Text & Interview : Dr. Shingo
こんにちは、ドクターシンゴです。エレクトロニックX2回目に登場するのは、ドイツ・ケルンの女番長こと Maral Salmassi (マラル・ザルマッシ) です。これまでに2回来日しており、04年の僕のアルバム・リリース・ツアーでは一緒に全国を回りました。彼女も Monika Kruse、Ellen Allien、Dinky 等のドイツ女性アーティスト達と肩を並べてDJ/レーベルオーナーとして世界を飛び回るストロング・ウーマンであります。特に酔っ払った時は大変です(笑)。
彼女の音楽のルーツにまつわる話には沢山のアーティストが出て来ており、多分クラブミュージックに慣れ親しんでいる皆さんにはピンと来ない名前もあると思います。このインタビューを読んで、それらのアーティストの作品に触れてみるのも良いかも知れません。そして彼女のバイタリティ溢れる音楽活動も語られています。他にも色々と興味深い話が聞けたのでじっくりと読んでみてください!
インタビューを掲載するに当たり一つだけ・・・。彼女のインタビューの中にファイナル・スクラッチ等のDJソフトウェアについての記述があります。Maral はそれらのソフトウェアについて少々否定的な意見を持っており、手厳しいことを言っていますがこれは彼女個人の意見であり、製品の性能を公平な立場から意見している物ではありません。僕自身はファイナル・スクラッチ、トラクターDJ等のDJソフトウェアの機能は素晴らしいものであり、音質面においてもまったくプロフェッショナルな現場での使用に耐えうるものだと思っています。それぞれのアーティストにそれぞれの意見があります。どうかこの部分を間違って理解されませんように・・・。
Dr. Shingo : Maral こんにちは! ドクターシンゴのエレクトロニックXへようこそ!!Maral とは3年位前から色々と音楽の事とかプライベートな事とかを話したりしてきましたが・・・このコラムを読んでいる皆さんの為にまた根掘り葉掘り聞きたいと思いますので宜しく!
Maral : こちらこそよろしく。
Dr. Shingo : まずはあなたの出身について聞きたいのですが、Maral Salmassi という名前は典型的なドイツ人の名前には見えませんが、出身は何処ですか?
Maral : 私の名前はドイツ語ではないわ。私はもともとペルシャ(1930年代までのイランの旧称だそうです)出身よ。1979年、国にイスラム革命の波が及ぶ前のシャム政権の頃、私のお父さんは政府の外交官だったの。その後、政権が変わって私達家族はペルシャに帰らなくてはいけなくなり、しばらくの間動くことが出来なくなってしまったの。私達がイランから脱出出来たのはイラン・イラク戦争が始まって国が壊滅的な状態になってからの事。そうして1986年、ドイツに移住してきたのよ。
Dr. Shingo : そんな話初めて聞きました。今、音楽雑誌では悲惨な戦争体験を持った女性アーティストがもてはやされいるけど、Maral も大変だったんですね。
Maral : 大変な人生を送っている人は他にも沢山いるわ(笑)。
Dr. Shingo : 確かに・・・。さて、あなたの音楽の原体験は何でしょうか? 子供の頃、どんな音楽を聞いていましたか?
Maral : 私の音楽の一番元になっている物といえば Johnny Cash、Abba とか Bonny M ね。パッと聞くと音楽のジャンルもバラバラだし、ちょっと変に聞こえるかも知れないけれど、私の両親は沢山の種類の音楽を聴いていて、それを聞いて私も育ったのよ。 彼らはDJの私よりも膨大なレコードを持っているわ(笑)。私は両親が聞いていたクラッシックから Queen や Pink Floyd やらのレコードから影響を受けてきたの。その後、12〜13歳の頃の私のヒーローは Robert Smith。Cure は私に一番影響を与えたバンドの一つ、といっても過言ではないわね。その頃から聞き始めたのは Dead Kennedys、Ramones、Exploited といったバンドで、16歳頃からはメタルを聞き始めたわ。初期のメタリカなんか大のお気に入りで Testament、Judas Priest、Black Sabbath、Overkill とか Annihilator とか Slayer もそうだし…。 Reign in Blood は私のメタルの歴史の中でも未だに最高傑作ね。ちょっとロックばっかり挙げて来たけど、もちろんそれだけじゃなくて他にも色々と聞いてきたわ。両親の音楽英才教育のせいか(笑)クラッシックからブルース、ソウル、ファンク、コマーシャルなヒップホップも大好きよ。今はドイツ人のシャンソン・アーティストのKlaus Hoffmann とか、ドイツ人歌手の Hildegard Knef、Nick Cave や Neil Young を聞くのが好きね。
Dr. Shingo : かく言う僕も、中学の頃メタリカの Kill'em All の一番最初の曲のギターを一生懸命コピーしていました。難しくて最後まで出来なかったけど。
Maral : あれは最高よね。当時とても衝撃的だったわ。
Dr. Shingo : その頃とか楽器を弾いたりはしていましたか?
