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Dr.Shingo's Electronic X

Dr.Shingo's Electronic X


Text : Dr. Shingo

さて、エレクトロニックX第4回目は、最近ツアーで出かけたドイツ、フランスの模様と、今話題になっている青山 Maniac Love の閉店についての随想をお届けしたいと思います。アーティストのインタビューは今回はお休みします。

去る10月15日、ドイツ・Duisburg という所で行われた PSP 主催による”WIPEOUT PURE FESTIVAL”という大型フェスティバルでライブを行って来ました。久方ぶりに体験する強行日程で、前日は ageHa で行われた"Crash"(石野卓球、Ellen Allien等出演)にライブ出演、その翌朝成田空港へ直行、そのままドイツへ旅立ち、着いて直ぐに会場に入り1時間半後にはライブを行うと言う物でした。世界的に有名なDJ達はそしらぬ顔で頻繁にこのようなハードスケジュールをこなしているのだなと思うと、DJというのは体力的にも精神的にもハードな職業だなとつくづく感じます。

道中はチューリッヒからデュッセルドルフに向かう飛行機が離陸直前にエンジントラブルを起こし、飛行機を乗り換えるというスリリングな瞬間も体験しましたが、無事に会場に到着。フェスティバル会場はとてつもなく大きな工場跡地といった所にステージ、照明やイベントブースを設置しており、日本では体験する事が出来ないエキサイティングなシチュエーションでした。ラインアップは TIMO MAAS, MOGUAI, LEXY & K-PAUL,そして Cross Mountain でお馴染みのTorsten Feld、日本からは僕、Hitoshi Ohishiといった面子がメインフロアを担当、他にもハウス/トランスフロアや、こちらも Cross MountainでVJを担当しているアート・ディレクター、天野タケルがビジュアルを全面プロデュースしたクリック/ハウスが楽しめるサブフロアがあったりとボリューム満点でした。ライブの方は、日本で普段行うセットとはまた違う、硬質なエレクトロを中心にプレイして来ましたが、オーディエンスの反応も上場で、満足の行くプレイが出来ました。気付けば1万5千人の人だかり。日本で言えば WIRE 級のフェスティバルですね。こういう大規模なパーティーがヨーロッパではしょっちゅう行われているとの事で、うらやましい限りです。

LEXY & K-PAUL のエレクトロセットは相変わらずドイツのオーディエンスには受けが良かったですね。 TIMO MAAS、MOGUAI のセットは日本のオーディエンスに受けるような派手な曲は控えめな印象でした。両人のセットに言える事でしたが、トランシーな印象を受けました。現在のドイツのシーンは、一時代を築いたハードミニマルは見事に影を潜め、ベルリン・ケルンに代表されるようなクリック/ハウス(ここで言うハウスはあくまでもテクノ的なハウス)サウンドか、フランクフルトに代表される様なトランシーでドライブ感があるテクノが主流に見受けられますが、両者のセットにはそれを語るだけの要素がふんだんに含まれており、見応えがあるDJでした。その後行って来たフランスでも現在のドイツの影響が色濃く繁栄されており、トレンドはクリックでミニマルでハウス・・・このスタイルが主流な様です。Vitalic を排出した国ですから、もっとガシガシのエレクトロが聞けるのでは、と期待しましたが今回のツアーでは残念ながらクリック/ハウス以外の話題に触れる機会が少なかったです。次回の渡仏ではもっと色々なアーティストと交流する機会が持てれば、と思います。

Dr.Shingo European Tour

さて、帰国して最初に目を引いたニュースが新しい閣僚の面々・・・と言うのは冗談で、青山 Maniac Love の閉店です。渡航前にもちらほら噂が流れていましたが、正式に Maniac LoveのHP にて閉店が告知されると、とうとうそれが現実となりました。10数年の歴史を誇る Maniac Love について、ここ6〜7年のシーンの事象についてしか 知らない僕が色々と語るのはお叱りを受けるかも知れませんが、After Hours という非常に濃い空間のDJを体験させてもらったり、Ignite というレジデントパーティーを開催させてもらった事等、僕にとって非常に思い入れが深いクラブの一つである事は事実です。初めてマニアックに行った時の事は今でも覚えています。これも確か99年頃だったと思いますが、ある週末、同じアメリカ帰りの友達らと連れ添って何処かクラブに行こう、と思いつきで訪れたのがマニアックでした。(その時確か後にBullet'sにも行きました・・・)まず小さい箱なのにその音の大きさに驚かされ、その時掛かっていた音楽にも驚かされました。そのパーティーは Q'hey さんが主催されている Reboot でした。Q'hey さんは覚えていらっしゃらないかも知れませんが、そのパーティーでは Q'hey さんがライブを行っていました。しかもライブを始める直前、”オラ行くぞ!!”という物凄い掛け声と共にライブがスタートしたので物凄く驚いたのを覚えています。ライブは凄くウルさかったのです!!(もちろん良い意味で)

