liveが同時に現れて…凄そうでしょ。
HRFQ : 最後の質問ですが、あなたの「Love」と「Hate」を教えてもらって良いですか?
Ricardo : 僕にとっての「Love」は、人と人とのあいだに生まれるエネルギー。いちいち言葉で説明しなくても、何かが起こることってあるよね?すべての人の体は、間違いなくエネルギーを生み出していると思うし、特に2万人もの人を前にした時には、それをハッキリと感じる事が出来るんだ。プレイをスタートした直後からものすごいエネルギーを感じて、人間の出すエネルギーは確かに存在するって事に気付く…。僕の父は科学者で、いつも論理的に物事を説明しようとしていたけど、こういう現象は理屈に当てはまるようなものじゃないんだ、実際に、10年に渡ってこの体験をしてきたけど、これは本当に素晴らしいものだね。
逆に「Hate」しているものは、アメリカの政治。もうたくさんだね。まるで人類全体が大きな腫瘍とか、癌みたいな重病を抱えてるみたいだよ。でも、彼らをどうにかすることは、ほとんど不可能に近いって事もわかってる。全てがお金で回っている世の中だからね。だから、状況はものすごくヒドイと思うよ。もしこの悪の帝国が崩壊すれば、世界も同時に崩壊する可能性があるわけし…。それがちょっと心配なことかな。
End of the interview
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