Maral : いいえ、その頃は熱心な音楽リスナーだっただけ。03年から曲作りを始めたのよ。
Dr. Shingo : じゃあ、いつ頃からDJを始めましたか?何がきっかけでDJになろうと思ったの?
Maral : 93年、忘れもしない当時の友達が私を誘拐してテクノのビッグレイブに連れて行ったの(笑)。それがとても衝撃で、それ以来沢山のパーティーに行くようになったわ。1年後だったかしら、DJになろうと思ってレコードを買い始めたのよ。その頃から自分が持っている音楽的なアイデアをDJで表現出来ないかと試行錯誤してきたわ。当初からずーっとエレクトロニック・ミュージックをプレイし続けて来ているわね・・・。
Dr. Shingo : あなたのDJキャリアの中で、今でも思い出に残っているような面白い話があったら教えてくれますか?
Maral : うーん・・・この話は古い話じゃないんだけど今考えても面白いわね。マドリッドでDJをした時の話なんだけど、DJしている時にちょ〜っと飲みすぎてしまって吐きそうになったの。トイレが近くに無かったから、仕方なくブース近くの裏口に出て、我慢出来なくて吐いてしまったのね。すると一回じゃ収まらなくてもう一回途中で裏口まで走って行って吐きにいったの。するとレコードが終わってしまっていて・・・急いでブースに戻ったんだけど、音が急に止まったものだから、お客さんが呆然と立ちつくしてポカーンと口を空けてこちらを見ているのよ。私は何事も無かった様な顔をしてレコードをプレイし始めた時に、お客さんがまた安心して踊りだすのを見て私は一人で大笑いしていたの(笑)。
Dr. Shingo : いつかそういう事があるだろうと思っていたけど・・・既にやってしまっているのね(笑)。
Maral : それはどういう意味よ!(笑)
Dr. Shingo : さて、あなたのレーベル・オーナーとしてのお話を聞きたいのですが、プロフィールには1997年"Konsepuent Records"を設立、同時期に"Formic Distribution"というレコードのディストリビューション会社で働き始めた、とありますが、"Konsepuent Records"について色々と教えてもらえますか? そして"Formic Distribution"に付いても聞きたいのですが、当時ヨーロッパで"Formic Distribution"はどんな立ち居地にありましたか?
Maral : まず、正確には Konsequent は96年にスタートしたのよ。当時勢いがあったアーティストは Regis, Surgeon, The Advent や Luke Slater なんかがいて、ハードでエネルギッシュな今までに無いサウンドを確立しようとしている時期だった。そういうサウンドにものすごく影響を受けて、私のDJスタイルもかなりハードな物だったわ。当時の私はターンテーブル3台を使ってミックスしていたくらいだから・・・。
当時、学生だった私は学校に行くのをやめて、GMD というディストリビューターで働き始めたばかりで、本当に自分のレーベルをやりたくて色々と勉強していたわ。そんな時に、ドイツ・カッセルと言う所にある Stammheimというクラブで The Advent とプレイする機会があったの。その時、彼らに私の描いていたサウンド・コンセプトを話したら、ものすごくそのアイデアを気に入ってもらえて…。彼らからリミックスをしてもらうのが決まった後で初の EP をリリースして、それが Konsequent の始まりよ。
で、98年、ドイツ・ケルンで Formic という小さなレコードショップをやっていた Geregor Luttermann に出会って、彼と一緒にディストリビューターをやらないか、っていう話になって、その数ヵ月後に GMD を辞めて Geregor と一緒に"Formic Distribution"を設立したと言うわけ。その頃はハードな曲ももちろんだけど、オールドスクールのエレクトロやデトロイト・テクノがとても好きで"Formic Distribution"をプラットフォームにして世界中に私達が好きな音楽を配信しまくろう、と躍起になっていたわ。"Formic Distribution"は軌道に乗り成功したんだけど、私はそれより更に新しいレーベルをやりたくなって2年後、"Art of Perception"を設立したの。その頃レーベルと一緒にディストリビューションをやっていたお陰でアーティストとのコネクションも信じられないくらい大きくなったし、ビジネスのやり方を沢山勉強できたのが大きかったわね。
Dr. Shingo : なるほどね。そこで今出てきた01年からスタートした"Art of Perception"ですが、レーベルのコンセプトがとても面白いですね。1シーズン目のサウンドコンセプトが"The Warhammer"というヨーロッパやアメリカで人気が高いボードゲームとのコラボレーションでしたね。沢山の有名なアーティストがそのコンセプトに同意して曲を提供して来ましたが・・・。いつ"Art of Perception"や"The Warhammer"とのコラボレートのコンセプトを思いついたのですか? "The Warhammer"の製造元である"Games Workshop"は最初からマラルのアイデアを気に入ってくれましたか?