フロアは真っ暗で、音は非常にラウドで男気が溢れており、パワフルなサウンドシステム、その空間の中で踊り狂うオーディエンス・・・どれをとっても正真正銘アングラな世界を目の当たりにし、しばらくの間言葉を失いました。その後、しばらくしてマニアックに初めて出演する機会があったのですが、それはDJではなくて、 友達のバンドのライブのお手伝いとしてでした。確かサンプラーをリアルタイムで演奏する、といったポジションでしたが、初めてお客ではなくミュージシャンとしてその場に立つ事が出来たのに感動し、ブースの中をじろじろと見ていたのを覚えています。その後、02年デビューシングル、アルバムと立て続けにリリースした後、DJとしてブースに立つ機会を頂き現在に至っています。ignite での楽しいパーティーもさることながら、僕にとってマニアックは”修行”の場でした。マニアックのアフターアワーズは自分にとって特別で、普通のパーティーとは雰囲気が違う様に思えます。想像してみて下さい。すでに疲れきった足で、 そのまま何時間も続けて楽しむ・・・そんな兵が集まるパーティーの雰囲気がどんなに濃いものか? 別に何か怖い事が行われている訳ではありませんが(笑)、 音に飢えている兵を前にDJブースに立つその心境はまさに”挑戦”であり、”修行”であるのです。音楽が心底好きで朝早くから集まったお客さんにとっては、 ブースに立つDJが有名なDJなのか、無名なDJなのかは関係の無い事です。良いDJであれば誰でも良い、そういう本当に真っ当なクラビングの姿がマニア ックのアフターには在る様に思われます。金曜アフターは基本的に一人のDJが担当する事になっており、通常は最長で5時間程のDJをする事になります。僕は長いDJが好きで、通常のパーティーでは到底考えられない時間をDJする事が出来るので、 オファーを貰った時には凄く嬉しかったし、毎回DJすることを非常に楽しみにいていました。それだけの長い時間のDJをする時には、音の緩急をつけながら、しかもその4時間もしくは5時間のサウンド・ジャーニーを体験してもらわなくてはいけないと考えており、毎回がチャレンジでした。

Maniac Love

先に述べたように、僕はまだひよっ子ですので多くを語るには至りませんが、マニアックが本当に歴史と伝統があるクラブだな、と感じたのは今年出演させてもらった由比ガ浜で行われた Maniac Beach での事です。千人以上ものお客さんが集まり、僕の様な新人DJからベテランのDJの方々に次々と時間がバトンタッチされて行き、パーティーがクライマックスに上っていく様はまるで10数年のマニアックの歴史を一日で見ているかの様でした。10数年の歴史はベテランDJを数多く輩出し、またそれを追う新しいタレントを育ててゆく。10年マニアックに通ってきた常連のお客さん、その日初めてマニアックのパーティーに来たお客さんみんながそういったマニアックが生み出してきた”文化”の中で思い思いに楽しんでいる・・・。その光景を見たときには涙が出るような感動を覚えました。長年に渡ってDJをサポートし、お客さんにダンス ミュージックの快楽を提供し続けたクラブだからこそ、こんなに多くの人たちが信頼を寄せてこの一日のビーチパーティーに集まるんだなと感じました。短い間でしたが、そんなクラブでレジデントを持たせて頂いた事を誇りに感じます。

もう数年前の話ですが新宿リキッドルームがクローズし、今度はマニアックがクローズします。日本のテクノの象徴と思われていたクラブが次々に閉店すること、そして今回のドイツ/フランスに行ってきて改めて感じたサウンドの移り変わり・・・。もちろんマニアックが閉店する理由とこの変化の流れには何も関係もありません。邪推して関連めいた事を考えても噂は噂、想像はただの想像に過ぎません。流行は変化し、一時代を築き上げた象徴が役割を終える・・・良い方に捕らえる人も、悪い方に捕らえる人もいると思いますが、変化の前触れではいつも解体・再編が行われ、再構築が成功した時にはまた新しい流れが生まれます。我々若いミュージシャンは更に素晴らしいトラックを作って、素晴らしいDJをして結果的にシーンに貢献が出来れば良いし、これから先マニアックの様に語り草になるようなクラブが育って行く事を切に希望して止みません。そしてその時代の証言をするのは、このコラムを読んでくれている皆さんだったりするのです。

最後に Maniac Love ですが、12/2〜3日とファイナルパーティーが行われます。その他も、11月中には夕方から深夜12時までの時間帯でパーティーが色々と行われる様なので、是非皆さん足を運んでみて下さい。

Dr.Shingo Ignite


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