HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Ricardo Villalobos Interview

数年前から世界中のダンス・フロアを賑わせているクリック〜ミニマル・ハウスの先駆者として、大きな人気を誇る DJ といえば Ricardo Villalobos であろう。最近ではいよいよブームが本格化し、世界中のプレスやクラウドが彼に熱い眼差しを送っているのにも関わらず、あくまでも「ハウスDJ」としてストイックなまでに良質な音楽をリリースし、聴くものに時間を忘れさせるような DJ プレイをすることにこだわり続ける真のアーティスト である彼が、2年ぶりに東京の地を踏むこととなった。

ウェブ・サイトなし、ネット上に公開されているバイオやインタビューもほとんどなしと、そのミステリアスさからネット上では様々な噂が飛び交っている Ricardo。彼自身も「コントロール不可能なモンスター」と呼ぶインターネットについてや、バック・グラウンドについて、エキセントリックなまでにアーティスト肌な彼に訊いた。

> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : はじめまして。私たちは HigherFrequency というクラブ系のウェブ・サイトです。

Ricardo Villalobos : インターネットはコントロール不可能なモンスターさ。真実を言っても言わなくても、関係ない。例えそれが捏造された真実であっても、人々はそれを真実だと思うし、それを正そうとする人もいない。それがインターネットの問題だな。インターネットは良し悪し関係なく情報をばら撒くコントロール不可能なモンスターなんだ。

HRFQ : そのモンスターを上手く利用することは出来ないのですか??

Ricardo Villalobos : いいや。僕はウェブ・サイトを持っていないし、メールだって4週間に一回しかチェックしない。インターネットは自分向きじゃないね。僕はこうやって話して、笑ってるほうがいいんだ。

HRFQ : ドイツで行われる Love Parade についてお伺いしたいんですが…

Ricardo Villalobos : ドイツで行われる?Love Parade はドイツが始めたんだよ!

HRFQ : そうですね。でもあなたは今回チリのフロートでプレイされます。あなたの音楽性に大きな影響を与えたのは、チリとドイツのどちらなのでしょうか?

Ricardo Villalobos : 100% チリだね。僕は南アメリカの音楽を聴いて育ったんだよ。もちろん南アメリカの音楽だって、ヨーロッパやアフリカの音楽を受けているし、それが全部融合されたものだけどね。後になって Tangerine Dream みたいなバンドの音を聴いてすごく感動したことは確かだけど、南アメリカの音楽の方が僕の今の音楽性に近いのは間違いないよ。基本的に最近の僕の DJ プレイはほとんどリズムで、その間にメロディーが少し入るだけなんだ。

Ricardo Villalobos Interview

HRFQ : ベルリンにおけるアーティストのコミュニティーについてはどうですか?あなたや Richie Hawtin といったアーティストが集まっていますが…

Ricardo Villalobos : 人種の坩堝だね。たまにいろんな人種が集まり過ぎてるような気もするけど。でも、そういったアーティストとパーティーが出来るし、スタジオに入れるから素晴しいよ。そういった意味ではもの凄く土地が肥沃だし、同時にすごく安いからアーティストが多く集まるんだ。一ヶ月に2〜3回ギグをすれば満足に生活できるからね。

HRFQ : 多くのエレクトロニック・ミュージックが数理的で精密なのに対して、あなたの音楽が非常にオーガニックなのは何故ですか?

Ricardo Villalobos : まず、エレクトロニック・ミュージックにとって不利なことと言えば、オーガニックな音がしないということさ。アコースティック・ミュージックと比べても、エレクトロニック・ミュージックはとても限られた音の表現方法しか持っていないんだ。録音された音や空間、部屋の中の音、自然の音、トランペットやチェロの音と比べてもね。要は、アコースティック・ミュージックの方が全体の周波数やスペクトルがもっと発達しているから、エレクトロニック・ミュージックよりも人の心を震わすのさ。エレクトロニック・ミュージックはアコースティック・ミュージックと融合しない限り生き残れない。2〜3年前に Autechre がリリースした最新のアルバムと共に、サウンドデザインは終わりを遂げたんだ。以前まで素晴しいシンセサイザーを売っていた企業も、最近ではピアノの音やトランペット、ストリングスのプログラムを売っているよね。それはサウンドデザインの時代が終わって、アコースティックなものが重要視されているってことを示してるんだ。これもすべてオーガニックなものをエレクトロニック・ミュージックに取り入れて、オーガニックな方法で人を躍らせる音楽をつくろうとするためさ。だからリズムは毎回完璧じゃないとしても、グルーヴがあることが大事なんだ。

HRFQ : あなたは若い頃にボンゴを習っていますね。そういった経験は今役に立っていますか?

