主にテクノ、ハウス周辺の情報を中心にコンテンツを掲載しているHigherFrequencyにとってドラムン・ベースの存在は、身近でありながらもなかなか間近に接する機会がなかった親戚のような存在。「どうしているか気にはなっているがなかなか会う機会がない」…そんな近くて遠い存在だったドラムン・ベースを再び我々に引き合わせてくれたのが、WOMBの人気イベント06Sをオーガナイズし、日本のドラムン・ベース・シーンを牽引してきたDJ AKiである。
先月22日に自らのミックスCD "New Type Drum+Bass 06S"をWOMB RECORDINGSよりリリースし、その発売を記念するリリース・パーティーを10月30日にドラムン・ベースの父でもあるFabioをゲストに迎えて開催したDJ AKi。そこで繰り広げられた彼のプレイが我々に与えた衝撃は余りに大きく、普段テクノとかプログレを中心に聴いている我々にも十分に楽しめる世界への入り口を提示してくれたような気がする素晴らしい内容であった。
このインタビューを見てドラムン・ベースに興味が沸いた人は、是非一度DJ AKiのレジデント・パーティー06Sに足を運んでみてほしい。きっとジャンルを超えたクラブ・ミュージックの楽しみ方を見出せると思う。しかも、今回のインタビューはHigherFrequency初の試みとなるビデオ配信の形も取っており、ブロードバンド対応の方は是非映像でもこのインタビューの模様をお楽しみいただきたい。
> interview : Kei Tajima (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : Higher Frequencyでは今までテクノやプログレッシヴ・ハウスを中心に取り扱ってきたのですが、このインタビューをきっかけに徐々にドラムン・ベースのほうにも力を入れていきたいと思っています。今回アルバムをリリースされたそうですね。おめでとうございます。タイトルが"NEW TYPE DRUM+BASS"ということなんですが、コンパイルするにあたってのコンセプトは何だったのでしょうか?
DJ AKi : 僕たちが普段やっている"06S"っていうイベントに"NEW TYPE DRUM+BASS"っていうタイトルが付いていて、普段のイベントのスタイルだったり、普段よくかけている音楽とか、"06S"に関係のあるDJから楽曲を提供してもらうっていうことで、普段僕たちがやってることを一枚のCDにしようっていうのがもともとのコンセプトだったんですけど。
HRFQ : じゃあそれこそ念願の一枚ということで。
DJ AKi : そうですね。DJだったら誰でもいつか作品をリリースしてみたいっていう気持ちはあると思うんですよ。イベントを始めて3年半経つんですけど、こういった形でリリースすることが出来て本当に嬉しいですね。
HRFQ : ドラムン・ベースの魅力として、太いベースとクリアな高音のバランス感というものがあると思うんですが、今回のコンピレーション制作にあたって音質的にこだわった点はありましたか?
DJ AKi : 音質にはね、すごくこだわったんですよ。今回コンピを作るにあたって3つこだわりたい点があって、一つ目はとにかく音質。そこはどうしてもこだわりたくって。WOMBにはPHAZONっていう世界有数のサウンド・システムがあるってことで、常設の3FのDJブースでレコーディングしたんですね。NYのTWILOでDJをやってたときから、PHAZONの大ファンだったってこともあったし、あの音には普段からふれていたのでミックスCDを出すんだったらこのクオリティでつくるしかないっていうのは決めていて。普通テクノとかドラムン・ベースのDJは縦フェーのミキサーを使うんですけど、あえてロータリー・ミキサーっていって、回すミキサーを使ったんですよ。ただ、ロータリー・ミキサーって最もドラムン・ベースに適していないって言われているミキサーなんですけど、音のクオリティーを考えたらどうしてもロータリー・ミキサーを使いたくて。だからとにかくこの一年間ぐらいWOMBのDJブースで機械をさわったりとか、音を聴いたり、セットを軽く組んだりっていうのをずっとしてましたね。おかげであのミキサーを攻略できるようになったんですけど。
HRFQ : では構想はかなり長かったんですね。
DJ AKi : そう(笑)。アルバムは実際2年も3年も前から考えてたことだったし。最終的に出来上がった作品をマスタリング・スタジオに持っていって…キムラケンタロウさんって方がマスタリングしてくれたんですけど、ケン・イシイさんの作品とかも手がけている方で、ダンス・ミュージックをよく分かっている人だったので、それがすごくよかったなぁと。PHAZONのクオリティーを落とさずに、音を最大限にまで広げてくれたというか、さらに迫力のある音につくってもらえたのがよかったですね。
HRFQ : サウンドの面もそうなんですが、楽曲の面でも全体的にAkiさんの「歌心」というか情緒的でオリジナルなセンスを感じられたのですが…
DJ AKi : 基本的に歌モノはフロアにすごく響くと思うし、最近は歌モノだけのセットでラウンジとかでやる時もあるし。それ以外ではもっと無機質なサイバーでハードなセットもやったりするんですけど、DJってやっぱり自分が好きな曲ばっかかけてちゃいけないし、無機質なセットの中でヴォーカルものを一曲かけるだけで、お客さんのあったまり方とかも違うし、そこからまた新しい展開がつくれたりするきっかけになるのが歌モノのトラックだと思うんですよ。そういうのがあるから歌モノを差し込んでるっていう感じなんですけど、基本的には好きなんですよね。
HRFQ : ドラムン・ベースの初心者として先入観をいい意味で裏切られたといった感じだったのですが、シーンの中でもAkiさんのサウンドはユニークな存在なのでしょうか?