Maral : 私は音楽を聞くのも大好きだけど、同時に学生の頃はかなりのゲーマーだったのよ(笑)。パソコンのオンライン・ゲームとかで一晩中遊んでいた事も珍しくなかったわ。兄弟とも近所の子供たちとも一緒にゲームをしたりね。私はエレクトロニック・ミュージックと映画やゲームのサウンドトラックとは物凄く相性が良いと思っていたの。特にサイエンス・フィクションもののゲームとはね。例を挙げて言えば Warhammer 40.000 みたいな、よその銀河で、作り話の景色の中でエイリアン達が戦う、なんてストリーのゲームにはぴったりじゃない?
だけど本当は、この"Art of Perception"の1シーズン目は、エイリアン・デザインの第一人者である HR Giger とコラボレーションしたかったのよ。最初にギーガにこのコンセプトを伝えた所、彼は喜んでくれて、私はチューリッヒの彼の自宅を訪ねることになったの。そのコンセプトとは、彼の作品にアーティストがサウンド・トラックをつけるというものだったわ。でも、その後長いファックスのやり取りや、電話を通じて何とかこのアイデアを実現できないか打診したんだけど、最終的には彼にキャンセルされてしまったの。何故かと言うと、彼はエレクトロニック・ミュージックを余り好きになれなかったから。彼の自宅を訪ねた時に、いろんな種類のテクノやエレクトロニカみたいなCD、レコードを山ほど置いていって是非聞いてもらいたいって頼んだの。理由は、本来彼はジャズを愛していて、特にマイルス・デイビスからインスパイアされて作品を作ったりするのよ・・・。とても残念だったけど、私は次のコラボレーションのテーマを探さなくてはならなくなり、その結果 Warhammer を探し当てたの。"Games Workshop"はすぐさまこのアイデアに賛同してくれてとても嬉しかったわ。すぐさまイギリスのノッティンガムの本社まで行って契約書にサインしてきた、と言うわけ。中々大変な道のりだったわ(笑)。参加してくれたミュージシャンは.挙げ始めたらキリが無いけど Alter Ego を始め、全て第一線で活躍する有名なアーティストばかりよ。でも、残念ながらこの"Warhammer 40.000"は現在では契約上の都合により、CDの生産は終了しているの。もし手に入れたかったらレコード屋に出かけてみて。あなたが運良く"Warhammer 40.000"の1、2、3のいずれかのコンピレーションCDを見つけることが出来たら、それが手に入れる最後のチャンスよ!
Dr. Shingo : John Starlight の Blood Angel なんかは物凄いヒットしましたよね。
Maral : あのシングルは Art of Perception の中でも最大のヒットシングルね。枚数は詳しく言えないけれど、テクノのレコードとしては異例の枚数を売り上げたわ。
Dr. Shingo : もう一つ現在レーベルをやっていますよね?その"Television Records"についても教えてください。 リリースしている曲のテイストはダンスフロアで映える曲が多いですね。"Television Records"に所属しているアーティストを紹介してくれますか?