Ricardo Villalobos : もちろんさ。僕が DJ としてダンス・ミュージックにとって一番大事なこと、もしくはダンス・フロアの秘訣だと思っていることと言えばリズムなんだ。バスドラムやハイハット、スネア、ベースラインといった要素のちょっとした音の組み合わせひとつでそのトラックがグルーヴィーかグルーヴィーじゃないかが決まってしまうからね。毎週 DJ をしていれば、ダンス・フロアの仕組みが分かってくるものなのさ。もちろん、オーガニックでなければダメだよ。エレクトロニック・ミュージックはオーガニックとは正反対に近いものだけど、オーガニックな要素があれば人々をもっと感動させることが出来るんだ。

HRFQ : あなたは10年以上プロデューサーとして活躍されていますが…

Ricardo Villalobos : 実際は20年近いと思うよ。一番初めにレコードを出したのは今から15年前だからね。

HRFQ : 最近になって大きな Ricardo ブームが起きたのはどうしてでしょうか?

Ricardo Villalobos : その説明はできないな。今話してしまえば、他の人に真似されるからね。

HRFQ : 一つお伺いしたいんですが、最近父親になられたそうで…

Ricardo Villalobos : いや、それはウソだよ。それもさっき言ったようにインターネットで流れてる噂の一つさ。この噂が初めて広まったのは、オランダのMTVのインタビューを受けた時なんだけど、その時僕はすごく機嫌が良くてね。彼らに今後のプランを聞かれたから、「彼女と赤ちゃんを作ることかな」って言ったんだ。それからというもの、僕は父親になったものと思われていて、僕の彼女はもうかれこれ2年ほど妊娠してるのさ。だから僕の彼女はどこかに行くたびに、「おめでとう!」って言われるんだ。これもインターネットという名のモンスターのせいさ。

Ricardo Villalobos Interview

HRFQ : なるほど。今やっと 「コントロール不可能なモンスター」という言葉の意味が分かりましたよ。

Ricardo Villalobos : インターネットは人が目を閉じた瞬間の写真だって乗っけるんだ。その写真を撮った奴のために、こっちは7時間もプレイしてるっていうのにね。そいつはフロアで踊っていて、ひどい瞬間の写真を撮ったんだ。僕が…もちろん汗はかいてたけど、ただ目を閉じたその瞬間の写真を撮られて、インターネットに「このRicardo の顔はヤバい!!」っていうコメント付きで掲載されるのさ。それで2週間も経てば知り合いが「Ricardo、写真を見て心配してるよ。大丈夫か?」って電話がかかってくるんだ。冗談じゃないよ!賢い人なら、あの写真がただ僕が目を閉じた瞬間に撮られた写真だってことが分かるはずなんだ。僕は奴らがでっち上げようとしてることと、正反対のことをしてるんだから。

HRFQ : 以前、アルバムよりシングルをつくる方が好きだという話を伺ったのですが…

Ricardo Villalobos : もちろんさ。アルバムだと型にはめられてしまうからだよ。リスナーの好みに合うように様々なタイプの音楽を集めた80分の長さの型にね。ソフトな音やハードな音、いろいろな側面を持った音楽を全部アルバムに詰め込まなきゃならない。大抵の人がそういった馬鹿げたことをアルバムに望むんだ。 僕のコンセプトは、タイムレスな音楽をダンス・フロアに届けること。病院に、いや精神病院に行くような感覚さ。クラブに一歩足を踏み入れれば、時を忘れて、父親の名前や住んでいる場所さえも忘れてしまう…そういう状況のための音楽をつくってるんだ。だから僕のつくる曲はすごく長いし、ミックス出来るようにつくられてる。人々にいつ曲が終わって、どのくらいの長さなのかを感じさせないためにね。全部で30分の長さの曲を2曲入れたアルバムをつくることも出来るよ。でもそれは絶対に「こんなのアルバムじゃない。曲が2曲入ってるだけだ」って言われるに決まってる。アルバムにすると自由が失われてしまうし、そういうのは好きじゃないんだ。 もし30分の長さの曲が入れられる大きなレコードがあればいいんだけどね。もちろん新しいテクノロジーを使えば、レコードの変わりは出来るけど、あんまり好きじゃないんだ。僕はレコードが好きなのさ!ただレコードの問題と言えば、10〜15分の長さしかないこと。カッティングやプレスが良ければ、15分の長さでも高いクオリティの作品が出来上がるけど、それがリミットなんだ。悲しいけどね。

HRFQ : 出番の前にもう一つ質問です。今後の予定について教えてください。

Ricardo Villalobos : 今後も変わらずスタジオに入るよ。いつもと変わりないさ。ひっそりとアルバムっぽい作品も出すことになるとは思うけど、あんまり言えないね。いつか気付くだろうけど。

HRFQ : わかりました。今日はありがとうございました。

Ricardo Villalobos : どういたしまして。

End of the interview



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