DJ AKi : 他の人のスタイルがどうこうっていうのは無いんですけど、僕は基本的にかける曲数が多いんですね。このミックスCDも70分で26曲とか。ハウスのDJと比べたら倍以上なんですよ。とにかく展開を早くしていかないと、聴いてる人も飽きてしまう部分があると思うし、次から次に曲をかけるのが好きなんですよね、単純に(笑)。ドラムン・ベースの盛り上げ方のひとつの特徴として、イントロがあってブレイクが入って、ベースが入ってガーンと盛り上がる部分があるじゃないですか。ハウスとか、トランスとかはずっと同じビートで4つ打ちをきかせといて、ブレイクが入ったとこで"ワーッ"って盛り上がる感じだと思うんですけど、ドラムン・ベースはむしろその逆というか、イントロからブレイクに入って、ガツンとベースが入ってくるとこが盛り上がるポイントなんですよ。だからどんどん曲を変えていけば、当然盛り上がるポイントが増えるっていうのが一応僕の考えというか。ただ、他の国でも僕みたいなスタイルの人はそんなにいないと思うし。海外のアーティストでは、僕のスタイルが"東京のドラムン・ベース・スタイル"だみたいな感じで思ってくれている人も結構いるんで。
HRFQ : 今回のアルバムにはAKiさん自身の楽曲も3曲ほど含まれているということなんですが、最近の制作活動のほうはいかがですか?
DJ AKi : トラックをつくる時は、エンジニアリングをしてくれるタケオと、ユウキっていう普段はWOMBでブッキングをしたり、外交官的な役割をしてる彼と3人でユニットを組んでやっていて。最近なんかはどんどん曲をつくらなくちゃいけない状況なんですけど、今はツアーがあったりしてかなりバタバタしてるので、11月の中旬くらいには一回落ち着くので、そこから年末にかけて一気に何曲かあげようかなと。
HRFQ : 最近、ハウス・シーンではアシッド・ハウスへの回帰、テクノだとデトロイト・リヴァイヴァルなど、80年代後半から90年代初期のサウンドへの回帰といった傾向がみられますが、ドラムン・ベースのシーンではそういった動きは見られますか?
DJ AKi : ドラムン・ベース自体が始まったのが80年代後期というか、アシッド・ハウスの流れから始まった音楽で、先週の土曜日にプレイしてくれたFabioなんかがつくっていったシーンなんですけど、90年代初期の楽曲を今リミックスして出すみたいなケースは結構あるんですけど、ドラムン・ベースの傾向として、常に新しい曲をかけるのがDJとしてのステイタスという考え方があって。いかに未発表曲を多く持ってるかっていうのもすごく重要で。でもそれって沢山コネクションを持ってないと出来ないじゃないですか。でも僕はたまたま"06S"をやっていたおかげでいろいろな人からCDとかプロモが届いたりする状況になっているんですけど。結構新しいもの好きの人が多いシーンというか、新しいことをすごく新鮮に感じるジャンルだと思うんですよ。だからリミックスをして今の時代に合わせてリリースすることはあっても、そういう感じのリヴァイヴァル的な動きはない。進化し続けてるところに魅力があるんだと思うんですけどね。
HRFQ : "この曲を聴けばドラムン・ベースにはまるぞ"という曲があれば是非Higher Frequencyのハウス、テクノ系の住人に紹介していただきたいのですが。
DJ AKi : 人それぞれですからね、微妙なんですけど。もともと音が好きな人だったら、間違いなくMARKYとかブラジル周りの人だったらすごく聴きやすいと思うんですよ。ドラムン・ベースが盛り上がるきっかけをつくったのもMARKYの力だと思ってるし。実際この間広島のレコード屋さんに行った時も、MARKYのレコードを置くようになってからドラムン・ベースが飛ぶように売れるようになったっていう現象が起きていて、地方都市でさえそういう現象がおきてるんだなぁと思いましたね。
HRFQ : 最近の日本のドラムン・ベースのシーンについてはどう思われますか?