Maral : Television は02年から始めているわ。今から3年前になるけど、その頃からハード・テクノのサウンドに飽きてきたの。最近リリースされているハード・テクノはどれを聞いても同じに聞こえるし、もうサウンド自体が行き詰っている感じがするわ。Television は例えるなら、アウトレット・ショップみたいな感覚で私が理想とするエレクトロニックでダンサンブルな曲をリリースする・・・それがコンセプトよ。最近ならエレクトロニック・ミュージックの解釈が一般のリスナーの中でも広がっているから、色々なタイプの曲をリリース出来るしね。もうループのみの音楽はうんざり。もっとメロディがあったり展開があったりする曲をリリースしていくわよ!所属しているアーティストは皆さんご存知、Zombie Nation としても活躍している John Starlight、ベルリンの Dave DK、それから Dr Shingo、それからロシア出身のVadz、とってもクールなトラックを作る Quesh、Codec & Flexor、 Ural 13 Diktators で知られる Style In、Kitbuilders、そして私。みんな一癖あるアーティストばかりね(笑)。
Dr. Shingo : 03年から Maral 自身作曲を始めたと聞きましたが、その通り2枚のEPを"Television Records"から出していますね。 一枚目はAscii Diskoとのユニット"Banana man"名義で、2枚目は自身のリーダー作ですが、もう9年近くDJのキャリアがあるのに今までトラックをリリースしてこなかった理由はなんですか?やはりレーベル運営とかDJに時間を費やしてきたから?
Maral : 確かにそうね。私の最愛のボーイフレンド、Christian Morgenstern が亡くなった03年頃より、本格的にコンピューターを導入して作曲を始めたのよ。私にとって彼の死は本当に大きく、そしてつらいものだったから、その事から逃れるために何かに打ち込みたくなったのかも知れないわね・・・。
Dr. Shingo : なるほどね・・・。ここでは Christian の事は触れるつもりは無いので、次の質問に行きましょう。
Maral : そうね。
Dr. Shingo : "Art of Perception"はファースト・シーズンを終えてセカンド・シーズンに行こうとしていますね。次のコンセプトは何ですか?
Maral : 次のシリーズは"Love"よ。これから7つのパートに分けられたラブソングをリリースするの。今年の8月、9月位には第一弾をリリースしたいわね。
Dr. Shingo : "Television Records"に関しては? 次のリリース予定があったら教えてもらえますか?
Maral : 次のリリースは John Starlight の曲で MBF Records の Steve Barnes がリミックスした物をリリースするわ。それから Dave DK の新しいシングルでリミキサーは Kompakt、Firm Records 出身の Schaeben & Voss。それから私の EP で Zombie Nation とコラボレーションした"Robot Queen"というタイトルをリリースする予定よ。チェックしてみて!
Dr. Shingo : 今現在の Maral の音楽のスタイルについてお聞きします。今まで Maral のDJを聞いてきたり、作った曲を聞かせてもらったりしてきましたが、僕の感想として Maral はレトロなエレクトロ、パンク、グラム・・・といった要素とエレクトロニック・サウンドを融合させようとしているのかな?と思いました。そこが Maral の狙いですか? 今現在、どんなサウンドを表現したいと思っていますか?
Maral : 今現在で言うと、DJではハウシーな要素とミニマルな要素が融合したトラックをプレイし、全体の流れがそういう風になるように心がけているわ。私はヴォーカルが入っている曲が大好きなの。それはハード・テクノが好きだった頃と基本的に変わらない事よ。ヴォーカルが入る事によって、ただのトラックではなく「ソング」になるでしょう?それがとても面白いし、聞いていて楽しいのよ。もし、今日は踊りたい!って気持ちの時に何ていうか・・・音楽の基本をちゃんと踏まえている構成でいて、しかもミニマルの要素が入っているトラックを聞いたら絶対踊れると思うのよ。それは音楽理論的な事でちょっと説明が難しいんだけど・・・。
Dr. Shingo : 例えば4小節、8小節みたいな節がちゃんと曲の中にあって、コード進行が音楽的に無理が無かったりする、という事?
