DATE : 26-27th August, 2006 (Fri, Sat, Sun)
PHOTOGRAPHER : eyespyeyes, 佐藤朗 (Solar Stage), 助川貞義 (Lunar Stage), 石井裕之 (Planet Stage)
TEXT : Kei Tajima (HigherFrequency)
‘01年にスタートしてからというもの、独自のフェスティヴァル・カラーや強力なラインナップで、根強いファンを増やし続けている野外フェスティヴァル Metamorphose が、8月最終週となる26日〜27日にかけて行われた。会場を伊豆修善寺の自転車の国サイクルスポーツセンターに移動してから2年目の開催となり、ラインナップにはドイツが生み出したプログレッシヴ・ロックの奇才 Manuel Gottsching による ‘80年代の名盤 “E2-E4” の世界初となる実現ライヴを初めとする“メタモ”ならではの顔ぶれが揃った今回のフェスティヴァル。往年のファンやアーティスト目当てのファンで開催前から大きな話題となっていたダンス・ミュージック・ファン待望の一大イベントに、HigherFrequencyも参加してきた。 イベント当日、例年通りの高速の大渋滞を抜け、やっと会場に到着するとタイミングよく Solar ステージの第一番手 Konono No.1 のアクトが始まる。Solar ステージの近くに陣取ったこともあり、テントまで聴こえてくる陽気なリズムにつられてステージまで足を運ぶと、そこは大興奮のクラウドで満員御礼であった。コンゴで25年前に結成されたという Konono No.1 は、親指ピアノ(リケンベ)や、自動車部品で作ったハンドメイドのマイク、同じくハンドメイドのアンプを使って表現する人力エレクトロニック・ミュージックと、台所用品を用いて演奏されるリズム、ダンサーやヴォーカルといったオーガニックな要素を融合させるというユニークなスタイルを持つバンド。この日も、「踊りましょ!踊りましょ!」という掛け声(発音の良さにビックリ)と、温かい電子音とリズムによって生まれる底抜けに明るいアフリカン・ヴァイブでオーディエンスを優しく包み込んでくれた。素晴らしい夕暮れをバックに、早くもこの日一番の一体感を演出してくれた Konono No.1 で心も体もすっかり温まった筆者は、フランスから飛び出したエレクトロニック・ミュージック界のスター Sebastien Leger のセットを観に Lunar ステージ へ移動。トラック・メイカーとして、また DJ としてもハウス〜テクノ・シーンに熱烈なファンを持つ彼のセットは、ダーティー/チャンキーなハウス・トラックから始まり、ファンキーなビートでクラウドを盛り上がらせた後、そのヴァイブを持続したままテクノ・セットへ投入していくという構成で、早い時間から会場をロックしてくれた。 |
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メインの Solar ステージ から、幻想的なオブジェが飾られるなど、宇宙系のミステリアスな雰囲気が漂う Planet ステージに向かう途中には、Diesel-U-Music による特設ステージが設置されており、このステージでは、ロック、アーバン/ヒップホップ、エレクトロニック の3ジャンルにおいて先行を勝ちぬき、10月に行われるロンドンでの最終選考を控える3組のウィナーがライヴを披露した。筆者が通りかかると、ちょうどロックのジャパン・ウィナー Noodles がモッシュするオーディエンスを前に、エモーショナルなステージングを繰り広げており、その他のステージとは一味違った印象深いギグを体験することが出来た。続いて、再び Lunar ステージに戻った筆者を迎えてくれたのは、DJ Sneak によってドロップされるファットなビートだった。序盤からジャズや生音のエッセンスを盛り込んだファンキーなハウス・トラックの嵐でクラウドのハートを鷲掴みにすると、下半身を直撃するタフなビートの上にポップ・グループ Madison Avenue の ‘Don’t Call Me Baby’ や、Roman Flugel による ‘Geht’s Noch?’ といったキラー・チューン載せ、Gnarls Barkley ‘Crazy’ のリミックスでフィニッシュするまでノン・ストップの豪快なショーを繰り広げてくれた彼。そんな DJ Sneak がステージを去り、筆者が Lunar ステージを去るころには、会場に小粒の雨が降り始めていた。Solar ステージ で行われていたインプロヴィゼーション・バンド The Bays のライヴに続き、いよいよプログレッシヴ・ロックの奇才 Manuel Gottsching のライヴがスタートする時刻になる。会場をひんやりするような静寂が包むと、ステージ中央に傍から見ればいたって普通の中年男性といった印象の Gottsching が歩いて表れた。その後にその姿を固唾を呑んで見守る観客が目の当たりにしたのは、とても言葉では表現しがたい、一種の神がかった光景であった。彼の指からシンセサイザーの音が発せられた瞬間、耳に入り込んでくる魔法のような音の粒子。境目無く繋がっているようで、少しずつその色彩を変化させているサウンド・スケープ。脳裏をくすぐる様にやさしく、そして時に空気を裂くように響くギター音。希望に満ち溢れた音楽と共に、白んでくる空…。これらの要素すべてが一体となってマジカルな時間を生み出し、クラウドを異次元へと誘っていくのであった。
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Manuel Gottsching によってクリエイトされた異次元空間に身を任せたあとは、Lunar ステージで行われているスウェーデンの売れっ子プロデューサー/ DJ John Dahlback のセットを観に、再び長い道のりを歩く。完全に明るくなった空とは対照的にダークな雰囲気そのままの Lunarステージでプレイする John のセットは、現在のシーンに散乱している下世話でブリーピーなだけのエレクトロ・ハウスとは一味も二味も違うものであった。研ぎ澄まされた金属音や繊細なメロディーからなる良質なトラックの数々や、計算しつくされた緻密なビートには体を動かさずにいられず、20歳という若さにして「天才」と評されるだけの彼の実力を全身で実感するのであった。そんな John Dalback のセットで勢いのついた筆者の前に、ついに Lunar のトリとなる Luciano が登場。お馴染みのラテン・フレーバー溢れるトラックでセットをスタートさせる。筆者が持つ Luciano のイメージと言えば、3月のマイアミで聴いた Richie Hawtin や Loco Dice とのバック・トゥー・バックで披露してくれたオーガニック系のセットだが、今回のセットは、フェスティヴァルもいよいよ終盤に差し掛かりヒートアップしたクラウドを完全燃焼させる勢いのテクノ・セットだった。しかしそこは Luciano、ただ単にハードなトラックを垂れ流すのではなく、生音や独自のカラーを取り込んだセットで色彩溢れるセットを披露してくれた。 こうして、筆者にとっては初めての参戦となった伊豆修善寺での Metamorphose は終了。’04年の苗場でのイベントと比べると、今年はゴミの“キャッシュ・バック制”(現地で購入した空き缶やトレーを捨てると100円キャッシュ・バックされるというもの)を導入していたことから会場も片付いており、これはファンにとっても嬉しい事実だったのではないだろうか。フェスティヴァルのカラーも、参加する人々の個性も唯一無二の存在である Metamorphose、今後も成長を続けながら、根底にあるラヴ&ピースの精神で私たちを楽しませて欲しいと願いながら、会場を後にするのであった。(Kei Tajima) | |
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