「成功するためには、相当の努力を積み重ねていかなければならない。僕は現在いくつかのDJエージェンシーに関わっているけど、少し前までまったく無名だったDJが、あっという間にスーパースターDJになってしまうという最近のシーンにはすごく違和感を感じてるんだ。ついさっきまでノー・ギャラでプレイして、周りにCDを配りまくってた奴が、次の瞬間にはフォーシーズンズ・ホテルの部屋を要求して来るんだからね」
受話器を通してニューヨークから最近のDJカルチャーを語るスーパースター Sasha の声は、明らかに不満そうに響く。
「俺や John
(Digweed)、Carl
Cox なんかは、成功するまでの間、ずっとギャラなしでプレイしてきた。でも最近は、音楽に対する情熱があるからではなく、金儲けして、簡単にセレブの仲間入りをするための手段としてDJを選んでいる奴が多いように感じるんだ」
また彼は、お金儲けのためだけにシーンから退こうとしない大御所DJについても激しい非難を浴びせ、ここ20年間シーンの頂点に君臨し続け、一位二位を争うほどのギャラを稼ぎ続けている彼の立場から、興味深い意見を述べてくれた。
「今の状態のままではエレクトロニック・ミュージックは全く発展しなくなってしまうよ。シーンで生き残るためには、進化を続けていかなくてはならない。そのためには新しいDJの存在が不可欠なんだ。18歳〜19歳くらいの若いDJが常にクラブでスピンしているような状態がなくなってはならない。若いDJによるブレイクがまた来ると信じてるんだ」
「でも、このシーンにはずいぶん長い間、彼らの活動を阻んでいるビッグ・ネームたちがたくさん蔓延っている」
今回のDJ Sasha とのインタビューは、Ableton Live を使用し、たった5日で完成させてしまったというニュー・ミックスCD "Funadacion"
のプロモーションの一環として行われた。
以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Kei Tajima)
Skrufff (Jonty Skrufff): "Funadacion" は5日間で完成したそうですね。簡単なプロジェクトでしたか?
Sasha : 今回のミックスCDには、NY と LA のレジデント・パーティープレイして、手ごたえのあったトラックを入れていきたかったんだ。 Abelton Live は、楽曲制作のために一年半以上使っていたんだけど、その後DJパフォーマンスにも使うようになってね。DJと楽曲制作に同じソフトウェアを使い始めて、可能性が広がったよ。以前までは、スタジオ・ワークとDJはまったく別のものだったからね。だから昔と比べて早くなったというわけさ。
Skrufff : Ableton を使われるようになって、ミスをすることが無くなったのではないですか? Ableton を使っていてもミスをすることは可能なんでしょうか?
Sasha: Ableton を使っていても、集中していなかったらミスはしてしまうよ。先進技術は物事を簡単にすることが出来るけど、同時に複雑にもしてしまうのさ。例えば携帯やインターネットなんかも、本来なら生活を便利にするために開発されたのに、俺には生活を複雑にしてるとしか思えないんだ。
Skrufff : アナログのみでプレイすることにこだわるDJや、アナログに取りつかれているDJと話す機会がよくあるのですが…
Sasha : いつだってテクノロジーが進化すれば、変化を否定する人は出てくる。今でもターンテーブルしか置いていないクラブだってあるし、DC10 なんかはCDプレイヤーさえも置いていないんじゃないかな。結局、Ableton だって、DJをする手段のうちの一つなんだと思うよ。音を扱うためのひとつのツールなんだ。音が出てくるのがコンピューターからでも、レコードの針からでも、俺は気にしないね。
Skrufff : Ableton を否定するDJの中には、ジョークで「E-mailをチェックしてると思われたくない」と言ったりしますが、このような意見についてはどのように対抗しますか?
Sasha : Ableton 専用のコントローラーを開発したんだ。見掛けもすごく良いツールでね。このコントローラーがあればスクリーン上のものはほとんど操作出来てしまうんだ。ミキサーみたいに見えるんだけど、ボタンだらけなんだ。これを使ってプレイしているのを見てもらえば、結構大変な作業をしてるってことが分かってもらえるはずだけどね。
Skrufff : 最近はどういった方法でトラックを探していますか?
Sasha : いろいろな場所から。独自の ISP サーバーをセット・アップしてあるから、人がそこにアップした楽曲を、いつでもダウンロードして聴くことができるんだ。トラックに関しては、常にいろいろなところから見つけようとしてるよ。
Skrufff : 現在は NY にお住まいなんですよね?