Maral : そういう事ね。でもミニマルの要素も欲しいから、ちょっとコード進行についてははっきり言えないけれど・・・。そういう音楽的なフォームって、女の子がダンス・フロアで踊り始めるキーワードみたいに思えるのよ。なぜ女の子、と言ったかはこれから説明するわ。私が思うに、ハードでモノラル・タイプな音楽で男の子ばっかりがフロアを占拠して黙々と踊る光景より、絶対グラマラスでセクシーな女の子が、さっき説明したようなトラックでフ踊ってる光景の方が楽しいと思うの。ドイツではドラッグでキマッた男共が黙々と踊り続ける光景を見る事が多いけど、私はそういうテクノのシーンを変えてみたいのよね(笑)。 マイルス・デイビスが良い事を言っているわ。「もし君がコンサートしたときに女の子がダンス・フロアに居ないとしたら、君の音楽は死んでいる。」 これは正しいと思うわ。私にとって、ダンス・ミュージックはセクシーなものだからね。
Dr. Shingo : またそういう事を言う・・・。
Maral : そうよ。もう男の子は帰っていいわよ(笑)。それは冗談として、テクノのパーティーにもっと女の子が来て欲しいのは確かね。 実際今テクノ・シーンは変化して来ている。もっともっとエレクトロニック・ミュージックがカラフルになって欲しいわね。
Dr. Shingo : 将来、自分の音楽をどんな風に進化、変化させて行きたいですか?
Maral : 2年後、私の音楽がどうなるかは説明不可能だけど、もっとツールとしてのトラックではなく、曲として成立する音楽を作って行きたいわね。
Dr. Shingo : ここ最近のエレクトロ・クラッシュ、マッシュアップみたいな動きはどう思いますか?シンパシーは感じないですか?
Maral : 確かに少し前までは、そういうレコードも面白くてDJセットで使っていた事もあるけど、やっぱり只の流行だと思うし、直ぐに使うのをやめたわ。それ自体、クラッシックなヒット曲をカバーしてみたり、何かインスタントなサウンドを使ってインパクトを与えようとしているみたいだけど、ネタが無くなったら彼ら一体どうするつもりなのかしら?ちょっと共感は出来ないわね・・・。エレクトロニック・ミュージック・シーンはとてもトレンディな物だと思うの。新しいスタイルが生まれてはまた廃れていく・・・。それの繰り返しよ。今、良くも悪くも実験的な音楽のリリースが少し落ち着いて来た感じに思える。これからはもっと「賢い」ダンス・ミュージックが多く生まれてくるのを期待しているわ。その意味はもっと音楽の基本的なストラクチャーを踏まえているという事よ。そういう角度から見るとまだまだエレクトロニック・ミュージックには未来があると思うんだけど・・・。
Dr. Shingo : その通りだと思います。さて、レーベルを運営してレコードやCDを売る事によってビジネスをしている Maral に、最近幾つかのレーベルが mp3 で音楽配信をしているケースについて聞いてみたいと思います。ユーザーは2ユーロやら3ユーロを払って自分が一番欲しいトラックだけをダウンロード出来るようになり、現在勢いのあるファイナル・スクラッチやトラクターDJなどのソフトウエアで手軽にDJをする事が出来るようになりました。CDJ も既に現場で実用に耐えうるレベルまで到達していますよね。Maral 近い将来mp3ショップを始める計画はありますか?どうやって音楽のデジタル配信マーケットに参入して行きますか?
Maral : mp3音楽のダウンロードは、合法的な手段の範囲内でやるのであれば大賛成よ。そういったデジタル形式の音楽を使ってDJが出来たりする事はとっても良いと思うわ。特に学生みたいに月に沢山のお金をアナログを買う事に掛けられない人達や、家でDJをしている様な人達にとってはね。早く合法的な音楽ダウンロードのシステムがもっと完全な形で開発され、自分の好きな曲だけで良いから幾らかのお金を払って、みんなが音楽を楽しんでくれる様になると良いわね・・・。しかしながら、現在のインターネットでの音楽ダウンロードの環境は非常に悪いと言わざるを得ないでしょう。私達ももうすぐ素晴らしいシステムの下で、ちゃんとユーザーに課金される音楽配信を行う予定よ。特にこの事はこれからの若いミュージシャンには必要不可欠な事ね。アーティストはこのままだと自身が作った音楽のコピーライトを守れないどころか、経済的に困難な状況になって作曲をやめてしまうでしょ。本当に大変な問題よ。自分が生みの苦しみに耐えながら作った曲がどこかの誰かさんに、タダで配信されていると思ったら、誰だってミュージシャンなんて職業に付こうとは思わなくなるわよ。
これからも私は自分のレーベルを通してアナログも、mp3 も Kompakt と協力してリリースして行こうと思っているわ。デジタルのDJシステムは・・・個人的な意見を言うと、mp3の音質は私にとってまだ「薄い」感じがするの。毎回ファイナルスクラッチを使用している人の後にアナログ派の私がプレイを始めると・・・女王になった気分よ。おほほ・・・冗談よ(笑)。実際、まだデジタルのDJシステムからの出音は、アナログレコードの出音の品質には劣ると思うの。ファイナル・スクラッチのサウンドカードの音は酷いわ。それから、どこのDJがセットの間中、コンピューターのスクリーンを睨めっこしていたいと思うのかしら?酔っ払ったりパーティーを楽しんでいる人たちの前で動かないDJは私にとって悪夢と同じ。(笑)だってDJでしょう?銀行で働いている訳じゃないんだから。オーディエンスとのコミュニケーションが無ければ良いDJが出来ないと思うわ。そういうパソコンのシステムは良いパーティーを作るシステムの中では余計な物だと思う。ファイナル・スクラッチやトラクターDJは、ホームレコーディングや趣味のDJとしてなら良いと思うけど、少なくとも私には無用の長物ね。
Dr. Shingo : また手厳しい事を・・・。これからのデジタル・ミュージックのマーケットを見守って、数年後また同じ事について話し合ってみましょうよ。
Maral : そうね。一つ言える事はレコードバッグは重いのよ!!