DJ AKi : さっき広島の話みたいに地方都市でもCDが売れるようになったし、4年前にはツアーが出来るなんて思いもしないほど地方にシーンが定着してなかったんですよ。だからこうしてツアーを出来るようになったも、シーンが広がってる証拠だし。東京のシーンも以前に比べたら全然…この間のパーティーも雨の中あんなに沢山来てくれたし。だからすごくちゃんと育ってるなぁという感じがしてますね。ほんとに周りの人の力があってですね。まさに、継続は力なりじゃないですけど。
HRFQ : 最近、ファイナル・スクラッチやトラクターなどをセットに取り込むDJが増えてきているんですが、ドラムン・ベース・シーンではそういった傾向は見られますか?
DJ AKi : ありますね。ファイナル・スクラッチを使っているアーティストは何人かいますし。僕も最近12インチのラップ・トップを買ったので、移行していきたいなと思ってるんですけど、ただまだちょっと不安定なのが現実だから…MARKYもブラジルでは使ってたりもしたんですけど、プレイしようとしたらいきなり止まってしまったっていうこともあったんで…そういう現状を見ちゃうと、もうちょっと待ったほうがいいかなぁと。僕は未発表曲とかはCDでかけるので、CDJは絶対に用意しておいてもらうんですけどね。つい最近WOMBにDVJが入って、音がすごい良いんですよ。これからはダンス・ミュージックもああいったデジタル・サウンドにどんどん移行していくんじゃないかなと思うんですけどね。
HRFQ : ドラムン・ベースって映像との相性がすごくいいと思うんですが、今後映像と絡んだプロジェクトの計画はありますか?
DJ AKi : パーティーと始めた当初から、GLAMOOVEっていうレジデントのVJがずっと一緒にやってくれているので、映像に関しては彼らのことを100%信用しているし、長年一緒にやってるから僕たちが求めてることも理解してくれるし。この間のパーティーで、彼らがつくったオープニング用の映像と、僕たちがつくった音を一緒にオープニングでかけるっていう試みをしたんですけど、これからはそういうことをどんどんやっていきたいなと思っていて。WOMBならではだと思うんですよ。ああいう巨大スクリーンで映像をみせられて、音楽も聴けるみたいな環境は。だから、そういうWOMBならではのことをどんどんやっていきたいなと。
HRFQ : 9月末にブラジルのBrasilia Music Festivalに参加されたそうですが、いかがでしたか?
DJ AKi : 凄かったですね。規模が違うんですよ。2日で7万人。10テントくらいあって、ハウスとかヒップ・ホップとかいろいろなジャンルがあって、人のパワーも違うし。僕の中で何が一番嬉しかったっていうと、それだけいろんなジャンルがあって、世界中からいろんなアーティストが来ているにも関わらず、どこに一番人が集まってたかっていうと、ドラムン・ベースのテントなんですよ。だからブラジルのドラムン・ベース・シーンが世界最大級なんだなぁと思ったんですけど、ロシアも結構大きいらしくて。まだまだ行かなくちゃいけないとこはいっぱいあるなと思いましたね。
HRFQ : これからもグローバルに活躍されていく予定ですか?
DJ AKi : 活躍できるかは分からないですけど、呼ばれるところにはどんどん足を運びたいし、シーンがどうなってるのかその場所に行ってみないと分からないので。行って、自分でプレイして、お客さんのヴァイブを感じて、やっと納得できるというか。
HRFQ : 今後の活動について教えてください。
DJ AKi : さっきも話した通り、トラック制作ですよね。今回もD-BRIDGEに京都に行く新幹線の中で、いろいろ曲のつくりかたとか、新しい技術をもらったりしてるので、そういうものを生かしつつもっと曲をつくりたいですね。今年は台湾とブラジルしか行ってないんですけど、来年はもっと海外に足を運びたい。ロンドンにもまた回しに行きたいですね。
End of the interview
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06S - DJ AKi MIX CD LAUNCH PARTY feat. FABIO and D BRIDGE @ WOMB パーティーレポート (2004/06/26)
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