Sasha : もう6ヶ月になるね
Skrufff : まだレコード・ショッピングされてますか?
Sasha : アナログは今でもたくさん買ってるよ。買う音楽の70%以上がアナログなんだ。mp3 ダウンロード・サイトの影響で状況は少しずつ変わってきてると思うけどね。
Skrufff : 週ごとに何枚くらい新しいレコードをピック・アップされていますか?
Sasha : だいたい週に14枚〜18枚ぐらいかな。時々、ものすごい量の音楽が送られてくる週もあるけどね。今回のアルバムを制作してる時なんか、週に100枚くらいレコードが送られてきたんだ。普通は週に3・40枚なんだけどね。
でも、デジタル・フォーマットでプレイし始めてから、かなり効率良く音楽を聴くことが出来るようになったよ。空港にいるときや飛行機に乗っているときだって、ラップトップでいろいろなことを試したり、トラックを聴くことができる。アナログだけを使うより、こういう方法の方が音楽を整理しやすいんだ。アナログを使う場合、たくさんのレコード・ボックスを持って旅しなくちゃいけないし、ツアーで外に出てるときに、新しいレコードが家に送られてくる場合だってある。自分でターンテーブルを持つか借りなくちゃいけないし、クラブに早めに行ってレコードを聴いてみなくちゃならない。すべてをデジタルに変更してから物事がすごく簡単になったよ。
Skrufff : 最近、たくさんのアーティストがベルリンに移住し始めていますが、ある程度の期間 ベルリンで過ごしたことはありますか?
Sasha:ないね。ベルリンとはあまり強いコネクションを感じないんだ。プレイもあまり頻繁にしないし。でも、そこからいい音楽がたくさん出てきてるってことは知ってるよ。
Skrufff : どうして NY を選ばれたのですか?
Sasha :(ぶっきらぼうに)個人的な理由。Twilo でのギグを通して NY とは以前から繋がりがあったし、友達もたくさんいるしね。NY でのレジデンシーをやるなら今だと思ったんだ。
Skrufff : たくさんの人々が、Twilo は NY クラブ・シーンの最後の黄金時代を象徴するようなクラブだったと話していますが、現在の NY のシーンを見られていかがですか?
Sasha : NY はいつだって変化し続けていると思うんだ。もちろんいい時も悪い時もあるけれど、俺はそういう話が大嫌いなんだ。"黄金の時代"を振り返って、「あの時は良かった」なんて嫌気がさすね。
Skrufff : では、今一番アツいクラブはどこですか?
Sasha : わからないな。ロンドンの Fabric はお気に入りの一つと言えるだろうね。ただ、近年のイギリスのエレクトロニック・ミュージック・シーンは、メディアから全く相手にされていない状態が続いていると思うんだ。理由は分かるけどね。2000年頃のシーンの状態なんて、それはヒドいものだったんだ。散々なリリース作品にぞっとするようなパーティーばかり。'90年の初めにシーンが生まれたときの状態とは天と地の差だったよ。そうこうするうちに、コントロール不可能な状態になって、みんなエレクトロニック・ミュージックに飽きてしまった。そして、次の世代のサウンドであった R&B やヒップホップがブレイクしたというわけだ。
Skrufff : 今って、ほとんどのDJが毎週ワールド・ツアーに出て、週に2・3回プレイしてるような状態ですよね?
Sasha : なるべくそうならないようにしてはいるよ。CDを出したり、プロモーション活動をしている時は、短時間で出来るだけ多くの場所に行かなくちゃいけないから、週に3・4回プレイするけど、あんまり好きなやり方ではないんだよね。金曜日と土曜日にプレイするのがベストだと思うし、平日にはあまりギグをしないようにしてる。それに、何か特別なことがない限りは、イベントを重ねてブッキングしないようにしてるんだ。でも夏の間なんかは、週に3〜4つもの素晴らしいショーを一度にオファーされることもある。例えば日曜日はセルビアで火曜日はアテネって感じでね、そういうギグは断るのが難しいよ。
Skrufff : 今年はセルビアの Exit Festival でプレイされますね?
Sasha : その通り。すごく楽しみにしてるんだ。
Skrufff : Exit は政治的な背景のあるフェスティヴァルですよね。ダンス・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックには物事を変化させる力があると思われますか?エンタテインメント以上のものだと思われますか?