Dr. Shingo : 既に2回来日していますが、ヨーロッパのクラブシーンと日本のクラブ・シーンについてどう思いますか?デモ・トラックも沢山日本から送られてくると思いますが、日本のテクノ・シーンをどう見ますか?
Maral : とても大きな違いがあるわね。ヨーロッパの人たちはパーティーを長くやるし、極限まで楽しむ。たとえ次の日仕事でもね(笑)。文化的な違いからかも知れないけれど、ヨーロッパではドラッグやお酒を大量に消費するからかしら・・・?日本のテクノの大半は、ちょっとヨーロッパの人達にとって理解し難い物もあるわね。日本からは沢山のデモテープを送ってもらったけど、大半はオーバーロード気味。どういう意味かと言うと、一つの曲に多くのアイデアや展開、音だったりを詰め込み過ぎるのよ。どれが本当のメロディか解らない場合が多いわ。日本ではそういう曲が受けるのかしら?ヨーロッパではそういうトラックよりも、構成がシンプルで一つか二つ位の素晴らしいアイデアが曲に入っている曲が好まれるわね。私にとっては構成はシンプルであればあるほど良いわ。
Dr. Shingo : 成る程。これを読んでいるクリエイターには参考になるかも知れないですね。長々とインタビューに付き合ってくれてありがとう! 最後に、音楽とはあなたにとって何でしょう?
Maral : 私にとって音楽は言語。音楽は表現とコミュニケーションの手段になりうると思うの。だから偽物はダメ。あなたの心の奥底から湧き出てくる何かが形になっていないとダメなの。そういうものかしら。
End of the interview
Dr.SHINGO プロフィール
長野県出身。幼少から様々な楽器を演奏し、米国・バークリー音楽院への留学を経て2001年よりデモテープの配布を開始、最終的に故 christian morgenstern のレーベ ル Forte Records よりアルバムリリースのオファーを受ける。2002年デビューシングル「Have you ever seen the blue comet?」でワールドデビューを皮切りにアルバム「Dr Shingo's Space Odd-yssey」をリリースし、一躍その名を世界に轟かす。Sven Vath、石野卓球、等のトップアーティストからも絶大な評価を得、世界各国からリミックスの依頼が舞い込むようになる。 2004年5月にはセカンド・アルバム「ECLIPSE」をドイツの TELEVISION RECORDS よりリ リース (日本盤は先行で3月にMUSIC MINE よりリリース)。約2年間の活動の中で20枚ものシングル、アルバム、リミックスワーク、そしてコンピレーションCDへの楽曲提供を果たし、名実共に日本を代表するエレクトリックミュージック・プロデューサーへ と成長した。幅広い音楽の知識を持ち、それを余す所無く自身のプロダクションに応用する事により、実験的であり、斬新なトラックを発表、常に現在のテクノシーンを前進させようとする姿勢を崩すことは無い。特に類を見ない抜群のメロディセンスが彼のプロダクションに更なる“ポップ”なエッセンスを加えている事により、孤高のエレクトリックミュージックを発信し続けている。
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