Sasha : ある一定の場所では、ダンス・ミュージックが文化的なブームと重なって、大きく成長していった国もあると思う。例えばアルゼンチンやイギリスといった国がそうだよね。でも現在のダンス・ミュージック・シーンはクラブ・ベースの方向へシフトしてしまったから、昔とは少し状況が変わってしまったと思うんだ。例外もあるけど。例えば前回のアルゼンチンの Creamfields には5〜6万人って人が集まった。こういう大きいフェスティヴァルは、ただダンス・ミュージックのイベントってだけじゃなく文化的とも考えられるよね。 Creamfields は確かに文化的なイベントだったよ。年間を通しても一番大きいイベントだったしね。でもイギリスではそういったイメージは今ではあまり残っていないし、クールなイベントでは無くなったよね。
Skrufff : 8月にはロンドンのサウス・ウェスト・フォーでプレイされますね。Exit でプレイするのとはまた違ったセット・スタイルになると思いますか?
Sasha : 去年のギグが素晴らしかったから、今年もすごく楽しみなんだ。去年はすごく天気がよくってね。ちょうど日が沈む時間にプレイしたんだけど、すごく雰囲気が良かった。ロンドンでこういったかたちでプレイできるのは個人的にすごく嬉しいよ。こういう大きい規模の野外レイブはあまりロンドンでやったことがないから、ラインナップに加われてすごく嬉しかったね。もちろん音楽の面では違ったセットをプレイすると思うよ。例えば Fabric でプレイするときとは全く違ったスタイルのセットになるだろうね。
Skrufff : 最近、Bomb The Bass のプロデューサー、Tim Simenon がレイプ疑惑をかけられましたね。晴れて無罪放免となったわけですが、今までにこういった罠にはめられそうになったことはありますか?
Sasha : 勘弁って感じだよ。こういう経験は今までに一度もないね。でも、自分はこういう罠のターゲットになるほどの強いセレブ・レーザーは出してないんじゃないかな。もしクラブの中だったら気づかれるとは思うけど、正直、クラブの外で気づかれて嫌がらせをされたりすることはほとんどないからね。イギリスでみんなが言っているようなセレブ・リストなんてクソみたいなものは俺には理解できないんだ。
Skrufff : ギグを通して、またバックステージ・エリアにいることでたくさんのセレブに会うのではないですか?
Sasha : 分からないな。LA にはイギリス人俳優がたくさん住んでいて、クラブで遊んでたりもするみたいだけど、最近はあんまりみないね。'90年代の半ばごろ、ロンドンでセレブが集まるようなバーによく行ってた時期もあったけど、今はほとんどないしね。
Skrufff : DJをリタイアする時期について考えられたりしますか?
Sasha : はっきりとは言い難いけど、40〜45歳になっても今のペースでツアーを続けてるとは思えないかな。たぶん Danny Tenaglia がしたように、ある一定の場所に身を置いて、レギュラーなギグをするようになるかもしれないね。でも、旅行するのも嫌いじゃないんだ。すごく疲れるのは確かだけどね。クラブでギグをやって、空港に行って、ホテルに泊まって、またクラブに行って、空港に行って、ホテルに行って、またまたクラブに行く…なんて生活をずっと続けてたら、誰だって気が狂ってしまうよ。だから将来的にそれをずっとやってるとは思えないな。でも完璧にDJを辞めてしまうかどうかについては、まだ何とも言えないね。
End of the interview
SASHA TOUR DATE
07/02 II Muretto, Venice, Italy
07/08 Columbia, Berlin, Germany
07/09 Exit Festival, Serbia
07/15 Glade Festival, UK
07/16 Air GK, Birmingham, UK
07/28 Space , Ibiza, Spain
07/29 GGG, Stratford Upon Avon, UK
07/31 GGG, Ireland
08/04 Space, Ibiza, Spain
08/05 Dance Valley, Amsterdam
08/06 Dance Valley, Amsterdam
08/06 Colors, Glasgow, Scotland
08/11 Space, Ibiza, Spain
08/13 Creamfields, Andalucia, Spain
08/18 Space, Ibiza, Spain
08/25 Space , Ibiza, Spain
08/27 SW4, London, UK
08/28 Tribal Gathering, Manchester, UK
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